銀狼を開拓したい転生者の話 作:ザンディク・ワン・クワバラ
ありがとナス!
「ふっ、ここが西風の果てか……」
威風堂々、紛争の気配を纏いて現れる漢。世界の滅亡に己の肉体と血のみで抗い、必ず最期は救世主と拳と剣を交え、次の自分も最大の敵となると宣言し散っていく紛争の主。
クレムノスの最後の王、メデイモスは血風を纏ながらこの地へと足を踏み入れた。
凄くカッコいい登場の仕方と、闘争の果てを受け入れた何処か安らかな様子に、俺は思わず口にしてしまう。
「違います」
オンパロス、そう呼ばれるセプター内部で演算によって生み出されたデータの世界がある。そこは訪れる終焉に抗う為、資格を持つ者が神を討伐ないし協力などで火種を受け取り、試練を乗り越え半神となり、再創世を行って平和な時代を切り拓かんと戦う絶滅闘争の世界である。
終焉、死。目の前に突き付けられる結末を前にして、絶望に屈せずに抗う為にはそれ以上の希望が必要となる。彼等は世の為人の為自らの生命を炎へと焚べる、断崖の果てを躊躇いなく飛翔する黄金の精神を持った英傑達ではあるが、同時に闘争の果ての救いも多少は求めている。
その救いの形こそ、西風の果て。仏教で言うところの極楽浄土である。
つまりは、死んだ後に救いがあるのだと。死後に安らかな世界が待っているのだと。
十二の半神達がそれを信じているかは関係ない。その他の欠けてはならない黄金裔の一人一人、一般人の一人一人がその生を全うする為の思想である。
俺の世界、つまるところただ消えるのを待つだけの無の世界。何も無く、何も見つけられない、意味すらも無くして消えるだけの世界を見てモーディスが勘違いをしたその理由。
「やあ、世に痛みをもたらす者!」
「おやおやこれは、いずれ昇る烈日殿。まさかそんな爽やかな面をしているとは思わなかったぞ」
何故か知らないが、二次会の会場の様になっているからだ。
最初のお客様はキュレネだった。その時は珍しい事もあるもんだなと不思議にも思わなかった。まぁそういう事もあるかと。そんなにしない内に消えるのだろうから、まぁ消えるまでは好きにしてれば良いんじゃないかなと。
で、次にケリュドラとセイレンスがやって来た。
いや何でやねん。何普通に来とんねん。ここよっぽどの未練があって、尚且つ虚無ですら消し切れないような奴だけが紛れ込む様な場所やぞ。何狙ったかのように、しかも二人一緒に来てんねん。
まぁ、まぁまぁまぁ。まぁ極小確率ではあるけどそんな事もあるかと。彼女達も火を追う時代を築き上げた立役者にして、半神が未だトリスビアスしか居ない中でタイタンを屠っていた人達だ。アグライアも途中で半神になってたけど。あと単純にケリュドラが好きなので見る事が出来て凄く嬉しい……セイレンスのお腹もえっちだね。戦い抜いた英傑達の、眠りまでの一時の安らぎを提供出来るのなら、まぁええかと。
まぁ、ここまでなら、まぁ何とか飲み込める。いや理屈じゃ到底飲み込めないんだが、嫌いな食い物を無理矢理食わされた小学生の様に、まぁ飲み込んだとも。
で、次にトリスビアスが来た。多分千の断片に分裂した瞬間に本体は死亡判定が下されたのだろう。いやいや、何でや。しかも続々と断片達も来るわけよ。加減しろバカ! トリスビアスの断片だけで千人居るんだぞ!
何故かは知らないが、その後も続々と黄金裔達が、或いは一般人達が流れ込んできた。いや何でやねん。エリュシオン一同とファイノンが再会した時の空気マジで地獄だったんだが?
まぁ、まぁまぁまぁ。ここまでならまだギリ、いや普通にライン越えではあるけど、まぁ何とか許容したとも。エセ永遠の1ページじゃねぇか(笑)で済ませたよ。
来ちゃったよ。
二人目のキュレネが。
じゃあもう、何が起こるか想像つくよな。
さて、先程この無の世界──オンパロス二次会場に辿り着いたモーディスの姿を見てみましょう。モーディスとモーディスとモーディスが互いの肉体と技を競い合い、モーディスとモーディスがそれを見て分析と評価をしております。
また、あちらではケリュドラとモーディスとアグライアと、ついでにアナクサゴラスが熱い議論を交わしあっております。
ちなみに何処へ視線を向けても必ずトリスビアスの断片は映ります。子供の声は元気を貰えるとか言うけども、流石に騒音が過ぎるだろ。こんなんヒス起こす系ババアが聞いたらヤカンが沸騰する様な音出すで。
そしてあちらに見えますのは、オンパロスで一、二を争う嫌われ者ですねぇ〜。
「クッ、何故死後の世界に来てまでお前達の下に居なければならないのだ!」
「おい、あまり騒ぐな。椅子ならば椅子としての役目を全うしろ」
物理的に立場が下となっているカイニスさんですね。ケリュドラが椅子にして、アグライアが冷めた目でそれを見ています。
何だこれ、地獄かな?
あっ、あれは!
音楽家セイレンスとその従者ケリュドラ!? あのキュレネ大先生の二次創作に出てきた幻の!?
と、という事は……いたーっ! クレムノスの参謀アナクスさんだ! クレムノスの屈強な兵士にアナクスさんの作り上げた銃を持たせれば最強の軍が出来ると、至極当然至って全うな真理を提唱した、あのアナクスさんだ!
ちなみに何人かいるセファリアの一人は俺の膝で丸くなってる。猫かな? 猫だったわ。俺猫に弱いんだよね、可愛すぎる……しっぽの付け根トントンしていい? ダメ? そっかぁ。
「ふふ、賑やかね。まさかこんな事になるだなんて、夢にも思わなかったわ」
いや、まあ。こんな光景を見られて俺も嬉しいよ? 生前結構な課金をしていたプレイヤーだったし、しっかりとオンパロス編で脳を焼かれてるから。永遠の1ページからずっと離れられなくて、ストーリーの更新が来てそれを終わらせたら戻ってたくらいには、英傑達に安らぎや幸せがあって欲しいと願ってはいた。
「……さては君、やったな?」
「あら、一体何の事かしら?」
俺がオンパロス組を好きだから、救われて欲しいと思っているからと言って、じゃあそれがこの世界に何らかの影響を与えるといった事は無い。ここは俺の解釈によって生えた世界ではあるけれど、同時にⅨの権能の支配下にもある。
だから、俺が原因になる事は有り得ない。
では何故こうも、オンパロス組だけが流れてくるのか。考えられる理由は、一つしかない。
「キュレネ、君がマーカーの役割でも担ったんだろ」
「それは、あまりロマンチックな答えでは無いわね」
知るか。お前の言うロマンチックは理解出来ねぇよ。
「でも、私が何かしたとしても……それだけで出来る事では無いんじゃないかしら?」
そう。ここに着いた時点で末路は消滅のみ。唯一の例外は、存在へと到れる様な祝福を手にした場合だけ。俺はここを通って存在の世界へと行ったが、それも前世から死と言う虚無を通ってきた、その落下エネルギーとも呼べるモノがあったからだ。
ここには神の視線も届かない。当人が生前持ち得た全ても無い。だから、キュレネが何かを為そうとした所で何も出来ない──筈だった。
「あー、そうかい。俺は利用されたワケね……強かな女だぜ」
俺だけは、この世界における唯一の例外だ。言わばここに居る俺とは前世の記憶であり、存在の世界に居る器へと常に意識を繋いでる様なモノ。本来であればただの保護された記憶だったのだが、転生した俺があまりにも全てを失った為に根幹が此方へと移ってしまったのだ。
存在と無を反復横跳び出来る、存在の世界へと繋がりを作れてしまう。
キュレネというデータの存在が、俺を利用してオンパロスへとパスを繋いだワケだ。結果役目を終えた者達が、俺とキュレネの願いを受けて此処へと辿り着く。
例え俺が虚無の祝福を振るえる存在だとしても、或いはこんな世界を担える様な特別なのだとしても、キュレネと俺では明確に格が違う。
片やオンパロスの歳月を担う半神候補であり、救世主が訪れるまでの永劫回帰を裏から支えるキーパーソン、しかもあの最初の天才であるザンダーとも真っ向から言い合える知性もある。片やただの吐いて捨てる程いるレベルのゴミ人間、人より優れている所など多分無い程度のカス。
仮にキュレネが言葉巧みに俺の思考を誘導していたとして、俺に抵抗する事は不可能だろう。多分甘やかしてダメにしてくるタイプの詐欺師だよこの女。
「クソが。慈愛とか憧憬とか、そう言った気持ちを乗せずにいやらしい目付きで見とけば良かった」
「……流石に、胸の付近とかを見過ぎだとは思うわよ?」
いやそりゃ無理だって。自分の服の防御力考えろや。見えそうなら見ようとしちまうもんなんだよ。
「ファイノン……いや、カスライナ来た辺りから頑張って抑えてたと思うけど?」
愛しの幼馴染みをいやらしい目付きで見ていると知られたら、多分殺意マックスで飛んでくる。
「それは……そうね」
まぁつまり、不本意ながらも俺とキュレネは共犯者である。未だ救われていないオンパロスの、そこで戦い抜いた戦士達に一時の安らぎを与える……それだけの為に起こされた、ちょっとした介入の。
結局、此処をオンパロス二次会へとした所で本質的なところは何も変わらない。消滅を待つだけの待機所、未練を解消して逝く為だけの場所。
「……もしかして、私のした事は迷惑だったかしら?」
「うーん……多分大丈夫だろ」
キュレネの手には紡がれた物語は無い。ここに来る半神達の身に火種は無い。ならば、火種と記憶と記録の全ては継承され続けている。ファイノンの胸の内と、キュレネの抱える紡がれた物語に、全ては詰まっている。
開拓者達が再創世を果たした後で、全ての記憶と統合された英傑達は現れるだろう。
「いいえ、そうじゃ無いわ……あなたに迷惑じゃなかったか、そう聞いたのよ」
「賑やかなのは良い事だし、この光景が見られて嬉しいとも思う。ただ──」
そう、ただ一つ。思う事がある。
「──流石に多すぎんだろ……」
トリスビアスと断片達はもう数えるのも億劫になるほどいるし、燃え尽きたカスライナだって六人くらい、逆に何故か元気なファイノンだって三人くらい居る。
「物語が終わった後に一体何が待っているのか、いつも考えていたけれど……こんな光景があるのなら、とてもロマンチックだわ♪」
「ええ、そうね。そして本来私では見られなかったあらゆる可能性が見られるのも嬉しいわ」
「俺を間に挟んで話すんじゃあ無いッ!」
やめろよ耳が孕むだろ! あーっ、お客様困ります! 困りますお客様! 耳が幸せになっちゃう! 俺が欲しいのは銀狼のASMRなの! 性癖壊れちゃう!! あっあっあっ。
「物語の終わりの、その先ね」
これから先の未来で、別の世界から訪れた異客が自らの叙事詩という人生を振り返り、一つの答えを見出した。
物語の果て、何も残らぬのが叙事詩の常。
一つの物語の終わりに、あらゆる物質的な均衡の果てに、無から生まれたもの──
──「皆無」。
オンパロス──いや、デミウルゴスが出した答えはまた違う。けれど、この世界に来た彼等とは何の関係もないだろう。
「おい待て、何で俺はキュレネに取り囲まれてるんだ?」
ちょっと思案していたら、六人のキュレネに囲まれてるんだが。怖いよ。
「そう怖がらないで。ただ、あなたはここで何が出来るのかを聞こうかと思っているだけだから」
「大丈夫、乱暴はしないわ」
「私達と少し、お話しない?」
「お話ならさっきまでしてたろ、俺を間に挟んでキュレネ同士で!」
おい、やめろ。乱暴する気でしょ! エロ同人みたいに!
「あら、でも囲まれて少し嬉しそうなのはどうしてかしら?」
「ふふ、聞いてみない事には分からないわよね?」
「あなたの知ってる物語を、折角だから語って聞かせて欲しいわ」
う、うおおおおおおお! 俺は負けないからな! 流行らせコラ! 流行らせコラ!
To be continue……
銀狼を開拓したい転生者を開拓するキュレネ……?
↓結局キュレネは何したん?って人向けの大雑把解説
何も無い世界で暇なので俺くんから色々な話を聞くキュレネ。可愛い女の子にお願いされたら断る術を持たない哀れな俺くんは普通に色々話す。
どうやら俺くんは色々知ってるみたいだし、何ならオンパロスが辿る結末まで分かるらしい。最終的には記憶が引き継がれて救われるとして、じゃあフォーマットで消される途中途中のみんなも何とか救えたりせんかなぁ……せや!
存在の世界にある器と常に繋がってる俺くんの意識を誘導、セプターδme-13へと意識を向けさせる。
オンパロス外側付近で意識体として傍観者になってる最初のさざ波が感知、ただの意識のみでのパスを繋ぐ。
死したオンパロス住人達が無の世界に流れ着くのが10のマイナス20乗から10のマイナス10乗レベルまで確率が上昇、変わらず極小確率ではあるものの辿り着きやすくなった。
オンパロスの死者の数と、試行回数が嵩めば嵩む程当選人数も増える。その結果が二次会の会場。ちなみに時系列はごっちゃなので33550301回目のヒアンシーが流れ着いた後に3回目のケラウトルスとかが来てたりする。