ほぼ半壊したBuilding3のすぐ後ろにあるキリアンコートという広場。
その広場に、リリはゆっくりと降り立つ。
あの『青いアイアンマン』は意気揚々とした様子で、音も無く空中を浮遊しながら着いてきてくれた。
ありがたい事に、学長よりもこちらに意識が向いてくれたようだ。
リリがチラリと学長室に視線を向けると、警備員達が学長を両脇から支え、脱出する所が見える。
ほっと一安心した後、目の前の『青いアイアンマン』……、トンチンカンが『アイアンブラッド』と自称していたスーツを睨みつけた。
見れば見る程、高級素材で作られたのが見て取れるが、それ以上にさっきの挙動も妙だ。
昨日の警察署を襲撃した動画には無かったライフルも装備しているし、今はブースターではなく無音で飛行している。
異星人の重力制御装置を小型化して、あのスーツの中に仕込んでいる?
この短時間で改良を施したのか、はたまた、事前に準備していた隠し玉を出したのか。
リリは鋭敏な知覚の全てを駆使して、目の前のアイアンブラッドから情報を、1秒もしない内に獲得していく。
「さぁて、お嬢さん? ここでおっ始めて良いかい?」
「勿論!」
「なら遠慮なく!」
アイアンブラッドは右手に構えていたパルス・ライフルの銃口をアイアンハートに向け、引き金を引いた。
リリは冷静に銃口の向きから弾道を予測し、パルスブースターを最大出力で展開し、それらを回避する。
上下左右、縦横無尽。
三次元の立体機動の動きによって、エネルギーの銃弾の全てをリリは即座に回避する。
このアイアンハートには武装があるにはあるが、近距離でしか使えないのだ。
リリは当初の作戦通り、最初はひたすら回避に徹する事にした。
回避しながらも、
(1秒、2秒、3秒、4秒、5秒……)
リリは心の中で、アイアンブラッドが放つパルス・ライフルが弾切れになるタイミングを計っていた。
弾切れになった瞬間、最大出力で接近し、肉弾戦を仕掛ける。
攻撃手段に乏しいアイアンハートには、これしか選択肢が無かった。
対するニコラスも、
「マーキュリー、奴の回避パターンを解析し、照準に補正を加えろ」
冷静にマーキュリーへ指示を出す。
「イエス・マイロード」
マーキュリーの返答と共に、ヘルメットの内側のモニターに幾つもの情報が追加で表示されてゆく。
(ほぉ? リパルサーの全てをブースターの出力に変換して、あの機動力を生み出しているのか。くくく♪ リペア品のようなスーツの割に、移動力はアイアンブラッド以上とは生意気な……!)
ニコラスは目の前のスーツに反感を覚えながらも、褒める所は素直に褒めた。
「マーキュリー、ポータル・システムを起動。パルス・ライフルをもう一丁追加しろ!」
「イエス・マイロード」
きっかり3秒後、アイアンブラッドの左側にポータルが開く。
ヒューズの交換が終わったライフルが収納ケースから差し出され、ニコラスは左手でそれを握り、パルス接続部と連結させる。
キュィン、という粒子が加速する音と共に、ライフルの各部が青白く光った。
(2丁目のライフル!? まずい!?)
攻撃手段が二つになれば、それだけ回避ルートも限られる。
選択肢は1つ。
回避する為に空間に余裕のある空へ逃げる。
だが、それは街灯の光から遠のく事を意味していた。
「このトンチンカン!」
リリは悪態をつきながら高度を取る。
だが、更に最悪の事態は加速した。
「マイロード、白いアイアンスーツの行動パターンの解析が完了しました。建物に被害が出ないよう、彼女は意図的に立ち回っています。試しに近くの建物を攻撃してみるのは如何でしょう?」
「ほぉ? じゃ、ココにしてみるか!」
ニコラスはニヤリと笑い、Building3の建物にパルス・ライフルの銃口を向けた。
建物の中にいる人々の避難は、まだ完了していない。
「バカ、バカ、バカ! 止めろ、トンチンカン!!」
リリはアイアンブラッドの目的を理解し、即座に射線に割り込むように地面に着地する。
「避けても良いぜぇ~? 避けたらその建物はバラバラになっちまうけどなぁ~!?」
ニコラスはケタケタと笑いながら、パルス・ライフルの引き金を引いた。
轟音と共に、発射される幾つものエネルギーの弾丸。
それらを受け止めるように、アイアンハートは両手を前に向けた。
「ナタリー、エネルギーの全てをシールドに回して!!」
「了解!」
刹那、白い閃光がアイアンハートを包み込んだ。