ダンジョンに強敵を求めるのは間違っているだろうか 作:アイスクリームベリーベリー
「よお、アイズ。助けに来たぜ」
「カイ! どうしてここに、レフィーヤ達は!?」
「落ち着け。取り敢えずレフィーヤ達は無事だ。帰ってきて早々に『アイズさんが――』ってな。そんでフィンに言われて俺が来たわけ。……で、あんたがハシャーナ殺しの犯人ってことで合ってる?」
「だったらどうした?」
「別に、お前をフィン達の前にしょっ引いて色々吐かせるだけだ」
「そうか、ならやってみるがいい」
女が踏み込んだ瞬間、大地が爆ぜた。女は凄まじい速度で間合いを詰め、そのまま攻撃を仕掛けてきた。
咄嗟に槍を割り込ませる。
金属同士が激突したような甲高い音が響き、握った柄越しに凄まじい衝撃が腕を駆け上がった。踏ん張った足が地面を削り、身体ごと数歩後方へ押し込まれる。
「っ、おいおい……!」
ただ速いだけじゃない。一発一発に込められた力が尋常じゃない。
アイズがやられた時点で相当な化け物だとは思っていたが、こいつ――間違いなく今の俺たちより上だ。
そして何より、〖
女の一撃が頬を掠め、そのまま嵐のような連撃が押し寄せる。
一撃一撃を丁寧にいなし、俺はじりじりと後退する。
右、左、上段。
一瞬でも目を離せば、そのまま首を持っていかれる。
槍の石突きで横薙ぎの一撃を逸らし、その勢いを利用して穂先を女の脇腹へ滑り込ませる。しかし女は身体を僅かに捻っただけで躱し、逆に懐へ踏み込んできた。
振り抜かれた拳を柄で受ける。再び衝撃が走り、痺れた指先から槍が抜け落ちそうになる。
既に〖
にもかかわらず、俺に触れても女の動きはまるで鈍らない。
格上といえど並の耐久では俺の電撃は防ぎづらい。
力や速度だけじゃない、俺の雷を無視できるだけの耐久力まで備えてやがる。
あの花型を操っているのも、おそらくこいつだ。――何もかもが面白い……!!
「カイ・ヴァレスだ。お前、名前は?」
「言うと思うか? これから死ぬ奴に」
「そうかよ。なら、ハシャーナ殺し含め全部吐かせるまでだ!!」
今度は受け流すだけじゃない。真正面から受け止め、僅かな隙へ確実にこちらの攻撃を叩き込む。
全ての攻撃を全身全霊で防御し、全ての好機に全身全霊で攻撃を打ち込む。
生半可な攻撃ではこの女に通じないことは分かっている。
ならば、リスク承知で撃ち合うしかない。
穂先が肩口を掠める。
女は顔をしかめながらも止まらず、むしろこちらの間合いへ強引に踏み込んでくる。俺は拳を紙一重で避け、脇腹へ膝を叩き込もうとするが、逆に脚を払われた。
体勢を崩しながら地面へ槍を突き立て、無理やり身体を支える。そのまま柄を軸に身体を回転させ、女の側頭部目掛けて蹴りを放った。
腕一本で止められる。
だが、狙いはそこじゃない。
――もう充分。溜まったろ!!
全てはこの一撃を当てるため。
俺は纏う雷を電荷分離する。
攻撃と共に対象へプラス電荷を移動させ、地面方向への放電をキャンセルしつつ、自身に纏わせたマイナス電荷を対象に誘導する。
一度繋がれば、もう逃げられない。
この一撃は――必中の稲妻と化す。
稲妻が女の右腕を焼き、全身を強張らせる。
その隙を逃さず、さらに畳み掛ける――はずだった。
女は焼かれた右腕など意に介さず蹴りを放った。
まさかあの状態から反撃してくるとは思わず、蹴りがまともに俺の顎を捉えた。
視界が一瞬白く染まり、身体が地面を転がる。
口の中に鉄の味が広がった。追撃の気配を感じて槍を引き寄せようとした、その瞬間――風が舞い上がった。
鋭い風が女の足元を薙ぎ、追撃を強引に遮る。
「アイズ! もう動けんのか!?」
「うん、体はまだ痛いけどもう動ける。それに……あの人には聞かなくちゃいけないことがあるから」
「そうか。なら、一緒にやるか」
「うん!」
「文句ねぇよな、そっちが仕掛けてきたんだからよ」
「面倒だが、まあいいだろう。まずはお前から仕留めてやる、雷使い」
アイズと同時に攻め入る。三年間、同じファミリアで戦ってきた経験がある。
共に敵へ挑み、時には互いを相手に武器を交えた回数も一度や二度ではない。今さら細かな合図など必要ない。
アイズが正面から斬り込めば、俺は女の死角へ潜る。俺の槍を捌けば、その先にはアイズの剣が待っている。
赤髪の女は二人の攻撃を捌き続けていたが、それでも確かに押されていた。
要因はいくつかある。
二対一という数の有利に加え、先の雷で右手はほとんど使えない。
さらにスキル〖
〖敏捷〗と〖器用〗に補正が掛かり、戦闘時間が長引けば長引くほど、相手が自分より強いほどその効果は上昇する。
そこへ〖
女の一撃を槍で受け流した瞬間、腕が軋む。
速さについていけても、純粋な力の差までは消えない。真正面からまともに受け続ければ、先に俺の方が潰れる。
「アイズ!」
「分かった」
言葉とほぼ同時にアイズが低く踏み込み、女の左側へ回る。
女の意識が一瞬そちらへ向いた隙に、俺は槍を地面すれすれから跳ね上げた。
再び、青い稲妻が女を襲う。先ほどまでとは違い確実に女の命を削っていた。
「――っ舐めるなぁ!! お前らごときに後れを取るか!!」
赤髪の女が怒声とともに踏み込んだ。
その勢いのまま攻撃を仕掛けてくる。
空気が変わった。
怒りに任せて雑になったわけじゃない。むしろ速度も圧力も、ここへ来てさらに増している。
狙いは俺の槍か。二人がかりでも押し切れねぇし、さっさとけりをつけるか。
「望み通り、槍はくれてやるよ」
女目掛けて槍を投げる。だが狙いは最初から女じゃない。
女が身を捻って躱した槍は、そのまま背後の地面へ深々と突き刺さった。
「何のつもりだ!」
「落ち着けよ、今にわかる」
女が訝しげにこちらを見る。
アイズも一瞬だけ槍へ視線を向けたが、すぐに何かを察したのか女から距離を取った。
次の瞬間、女の背後で槍が青白い電光を迸らせた。
――俺が電荷を溜めてんのはお前だけじゃねぇ!!
俺の電撃による攻撃には二種類ある。
一つは対象へ向けた一撃。もう一つは――真逆の方法で放たれる。
槍に溜めた電荷を帰還電撃で引き戻し、俺と槍を結ぶ射線上にいる赤髪の女を撃ち抜く。
──これで落とせなきゃ、いよいよあれを使うしかねぇな。
これでも立ってくんなら、俺が攻撃を何発叩き込んだところで同じだ。
あれ使うと終わった後動けなくなるし、何より色んな奴から死ぬほど怒られるんだよな。
アミッドにも、ここへ来る前に釘を刺されてるしな。
しかし――それでも、赤髪の女は倒れなかった。
「こんな攻撃で!! 私が倒せるとでも思ったか!!!」
「……マジか」
煙の向こうから聞こえた怒声に、思わず頬が引きつる。
右半身は焼け、全身にも明らかな傷が増えている。それでも女の足はまだ地面を掴み、こちらを睨む眼光にも衰えがない。
これでも倒れねぇのかよ。
横目で見れば、アイズもすでに限界に近い。肩で息をし、剣を支える腕も僅かに震えている。
――仕方ねぇ。
直後、俺を纏う雷が激しく迸る。
身体の奥まで焼けるような痛みが走り、呼吸が浅くなる。それでも構わず、さらに出力を上へ押し上げた。
「っカイ! 待ってそれは――」
アイズの制止にも構わず、俺がさらに出力を引き上げようとした、その時だった。
「〖
「カイ、下がれ!!」
鋭い声が雷鳴を切り裂いた。
聞き慣れた声に身体が先に反応する。
魔法を止めた次の瞬間、小さな影が俺の横を駆け抜け、赤髪の女との間へ割って入った。
「フィン……!」
振り返れば、リヴェリアとレフィーヤがすでにアイズのもとへ駆け寄っていた。
レフィーヤは青ざめた顔でアイズの身体を支え、リヴェリアは一目で傷の具合を確かめる。
「……ちっ!」
女の視線がフィン、リヴェリア、そして俺へと順に走る。
「Lv.6が二人。おまけに面倒な雷使い……さすがに分が悪いか」
「待て!」
フィンが踏み込むより僅かに早く、女は大きく後方へ跳んだ。水飛沫が弾け、その姿が湖面の下へ消える。
すぐに湖面へ駆け寄るが、暗い水の中に女の姿は見えない。
水中へ逃げ込まれた以上、雷を撃ち込めばこちらまで巻き込みかねない。追うのは無理だ。
何より、あの花型がもういないとも限らない。
それよりも気がかりなのはアイズの方だ。
負けたのがよほど悔しいのか湖を見つめたまま、剣の柄を強く握っていた。
聞きたいことは俺にも山ほどあったが、今ここで聞ける雰囲気ではない。
そんなことを考えていると後ろから声がかかる。
「カイ、随分無茶をしたようだね。僕たちが来るのがもう少し遅れていたら……あれを使うつもりだったんだろう?」
「あっ、いや……そんなことは、なくもなかったかな~……なんて」
フィンは笑っている。
笑っているが、目はまったく笑っていない。
「はぁ……何度言えば分かる。あれは軽々しく使っていい代物ではない。使えば確実にお前の命を削る。最悪の場合、そのまま命を落とすことすらあるのだぞ。あれを使うのは、他に手立てがなくなった時だけだ。まずは、それ以外に道がないのかを考えろ」
案の定、隣から飛んできたのはリヴェリアの深いため息だった。
腕を組み、こちらを見る目は呆れと怒りが半分ずつといったところだ。
「分かった、分かった。次からはそうするよ。で、街の方は?」
露骨に話題を変えると、リヴェリアの眉間に皺が寄る。
ただ、今は説教を続けるより先に共有すべきことがあると判断したのか、フィンが代わりに答えた。
フィン達によると、街の騒ぎはひとまず収まったらしい。建物はいくつか崩壊したものの、幸い死者は出ていないという。
花型の怪物も大半は討伐され、残っていた個体も冒険者達が処理している最中らしい。
ある程度事態を収拾したところで、いつまで経っても俺とアイズが戻らないことに気づき、フィン達もこちらへ向かったようだった。
「全く。二人がかりでも勝てぬ相手なら、我々が来るまで時間を稼ぐという手もあっただろう。お前達は揃いも揃って無茶ばかりする」
「……ごめんなさい」
アイズは素直に頭を下げる。
レフィーヤもその隣で何度も頷いていた。
「でも、あいつを放っておくわけにもいかなかっただろ。逃げ回ってる間に何されるか分かんねぇし、押せるならあそこで仕留めた方がいいと思ったんだよ」
「だからといって、自分の命まで賭けろとは言っておらん!」
「大体お前はいつもそうだ! 何かあるたびに無茶をしては――」
俺たちの会話へフィンが苦笑混じりに割って入る。
「リヴェリア。その話は帰ってからでも遅くないだろう。それとカイ。君も今は余計なことを言わない方がいい。これ以上リヴェリアを怒らせても、君に得はないからね」
「……分かった」
「へーい」
返事をすると、リヴェリアの視線がさらに鋭くなった。
どうやら今の言い方も気に入らなかったらしい。帰った後のことは考えないようにしよう。
応急処置を終えた俺たちは、そんなやり取りを交わしながらその場を後にした。
フィンを先頭に、リヴェリアとレフィーヤが負傷したアイズを気遣いながら歩く。
その中で、アイズだけが何度も足を止めかけていた。
視線の先にあるのは、赤髪の女が姿を消した湖。
その手は、最後まで剣の柄を強く握り締めたままだった。
第十一話 了
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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