ダンジョンに強敵を求めるのは間違っているだろうか 作:アイスクリームベリーベリー
ベルくん主体の話となります。
ベル・クラネルは、第五階層から上へ向かう階段を駆け上がっていた。
もう背後からミノタウロスが追ってくることはない。それでも足を止めれば、先ほどの光景が鮮明に蘇ってきそうで、自然と歩調は速くなっていた。
振り下ろされる巨大な拳。その前へ割り込んだ黒い背中。
全身を走る青白い雷光と、自分にはどうすることもできなかった怪物を正面から圧倒した姿が、何度振り払おうとしても頭から離れてくれない。
『お前、大丈夫か? 怪我してるか?』
助けられて最初に掛けられた言葉まで、妙にはっきり覚えていた。
「カイさん……」
思わず名前を呟く。
知っているのはそれだけだった。姓も、所属しているファミリアも、どれほど名の知れた冒険者なのかも知らない。
ただ、駆けつけてきた金髪の少女と
〖
そんな二人と並んでいたということは、カイも同じファミリアなのだろうか。考え始めると知りたいことばかりが浮かび、先ほどまで羞恥でいっぱいだった胸に、少しずつ別の熱が混ざっていった。
◇
長い石造りの階段を上り切り、ベルはダンジョンの入口へ辿り着いた。
そこはまだ地上ではない。迷宮都市の中央に聳える白亜の巨塔――バベルの地下に設けられた広間で、冒険者達はそこから塔の出口を経て初めて地上へ戻ることになる。
行き交う冒険者達の間を抜けて外へ出ると、ようやく頭上に本物の空が広がった。
「……帰って、これた」
ベルはそこで初めて大きく息を吐いた。
第五階層。そこで遭遇したミノタウロスに、自分はほんの少し前まで本当に殺されかけていた。
それでも周囲ではいつもと変わらず冒険者達が行き交い、露店から客を呼ぶ声が聞こえてくる。その日常との落差が、つい先ほどまでの出来事をかえって現実のものとしてベルへ突きつけてきた。
自分一人では、生きて帰れなかった。
その事実を噛み締めながら、ベルはまず向かわなければならない場所――冒険者ギルドへ足を向けた。
◇
冒険者ギルド本部――
建物へ入ったベルは、人々の間を縫っていつもの窓口へ向かった。
「あ、ベル君」
眼鏡を掛けたハーフエルフの受付嬢、エイナ・チュールがこちらに気づく。いつも通り柔らかな表情を見せた彼女だったが、近づいてきたベルの姿を認めた途端、その眉が寄った。
「どうしたの、その格好?」
「え?」
「土まみれだし、顔色も悪いよ。今日、何かあったの?」
ベルは自分の姿を見下ろした。
逃走中に転んだせいで服は汚れ、ミノタウロスが壁を砕いた際に浴びた石片の跡も残っている。大きな怪我こそないものの、とても「何もありませんでした」で通せる格好ではなかった。
「その……」
言うべきか迷ったが、エイナの視線から逃げ切れるはずもない。
「ベル君?」
「……第五階層で、ミノタウロスに会いました」
数秒、エイナの表情が完全に止まった。
「…………何に?」
「ミノタウロス、です」
「第五階層で?」
「はい」
次の瞬間、エイナが勢いよく身を乗り出した。
「怪我は!?」
「だ、大丈夫です!」
「本当に!? 殴られたりしてない!? 腕も見せて!」
「エ、エイナさん、落ち着いてください!」
慌てるベルの腕を取り、エイナは本当に傷がないのか確かめていく。
致命的な負傷がないと分かって、ようやく胸を撫で下ろす。だが、その安堵も束の間だった。
「……それよりベル君」
「は、はい」
「どうしていきなり第五階層まで行ったの?」
声音が変わった。
ベルの背筋が自然と伸びる。
「その……今日は調子が良くて。いつもよりモンスターも倒せてたから、もう少し行けるかなって……」
「もぉ! いつも言ってるでしょう!?」
「ご、ごめんなさい!」
「ベル君はまだ一人でダンジョンに潜ってるんだよ? 何か起きても助けてくれる仲間がいないんだから、急に探索範囲を広げちゃ駄目!」
エイナは腰へ手を当て、普段以上に厳しい目をベルへ向けた。
「ダンジョンでは、ほんの少しの油断が命取りになるの。今日だってミノタウロスがいなくても、知らない地形でモンスターに囲まれてたかもしれないでしょう?」
「……はい」
「冒険者だからって、無茶な冒険をしていいわけじゃないんだからね。むしろ自分の限界を見極めて、必ず生きて帰ってくることの方が大事なの」
「……ごめんなさい」
小さくなるベルを見て、エイナは一度息を吐いた。
叱るべきことを叱った後で、ようやく表情を少しだけ和らげる。
「それで、ミノタウロスからはどうやって逃げたの?」
「あ……」
ベルは第五階層で起きたことを順番に説明した。
探索範囲を少し広げたこと。そこで突然ミノタウロスに遭遇し、逃げ回った末に行き止まりへ追い詰められたこと。
そして――もう駄目だと思った時、一人の冒険者に助けられたこと。
「他の冒険者に?」
「はい」
そこでベルの声が少しだけ弾んだ。
「すごく強い人でした。武器も持ってなかったのに、ミノタウロスを殴って吹き飛ばして……身体には雷みたいなのを纏ってて」
「雷?」
エイナの眉が僅かに動く。
「それで、その人の名前は?」
「カイさん、って呼ばれてました」
「…………カイ?」
今度は別の意味で、エイナの動きが止まった。
「一緒にいたのが、金髪の女の人と
そこまで聞くと、エイナは納得したように小さく息を吐いた。
「ああ……だったら間違いないかな」
「知ってるんですか!?」
勢いよく身を乗り出したベルに、エイナが僅かに仰け反る。
「ベル君、ちょっと近い」
「す、すみません!」
ベルは慌てて身体を引いた。
「知ってはいるよ。ただ、ギルドだから個人的な情報を勝手に教えることはできないの。公になっていることなら話せるけど」
「それでお願いします!」
「すごい食いつきだね……」
エイナは苦笑しながら眼鏡の位置を直す。
「カイ・ヴァレス。ロキ・ファミリア所属で、現在のLvは5、オラリオでも随一の戦闘好きで、神々から授かった称号は戦う雷で〖
「…………え?」
ベルの思考が一瞬止まった。
「Lv.……5?」
「そうだよ」
「アイズ・ヴァレンシュタインさんと……同じ?」
「レベルだけならね。それと、ヴァレス氏は確か十七歳」
「じゅ、十七歳で……Lv.5なんですか!?」
思わず大きな声が出た。周囲の受付嬢や冒険者達が振り返り、ベルは慌てて口を押さえる。
「ご、ごめんなさい……」
「驚くのも分かるけど、年齢だけなら前例がないわけじゃないよ」
「え?」
「ヴァレンシュタイン氏だって今は十六歳でLv.5だからね」
ベルは目を瞬かせた。
「でも、ヴァレス氏が特に有名なのは年齢じゃなくて、冒険者歴の方かな」
「冒険者歴……?」
エイナは僅かに声を落とす。
「うん、ヴァレス氏が
そこで一度言葉を切った。
「三年。それだけの期間でLv.5まで上がったの」
「…………三年?」
「うん。公表されている記録の範囲では、Lv.5到達までの期間はギルド史上最速。だからオラリオでも有名なんだよ」
――三年。
その数字が意味するものを、冒険者になったばかりのベルでも理解できた。
自分はまだ冒険者になったばかりだ。それでもカイと同じだけの三年間を冒険者として過ごした時、自分があの場所へ立っている姿など到底想像できない。
「……すごい」
「強いよ。本当にね」
エイナは素直に認める。
だが、感嘆するベルを見ているうちに、その表情が再びアドバイザーのものへ戻った。
「でも、ベル君」
「はい?」
「ヴァレス氏の真似をしようなんて、絶対に考えないでね」
「えっ」
図星というほど何かを決めていたわけではない。
それでも、その反応だけでエイナには十分だったらしい。
「あの人、強いモンスターがいるって聞いたら自分から向かっていくような人だから」
「……あ」
「それができるだけの実力があるから、今まで生きて帰ってきてるの。危険な場所へ行けば早く強くなれる、なんて考えちゃ駄目だからね?」
「は、はい!」
「本当に?」
「はい!」
背筋を伸ばすベルへ、エイナは半眼を向ける。
「さっき第五階層へ行った理由を聞いたばっかりだから、今日は特に信用できないんだけど」
「うっ……」
何も言い返せなかった。
「ベル君にはベル君の速さがあるんだから、まず生きて帰ってくること。強くなるのは、その積み重ねの先だよ」
「……はい」
今度はしっかりと頷いた。
カイの背中には追いつきたい。
けれど、その途中で死んでしまえば意味がない。
「それにしても……」
エイナは頬へ指を当て、僅かに首を傾げる。
「ロキ・ファミリアの遠征隊が、もうそこまで戻ってきてるってことなのかな」
「遠征……?」
「あ、ううん。こっちの話」
その言葉を聞いて、ベルは先ほどのカイの姿を思い出した。
汚れと裂け目の残る黒い戦闘服。そして、手には武器らしいものを何も持っていなかった。
遠征から戻る途中だったのなら、あの姿にも理由があったのかもしれない。
「……遠征帰りだったんだ」
「ベル君?」
「いえ、何でもないです」
それでもカイは、自分とは何の関係もない、名前すら知らない駆け出しを助けてくれた。その事実が、また胸の奥を熱くした。
「とにかく、今日はもうダンジョンに戻っちゃ駄目だからね」
「はい」
「家に帰って、主神様にもちゃんと報告すること」
「……はい」
最後だけ声が小さくなった。
ヘスティアの反応が、容易に想像できてしまったからだった。
◇
「ベル君っ!!」
予想は、ほとんど外れなかった。
古びた教会の地下室へ帰ったベルは、事情を説明し終えた直後、ヘスティアに勢いよく抱き締められていた。
「ちょっ、神様!?」
「ミノタウロスって何さ!? 第五階層だよ!? どうしてそんなのがいるんだい!?」
「ぼ、僕にも分かりません!」
「怪我は!? 本当にない!? どこか痛かったりしない!?」
「エイナさんにも同じことされました!」
「エイナ君とボクを一緒にしないでくれたまえ! ボクは君の主神なんだからね!」
ヘスティアはベルの身体をあちこち確認し、傷らしい傷がないことを確かめて、ようやく長い息を吐いた。
安堵したのも束の間、今度は頬を膨らませて少年を睨みつける。
「それで? 何で第五階層まで行ったのかな、ベル君?」
「……ちょっと調子が良くて」
「ベル君?」
「ごめんなさい!」
即座に頭を下げるベルを、ヘスティアはしばらく恨めしそうに見ていた。
だが最後には肩を落とし、少年の頭へ手を置く。
「もう……本当に頼むよ。君に何かあったら、ボクは……」
「神様……」
「絶対、無茶しないこと。いいね?」
「はい」
ベルが真剣に頷くと、ヘスティアもようやく表情を和らげた。
「でも、ミノタウロスから逃げ切ったの?」
「あ……いえ。助けてもらったんです」
「誰に?」
「カイさんっていう冒険者に」
「……カイ?」
ヘスティアが僅かに眉を寄せる。
「もしかして、ロキのところのカイ・ヴァレスかい?」
「知ってるんですか?」
「本人と話したことはないよ。でも、名前くらいは知ってるさ。あそこのLv.5だろ?」
途端に、ヘスティアが露骨に嫌そうな顔をした。
「むぅ……ロキの眷族かぁ」
「どうかしたんですか?」
「本人に何かあるわけじゃないよ。でもロキは嫌い」
「神様……」
「だってロキだぞ!」
理由になっているような、なっていないような主張だった。
だがベルは気にした様子もなく、今日の出来事を語り始める。
「本当にすごかったんですよ。僕なんて全然何もできなかったのに、ミノタウロスを拳だけで吹き飛ばして……身体に雷を纏ってて、こう、一瞬で懐に入って――」
「ベル君」
「それで、ミノタウロスの攻撃も簡単に避けて!」
「ベル君?」
「最後なんか蹴り一発で――」
「ベル君!」
「は、はい!」
ようやく止まった少年を、ヘスティアがじっと見つめる。
「……随分そのカイって冒険者が気に入ったみたいだね?」
「え?」
「帰ってきてからずっとその人の話じゃないか」
ベルは目を瞬かせた。言われてみれば、確かにそうだった。
「その……僕も、あんなふうになれたらって」
「あんなふう?」
「強くて……誰かが危ない時に、迷わず助けられる冒険者に」
その言葉を聞いて、ヘスティアは僅かに目を見開いた。
ベルの瞳に浮かんでいるのは、幼い頃から英雄譚へ向けてきたものとよく似た、まっすぐな憧れだった。
「……なるほどね」
「神様?」
「何でもないよ」
ヘスティアは小さく笑う。
「まあ、助けてもらったことにはボクからも感謝しないとね。次に会った時は、ちゃんとお礼を言うんだよ?」
「はい!」
「今度は逃げないように」
「うっ……」
痛いところを突かれ、ベルの肩が縮こまる。
ヘスティアはそんな少年を見て笑うと、ベッドを軽く叩いた。
「ほら。今日はステイタスを更新しよう。あんな目に遭ったんだから、そのまま寝かせるわけにもいかないしね」
「お願いします!」
ベルは上着を脱ぎ、ベッドへうつ伏せになった。
いつもと同じ、
けれど今日だけは、いつも通りには終わらなかった。
◇
「…………え?」
ヘスティアの手が止まった。
ベルの背中へ浮かび上がった
「神様?」
「な、何でもないよ!」
慌てて返事をしながら、もう一度数字を確認する。
見間違いではない。前回の更新値も覚えている。
力 I77 → I82
耐久 I13
器用 I93 → I96
敏捷 H148 → H172
魔力 I0
「……へぇ」
ヘスティアの視線が、数値の上を往復する。
力や器用も少し伸びているが、中でも目についたのは敏捷だった。H148からH172――他の能力と比べても伸び幅が大きい。
今日のベルがミノタウロスから長時間逃げ続けたことを考えれば、まったく説明できない数字というわけではない。駆け出しであることを踏まえても、不可能だと断言するほどではなかった。
それでも、ヘスティアは僅かな引っ掛かりを覚えた。
「神様?」
「ちょ、ちょっと待ってね、ベル君」
「はい……」
背後の異変には気づいていないらしい。
その違和感の答えを探すようにステイタスを確認していたヘスティアは、やがてこれまで空白だったスキル欄に、新たな文字が刻まれていることに気づいた。
〖
・早熟する。
・憧憬が続く限り効果持続。
・憧憬の丈により効果向上。
「…………」
今度こそ、ヘスティアは言葉を失った。
目を凝らし、もう一度読み返す。だが、何度確認しても書かれている内容は変わらない。
早熟――つまり、成長そのものを促進する能力。
そして、その効果を支えているのは、ベルが抱く強い憧憬だった。
そこでようやく、先ほど覚えた数字への違和感まで一本に繋がった。
『僕も、あんなふうになれたらって』
脳裏に浮かんだのは、少し前まで目を輝かせながら話していたベルの姿。
そして、その少年を助けたという一人の冒険者――カイ・ヴァレスだった。
「……そういうことか」
今度の呟きは、ベルには届かなかった。
少なくとも、きっかけになったのは間違いない。死を目前にした恐怖、何もできなかった悔しさ、そしてその絶望を覆してみせた冒険者への強烈な憧れ。
それらが一つになり、このスキルへ繋がったのだろう。
「神様、まだですか?」
「あっ、うん! もうちょっと!」
ヘスティアは慌てて返事をする。
だが心の中には、すぐに別の問題が浮かび始めていた。
これを、そのままベルへ教えていいのか。
憧れが強いほど成長が促される――そんなことを知れば、今のベルならどう考えるだろう。
もっとカイに追いつきたい。もっと強くなりたい。そのためなら、もっと危険な敵と戦おう――今のベルなら、そう考えかねない。
「……絶対やる」
そう確信できてしまう。今日、エイナの忠告を破って第五階層まで行った少年なのだから、なおさらだった。
ヘスティアは少し悩んだ末、ひとまず答えを出す。
「ベル君」
「はい?」
「今日のステイタス、結構伸びてるよ」
「本当ですか!?」
「うん。特に敏捷がかなり伸びてる」
「すごい……!」
喜ぶ声が返ってくる。
ヘスティアは複雑な気持ちのまま羊皮紙へ転写を始めた。ただし、スキル欄だけは写さなかった。
「はい、できたよ」
身体を起こしたベルへ、ステイタスを書き写した紙を渡す。
「ありがとうございます!」
ベルは嬉しそうに数字へ目を走らせる。
「敏捷……H172!?」
「今日かなり走ったからねぇ」
「ミノタウロスからも……その後も……」
「その後?」
「な、何でもありません!」
カイの前から逃げ出したことを思い出したらしい。
耳まで赤くなった少年を眺めながら、ヘスティアは胸の中だけで息を吐く。
スキルのことは、まだ教えない。少なくとも、自分の成長速度を理由に無茶をしなくなるまでは。
「でも……もっと頑張れば」
羊皮紙を握りながら、ベルがぽつりと呟く。
「少しは、近づけるかな」
「ベル君?」
「あ、いえ!」
慌てて笑う少年が誰を思い浮かべていたのか、ヘスティアにはすぐ分かった。
カイ・ヴァレス。十七歳、ロキ・ファミリア所属のLv.5にして第一級冒険者。
冒険者歴、わずか三年。
ベルにとって、カイは今なおあまりにも遠い存在だった。それでも少年は今日、その背中を自分の目で見た。
手が届かないから諦めるのではない。遠いからこそ、追いかけたいと思っている。
「ベル君」
「はい?」
「強くなりたい?」
突然の問いに、ベルが目を瞬かせる。
けれど答えるまでに、時間はかからなかった。
「……はい」
「そっか」
ヘスティアは小さく笑った。
「なら、まずは明日もちゃんと帰ってくること」
「え?」
「強くなるのはその後。生きて帰って、またダンジョンに潜って、それを繰り返す。いいね?」
今日、エイナにも似たようなことを言われた。
ベルは一瞬だけ驚いた後、しっかりと頷く。
「はい!」
「よろしい。じゃあ今日はもう寝る!」
「まだそんな時間じゃ――」
「死にかけた日の反省会は終わり! 寝る!」
「はい……」
強引に布団へ押し込まれ、しばらくすると部屋の灯りが消えた。
暗闇の中でベルは目を閉じたが、すぐには眠れなかった。
瞼の裏に、あの背中が浮かぶ。黒い戦闘服と、その全身を走る青白い雷。
自分と怪物の間へ迷わず立った、一人の冒険者。
「……カイさん」
小さく名前を呼ぶ。
次に会えた時は、今度こそ逃げずにちゃんと礼を言おう。
そしていつか、ただ助けられるだけではなく、同じ場所に立てるくらい強くなりたい。
その夜、ベル・クラネルの背中には一つの新しいスキルが刻まれていた。
少年自身だけが、そのことをまだ知らない。
第三話 了
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
感想や気になった点、誤字脱字などありましたら教えていただけると嬉しいです。
次回もよろしくお願いします。