銀狼を開拓したい転生者の話 作:ザンディク・ワン・クワバラ
「ワイ、もう星穹列車降りて」
「えっ」
「開拓の旅をしてる時もずっと黙ってるじゃん。本当は開拓なんてしたくないんでしょ?」
「そんなことは……」
「シャラップやゴミキングからも苦情が来てるんだよ? ワイがいやらしい目付きで見てくるって」
「いや、それはその……」モニョモニョ
「大体あんたは何が出来るの? いっつも黙ってるから何が出来るのか分かんないじゃん」
「……でも、姫子はいっつも列車にいるだけだし、なのかはトラブルばかり起こすし、パムだって……!」
「姫子はみんなのバックアップとして色々してくれてるし、なのはムードメーカーだよ? それにパムは……可愛いから」
「ははっ、可愛いって」
「少なくとも何も出来ないあんたよりはマシだよ」
「……」
「明日までに荷物まとめて出て行ってね。あと皆にも挨拶するんだよ」
「……はい」
「なんだ今の」
宴の星、或いは夢の地と言われるピノコニー。それはアスデナ星系に存在する監獄が元である。現実にあるのはホテル・レバリーであり、言ってしまえば超巨大なホテルの星である。ただしその本質は大きく異なっており、ホテル・レバリーにある客室に備え付けられたドリームプールにて共感覚夢境と呼ばれる現象が起き、夢の世界を体験出来るのだ。
アスデナ星系は憶質と呼ばれる記憶の力で作られたモノで満ちており、それがピノコニーの構成物質となっている。そのせいか、ピノコニーに近付いたりする時に変な夢の世界に飛ばされたりする事もある。
さっきまで見せられていたのも、多分それだろう。きっと誰かの夢を閉じ込めた憶包に触れてしまったか、混線したかで見てしまった……いや、クソみてぇな夢見てんなや。
さて、先程も話した通りピノコニーとは現実にはホテルしか無い。そして開拓のドタバタや星核にまつわるアレやソレが現実のホテルで起きる事も無い。全ては夢境と呼ばれる夢の世界の中で起きることであり、そちらこそが今回行くべき目的地である。
正攻法で夢境へと入ろうと思ったなら、スターピースカンパニーでも上位の役職に就いている様な人間が、地道に貯めていたレベルの金額を払う事で客として入る事が出来る。つまりは資産家専用ルートだ。アスターにおねだりしたらポンと出してくれそうではある。それかこれから丁度起きる調和セレモニーへの招待券を受け取っているかだ。そのどちらも客として迎えられ、宛てがわれた客室のドリームプールから夢境へと入る事が出来る。
当然星核ハンターであるホタルはその手段を取れないし、金も無ければ記録から消える俺も不可能である。
なら、どうするか。
ホタルは銀狼の協力を得て、無理矢理夢を見る事での侵入を行った。けれど俺は、いつもの移動手段であるワープ等を行ってもいけるのはホテル・レバリーだけ……使われてない客室と言うのは基本的に無いレベルで予約待ちがされているのがピノコニーなので、まぁ運良く俺でも利用出来る様な客室は見つけられないだろうし、不正利用してたら普通に見つかってしまうので無しだ。
話は変わるが、俺の扱う虚無の祝福には同化能力と呼ばれるモノがある。正確には祝福に同化能力があるのではなく、同化現象によって祝福するのだが……そこの説明はいいだろう。
俺がワープや運び屋として使っているゼロ次元への捻じ切りも、読心能力からのソレも、全ては同化現象による祝福。対象となる存在と同一化する事により、情報と能力の吸収が可能となる。
存在の世界において当たり前に存在する自と他の境界線、それを破壊して文字通り全てを同じにしてしまう。その結果相手が消え去るのは、それを為す俺達が無の側の非存在であるからだ……とまぁ、それらも蛇足だろう。
要するに、例えばパソコンとかから情報を結晶化して取り出し吸収する事が出来るなら、逆に自らの情報を送り込む事も可能だろうと……砕いて言えば、夢の世界にハッキングを仕掛けた。そしたら出来ちゃった。俺の本来の器は今頃アスデナ星系を漂ってるよ、大丈夫死にはしない。
「テーマパークに来たみたいだぁ、テンション上がるなぁ」
一応テーマパークみたいな場所ではあるのだ。皆が現実から逃げてきた夢の世界なのだから……なんで夢の中でも仕事してんだこいつら……怖いよ。
さて、仕事の話をしようか。
今回のオーダーはホタルが脚本を遂行する為の保険である。ではホタルがピノコニー編においてどの様な行動を取るか、から介入すべき案件を精査していこう。
まず廃棄品のドリームプールを利用して夢境へと侵入したホタルは十二の刻に入れず、夢境を彷徨う事になる。この時は銀狼の仕掛けたカメラもあってサポートを受けられていた。しかし暫くすると銀狼との通信は切られ、スウォームの死体を目撃、グラモスの鉄騎の生き残りが訪れていた事を知る。
そして何とか十二の刻への密航に成功し開拓者と再会を果たし、恐らく有り金を全て使われる悲しき事態に遭う。楽しんだり秘密基地に行ったり(いつそんな場所見つけたんだよ)した後に花火によって本当の夢境に送られネムリと遭遇、星核ハンターの協力者の振りをしたダリアによって助けられ夢の主の罪探しへと……ここからはダリアが行動を誘導し、ドリームリーフへと足を踏み入れる一度目の死、サムとしての黄泉との対峙、再び戻ったらドリームリーフにてロビンとの会話……ここまではダリアに張り付かれているので、下手に近付く事は出来ず介入する必要も無い。
そしてナナシビトであったラザリナの生み出した航路に乗って開拓者の下へと辿り着いたホタルは共に行動、開拓者達がミハイルとのあれやそれをしている間に真の星核ハンターの協力者である花火と会話、開拓者達と再び行動を共に。最高の一時を過ごした後で一人飛び立ちゴフェルの分体の一つである「掟・その3」と邂逅、死滅の蛹(とは名ばかりの星核)の場所まで誘導される。
顕現した宇宙の蝗害に胸を貫かれ死に瀕し、虚無の空間(黄泉の世界)へと向かう。その空間にて覚悟を決めたホタルは繁殖の力で蘇生、グラモスの鉄騎の姿を使う蝗害と戦いこれを撃破、星核を奪って取り込む。そして原始の夢境に裂け目を作り出し、開拓者を三層目の夢へと送り返す。そしてサンデー撃破後においてロストエントロピー症候群の末期症状にて消滅……。
ここで重要になってくるのは、ホタルの脚本とゼロ・ミッションである。
先にゼロ・ミッションを思い出すが、こちらは虚無の使令(黄泉)の一撃で開拓者が虚無に呑まれない様に受け止める必要があるというモノ。ただしダリアがこれを肩代わりしてくれる。
ではホタルの脚本とは何か。それは夢の中で経験する三度の死である。
一回目はホタルがピノコニーに入る時、もしくはネムリにより貫かれた時である。夢を見る機能を持たないホタルが目を覚ます時、二度と夢を見る事は出来ないのでそれを死とカウントする……か、普通にネムリに貫かれてドリームリーフへと向かった時。これは当然保険すら必要無いだろう。
二回目は胸を貫かれて黄泉のいる虚無の空間へと至った時、或いは原始の夢境に裂け目を作った時。そもそも死を経験しなければならないのだから、下手な手助けは逆効果となるだろう。
三回目はロストエントロピー症候群の末期症状で消滅した時。そもそもピノコニー侵入時点で夢と現実は融合を始めていた影響でホタルのそれは進行していた。最後には秩序の影響から抜け出し夢と現実の融合も解除されたので夢として終わったが、その後のホタルは星核ハンターに拾われた時のように反応が極めて鈍い状態となっている。これはそもそも防ぎ様は無いし、防いでもいけないモノだ。
うーん、俺のやる事無いな!
サンデー兄様がエナになっちゃった! エナの夢を何とかして破壊しよう! という時でさえ、俺が出る必要は無いし、むしろ足でまといにすらなる。じゃあやる事無いじゃん! 折り紙の小鳥バトルして遊ぼうぜ!
と、普通なら考える。しかし俺は自称頭の良い転生者、自分さえ介入しなければ脚本通りに進むとは思わない。
原作ありきの世界へ転生する、よくある舞台設定において転生者は必ず直面する問題がある。
それはバタフライエフェクトと呼ばれるモノ。蝶々が羽ばたき一つ起こした結果、地球の反対側で砂嵐が起きる……みたいなやつ。崩壊スターレイルの世界はある種脚本通りに進む事を強制された世界であり、それを書き換える権利を持つのは開拓者だけであるとされている。
しかし、本当にそうでしょうか?
俺がピノコニーに侵入した事は、当然夢の中で全知全能であるファミリー……もとい、夢と融合したゴフェルは知る事になる。彼の大博打とも呼べる計画の最終段階で、本来想定されてないイレギュラーが侵入してくるのだ。イレギュラーの一人である黄泉はどうなった? お願いですので立ち去って下さいと懇願されただろう。
実際、ゴフェルの計画が成就してエナが再臨しようとした時に、黄泉がその力を解放してしまえば生き残るのは誰もいない。そうすると吸い上げる力を失いサンデーはエナにはなれず使令級の顔面ロボットでおしまいだ。敗北者? 取り消せよ今の言葉!
取り消せだと? 断じて取り消すつもりは無い。何十年もの夢君臨、神にはなれず何も得ず、しまいにゃしまいにゃバカ息子、サンデー言う名のバカ息子、それらを守る為に死ぬ、実に空虚じゃありゃせんか? 人生空虚じゃありゃせんか? やめやめろ! ゴフェルは俺に生き場所くれた。俺にゴフェルの偉大さくれた! 人生正しくなきゃ生きる価値無し、お前らファミリー生きる価値無し! サンデーサンデー敗北者! ゴミ山大将敗北者!
まぁゴフェルはサンデーに対して念入りに秩序教育を施してた筈なのに、出来上がったのは頭開拓の覚悟ガンギマリマンだからな……やはりゴフェルは敗北者? 案外敗北を望んでた者で敗北者の可能性はある。今より未来でロビンとか助けてたし。
ゴフェルは何とかして黄泉を追い出す事で助かったが、ブラックスワンが連れ戻してしまった事で計画は破綻している。
じゃあここに、俺がいるとどうなるか……どうなんの?
なんかやべー自滅者二人おるわ……終わりや、はークソ詰み詰み、調整ミスってんぞ運営クソが! なんて自棄には流石にならないだろう。
うお、虚無の使令おる……と黄泉を追い出す事で対処する、と言うよりは対処がそれしか無いのだろうが、それ以外の俺が居た場合は対処のしようがあるのでは?
まぁ、俺がいるせいでバタフライエフェクトが起きるとして、保険が必要になるのは二度目の死近辺かなぁ。ゴフェル的には宇宙の蝗害を引き起こした段階で勝ちなのだから、そこでのホタルの生き死には問われない。そうなると、生き残ったホタルにスウォーム殲滅……とか、夢境破壊……とかされるのが一番困る訳で。仕込むならそこだろうな。
「ところでさ、ここ何処だと思う?」
「私に聞かれても困る……むしろ、私の方こそ道案内を頼みたかったのだが」
ピノコニーへと不法侵入した俺は、素早くそれを察知したであろう夢の主によって、ホテル・レバリー(夢境)へと追いやられていた。
ま、まぁ……下手に俺を目撃する事で他の客に悪影響とか出る可能性もあるからね。良いよハブられるのは。スラーダ飲みたかったけど、まぁ良いよ。
でもさぁ、黄泉と会わせるのは不味くない?
「少し、話さないか? 貴方とは話をしておくべきだと、私はそう感じた」
「へへっ、黄泉さんがそう仰られるならあっしとしては断る理由は無いって言うか……」
言い忘れていたが、黄泉は俺の天敵である。彼女のスタンス次第では、普通に処される可能性がある。
大丈夫かな? 俺死なないよね? うーん、何とかなれーーーッ!!
俺くん「ま、大丈夫か」(自認一般通過自滅者)
ゴフェル「なんやコイツ」(客観最後まで虚無たっぷりの虚無虚無プリン)
ピノコニー「暴れ馬よ……暴れ馬よ」(ギリギリ歩く認識災害にならずに済んでて助かってる)
ちなみにクロックトリックで俺くんの心を覗くとクロックボーイが危ないぞ! 俺くんにはクロックボーイは見えません、原神のアランナラなら見えるけど。は?ガキじゃないが?