銀狼を開拓したい転生者の話 作:ザンディク・ワン・クワバラ
「どうも、ステゴロ・忍者サン! 繚乱忍侠・A.K.A乱破です!」
「どうも、繚乱忍侠・A.K.A乱破サン! ステゴロ・忍者です」
いや誰やねん。
そうは思うが、実際アイサツは大事。古事記にもそう書かれている。いや、勿論突然アイサツをかましてきた相手の事は知っている。巡海レンジャーの一人である乱破、キャラとしては勿論の事として今世でも実は一度会った事がある。
つまり誰やねんとはステゴロ・忍者サンの事だ。俺に向かって言っている以上俺の事なんだろうけど……え、俺の事なの?
彼女が出てきたのはピノコニーの動乱が終わった後、原始博士の人類退化計画によって作られたサル化ウイルスが蔓延した騒動の時だ。バナーネモンキーという独特な流行を生み出し、列車組の丹恒のあの名言「バナ、バナバナバナ、バナナ」を生み出すに至った時である。
特徴的な喋り方、外国人の間違った忍者像の投影、某色塗りゲームの様なスタイリッシュさ。彼女こそはまさに、スタイリッシュ邪祟スレイヤーである。
ちなみにゲーム的な性能ではブートヒル、ホタルに次ぐ三人目の超撃破メインアタッカーにして、全体アタッカー。ブートヒルが単体、ホタルが三体までしか攻撃出来ないのに対し彼女は全体攻撃を可能とする。虚構叙事で一番輝くタイプ……なのだが、多分一番使われていない超撃破アタッカーだろう。大体全部ダリアが悪い。絶対に許さねぇぞコンスタンス。
「流石だな、ステゴロ・忍者サン。即座にアイサツを返してくれるシノビは中々いない」
「俺の忍殺語が凄く残念なのは許してくれ、ほとんど履修してないんだ」
乱破という、一見忍殺語を喋る頭のおかしい女は、事実として頭のおかしい女ではあるのだが、彼女もまた中々に壮絶な過去を持っている。
とある実験体として生まれた彼女は重度なミーム汚染を受けている。原始博士を信仰する研究員の施設で実験体として育成された強化人間であり、行われていた実験は苦痛を伴う非道のモノ。そこから自らの精神を守るべく施設にあった忍者漫画である銀河忍法帖に入れ込み、担当研究員であった「マスター・苦茶」が忍者のミームウイルスに感染させる事で完成した。
故に既にミーム汚染を受けている彼女は、他のミームウイルスに感染する事は無い。俺の事を忘れていないのも、恐らくは彼女の持つ「銀河忍法帖」に(彼女の中では)書かれているからなのだろう……いや、知らんけどね? まぁ、自滅者の忘却を上回る何かが彼女にはあるのだろう。
スタイリッシュ邪祟スレイヤーにして忍邪スレイヤー、それこそが繚乱忍侠・A.K.A乱破という頭のおかしい女である。
「それで、乱破さんはどうしてここに?」
「なに、ちょっと邪祟の気配を辿っていてな。問題の邪祟自体はさっき討伐して来たのだが、知った気配を感じたので来てみればステゴロ・忍者サンが居たという訳だ」
気配を感じ取るのが難しいと言われる俺の気配を感じたとは、これ如何に。なんか俺と縁があるヤツ結構な頻度でおかしくねぇか? 銀狼、アルジェンティ、乱破なので三分の二はおかしな奴だ。
「そっか、久し振り。元気してた?」
「ふむ、どうやらステゴロ・忍者サンは拙者達の波乱に満ち溢れた大捕物を忘れた様子。やはり忘却の影響からは逃れられていないのか?」
「これは逃れられる様なもんじゃ無いからな……えっ、そんな大捕物したっけ?」
会って話をしたのは覚えてる。忍殺語で話すの難しいなぁって思ってたから……でも、それ以外にも何かあったのか?
「では、語って聞かせよう! 拙者達の邪祟を相手にした大冒険を」
「ちなみにそれってどれくらいの長さ?」
「『銀河忍法帖』にして三巻分!」
待て待て待て、想像出来ねぇ単位出すなよ。そもそも『銀河忍法帖』が文庫本なのかコミックなのか知らねぇんだよこっちは。文庫本とコミックじゃ詰め込まれてる量が違いすぎるからな?
コミックか? 流石にコミックだよな? しかもなろう系漫画みたいな内容量スッカスカのヤツだよな?
「忘れもしませぬ……アレは拙者がいんぽすたぁなる役職を引いた時の事──」
知ってる様なキャラの口調で違う世界の話をし始めるな! しかも蘆屋の道満さんことキャスターのリンボさんは本編で言った事無い台詞だからなソレ。
「ダウト。乱破さんがインポスター陣営の場合邪祟が村人陣営になる」
「ふ、良くぞ見破った。ステゴロ・忍者サンのシノビ・アイは衰えていない様だ」
「頼む、俺にツッコミをさせないでくれ……そういうのは丹恒とかスコートの役目だから」
「うむ。では話を戻そう……アレはとある星にて行われていた血塗られた遊戯の時だった。選ばれた七人のますたあ達で行われる、唯一の勝者を決める戦い。拙者達は当事者では無く傍観者であった」
そこから時には力を込め、時には涙を流しながら語られる冒険譚。七人のマスター達が願いを叶える権利を求めて血で血を洗う様な争いを繰り広げる闘争の物語。しかしその参加者の一人に原始博士に感銘を受けた様な悪人が混ざっていて──うーん、聖杯戦争とか幻月遊戯みてぇな話だ。
え、知らん間に別惑星の幻月遊戯に参加してたって事? しかも乱入者として? えらいハリキリボーイじゃねぇか。
「そうして拙者らは辛くも勝利を勝ち取り、スシ・スキヤキ・テンプーラを皆で分かち合う大団円を迎えたのだ」
「ああ、良かった。流石に願望器でうどん食う奴はいなかったか」
「いいや、拙者が食べた。うどんを入れる丼として丁度良さそうだったのでな!」
「何してんの君」
てか、じゃあその星には貪欲のウロボロスの神骸あんのかよ。いやまぁ、あったとして俺にはどうにも出来ないが。
「あの時の拙者は、とにかく美味しい物を食べたくて仕方が無かったのだ」
「思っくそ貪欲の影響受けてんじゃん」
「『銀河忍法帖』にはこう書かれている──「腹が減ったなら、とにかく食べるべし」と」
「『銀河忍法帖』は都合の良い免罪符じゃねぇだろ」
それ君の存在の根幹とも呼べるものだよね? 自我の形成に役立ったバイブルで、君のこれからの指標でもある筈だよな?
「ステゴロ・忍者サンは、実に頼りになる使い魔であった。一日五分しか戦闘行為は出来ないと言えど、その実力は確かなモノ」
「あれ、さっきまで普通に相方枠みたいな話だったと思ったんだけど。俺サーヴァント役だったのかよ……儀式に選ばれてない乱入者がサーヴァントを???」
「いや、折角なので役割を分けただけだ」
「自称じゃねぇか」
まぁ、サーヴァント使って争うタイプの儀式に生身のステゴロで勝ち抜くとか、そっちの方が異常ではあるんだけど。でもマジカル八極拳ならイケるか? やべぇタイプの人斬りとかでもワンチャンあるか。
「ともあれ、そうして再会を誓って別れたのだ」
「結構ちゃんと大冒険してたな……これガチの話?」
重度ミーム汚染被害者である乱破は、割りと自分の都合の良い様に世界を見ている事がある。乱破が施設を破壊して脱出した時に、たまたま来た巡海レンジャーの人を見てシノビの先駆者として乱破は見ていたが、当の本人である巡海レンジャーは結構ガッツリ目に引いていた。見えている世界が違うとはそういう事で、乱破の語った物語の大筋に多分違いは無いのだろうが……それはあくまでも彼女の認識ではそうなっているという話。
だからまぁ、幻月的な遊戯もしくは聖杯戦争的な儀式に乱入したのは多分本当なのだろうし、大団円を迎えたのも本当なのだろう。でも途中途中で善を助けて悪を挫くみたいなカッコいい感じの情景描写は、自分達以外の全員から「何だコイツ!?」って目で見られてたんだろうな……。
「うむ、本当だ」
「はえー、そんな大冒険忘れたのかぁ……乱破さんとの会話以外取るに足らなかったのか、忘れたい黒歴史だったのか」
まぁ流石に羞恥よりも高揚が勝ってただろうし、終わってみれば良い思い出になってた筈なので、普通にその後に力を使った結果忘れたとかだろう。記憶の蓄積を手札の増強くらいに考える節はあるので。溜まったな、よしコストとして支払うぞ! みたいな。
「ところで、ステゴロ・忍者サンはここで何を? 邪祟を追っていた様子では無いみたいだが」
「追ってたモノがあるなら女のケツだな。世話になってる奴にプレゼントでも渡そうかなって思って」
「ほう、良いではないか。しかし、中々良い物が見付からなかったのか?」
「はは、モラが無い」
「金欠か。そう言えばステゴロ・忍者サンは皆から忘れられる性質上仕事も困難なのであったな……よし! ならば拙者が一肌脱ぐとしよう」
「え、マジで?」
脱いだら凄そう、いやガチで。普通にいやらしい身体付きしてんだよな乱破……自制しないと無意識に胸とか尻に目が行く位にはえっちだよ。露出多くねぇか? いや似合ってるんだけどさ。
「拙者と共同で仕事をし、報酬を分け合えば扱える資金になるだろう」
「凄いぞドゥーラ、俺は今泣きそうだ……優しいし、助かる!」
「ふっ、みなまで言わずとも良い。我々は似た者同士、持ちつ持たれつなのだから」
「キチゲ解放、幻獣琥珀!」
「うむ、良く分からんが調子が出てきた様で何よりだ」
「私の会話が人と噛み合わない理由、それは……私の会話能力が出来損ないだからだ」
そうかそうか、と乱破はしきりに頷いている。多分何一つとして理解はしていないのだろうが、俺達は魂で通じ合っている。どうやら俺とお前は、ブラザーだった様だ……。
多分初邂逅時に、突如脳内に溢れ出した存在しない記憶とかある。
「では行くぞ! ところでステゴロ・忍者サンは何を買うつもりなんだ?」
「IKEAのでっかいクッション」
逝けやヴァルハラ! ってね。
ブートヒルが「俺はシルバーガン・修羅サンだ!」って言うところ好き