銀狼を開拓したい転生者の話 作:ザンディク・ワン・クワバラ
崩壊スターレイルの世界に存在する上位存在、正式名称は星神。グノーシス主義における真に信仰すべき神であり、偽物の神の事をアルコーンと呼ぶ。ちなみにこのアルコーンは原作違いだが原神の七執政の呼び方だったりする。
さて、この星神と呼ばれる神達はそれぞれが司る運命を持ち、その運命を歩む行人の中──或いは別の運命を歩む行人の中から、とりわけ強い力を与えられた使令が存在する。多分他の運命の使令を寝取るのは壊滅と愉悦だけだと思うけど。
分かりやすい所で言えば、壊滅の使令である七体の絶滅大君。ちなみに最大八体までだったりするらしい。後は調和のベアトリスとかデーさんが乗っ取ったデカイ奴とか。存護であればダイアモンドだったかな。巡狩の使令として仙舟同盟の将軍達を上げる人もいるが、彼らはあくまで使令級の力を借り受けている様なモノ。カンパニーの十の石心達と似た様なモノだね。
そんな中で、唯一使令を持たない神こそが──均衡とか終焉にも使令いんのか? まぁ分からないけど──虚無の星神であるⅨである。意思なき存在として捉えられ、俺の解釈で言えば存在と無の地平線。そんな虚無の運命にも一人だけ使令──厳密に言えば使令では無く使令級──が存在する。
それが黄泉(本名雷電忘川守芽衣)である。
彼女の出身国は出雲国であり、高天原より堕ちてきた禍神との戦いの果ての唯一の生き残り。基本設定は崩壊3rdにおける対律者と同じ様なモノ。その神殺しの戦いの果てに得た尋常ならざる戦闘能力を指してか、或いは虚無の運命を歩む自滅者としての深度のせいか、彼女は使令級と見なされる。
多分俺達スタレプレイヤーは黄泉の戦闘能力をかなり高く評価しており、あの絶滅大君風焔に匹敵するか、或いは上回っているだろうと願望を込めて見ている。まぁそれはともかくとして。
彼女は虚無に呑まれんとする者を現実へと還す、或いは道案内を担当している。虚無に呑まれ尚も残ってしまう地縛霊の様な残魂、その未練の解消を手伝ったり等だ。
原作において、アベンチュリンや開拓者は黄泉のいる心象風景──存在と無の中間付近に足を踏み入れるが、そこはブラックホールの様な穴(Ⅸ)と足首が浸かる程度の水のみのモノクロの世界。恐らくモチーフは三途の川であり、黄泉とは黄泉路における三途の川の渡し守なのだろう。
まぁ、長々と語ったがつまるところ。黄泉が存在と無の中間にて渡し守的な事をしている様に、俺もまた別の場所で似た様な事をしているのだ。
Ⅸを零として見た時、黄泉の担う範囲は零より大きく一未満の世界。零が無で一が存在と考えれば分かりやすいだろう。一方俺は、零未満の世界を担当していると言って良い。
つまりは、虚無のその先。何もかもを喪い、何もかもが無くなったその後である。
「普通は零になった時点でおしまいなんだよ。とは言えたまに、こちらの世界に来てしまう奴も……まぁ居ない事は無い」
Ⅸとは存在と無の地平線である。数字にすれば零だ。存在の世界が正の整数の世界だとすれば、こちらは零を超えた負の整数……と、言えなくも無いが厳密には数字に表せるモノは何も無い。ただのnullの世界である。
本来なら足を踏み入れる迄も無く零で全てが喪われて消える筈なのに、強過ぎる力だったり思いだったりを持っていると、完全に消えず残響の様にこちら側へと来てしまう存在がいる。
ちなみに俺がこちら側に居て担当している理由は単純で、こちら側から零を超えて存在の世界へと至ったから。つまりは転生である。
「消えてしまった後には何も残らないと思っていたけれど、まさかこんなにも素敵な景色が広がっているだなんて思わなかったわ♪」
「素敵か? これ……まぁ、一見すると綺麗だよな。その内実を知るとおぞましいけど」
黄泉の世界。それは三途の川と終わりの穴であった。死とはどの様なモノか、を端的に表した芸術的とも言える世界だった。
では、俺の世界とはどの様なモノか。
一見すれば樹海である、ただし赤い結晶で作られた。
「結晶が舞い落ちる葉の様に散っていて、とても幻想的だわ」
本日の──本来なら滅多に現れる事の無い筈の──お客様。ピンクの髪をした、あらゆる青少年の性癖を破壊してそうな服装のロマンチックが好きそうな少女──キュレネは、その手に落ちてくる結晶の一つを受け止めた。
「それはとある世界の呼び方でゴルディアス結晶って呼ばれるやつでな、まぁ言ってしまえば記憶と記録が凝縮した情報物質だよ」
かつて存在していた「誰か」と言う情報、それによって成長するゴルディアス結晶。つまりはそれが、樹海と呼べる程にまで広がっているのだ。
言ってしまえば、これら全ては墓標である。
「そう。そして私もその一人になった……という事かしら?」
「お疲れ様、そしてようこそ……オンパロスからのお客様」
所詮はただのデータだとしても、紛れもなく生き抜いた一人の生命として、何の因果かキュレネはこちらまで来てしまったらしい。
「群星に、星神……ふふ、天外の世界はこうも広かったのね」
「自分に視線をくれた筈の星神が居るのなら、オンパロスに夢を見せ続けて時間を稼ぐ……その考えは、間違いじゃないと思うよ」
ここには縦と横──即ち時間と空間の繋がりは無い。あるのはかつて在った事を証明するだけの情報だ。何も無い世界に何かがあると言うのが既に矛盾だが、ここはあくまで俺の解釈によって付け加えられた場所という事だろう。故にこんなイレギュラーだって起こり得たワケで。
「なら、私達の愛した世界はいつか救われるのかしら?」
「世負いを引き継ぐ救世主は最近旅立ったよ」
星神を殺すには運命に沿わない行動を取らせれば良い。アキヴィリが殞落したのか何処かに行ってしまったのかは未だ不明だが、仮にアキヴィリと同じ様な行動を取り『開拓』と言う運命に従い続けた場合、最も相応しい者──つまりは開拓者が新たな開拓の星神になったりするのでは? なんて思ったりして。
「なら、きっと報われるわね」
オンパロスが救われるかどうかは、あくまで主人公が開拓の道を進み続ければの話ではある。ついでにピノコニー後の航路次第でもある。
まぁ、流石に外れる様ならエリオが修正すると思いたいが。
しかし、えっちだなぁキュレネ。俺の身長がもう少し高かったら普通にブラチラしてるぞ……待てよ? オンパロスの住人はブラをしてるのか?
うーん、えっち!
「でも困ったわね。折角意識が残っていても、何もする事が出来ないなんて」
俺も困るよ、こんな距離感近過ぎる勘違い童貞野郎量産美少女が自らの服装の防御力の低さを微塵も気にしてなくて。
「そりゃ本来、未練を消化する為の場所だからなここ。無の世界なんて存在の世界の住人からすれば発狂モンだよ」
未練を消化して、無に溶ける為の場所。こちら側へと来てしまった以上どう足掻いても存在の世界には戻れないのだから、何も無い世界で拷問の如く無為に過ごすよりも消えてしまった方が楽である。
「未練……ね。確かに思い残しは多いわね」
オンパロスの行く末、カスライナの行く末、次の自分にデミウルゴスの事。まぁ確かに、色々と思う所はあるだろう。
関係ないけどデミウルゴスって、グノーシス主義における物質世界の管理者の名前だったりする。偽りの箱庭の中に閉じ込める悪い奴、みたいなね。原神世界の天理がこれにあたる。
でもスタレのデミウルゴスは解放して自分だけが犠牲になる道を選ぶんだよな。やり遂げた事だけ見ればグノーシスを与えたソテールである。
「でもそれらを解消出来るって、どういう意味かしら?」
「あー、そんな素晴らしい何かを与えるワケじゃないぞ。さっきも言ったけど、ここに在るのはゴルディアス結晶だけ……つまりは存在の情報だ。いなくなった者の数だけ増えていくと言う事は、同時にいなくなった全ての情報がここに在るって事」
後は、消えていく者達が勝手に何かを見付けて満足していくくらいか。
「……世界は、いなくなった人の事を決して忘れない?」
おぞましい数の墓標の山ではあるけれど、いなくなった全ての人達の墓標が立てられている。ぞんざいな扱いをしているのなら、わざわざ墓標を立てる必要も無い。
「例えその誰かがどれだけしょうもない人生を歩んでいたとしても、頑張りも努力も苦しみも、その全てを世界は覚えていてくれる」
人間が何故死を恐れるのか。その理由は数多くあるがその内の一つに「何も残せない」事がある。
自分が生きた証、記録……世界に痕跡として刻み込みたい。そう言う欲求は必ずある。ここはそれだけを解消してくれる場所だ。
自滅者の喪った全ても、多分ここに在る。まぁ情報も何もかも、在るだけなのだが。利用は出来ないし閲覧も出来ない。
「それに、例え世界が忘れたとしてもオンパロスの英雄達の事は、この無の向こう側で覚えてる奴等は確実にいる」
第四の壁を超えた、その先に。彼等の生き様に涙し感動し、脳を焼かれた俺達がいる。
忘れ去られる事は有り得ないし、その努力が無駄では無かったと確実に誰かが叫ぶ。
まぁ俺とかモブとか、描写されない奴等の事は俺達は知らないんだけどな。
「ありがとう……ねぇ、もう少しここに居ても構わないかしら?」
「それはご自由に」
こんな場所に居ても、何も面白いとは思わないけどな。でも、世界を救う為に戦った英雄達の、一時の休憩となるのなら……それはきっと、一つの救いの形なのだろう。
それで、出雲が刀を作った理由を、覚えているか?(全ギレ)