「ははーん、何だ簡単じゃーん♪」
リリは送電施設にパソコンを繋げると、鼻歌混じりにソフトウェアの書き換えを始めた。
「あー、何やってるかさっぱりだが、原因は何なんだい、リリ?」
「推測だけど、北の方で新しいアークリアクターの発電所ができたでしょ? それで生成電力が増えたから、送電用の計算が狂っちゃったのよ。発電量が想定値を超えたせいで、送電系統の負荷計算が破綻しているの。だから余剰電力を、……あー、ゴメン、難しすぎた?」
「チンプンカンプンだよ、リリ……」
「すっごく簡単に言うと、貯金箱に入りきらないくらいに小銭が入っているから、貯金箱を大きくしましょ、って話。本当ならこの建物を壊して新しい送電施設を建てる必要があるんだけど、私ならこのパソコンを使って1時間で問題を解決できる。どう? お得でしょ?」
「はえー」
リリの言葉に、電気技術者は感心したため息を漏らすしかできなかった。
そうこうしている内に、天才少女は両手の指を高速で動かし、管理会社からアクセス権を借りて、プログラムの再構築を開始した。
「ここは、こうして……。アレは、ああして……。そこは、そのまま……」
リリは歌うように、楽しむように、送電プログラムに手を加えてゆく。
きっかり1時間後、
ゴウン、ゴウン、……
送電施設のジェネレーターが安定した唸り声を上げた。
近くにいた現場作業員がスマホから顔を上げ、
「復旧したってよ! 大手柄だな、リリ!」
「ま、こんなもんよ!」
リリは得意満面な笑顔を浮かべ、サムズアップした。
バンに乗り込み、天才少女は再びケンブリッジ・クリーン・サービスへ戻った。
勿論、『特別ボーナス』を受け取る為だ。
「社長、ヒーローの帰還だよ~♪」
リリはニコニコと笑いながら、バンから飛び降りた。
ケンブリッジ・クリーン・サービスの面々もリリの活躍を知っているからか、拍手喝さいで出迎える。
「よぉ、お帰り、リリ。ほい、約束の特別ボーナスだ。8区の一番大きな所だ」
ジェームズは苦笑しながら、金庫の中から鍵を取り出し、手渡した。
「ありがとう、社長! ね、もう上がって良い?」
「特別だぞ、リリ。行ってこい」
「さっすが社長! それじゃ、お疲れ様でーす♪」
リリはウキウキ気分でロッカーからリュックサックを担ぎ、ケンブリッジ・クリーン・サービスを後にした。
彼女の頭の中は、『特別ボーナス』でいっぱいだった。
8区の一番大きな所。
リリがジェームズから手渡された鍵は、そこの施設に入る為の鍵であった。
その正体は、ケンブリッジのゴミ収集所の1つである。
「どうせ廃棄されるんだから、リリが持っていけ」
というジェームズの粋な計らいにより、このゴミ山での無料探索権こそが『特別ボーナス』の正体である。
リリからすれば、お金よりも価値のあるボーナスだ。
彼女の目の前に広がるのは、一般人からすれば焼却処理ができない不燃ゴミ専用の廃棄場。
しかし、修理できる技術と知識を持つ人間からすれば、ここは宝の山である。
「うっひょ~♪」
スキップをしながら、リリはゴミの山、もとい宝の山に駆け寄った。
「あ、超電導回路基板!? スターク・インダストリーズの一級品じゃん! あ、こっちは複合性モリブデン鋼もある! あー、もっと大きなカバンを持ってくるんだったー」
リリはウキウキしながらリュックサックにガラクタの山を詰め込んでゆく。
常識人から見れば立派な奇行だが、知識のある人間から見れば心躍る探索である。
何せ、このゴミ捨て場に廃棄されているのはハイテク企業の研究所や国立の研究機関が廃棄した失敗作や実験体の山だ。
つまり、ここに眠っているのは全て、ハイテク部品の不燃ゴミである。
当然、正規のルートでは手に入らない部品が大量に眠っているし、自費で購入しようと思えばリリの数か月分の生活費が吹き飛ぶような価格が請求されてしまう。
きっと、軍事企業に自分のスーツを売り込んだら、あのスーツは簡単に完成できたのかもしれない。
だが、それではリリの『色』がスーツに宿らない。
「スタークさんは、洞窟で最初のスーツを完成させたんだ。私だって、ゴミ山からスーツを作って見せる。こんなに恵まれた環境だもの、きっと……」
リリは決意を込めて、ガラクタを大量に詰め込んだリュックサックを背負い、沈む夕日に目を細めるのだった。