ガレージのシャッターを開けると、
「ハァイ♪ おかえりぃ、リリ~♪」
ナタリーが手を振ってリリを出迎えた。
「う、うん、ただいま、ナタリー……」
ナタリーの家に遊びに行った時と同じ反応なので、リリは苦い表情を浮かべてしまう。
「なぁに、リリ? テンション低くなぁい? さっきの電話の時の威勢は何処に行ったのよー?」
「あーもう、うるさい! いい、ナタリー? アタシは、スーツを完成させたいの! この際だからちゃんと言うけど、これは、遊びじゃない! アタシの使命よ!」
「ヒュー、カッコイイ、リリ♪ けど、このスーツを完成させる為に部品を取り寄せたら、フェラーリが100台くらい買えるお金が必要じゃない?」
ナタリーはそう言って、空中に幾つものリストを投影させた。
スーツを作るにはお金が必要。
だがしかし、リリの職場は最高のエンジニアが集っているのだ。
「ふふん♪ 悪いけど、今のアタシはケンブリッジ・クリーン・サービスのアルバイトよ! ハイテク部品廃棄場から、スクラップをかき集めれば、このプランは夢じゃなくなるわ!」
リリは誇らしげな笑顔を浮かべ、後ろのバンを親指で指さした。
既に幾つものハイテク部品が大量に詰め込まれている。
画像つきのリストをジェームズに共有した数分後、ケンブリッジ・クリーン・サービスの社員がかき集めてくれ、リリが修理したのだ。
見た目はガラクタの山だが、見る人間が見れば高額なハイテク部品の山である。
「うわぉ、リリ。アンタが他人を仕切れるなんて成長したのね! 部屋の隅で科学雑誌ばっか読み漁ってた癖にぃ♪」
ナタリーはホログラムにノイズを走らせながら、リリの肩を右ひじで突っついた。
「うるさいよ、ナタリー。とりあえず、アタシが作った設計図に問題点や技術的矛盾が無いかチェックして」
「オッケー、リリ♪ ……で、何でチェックするの?」
「当たり前でしょ! この設計図はアタシがMITに入る前に作ったんだから、自分でも気づいていない問題点があるかもしれないじゃない!」
「アハハ! リリったら心配性だなぁ。えーと、ふむふむ……」
ナタリーは能天気な笑顔を浮かべながら、空中に投影されたスーツの設計図を眺めた。
きっかり10秒後。
「うん、良くできているよ、リリ。『アストロノーツ・プラン』という名前の通り、『スーツ単独で宇宙まで行けるように設計されている』のはとってもユニーク。装甲や関節部の脆弱性も、設計図に記載されている素材で作れば問題は解決されるし、『リパルサー・シールド』のシステムで防御面を更に強化できているのも技術的に矛盾点は無い。後、ちょっと疑問なのは動力源ね」
「は? 動力源が問題?」
「このスーツの設計図を見るに、要求スペックを満たすなら、アークリアクターを搭載した方が安定するよ、リリ?」
「だめよ、アークリアクターはスタークさんの『色』だもの! アタシの『色』じゃないから却下!」
「けど、リリなら作れるでしょ? 小型化したアークリアクター」
「何度も言わせないで、ナタリー! アークリアクターを搭載したら、このスーツはダサくなんの! マジで!」
「ふふ♪」
「何、笑ってんの、ナタリー!? アタシをバカだと思ってる!?」
「ううん、最高にCoolよ、リリ!」
ナタリーに褒められ、リリは思わず笑顔を浮かべ、慌てて引っ込めるのだった。
◆◇◆◇◆
大型トラックの運転席に座りながら、ニコラスはドリンクホルダーからミネラルウォーターを取り出し、飲み干した。
「さて……」
喉を潤すと、ニコラスは空中に投影される幾つもの画面に目を走らせる。
補充した武器の整備状況、スーツのバッテリー、アークリアクターの出力。
それらが全て、問題ないと報告を受け、ニコラスはニヤリと笑った。
昨日の夜は、飛行テスト、両手のパルサー・キャノン、マイクロミサイルのテストが終わった。
実はジャミング装置も稼働していたが、ウェストンにある屋敷に警察も軍も駆け込んで来ない辺り、問題なく稼働しているのだろう。
今も尚、ニュースでは『青いアイアンマン』の正体を掴めていないし、アメリカ国内のヒーローや組織も表立った声明は出ていない。
警戒すべきはソーや、キャプテン・マーベルのような規格外の力を持つヒーローだが、そのレベルのヒーローが出てきたら逃げれば良いだけだ。
今夜は、その為のテストを行う。
「くくく♪」
ニコラスは冷酷な笑みを浮かべながら、軍用の衝撃吸収スーツのインナーの着心地を確かめつつ、運転席から立ち上がり、トラックの荷台へ向かう。
荷台へ到着した瞬間、マニピュレーターを搭載したアームが丁寧に彼の肉体へスーツを装着させてゆく。
胴体部、脚部、両腕、そして最後に頭部。
ヘルメットの内側にあるモニターが、外の光景と遜色ない画素数で表示してくれる。
荷台の中を見回すと、自作の武器がズラリと並んでいた。
全て、アークリアクターから供給されるエネルギーを射出するパルス・ライフルだ。
弾薬の代わりに、機材を保護する為の使い捨てヒューズを薬莢のように排出する。
当然、普通の銃火器のように弾数制限はあるのだが、威力と射程は桁外れだ。
照明が付いた荷台の中は、さながら軍の武器庫のように、そのパルス・ライフルが縦に並べられている。
「マーキュリー、ポータル・システムのテストだ。1番ケースに入っている武器を、俺の右手付近に転送させろ」
「イエス・マイロード。ポータル・システム、シーケンスをスタートします」
きっかり3秒後、ニコラスの真横にある武器ケースの床に、火花が散る円形の穴が開く。
それと同時に、彼の真上に同様の穴が開いた。
穴の向こう側には、武器ケースが見える。
「転送します」
マーキュリーの言葉と同時に、銃床を固定していたラックが外れ、パルス・ライフル本体が床に生成された穴に落ちる。
それと同時に、ニコラスの右手にストンとパルス・ライフルが着地した。
ダメージコントロール局にハッキングする事で手に入れた、ポータルと呼ばれる魔術。
その詳細を確認した上で、ニコラスはポータルを魔術的な才能を持たなくてもスーツを着ていれば再現できるようにしたのだ。
これを再現する為にノルウェーのニュー・アスガルドまで旅行したが、成果はご覧の通りである。
スーツ内部のフレームに刻まれたルーン文字と、アークリアクターから供給されるエネルギーを魔力に近い形に変換するコンバーター、そして、それらを安定して運用する為のソフトウェア。
魔術を科学で再現するという、トニー・スタークすらできなかった領域だ。
「ふむ。精度は合格だな。これなら実戦でも上手く行くだろう。よし、今度は自機でやる。マーキュリー、俺を0.6マイル(約1㎞)上空へポータルで転送させろ」
「イエス・マイロード。ポータル・システム、シーケンスをスタートします」
きっかり3秒後、ニコラスの真下にポータルが開く。
スポン、と木からリンゴが落ちるように、アイアンブラッドが0.6マイル(約1㎞)先の上空へ落下した。
落下でガクガクと揺れる視界の中、ニコラスは周囲を見回した。
アイアンブラッドのヘルメットの内側に広がる大空と、真下に広がるニコラスが生まれ育った豪邸や森林、大草原が見える。
そして、小さく見える大型トラックも。
成功だ!
それを確信した瞬間、ニコラスの内側に秘めていた激情が、興奮と共に爆発する。
物理法則に従い、高速で落下し続けるニコラスは満面の笑みを浮かべ、
「ヒャッホオオオオオオオオオオッッッ!! 最っ高だぜぇ、マーキュリーぃぃぃ!! ポータル・システムは成功だ!! 歴史が変わるぞ、マーキュリー!!」
「イエス・マイロード。次は何をしますか?」
「破壊だ! まずはMITを草の一本も生えない更地にする!! 広いから破壊のしがいもあるだろ!?」
「イエス・マイロード。素晴らしい選択です」
「ハハハハハ!! トラックを追随させろ、マーキュリー!! 幾らでも破壊できるようになぁ!!」
「イエス・マイロード」
パルスブースターを点火させ、アイアンブラッドはMITめがけて東の空へ飛翔した。
それを追うように、黒塗りの大型トラックが安全運転で追随を始める。
マサチューセッツ工科大学に、危機が迫ろうとしていた。