ダンジョンに強敵を求めるのは間違っているだろうか   作:アイスクリームベリーベリー

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第十一話 届かぬ強敵

「よお、アイズ。助けに来たぜ」

 

「カイ! どうしてここに、レフィーヤ達は!?」

 

「落ち着け。取り敢えずレフィーヤ達は無事だ。帰ってきて早々に『アイズさんが――』ってな。そんでフィンに言われて俺が来たわけ。……で、あんたがハシャーナ殺しの犯人ってことで合ってる?」

 

「だったらどうした?」

 

「別に、お前をフィン達の前にしょっ引いて色々吐かせるだけだ」

 

「そうか、ならやってみるがいい」

 

 女が踏み込んだ瞬間、大地が爆ぜた。女は凄まじい速度で間合いを詰め、そのまま攻撃を仕掛けてきた。

 咄嗟に槍を割り込ませる。

 

 金属同士が激突したような甲高い音が響き、握った柄越しに凄まじい衝撃が腕を駆け上がった。踏ん張った足が地面を削り、身体ごと数歩後方へ押し込まれる。

 

「っ、おいおい……!」

 

 ただ速いだけじゃない。一発一発に込められた力が尋常じゃない。

 アイズがやられた時点で相当な化け物だとは思っていたが、こいつ――間違いなく今の俺たちより上だ。

 そして何より、〖強敵渇望(格上補正)〗が働いている。

 

 女の一撃が頬を掠め、そのまま嵐のような連撃が押し寄せる。

 一撃一撃を丁寧にいなし、俺はじりじりと後退する。

 

 右、左、上段。

 一瞬でも目を離せば、そのまま首を持っていかれる。

 

 槍の石突きで横薙ぎの一撃を逸らし、その勢いを利用して穂先を女の脇腹へ滑り込ませる。しかし女は身体を僅かに捻っただけで躱し、逆に懐へ踏み込んできた。

 振り抜かれた拳を柄で受ける。再び衝撃が走り、痺れた指先から槍が抜け落ちそうになる。

  

 既に〖雷纏(ケラウノス)〗は身体の許容上限まで引き上げている。

 にもかかわらず、俺に触れても女の動きはまるで鈍らない。

 格上といえど並の耐久では俺の電撃は防ぎづらい。

 力や速度だけじゃない、俺の雷を無視できるだけの耐久力まで備えてやがる。

 あの花型を操っているのも、おそらくこいつだ。――何もかもが面白い……!!

 

「カイ・ヴァレスだ。お前、名前は?」

 

「言うと思うか? これから死ぬ奴に」

 

「そうかよ。なら、ハシャーナ殺し含め全部吐かせるまでだ!!」

 

 今度は受け流すだけじゃない。真正面から受け止め、僅かな隙へ確実にこちらの攻撃を叩き込む。

 全ての攻撃を全身全霊で防御し、全ての好機に全身全霊で攻撃を打ち込む。

 生半可な攻撃ではこの女に通じないことは分かっている。

 ならば、リスク承知で撃ち合うしかない。

 

 穂先が肩口を掠める。

 女は顔をしかめながらも止まらず、むしろこちらの間合いへ強引に踏み込んでくる。俺は拳を紙一重で避け、脇腹へ膝を叩き込もうとするが、逆に脚を払われた。

 

 体勢を崩しながら地面へ槍を突き立て、無理やり身体を支える。そのまま柄を軸に身体を回転させ、女の側頭部目掛けて蹴りを放った。

 

 腕一本で止められる。

 だが、狙いはそこじゃない。

 

 ――もう充分。溜まったろ!!

 

 全てはこの一撃を当てるため。

 

 俺は纏う雷を電荷分離する。

 攻撃と共に対象へプラス電荷を移動させ、地面方向への放電をキャンセルしつつ、自身に纏わせたマイナス電荷を対象に誘導する。

 一度繋がれば、もう逃げられない。

 この一撃は――必中の稲妻と化す。

 

 稲妻が女の右腕を焼き、全身を強張らせる。

 その隙を逃さず、さらに畳み掛ける――はずだった。

 

 女は焼かれた右腕など意に介さず蹴りを放った。

 まさかあの状態から反撃してくるとは思わず、蹴りがまともに俺の顎を捉えた。

 

 視界が一瞬白く染まり、身体が地面を転がる。

 口の中に鉄の味が広がった。追撃の気配を感じて槍を引き寄せようとした、その瞬間――風が舞い上がった。

 鋭い風が女の足元を薙ぎ、追撃を強引に遮る。

 

「アイズ! もう動けんのか!?」

 

「うん、体はまだ痛いけどもう動ける。それに……あの人には聞かなくちゃいけないことがあるから」

 

「そうか。なら、一緒にやるか」

 

「うん!」

 

「文句ねぇよな、そっちが仕掛けてきたんだからよ」

 

「面倒だが、まあいいだろう。まずはお前から仕留めてやる、雷使い」

 

 アイズと同時に攻め入る。三年間、同じファミリアで戦ってきた経験がある。

 共に敵へ挑み、時には互いを相手に武器を交えた回数も一度や二度ではない。今さら細かな合図など必要ない。

 

 アイズが正面から斬り込めば、俺は女の死角へ潜る。俺の槍を捌けば、その先にはアイズの剣が待っている。

 赤髪の女は二人の攻撃を捌き続けていたが、それでも確かに押されていた。

 

 要因はいくつかある。

 二対一という数の有利に加え、先の雷で右手はほとんど使えない。

 

 さらにスキル〖戦禍適応(フェイタル・センス)〗が発動する。

 〖敏捷〗と〖器用〗に補正が掛かり、戦闘時間が長引けば長引くほど、相手が自分より強いほどその効果は上昇する。

 そこへ〖強敵渇望(ヴァルハラ)〗の格上補正が加わることで、今だけなら俺の動きはLv.6の領域に届いている。

 

 女の一撃を槍で受け流した瞬間、腕が軋む。

 速さについていけても、純粋な力の差までは消えない。真正面からまともに受け続ければ、先に俺の方が潰れる。

 

「アイズ!」

 

「分かった」

 

 言葉とほぼ同時にアイズが低く踏み込み、女の左側へ回る。

 女の意識が一瞬そちらへ向いた隙に、俺は槍を地面すれすれから跳ね上げた。

 

 再び、青い稲妻が女を襲う。先ほどまでとは違い確実に女の命を削っていた。

 

「――っ舐めるなぁ!! お前らごときに後れを取るか!!」

 

 赤髪の女が怒声とともに踏み込んだ。

 その勢いのまま攻撃を仕掛けてくる。

 

 空気が変わった。

 怒りに任せて雑になったわけじゃない。むしろ速度も圧力も、ここへ来てさらに増している。

 

 狙いは俺の槍か。二人がかりでも押し切れねぇし、さっさとけりをつけるか。

 

「望み通り、槍はくれてやるよ」

 

 女目掛けて槍を投げる。だが狙いは最初から女じゃない。

 女が身を捻って躱した槍は、そのまま背後の地面へ深々と突き刺さった。

 

「何のつもりだ!」

 

「落ち着けよ、今にわかる」

 

 女が訝しげにこちらを見る。

 アイズも一瞬だけ槍へ視線を向けたが、すぐに何かを察したのか女から距離を取った。

 

 次の瞬間、女の背後で槍が青白い電光を迸らせた。

 

――俺が電荷を溜めてんのはお前だけじゃねぇ!!

 

 俺の電撃による攻撃には二種類ある。

 一つは対象へ向けた一撃。もう一つは――真逆の方法で放たれる。

 槍に溜めた電荷を帰還電撃で引き戻し、俺と槍を結ぶ射線上にいる赤髪の女を撃ち抜く。

 

──これで落とせなきゃ、いよいよあれを使うしかねぇな。

  

 これでも立ってくんなら、俺が攻撃を何発叩き込んだところで同じだ。

 あれ使うと終わった後動けなくなるし、何より色んな奴から死ぬほど怒られるんだよな。

 アミッドにも、ここへ来る前に釘を刺されてるしな。

 

 しかし――それでも、赤髪の女は倒れなかった。

 

「こんな攻撃で!! 私が倒せるとでも思ったか!!!」

 

「……マジか」

 

 煙の向こうから聞こえた怒声に、思わず頬が引きつる。

 右半身は焼け、全身にも明らかな傷が増えている。それでも女の足はまだ地面を掴み、こちらを睨む眼光にも衰えがない。

 

 これでも倒れねぇのかよ。

 横目で見れば、アイズもすでに限界に近い。肩で息をし、剣を支える腕も僅かに震えている。

 ――仕方ねぇ。

 

 直後、俺を纏う雷が激しく迸る。

 身体の奥まで焼けるような痛みが走り、呼吸が浅くなる。それでも構わず、さらに出力を上へ押し上げた。

 

「っカイ! 待ってそれは――」

 

 アイズの制止にも構わず、俺がさらに出力を引き上げようとした、その時だった。

 

「〖雷纏・超過(ケラウノス・オ―バー)――〗」

 

「カイ、下がれ!!」

 

 鋭い声が雷鳴を切り裂いた。

 

 聞き慣れた声に身体が先に反応する。

 魔法を止めた次の瞬間、小さな影が俺の横を駆け抜け、赤髪の女との間へ割って入った。

 

「フィン……!」 

 

 振り返れば、リヴェリアとレフィーヤがすでにアイズのもとへ駆け寄っていた。

 レフィーヤは青ざめた顔でアイズの身体を支え、リヴェリアは一目で傷の具合を確かめる。

 

「……ちっ!」

 

 女の視線がフィン、リヴェリア、そして俺へと順に走る。

 

「Lv.6が二人。おまけに面倒な雷使い……さすがに分が悪いか」

 

「待て!」

 

 フィンが踏み込むより僅かに早く、女は大きく後方へ跳んだ。水飛沫が弾け、その姿が湖面の下へ消える。 

 

 すぐに湖面へ駆け寄るが、暗い水の中に女の姿は見えない。

 水中へ逃げ込まれた以上、雷を撃ち込めばこちらまで巻き込みかねない。追うのは無理だ。

 何より、あの花型がもういないとも限らない。 

 

 それよりも気がかりなのはアイズの方だ。

 負けたのがよほど悔しいのか湖を見つめたまま、剣の柄を強く握っていた。

 聞きたいことは俺にも山ほどあったが、今ここで聞ける雰囲気ではない。

 

 そんなことを考えていると後ろから声がかかる。

 

「カイ、随分無茶をしたようだね。僕たちが来るのがもう少し遅れていたら……あれを使うつもりだったんだろう?」

 

「あっ、いや……そんなことは、なくもなかったかな~……なんて」

 

 フィンは笑っている。

 笑っているが、目はまったく笑っていない。

 

「はぁ……何度言えば分かる。あれは軽々しく使っていい代物ではない。使えば確実にお前の命を削る。最悪の場合、そのまま命を落とすことすらあるのだぞ。あれを使うのは、他に手立てがなくなった時だけだ。まずは、それ以外に道がないのかを考えろ」

 

 案の定、隣から飛んできたのはリヴェリアの深いため息だった。

 腕を組み、こちらを見る目は呆れと怒りが半分ずつといったところだ。

 

「分かった、分かった。次からはそうするよ。で、街の方は?」

 

 露骨に話題を変えると、リヴェリアの眉間に皺が寄る。

 ただ、今は説教を続けるより先に共有すべきことがあると判断したのか、フィンが代わりに答えた。

 

 フィン達によると、街の騒ぎはひとまず収まったらしい。建物はいくつか崩壊したものの、幸い死者は出ていないという。

 花型の怪物も大半は討伐され、残っていた個体も冒険者達が処理している最中らしい。

 

 ある程度事態を収拾したところで、いつまで経っても俺とアイズが戻らないことに気づき、フィン達もこちらへ向かったようだった。

 

「全く。二人がかりでも勝てぬ相手なら、我々が来るまで時間を稼ぐという手もあっただろう。お前達は揃いも揃って無茶ばかりする」

 

「……ごめんなさい」

 

 アイズは素直に頭を下げる。

 レフィーヤもその隣で何度も頷いていた。

 

「でも、あいつを放っておくわけにもいかなかっただろ。逃げ回ってる間に何されるか分かんねぇし、押せるならあそこで仕留めた方がいいと思ったんだよ」

 

「だからといって、自分の命まで賭けろとは言っておらん!」

 

「大体お前はいつもそうだ! 何かあるたびに無茶をしては――」

 

 俺たちの会話へフィンが苦笑混じりに割って入る。

 

「リヴェリア。その話は帰ってからでも遅くないだろう。それとカイ。君も今は余計なことを言わない方がいい。これ以上リヴェリアを怒らせても、君に得はないからね」

 

「……分かった」

 

「へーい」

 

 返事をすると、リヴェリアの視線がさらに鋭くなった。

 どうやら今の言い方も気に入らなかったらしい。帰った後のことは考えないようにしよう。

 

 応急処置を終えた俺たちは、そんなやり取りを交わしながらその場を後にした。

 フィンを先頭に、リヴェリアとレフィーヤが負傷したアイズを気遣いながら歩く。

 

 その中で、アイズだけが何度も足を止めかけていた。

 視線の先にあるのは、赤髪の女が姿を消した湖。

 その手は、最後まで剣の柄を強く握り締めたままだった。

 

         第十一話 了




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

感想や気になった点、誤字脱字などありましたら教えていただけると嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。
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