最善の未来を掴むたった一つのさえたやり方   作:泰邦

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FGOの水着イベント、ちょっと塩辛いですね。
まぁ私はネロの水着Verが手に入っただけで満足して夏を終えられるのですが。


第三十五話

 

 疑似地球環境モデル・カルデアス。

 近未来観測レンズ・シバ。

 霊子演算装置トリスメギストス。

 これらを利用した局地的未来予知。それが、魔族の持つ『未来観測』の手法。

 ──未来を取り戻す物語。グランドオーダー。七つの特異点を巡る戦い。

 それらの言葉が煩雑に脳裏をよぎる。まさか、と思わず思考にふける。

 あり得ない、と言い切ることは出来ない。事実として魔族にそれらの装置があるのなら、可能性はゼロではないのだ。

 思考が雑になってきたところで切り上げる。どこまで考えても俺一人では確認することすら出来ない以上、目の前の人物に聞くしかあるまい。

 

「──以上が、魔族における『未来観測』の手法です」

「……一つ、質問をいいですか?」

「どうぞ」

「魔族は未来を観測する手法を持つ訳ですが……それは同時に過去の観測も可能とするのですか?」

「……原理的には可能です」

「では、過去への時間旅行(・・・・・・・・)は可能ですか?」

「────」

 

 ザジさんは驚きに目を見開く。普段無表情で感情が読み取れないだけに新鮮な反応だが、今はそういうことを考えている場合ではない。

 こうして反応したということは、即ち魔族にその手の技術あるいは構想があると見てもいいだろう。

 過去、未来を観測することが出来るのならば、そこに介入してより良い未来を勝ち取ることを良しとする可能性を、決して否定することは出来ない。

 

「……現段階では構想にすぎませんが、もしも全ての種族の命運──あえてここでは人理と称しますが──人理を何らかの方法で脅かされた場合のカウンターとして、過去への介入を可能とする手段を模索しています」

 

 十分にあり得る話だ。

 これだけ深いところまで知っているということは、ザジさんは魔族の中でも特に重鎮といえる立ち位置なのだろう。そうでもなければここまではっきりと断言できないはずだ。

 だが、現段階では不可能でも今後可能となるかもしれない……か。

 ……まさかとは思うが、超鈴音がこの時代にやってきた理由は──。

 

「……いや、まだ情報が足りないか」

 

 何を判断するにも未だ情報が不足している。どうにかして超さんの情報を集めておきたい。

 この大会を開いた理由も、ここで何をしようとしているのかも、何故ザジさんを警戒しているのかも、何もわからないのだから。

 ひとまずスカサハについての懸念は消えたのだ。ここからは超さんについて本腰を入れて調べることになるだろう。……何せ、俺自身も何故彼女を警戒すべきなのかわかっていない。

 ただ、この大会やザジさんが警戒していることを根拠にしているだけだ。

 こんな理由でも動いているのは、ひとえにあの手の策略家に先手を取らせると碌なことが無いと知っているからだが。

 

「この大会の後にでも仕掛けてみましょう。何か情報が掴めればよし、掴めなくても牽制にはなるはずです」

「……確かに、このままあちらが好きなように動く状況にしておくのも不都合ですね。私は私で別口から調べてみます。監視されている私よりも先生の方が動きやすいでしょう」

「ただで放置するとは思えませんがね……アーチャーの存在を隠しているわけではないのですから、どこかから情報が漏れて警戒されていてもおかしくはありません」

 

 だが、俺一人を監視するならまだしもアーチャーの監視など無理だろう。

 俺と同じようにサーヴァントでもいない限り……それも、アーチャーに気付かれない範囲で監視できるほど上位のサーヴァントという制限付きだ。一部のアサシンならば不可能でもないだろうが、アーチャーでも対処できないなら考えるだけ無駄と言えよう。

 

「まずは先手を打つところから、ですね」

 

 

        ●

 

 

「で、何やってるんですかあなたたちは」

 

 フードを被り直してどこかへ行ったザジさんを尻目に俺は観客席で未だに騒いでいるアルビレオ・イマとエヴァを見つける。……しかし、ザジさんが被っていたフード、いやに気配が薄くなったように感じたが……あれも一種の魔法道具だろうか。

 まぁそれは今はいい。エヴァたちのことだ。

 

「この腐れ外道、今の今まで私に姿を見せなかった理由を言ってみろ!」

「ははは嫌ですねキティ。別に悪意があって姿を見せなかったわけでも無いんですよ? 悪戯心はありましたが」

「ええいこの……! だから貴様は嫌いなんだ!」

 

 胸倉を掴んでキレているエヴァを宥めながら引きはがし、俺はアルビレオ・イマへと言葉をかける。

 

「スカサハのことですが、あちらについては片がつきました。後ほど詳しく説明しますが、今は放置で構いません」

「……なるほど、何か進展があったようですね」

「ええ、ちょっとばかり面倒な話ではありましたが……それより」

 

 二回戦が全て終わり、ハイライトがスクリーンに映し出されている。

 これは駄目だ(・・・)

 魔法の秘匿を第一と考えるなら、この行為は麻帆良に敵対することを示す。幸いにも一回戦、二回戦ともにそれほど魔法を使用した戦闘はなかったようだが……そうでなくても裏関係者の戦闘は一般人には刺激が強い。

 というか、一番魔法を使ったと思われるのは目の前にいるアルビレオ・イマ(クウネル・サンダース)なのだが。

 長瀬さんとの一戦で派手に戦ったらしく、重力魔法まで使っている。

 

「あれは少々問題ですね」

「フフ……しかしまぁ、何とかなるでしょう。あの程度なら麻帆良側も気付いていますし、情報操作もお手のものですよ」

 

 胡散臭い男の言葉に思わずため息を吐く。羽交い絞めをしていたエヴァを離し、まっすぐに見据えて。

 

「何とかなる、などと言うのは彼女らに対する侮辱ですよ。格下が何をしようと無駄だと言わんばかりの傲慢です──何をしようとしているのかは知りませんが、彼女らの努力そのものを否定する意味はない」

 

 超さんたちは超さんたちで努力を重ねてきたのだろう。その果てに今こうして行動している。

 それを上から目線で「このくらいなら何とかなる」──などと。

 努力をしたものには真摯であるべきだ。たとえそれが間違った方向であろうとも、努力したことそのものは決して蔑まれるようなことではない。

 

「……なるほど。つくづくあなたはナギとは正反対の性格をしている」

「どうだかな。方向性が違うだけでどっちも大馬鹿だろうよ」

 

 フン、と鼻を鳴らすエヴァと昔を思い出すかのように薄く笑うアルビレオ。

 どちらも同じ人物を脳内で描いているのだろうが、印象は全くの別者らしい。エヴァに関しては多少なり脚色されている可能性もあるが。

 

「最後まで見ていきたいところですが、余り悠長にしている暇もなさそうですから、僕はこれで」

「ああ、何かやるなら後で話を聞こう」

「では私もその時に」

「貴様にはもっと重要なことを話して貰わねばならんのだがな……!」

 

 額に青筋を浮かべて睨むエヴァを尻目に、俺はアーチャーに指示を出して会場を出た。

 

 

        ●

 

 

「兄貴、遅かったっすね」

「ああ、ごめんねカモ君。仕事任せっぱなしにしちゃって」

「学園長からの連絡受け取るだけの留守番ですし、別に大したことはありませんぜ」

 

 自室に戻った俺は、煙草を吸いながら笑うカモ君に近くの屋台で買ってきたタコ焼きを渡す。

 昼食はまだのはずだし、これは差し入れだ。クラスの皆がそれぞれクラブで出し物もやっている以上、そちらにも時間を割かねばならない。教師として自身に課した義務のようなものだ。

 早速開けて一つ頬張っているカモ君が、思いだしたかのように言う。

 

「連絡をメモしたもんが机の上にあるんで、学園長からの連絡はそっちを見てくだせぇ」

「わかったよ」

 

 メモ帳には『現在ではどうにかすることは出来ないから監視に留める』と書かれてある。

 スカサハに関しての対応を頼んでいたが、あっちはあっちでもう解決してしまったからな……動かないわけにもいかなかった以上、行動は最善だったと思っている。

 超鈴音というより大きな面倒の種が出てきてしまったが、これはもう仕方がない。

 あちらこちらに手を回していたようだし、事前準備に気付けなかったこちらの落ち度だろう。

 

「またちょっと出掛けるけど、カモ君はどうする?」

「んん……そっすねぇ。俺っちとしちゃここにいるのも暇なんでどっか行きたいんですが」

「この後クラスの子のライブに行く予定なんだけど、ついてくるかい?」

「いいっすね! 俺っちもお供しますよ」

 

 急いでタコ焼きを食べつくして俺の方に乗るカモ君。ま、ここ最近は余り構ってやれなかったのもあるし、これくらいは構うまい。下手なことをしようとすればまた折檻するだけだ。

 流石に懲りたとは思うが。

 

「そういや、アーチャーの兄貴はどこにいったんでさ?」

「超さんの監視だよ。昼には武道会も終わるだろうけど、こっちもこっちで処理すべき案件はあるからね」

 

 学園長に一度は報告した以上、経過も報告する義務がある。ザジさんのことは話せないから上手いこと誤魔化さねばならないのだが……どうしたものか。俺はその手の嘘というか、工作が苦手なんだよな。

 混乱が起きないように根回しはしておくべきだが、どうしたものか……。

 ……うむ。やはり一度は学園長のところに顔を出しておくべきか。超さんと敵対している誰かが呼び寄せた、とでも言っておこう。本人とは接触していないが、アーチャーとザジさんを通して連絡をつけるしかない。

 そうと決まれば善は急げだ。

 カモ君に寄り道すると詫びながら学園長室へと向かい、手早く先程考えていたことを報告する。

 

「ふーむ……影の国の女王と呼びだした何者か、それに敵対している超君、のぅ……」

 

 お茶を飲みながら、やや呑気とも言えるほど学園長は楽観的に呟いている。

 スカサハはまだしも、超さんのことはあまり重要視していないらしい。

 

「少なくともサーヴァントでは……アーチャー君と同じ存在ではないんじゃな?」

「ええ、それは確実です。彼女は不死であるが故にサーヴァントとして呼び出されることはありません」

 

 人理焼却によって影の国も丸ごと焼き尽くされるような事態にならない限り、彼女は英霊の座に登録されないのだ。アヴァロンに引き籠ったマーリンも同じようなものか。

 

「厄介なもんじゃが……まぁ、君がそういうならそうなのじゃろう。信用しとるからな?」

 

 釘をさすようにこちらをちらりと見る学園長。

 そんな目をせずとも裏切る真似はしないというに。

 ……何故そんなことを知っていると聞かれたら答えられないのがつらいところではあるが。

 

「ちなみに、アーチャー君は今どこにおるんじゃ?」

「超さんへの牽制をしに。場合によっては捕縛まで命じてあります」

 

 完全に敵対行動と判断出来た場合のみ、ではあるがな。それでも何かしらの証拠は出てくるだろう。

 学園長も武道会で超の取った行動を聞いているのか、しかめっ面ではあるものの、俺の行動をとがめることはなかった。

 ……今思えば、先に学園長に指示を仰ぐべきだったな。勝手な行動は組織の和を乱すだけだ。そのあたりは今後のために反省するとしよう。

 

「ま、何かあってもアーチャー君なら失敗することはなかろうて」

 

 

        ◆

 

 

 ──アーチャーは文字通り超鈴音を追いつめていた。

 下水道内の不審な部屋を見つけ、そこから潜入した先には無数のロボットが置かれていた。そこから更に奥、妙に自然あふれる地下室の一角に、超鈴音と葉加瀬聡美がいた。

 抵抗のために向かわせたロボットたちはことごとく破壊され、最早ただのガラクタとしかいいようが無い状態であった。

 

「……まさかここまでとはネ。防衛システムに反応が無いからアサシンかと思たヨ」

 

 その言葉に、アーチャーはぴくりと反応する。

 サーヴァントのクラス、システムを把握しているかのような台詞。ネギにはアーチャー自身が説明したし、過去にもサーヴァント召喚の事例はあったと聞いている。

 つまり、そういうこと(・・・・・・)か。

 

「──セイバー!」

 

 超の掛け声と共に背後から襲い来る斬撃。

 アーチャーはそれを振り返りながら見切って避け、その姿を見る。

 和装の女性だ。右手に長刀、左手は腰に二本ある短刀にかけられており、いつでも抜ける構えをしている。

 が、特徴的なのは顔から喉までを覆うぐるぐる巻きの包帯だろう。まるで顔を隠すようにして巻かれているその隙間から、射殺さんばかりの眼光が覗いている。

 

「……随分と厄介な状況のようだな」

「まったくだヨ。隙が全くなくて困ってたところネ」

「私とて長くは持たんぞ」

「一瞬あれば十分。合流は例の場所で頼むヨ」

 

 承知した、とばかりに左手に短刀を構える。

 この距離で弓は扱いにくいと判断したのか、アーチャーは素手で拳を握って構える。一瞬でも隙があれば超と葉加瀬を取り押さえられるように、視野は広く腰を落とす。

 

「────」

「────」

 

 合図をしたわけではない。

 だが、二人のサーヴァントは同時に動いていた。

 無数の斬撃がアーチャーを襲い、アーチャーは慌てることなくその斬撃を見切る。大丈夫だ(・・・・)と。

 斬撃をものともせずに拳を振るう姿に虚を突かれたのか、セイバーと呼ばれた少女はあっけなく吹き飛ばされる。いや、自分で後ろへと跳んで衝撃を逃がしていた。

 その一瞬の攻防の合間に、超と葉加瀬は消えていた。

 アーチャーは近くの気配を探るも、どこにも姿はなく気配はない。瞬間移動か、それに近い何かで移動されたのだと判断し、目の前のサーヴァントへと再度視線を向ける。

 

「──やはり、強いな」

 

 衝撃を逃がし、受け身もしっかり取っていたセイバーはほぼノーダメージ。

 せめて彼女を倒すか捕縛するかしてネギへ報告すべきだと判断したアーチャーは拳を構えるが、セイバーは逆に刀を鞘へ納めた。

 

「……何の真似ですか?」

取引をしよう(・・・・・・)ヘラクレス(・・・・・)

 

 至って真面目に、彼女は口を開いた。

 

 




このセイバーは一体誰なんだー(棒)

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