乾いた音を立てて、瓦礫の山にヒューズが落ちる。
パルス・ライフルの内部の負荷を抑える、使い捨てのカートリッジヒューズ。
それを排莢しつつ、ニコラスは瓦礫の山と化したMITの校舎を眺める。
「美しい光景だ。そうは思わないか、マーキュリー?」
ニコラスは芸術作品を堪能するような口調で、己のAIに問いかける。
「イエス・マイロード。この瓦礫の山は、マイロードの偉業を讃える為にあります」
「ハハハハハ! で、マーキュリー、トラックは何処だ?」
「大学の敷地内へ潜入する事ができました。マイロードの半径0.6マイル(約1㎞)圏内に潜伏しております。武器を交換しますか?」
「ああ、ヒューズが切れた。ポータル・システムを起動しろ」
「イエス・マイロード」
きっかり3秒後、ニコラスの右側に火花を散らす円形の穴が開く。
穴の向こう側には、トラックの内側が広がっていた。
武器のケースの内部のようである。
「くくく、これで幾らでも暴れられるな♪」
ニコラスは上機嫌でポータルの中にヒューズが切れたパルス・ライフルを放り込む。
収納ケースの中のアームが放り込まれたパルス・ライフルを器用に空中で掴み、ヒューズの補給を始めた。
「マーキュリー、別のライフルを寄越せ」
「イエス・マイロード」
きっかり3秒後、今度はニコラスの左側にポータルが開く。
収納ケースの中のアームが動き、ポータルの向こう側から銃床だけが出てきた。
「くくく♪」
ニコラスはせせら笑みながら、ポータルから新しいパルス・ライフルを掴み、瓦礫の山から無音で空中へと浮遊する。
異星人のテクノロジーである反重力装置は、空中停止、ホバリング、低空飛行に関して言えば、パルスブースターよりも燃費が良い。
特に、音が静かなのがニコラスのお気に入りだ。
人間の悲鳴が消えてしまうので、パルスブースターの爆音は彼からすればノイズでしかない。
「マイロード、次はどの校舎を破壊しますか?」
「あー、建物を破壊するのも飽きたな。今度は人を殺してみたいな。じっくり拷問するのも楽しそうだ」
実際、ニコラスは校舎を目標にパルス・ライフルを撃つ破壊行為に、既に飽きていた。
建物を破壊するよりも、人間の悲鳴を聞く事の方が、彼の大好物なのだ。
「素晴らしいアイデアです。折角ですから、マイロードの知り合いを殺害してみるのはいかがでしょうか?」
「いい提案だ、マーキュリー。学内のセキュリティ・システムにアクセスして、俺の知り合いの所在地を特定させろ」
「イエス・マイロード。セキュリティ・システムへアクセス、……解析完了。見つけました、マイロードを退学させたMITの学長をターゲットにするのはいかがですか?」
「へぇ、面白そうじゃん?」
「MITの学長は現在、Building3のプレジデントオフィスにて頭を抱えています」
「ハハハハハ! そうか、そうか♪ マーキュリー、俺が学長の所に行くまで、その女をリアルタイムで追跡しろ。絶対に見失うなよ?」
「イエス・マイロード」
「ハハハハハ! 待っていろ、学長! 今行くぞぉ!!」
ニコラスは狂った笑顔を浮かべながら、アイアンブラッドを本館エリアへ向かわせた。
◆◇◆◇◆
夜空を右に左へ、挙動不審な動作で飛翔するアイアンハート。
無理に組み上げた弊害か、低空低速飛行をしようとすると、どうもバランスが悪い。
だが、文句は言えない。
アイアンハートが急造品なのは、作った本人であるリリが一番理解しているからだ。
そんな時だった。
スーツの中でスマホのバイブ音が響いた。
「リリ? スマホ鳴ってるよ?」
ナタリーが軽いノリで話しかけてきた。
今から戦いに行くというのに、緊張感が無い。
「んもう、誰からよ?」
「『社長』ってあるけど?」
「あ、会話アプリ開いて、ナタリー! アルバイト先の社長なの!」
「オーケイ!」
1秒もしない内に、ヘルメットの内側のモニターにケンブリッジ・クリーン・サービスの社長であるジェームズの顔が表示された。
『おい、リリ! 今、外を見たら白いスーツがMITに向かって飛んで行くのを見たぞ!? まさか、リリじゃないよな!?』
初老のジェームズは、まるで孫娘を心配するかのような表情で、リリに語り掛ける。
「残念、社長。悪いけど、それ、アタシよ?」
『ああ、リリ! 完成させたんだな、ついに……。けど、大丈夫か? その、何がとは言わないが……』
「心配しないで、社長。戦闘前だから出力を絞ってるの!」
『出力を絞る? おい、リリ。そのスーツ、何で動いているんだ?』
ジェームズの言葉に、リリは思わず難しい表情を浮かべた。
レイ・シフト・リアクターの構造を説明しても良いが、かなり長くなる。
なので、
「あー、うん。太陽電池! だから、街の近くを飛んでるの! 街灯が生命線なの!」
『成程な! 俺達もボランティアでMITの近くまで行く。CPLの連中もな! インフラを支えている俺達でも、けが人を病院まで連れて行く事くらいはできるからな!』
「社長、無理しないでよ!?」
『当たり前だ! 『青いアイアンマン』はリリの獲物だからな! 一泡ふかせてやれよ!!』
「勿論!」
通話を終了したタイミングと、アイアンハートがMITの敷地内に到着したタイミングは、ほぼ同時だった。
ブースターを吹かし、空中で停止しながら、リリはMITの惨状に顔を歪ませた。
見るも無残に瓦礫の山と化した校舎の数は、5棟。
今すぐ救助を行いたい衝動を抑えながら、
「ナタリー、消防隊に破壊した建物の座標位置を共有して! 最優先救助対象として!」
と、指示を飛ばす。
「オーケイ、リリ! それと、セキュリティ・システムにアクセスして、『青いアイアンマン』を見つけたよ! Building3の建物の内部を歩いている! 目的地は恐らく、プレジデントオフィス!」
「はぁ!? ここまで大暴れして、次は学長を狙っているの!? 意味が解んない!」
リリはうんざりした表情を浮かべながら、アイアンハートをBuilding3に向かって加速させた。
もうこれ以上、『青いアイアンマン』の暴挙を許す訳には行かない。