お祭り高校 KI・TA・U・JI!!   作:青黄紅白

1 / 5
2012年度①

 北宇治高校に入学して早8ヶ月。気が付けば今月で2012年も終わる。

 ユーフォを吹ける環境があれば他はどうでもいいと思って北宇治に入学したからこれからも期待してない。代が変わっても全く関心が無いしね。自分だけ良ければ良い。

 今日も案の定部活が無くなって、「せっかく良い天気だから外で演奏しない?」ってことで私と香織、晴香、葵の4人で楽器を持って学校近くの公園に遊びに来た。12月とは言え直射日光があれば案外暖かい。

 4人で適当に吹いてだらっとしてる時に、葵が私達と同じくらいの時間から縄跳びとバレーボールを使って1人で遊んでいた同世代の男の子の方を見て呟く。……トレーニングと言った方が正しいか。

 

「ねえ、〝烏野高校〟って知ってる?」

「知らない。このへんじゃ聞かないよね」

「うん。でも上手、だよね?」

「多分?」

 

 学校の授業くらいでしかバレーボールに触れたことが無いし、北宇治の男子バレー部も府大会1回戦良くて2回戦って感じだからあの少年ほど上手じゃない。県外から来たんだろうなっって印象、肌綺麗だし。

 不躾に観察してたせいか、私達の視線に彼も気が付いて駅伝選手が着るような分厚いスポーツウェアを着てこっちの方に近付いてきた。そこにも〝烏野高校〟って名前が入ってる。確かベンチウェアだっけ?

身長は私と同じくらいか彼の方が高い、顔は良い……なんか猫っぽい様な気もする、さっき見た感じ筋肉も凄かった。そんな印象だ。

 

「何か用ですか?」

「あ、すみません! 私達北宇治生で、この公園に良く来るんですけど、〝烏野〟って見慣れないなと思って」

「ああ、親戚の結婚式で宮城から京都に来たんです。京都にいるのも今日明日だけですけどね」

「宮城! 牛タンが有名ですよね!」

「そうですね、ずんだ餅も美味しいので良かったら遊びに来て下さい。……寒いですけど」

 

 宮城から来たにしては訛って無くて、晴香と彼が話し始めた。なるほど、結婚式なら早めに移動するから偶々出くわした感じかな。

 ただ、宮城県って全くなじみが無いから違った意味で興味を引かれたみたいで、香織が彼と話し始める。

 

「やっぱりこっちよりもですか?」

「そうですね、雪も大分積もるようになってきてます。なので5月から8月が遊びやすいと思いますよー」

「今度皆で行ってみます!」

「是非是非!」

 

 香織の視線が彼のバレーボールに移動した。

 

「結婚式なのにバレーボール持ってきてるんですね」

「ああ、はい。1月に行われる全国大会に出場が決まってるので少しでもボールに触っておきたいんです」

「全国!? 凄いですね!」

「いえいえ、全国制覇が悲願なので全国出場は通過点です。これで満足できません」

「……え」

 

 ……本気? いや、本気だ。本気で全国制覇を狙ってる。

 身長は170cm前半だからバレー選手としては才能が無いと思う。それでも全国制覇を目指してるんだ。口だけじゃない。

 もっと話を聞いてみたくて、ついつい口を挟んでしまった。

 

「もし、なんですけど、全国大会を目指すと謳っているのに、バレーボールをするのにあまり良い環境じゃなかったらどうしますか?」

「んー? 俺なら辞めますね。転校なりクラブチームに入るなりします」

「……簡単に言うんですね」

「え、だって全国大会を目指してるのにそういう環境はまずいですよ。3年間はあっという間だから時間の無駄です。少しでもできることを増やしていかないと」

 

 なんとなくもっと詳しく聞いてみたいと思った。部員全員が全国制覇に向けて練習となるとハードになるだろうし。

 

「その原因が顧問だったら?」

「……その顧問、大人の責任果たしてますかね? 全国目指すなら顧問が生徒に集中できる環境を積極的に作っていかないとなーって思います。顧問は大人で、俺達は子供なんですから。ということで顧問を辞めさせるって方法を取るかもしれません。いわゆる反乱ですね」

「……そうですか、ありがとう御座います」

「まあでも、他人を変えるより自分が変わった方が早いので、自分から動くかな」

 

 言ってることは分かる。でも高校生になったら中学ほど父兄の協力が得られるわけじゃ無い。それでも環境作りには大人が積極的にならないと、か。

 何か気が付いたように彼はスマホを見た。時間を決めていたのかもしれない。

 

「すみません、そろそろ行きますね。もし良かったら烏野高校も応援してくれると嬉しいです。皆さんなら犬伏東と立華高校を応援するかもしれないですけど」

「あ、はい! 全国大会頑張って下さい!」

「はい、ありがとう御座います!」

 

 一回お辞儀した後に彼は早足でこの公園から去って行く。私達はそんな彼に手を振って見送った。

 皆圧倒されて動けないのか、考えてるのか。ただ、高校3年間はあっという間に過ぎるから自分達で良い環境にしないといけないって言うのは分かった。

 部活に対して適当な北宇治を選んだ私が一番悪いとは分かってる。でも、彼みたいにちゃんとした所で吹奏楽をやってみたくなった。賞状はどうでも良い。でも、やっぱり高校生活をダラダラと過ごしたく無い。

 

「……革命起こそう」

「あすかがそんなやる気出すなんて珍しいね」

「彼みたいに部活に打ち込んでみたいから。やるからには納得できるようにしたい、今なら新年度に間に合うはずだし」

「……私も手伝うよ。今のままじゃ嫌だもん」

「ボイスレコーダーとかカメラで証拠残そう。それで校長とか教育委員会に突き出す」

「梨香子先生には悪いけどね」

「彼も言ってたけど、大人の責任を果たしてないよね」

「……恨まれるだろうなぁ」

「じゃあこのまま腐ってく? それなりの思い出だけ残してさ。楽しくやるのも吹奏楽だよね。たかが部活、履歴書でちょっと有利になるくらい?」

「それはやだ!」

「じゃあやろう。もう3年間の1年無駄にしてるんだし。もう2年無いんだから」

「「「うん」」」

 

 まずは証拠集めだ。とは言ってもあいつらに見つかればすぐに嫌がらせしてくるし、あとは部費の横領とかもしてるからそのレシートとか。写真とか物的証拠を保存して、と。あと4月から集めてたのも。

 ……大丈夫、勝ち目はある。私は私のやりたいようにやるんだ。その為にも今の顧問と上級生には消えて貰おう。

 

 

 

 私達の反乱は成功して、冬休みに入った吹部は阿鼻叫喚となった。

 教育委員会とか警察からの聞き取り調査なんかであいつらは時間が潰されてクリスマスとか年末年始どころじゃ無くなってる。あの顔を見られただけでも反乱は成功したって言っても良いくらいだ。ざまあみろ。

 これからの方針を決めるために吹部自体の活動が停止して、落ち着いたタイミングで烏野高校について調べると、12月に会ったのは猫又繋護君と言うことが分かった。月刊バリボーって高校バレーの特集が組まれてる雑誌に烏野高校が載ってたから。

 私達と同じ96年生まれでポジションはレシーブ専門のリベロ。千葉県から越境留学をして烏野高校に入学したらしい。

あと、烏野高校男子バレー部は北宇治の吹部みたいに昔は強かったけど今は弱くて再生期を迎えているらしく、猫又君が言ってた1月の全国大会は〝春の高校バレー〟って言うらしい。

 スポーツ専門の有料サイトで10月末に行われた烏野高校と白鳥沢学園高校の春高予選決勝戦を見て烏野高校の虜になった。

 私もこんな風に吹奏楽に集中してみたい。そんな希望を持って。




登場人物
津田梨香子 田中あすか達が1、2年の時の吹奏楽部顧問。小説・アニメでは田中あすか達が3年の時に産休に入り、滝昇が北宇治高校に赴任した。

小ネタ
・立華高校のモデルである京都橘高校は女子バレーも強いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。