「ハァイ、グッイーヴニーン!」
プレジデントオフィスのドアを蹴破り、ニコラスは陽気な口調で挨拶をした。
勿論、彼の右手にはパルス・ライフルがしっかりと装着済みだ。
「な、何の用!? あなたは誰!?」
MITの女学長は、ヒステリックになるのを抑えるような口調で叫ぶ。
「あぁ、お忘れですかぁ、学長? 俺ですよ、俺♪ 先週、退学したニコラスです♪」
ニコラスはそう言って、アイアンブラッドのバイザーを上げ、顔を晒す。
金髪碧眼で高貴な顔立ちであった青年は今、暴力という快楽に依存する、狂気のヴィランへと成り下がっていた。
「に、ニコラス!? あのニコラス・オーウェンなの!? ど、どうしてこんなバカな事を!?」
「あはははははは!!」
女学長の言葉に、ニコラスは哄笑しながら右手に持ったパルス・ライフルを右手の壁に向かって乱射した。
コンクリートの壁が、パルス・ライフルから放たれたエネルギーの奔流で、一瞬で砕け散る。
「ひぃ!?」
女学長は顔を引きつらせた。
腰が抜けてしまったのか、椅子から立ち上がる様子すら無い。
「いやはや。MITの学長からどんな高尚な言葉が出て来るのか期待していたが、実にチープな質問で興ざめしたよ!」
「ち、チープ……?」
「『どうしてこんなバカな事を?』 考えりゃ解るだろぉ、学長? 力を手に入れたら、振るってみたくなるじゃん? それ以上でも以下でも無いって! あはははははは!!」
ニコラスはコメディドラマを見るような笑顔を浮かべ、今度は反対側の壁に向かってパルス・ライフルを乱射した。
放たれたエネルギーの奔流が、オフィスの壁をズタズタに引き裂き、破壊する。
「み、ミスター・オーウェン! MITから退学処分された恨みで、ココに来たんじゃなかったの!?」
「あー、退学通知をくらった最初の3時間くらいはアンタやMITに怒りを覚えていたけど、寝たら忘れたわ。第一、他人の研究成果を盗んだくらいで退学処分にするような所に居ても、時間の無駄だしな!」
ニコラスは肩を揺らし、無邪気に笑った。
その仕草から、本当に退学処分を受けた事に恨みは無いようである。
「むしろ感謝しているんだぜぇ、学長? アンタが俺を退学にしてくれたお陰で、このスーツを作る時間が捻出できたんだからなぁ。アホの教授どもの開くバカげたゼミや講義なんかよりも、人殺し用のスーツや武器を作っている時間の方が有意義だったぜぇ!? おかげで念願の大量虐殺ができる! あはははははは、俺は自由だ!!」
「ニコラス・オーウェン!! ああ! 貴方がここまで愚かだったなんて!!」
学長は教育者として失望と悲哀に満ちた目で、ニコラスを睨んだ。
「愚かぁ!? 愚か者にこんなスーツや武器が作れるかよ! 俺は今、トニー・スタークを超えたんだぜぇ!?」
轟音を立てて、ニコラスはアイアンブラッドの力で女学長の執務机を蹴り飛ばした。
「何度でも言うわよ、ニコラス・オーウェン! あなたは愚かな人間です! こんな行為をして、どんな報いがあるのか、何も理解していない!」
「報い? あはははははは、面白い事を言うなぁ、学長? アベンジャーズに期待しているのかもしれんが、俺とアイアンブラッドのスーツの前には、奴らはその辺の人間と変わらん連中の集いに過ぎん。まぁ、怖いのはソーとキャプテン・マーベルくらいか? まぁ、無理なら逃げりゃ良い! どうだ? 完璧な計画だろ?」
行き当たりばったりの休日の過ごし方を話すノリで、ニコラスは今後の方針を語った。
「に、ニコラス・オーウェン。あなたは、そのスーツで何をする気なの!? 世界征服して、独裁者になりたいの!?」
「何で俺がアホ共の面倒を見なきゃならん。統治という雑務はアホな大統領に任せるさ。俺は、世界中の人間に今まで通りの自由をくれてやるつもりだ。これまで通りに好きに生活すると良い。代わりに、俺が殺したい時に殺される権利をやろう。どうだ? 今日、俺に殺されるかもしれんと思ったアホ共は、真剣に生きるかもしれんぞ? ビギニング・オブ・ザ・グレート・アース! なんてな、あはははははは!!」
「アホはアンタよ! このトンチンカン!!」
ニコラスの背後で、勝気な少女の言葉が響いた。
◆◇◆◇◆
「あーん?」
ニコラスはパルス・ライフルを肩に預けたまま、振り返った。
視線の先にあるのは、白い装甲のアイアンスーツだった。
ニコラスが今まで見たアイアンスーツとは毛色が違う。
マッシブな見た目だが、背中から伸びた大型のパルスブースターがまるでハート型になるように装着されている。
所々が薄汚れている点を見るに、廃品を修理して無理やり組み上げたスーツのように見えた。
その出来栄えに、
「ぷッ」
と、ニコラスは思わず失笑した。
「何が可笑しい!?」
「ヘイ・ガール? アイアンマンのコスプレ会場はここじゃないぜぇ?」
ニコラスはケタケタと笑いながら、リリのアイアンハートを嘲笑した。
「へぇ、言ってくれるわね? このアイアンハートがコスプレかどうか、試してみる?」
背中のパルスブースターを展開させ、リリはアイアンハートが空中に浮遊した。
ニコラスの表情から、嘲笑の笑みが消え、代わりに感嘆の笑みに変わる。
倫理観は無いが、知識のあるエンジニアだからこそ、彼はリリのアイアンスーツが行っている事の高等さが理解できてしまった。
「表に出な、トンチンカン! そのスーツ、スクラップにしてやるよ!」
リリの言葉に、ニコラスは無言でヘルメットのバイザーを閉じた。
満面の笑みで、
「マーキュリー、予定変更だ!」
と、AIに告げる。
「イエス・マイロード」
マーキュリーの言葉を聞きながらも、ニコラスは満面の笑みを絶やさない。
サンドバッグが向こうからやって来た。
ニコラスは本気でそう考えていた。