銀狼を開拓したい転生者の話 作:ザンディク・ワン・クワバラ
少しばかり真面目な話をしようか。
例えば俺の様な転生者という異常事態が、崩壊ユニバースにやって来たとして、その転生者は一体どのような運命に見初められるのか。
基本的に原作あり世界への転生など二次創作かなろう系小説でしか見ないモノであり、普通に考えて常識の欠片も無い様なご都合展開だ。だがしかし、俺という実例が居る以上他に居ないとは限らないワケであり、だからこそこの思考実験は活きてくる。
とは言えど、ただ普通に生活するだけならば星神の一瞥を受ける事はなく、何の運命に縛られる事も無く人生を楽しめる可能性もまた十二分にあるけれど、あくまで転生者が運命に見初められるのなら何になるのか、と言うのが議題である。
星神の齎す運命と言うのは、その影響を受ける行人もまた縛られるモノである。例えば我らが主人公である開拓者、彼または彼女は覚醒したその瞬間から開拓か終焉のどちらかを歩まされる事が確定している。敷かれたレールの上を走る運命の車輪であり、進むか落ちるか止まるかの三つ、それが齎す結果を考えれば実質二つしか道は無い。
知恵の運命を歩む天才達も、自らの持つ好奇心という衝動に抗えない。二相楽園で活躍するサイコロパス兄貴でさえ愉悦に踊らされる人生である。
では、転生者は?
俺が思うに、可能性があるのは二つ。転生と言う経緯を挟んだ瞬間に確定されるモノである。
即ち『虚無』か『記憶』だ。
魂の連続性すら証明されていない世界で、前世という『記憶』を持ち越す異常性。例えその記憶がどれだけしょうもなく価値の無いモノだとしても、その異常現象だけで運命に囚われる可能性は大いにあるだろう。
そして虚無。転生者と言う存在は、必ず死と言う虚無を通っている。転生者の中でも死を覚えているかどうかは分かれるだろうが、記憶の有無に関わらず虚無が通過点である事は否定の仕様が無い。そして崩壊スターレイルの世界に於いて虚無とは現象であり、関わった者は例外無く自滅者となる。
虚無のⅨは星神の一柱として考えられているが、俺はソレをただの現象だと考えている。虚無の顕現した姿等ではなく、見える形を取った虚無と言う現象。星神と同等のエネルギーを所持したソレはそれだけの重量を持つが故にブラックホールと同じ様な機能を有している。つまりは脱出不可能だ。
影響範囲内に入ってしまえば最後、どれだけ足掻こうが呑み込まれて終わり。元より逸脱した力を持つ黄泉ですら呑まれない様に抗うのが限界なのが良い証明だ。
つまり、転生者とは『記憶』の保護を受けた自滅者である。俺達転生者はⅨの向こう側からこの世界へとやって来た為に最初から虚無の陰に足を踏み入れており、記憶の保護が勝るか劣るかでどちらに染まるかが決まっている。
そして俺は存在しない筈なのに存在する、矛盾した虚無と言うモノについて独自の解釈を加えた。Ⅸとは星神等ではなく存在と無の地平線であり、虚無に呑まれた俺達はそれを祝福として振るえるのだと。
虚無とは空白では無くnullである。にも拘らず運命の一つとして認識されているのなら、その存在しないと言う虚無の中には、同時に存在しえた筈の全てもまた含まれているのでは無いだろうか?
なんてね。いくら虚無の中を覗いても何かを見つける事は不可能だ。
「聞いて:今から君は私達を指定ポイントまで運んだ後に、私達と関わった全てを忘れるわ」
ひどない? こちとら『天才ゲーマーS』さんの指定時間に指定された場所で待ってただけなのに、現れた『荷物』の一人に開口一番で催眠されたんだけど。
いや、星核ハンターと関わる危険性とか運び屋から情報が漏れる可能性があるとか、色々考えての行動だってのは分かるよ? 分かるけどさ、なんて言うかもう少しこう手心と言うか配慮と言うかさ……。
星核ハンターの一人、カフカ。崩壊スターレイルにおいてはチュートリアル操作キャラでもあり開拓者のママでもあり、言霊を利用した洗脳または催眠を可能とする凄い人である。戦闘能力も高いし美しいしお洒落だし戦闘スタイルもカッコいい。二丁拳銃と剣を使って蜘蛛モチーフとか厨二病じゃなくても男子なら嫌いな人は居ないだろってくらい癖の煮凝りだ。その癖色々匂わせてはいるけど確定してる情報は恐ろしい程に少なく、崩壊スターレイルの登場人物の中で掘り下げられてない絶滅大君並に情報が少ないキャラでもある。
あと綺麗だし美しいけどえっちな目では見れない。憧れのお姉さんとか裏社会の権力者とか色んな見方はあるけど、やはりママみが強過ぎる。彼女は俺の母親になってくれるかもしれない女性だ。
「……カフカ、どうやら効いていない様だぞ」
そうイケボで喋りながら、地味に支離剣を構える星核ハンター刃(元の名前は応星)もいる。やっべ思考に時間割き過ぎて効いてる振りするか考えるの忘れてた。
うお、効いてる効いてる。
「あら。君が銀狼の手配した運び屋? でも、私達の事を覚えられていても困るのよね」
「いやまぁそうだけど……」
説明しなかったの? と『天才ゲーマーS』こと星核ハンター銀狼へ視線を向けてみれば、彼女は小さく溜め息を吐いていた。
「カフカ、説明したでしょ。彼は自滅者──それも末期、いくらここで会話を重ねたとしてもそう遠くない内に全部忘れる」
多分刃ちゃんが警戒したのは覚えていられたら困るからでは無くて、催眠が効かなかったからだと思うんですけど。なんでカフカの言霊が効かないのかと問われても、残念な事に俺は答えを持ち合わせていないが。
虚無の影に触れた自滅者達は、肉体や認識や記憶等を欠落していく。俺もまた他の自滅者達と同じく多くを失っており、今世の記憶なんて『天才ゲーマーS』さんとのゲームや会話のモノしか残っていないし、それすらもその内失う事になる。
違う、違うんだエレン! 俺が仕事を出来ないのは、社会不適合者や怠惰過ぎる人間性とかじゃなく、自滅者のせいなんだ!
決して仕事サボってパチンコしてるのではなく、職場を忘れたからパチンコしてるんだよ。
「カフカ、あまり呑気に話している暇は無いですよ」
そう告げるイケボにかっちょいい鉄の鎧のお方は、ピノコニー編のメインヒロインとも言える星核ハンターサム(ホタル)である。焦土作戦実行すると星壊せるとか出力ヤバくない?
「それもそうね。銀狼、彼が下手な事する様なら対処を頼むわね」
「はいはい、じゃあいつもの場所に送って」
「仰せの通りに、お姫様」
自滅者として、今世の自分の名前も忘れてしまった俺ではあるけれど、唯一関わりのある『天才ゲーマーS』さんが俺に与えてくれた運び屋『カラス』という役職がある。ワタリガラスみたいだね。
運ぶ荷物は基本的に星核ハンターのメンバーか、たまに危険物とかである。
え、虚数の壁に遮られて星間移動とか基本不可能な世界で運び屋とかどうやってるの? と思いの仮面の愚者の方々も多いだろう。実演するので参考にしてね!
パチンと指を鳴らす。別に鳴らす必要は無いけどカッコいいからやってます。すると黒いエネルギーに包まれて移動は完了だ! ね、簡単でしょ?
銀狼以外の星核ハンターの人も皆驚いてるぜ、ホタルの顔は見えないけど。だって一瞬だしね、視点が切り替わったら君達の拠点だもんね。俺一人ならこんな曲芸しなくて良いんだけどね。
「じゃ、仕事は完了って事で」
パッとワープすればいつもの自分の部屋。やはり落ち着くぜ、家って言うのはよ……仕事って言葉の響きがさ、もう良くないよ。
一応説明しておくと、虚無による恩恵──その祝福である。
対象を虚無へと還す手法の一つ、0次元への捻じ切りがある。エネルギーで包んだ指定空間を虚無にする、通常攻撃にて必殺技。それを基本的に緩和しつつ一次元に落とす事で移動させるのが運び屋としての使用方法だ。
荷物の存在だけを保ちつつその他を虚無にする事で好きな場所への移動を可能にしているのだが、まぁこれが制御が難しい。移動対象が増えればそれだけ困難になるし、絶滅大君みたいな存在力が高過ぎる相手ならそもそも不可能だ。
その後の単独ワープについては存在から無へ、無から存在へと変化してるだけなので割愛しよう。
凄いぞ、使い勝手が良いぞ虚無の祝福! ただし強い力を使えばそれだけ自分も消えてくぞ! 馬鹿がよ。まぁこの程度の荷運び程度なら消耗なんて無いようなもんなんで、これが転生者の実力って奴かな? おかしい、これがなろう系なら「好き! 抱いて!」って寄ってくるトロフィー女が多い筈なのに……どうして俺は銀狼の開拓が一向に進んでいないんだ? この前一緒に寝た時に手を出さなかったからか?
でもしょうがないよな、下手な下心見せてこの関係性壊したくないし!
創造は破壊からしか生まれないと言うように、現状の関係性に満足した瞬間にその先は見込めないのにね。負けヒロインの思考やぞ。
でもさ、ちょっと触れたりして銀狼を汚したくないって言うか……俺なんかに触られて穢されるくらいなら綺麗なままであって欲しいって言うか……。
なんか童貞みてぇな思考だな。もっと自己中心的に行けー?
「……アホらし」
そうしてまた、ゲームへと逃避した。
ちなみにスタレの元ネタのペガーナ神話に虚無のⅨの元ネタもしっかりいるので、多分ゲーム本編だと虚無撒き散らす脳足りんの元知能生命体とかだと思います。あくまで俺くんの解釈だと受け取ってね。
クロスオーバータグを付けた理由が虚無の解釈、蒼穹のファフナーの設定だけクロスオーバーみたいな感じです。蒼穹のファフナーもタグ付けした方がええんか?
以下自滅者レベルの解説
仮面ライダー電王って作品に出てくる仮面ライダーゼロノスで考えると、緑のカードを使用(自らの記憶の消耗)してるけど、重要な記憶だけは使わない様にしてるのが黄泉。
赤のカード(周囲の記憶からの消失)をバリバリ使いまくって残り1枚しか残ってないのが俺くん。
多分普通の自滅者って記憶の喪失に伴う基本的な生活能力の壊滅とかで死んでそう。言葉忘れて意思疎通が出来ない、呼吸の仕方を忘れる、食事って行為を忘れるみたいな。じゃあなんで俺くんは生きてられるのかって?前世の記憶は保護されてるからだよ。力を使えば普通に代価として消えるけど。
まぁ、これくらい終わってる設定なら銀狼と一緒にゲームする徳くらい積めるか……?