関西大会の結果発表が終わり、金賞を獲得した北宇治高校吹奏楽部一同はミーティングに入った。全国大会には行けなかったものの、部員1人1人の表情は晴れやかなものだ。
滝透が生徒の前で話し始める。
「皆さんコンクールお疲れ様でした。今日とても良い演奏で指揮を振るのが楽しかったです。そして、目標としていた関西大会金賞を達成できて何よりです。皆さんは楽しかったですか?」
「「「はい!」」」
「それは良かった。今後も音楽を楽しんでいきましょうね。
……また、観客の皆様の反応はどうでしたか? 全国大会が決まった高校と遜色なかったでしょう?
それだけ皆さんの演奏が良かったと言うことです。このことを誇りに持ってこれからも音楽に取り組んで下さい。そして楽しむ。これからも頑張っていきましょう」
「「「はい!」」」
「9月以後の予定なのですが、月末の文化祭に向けて新しく何曲か練習していきます。そして……」
「「「?」」」
そこで、歯切れが悪そうな表情をしながら、滝透は次の言葉を考える。
「いえ、どうしようかなと。
アンサンブルコンテストに出場するか、オータムコンサートのようなものを開催するか。
前者は少人数での演奏を経験することで選ぶ側と選ばれる側の基準を知ってもらうことができますし、後者はOBの方々から『現役生と一緒に演奏したい!』とお声を貰っているのも事実なので……。
そうですね、皆さんの意見を尊重したいので、明日か明後日か皆さんのご意見を聞かせてもらいましょう。
今日は本当にお疲れ様でした。自宅に帰るまでがコンクールですので、まずは学校に戻りましょう。そしてゆっくり休んで下さい」
「「「はい!」」」
「では、楽器と私物の忘れ物が無いか確認するように。我々はもう実力者として見られている。その事を念頭に置いてテキパキ行動するよう心がけていけ」
「「「はい!」」」
松本美知恵が締めて、帰る準備を始めて行く北宇治高校吹奏楽部一同であった。
そして、翌日。
前日は楽器を楽器倉庫に戻す作業だけで終わってしまったので、部員1人1人が協力して元の状態に戻す、掃除をするといった作業に追われていた。また、その一方で幹部とパートリーダーが集まって9月以降の予定について話し合っている。
中世古香織がパートリーダー会議を進行していく。
「はい。昨日はお疲れ様でした」
「「「お疲れ様でしたー」」」
「今日の議題は4つあって、1つ目は文化祭での曲決め、2つ目はこれからの予定、アンコンに出場するかオータムコンサートみたいなのを開催するか、3つ目は3年生の送別会をどうするか、4つ目は幹部の再編成をするか。……色々あるので順々に片付けていきましょう。
また、文化祭での曲決めは自由に考えて良いそうなので今日明日にでも決めて早速取り組んでいきましょう。他に何か意見がある人」
「はい」
「はい、ヒロネ」
鳥塚ヒロネが真っ先に手を挙げて、中世古香織は発言を許した。
「幹部なんだけど、私達の代が実質務めてるわけだから来年もこの体制で良いんじゃないかな?」
「うん、慣れてるってだけでアドバンテージだと思う」
「慣れてるからこそ事故る可能性はあるかもしれないけど、そこは皆で見ていけば大丈夫でしょ」
岡本来夢、笠野沙菜が続いて鳥塚ヒロネの意見に同意し、田中あすかが一つまとめる。
「じゃあ、多数決。何事も無ければこのままで良いと思う人ー」
「「「はーい」」」
「じゃあその方向で。
……ただ、今年のサンフェスやコンクール、文化祭を見て北宇治に入学したいって考える中学3年生は多いだろうから下手したら新入生含めて100人を超える可能性はあるよね。役職に就いてない同級生と1こ下の子達にも協力を仰ごう」
「「「はーい」」」
「何度も言うけど、上級生にされたことを下級生にしないこと。『あいつらまじうぜぇー、早く引退してくんないかな』って思われないようにしっかりと出来る先輩でいましょう」
「「「はーい」」」
斎藤葵が議事録に【幹部続投。皆で協力!】と纏めてる間に、下山結が手を上げる。
「はい、結、どうぞ」
「新入生が多いだろうって話で、コントラバスなんだけど、もし、2人以上の希望者がいたら落選というか他の楽器に移動して貰わないといけなくなっちゃうんだけどなんとかならないかな。
せっかく高校に入学したのに自分の楽器を持っていないから他の楽器にコンバートしないといけないってやっぱり避けたいし。しょうがないことではあるんだけど」
「……あー、ホルンも厳しいかも。あと2人までか」
「アルトとテナーもそういえば。テナーはもう定員オーバーだ」
「ファゴットも」
下山結の発言から、各々自分が担当しているパートの学校に残っている楽器の数を思い浮かべては口に出す。
「そうだね。滝先生と松本先生に伝えておこう。あと文化祭でも伝えた方が良いかな?」
「滝先生が1年だけの指導って言うのも言った方が親切か。……それならいっそのことお悩み相談室みたいなのやる? 吹部だけの進路相談会、みたいな」
「当日に時間が有ればー、かな? あと3月にやったような部活見学会みたいなのって出来るのかな」
「どうだろ……。楽器の盗難とか考えると気軽に『OK』とは言いづらいかも?」
「はーい、じゃあそっちも滝先生達に聞いてみよう。文化祭当日には厳しくても他の日にできるかもしれないしね」
「「「宜しく~」」」
田中あすかがそう発言して、その間に斎藤葵が【楽器の数の確認、進路相談会の開催?】と纏めた。
「じゃあ次はー、うん、先に3年生の送別会にしようか。
2つ上の上級生は府大会で引退したわけだけど、今年は関西大会まで出られたから1こ上の先輩はまだ引退されていません。4人の先輩方は文化祭で引退、とは決めているそうですがまだあやふやだそうです。
進路次第でまだ部活に参加される可能性はありますが、いずれ直面する問題でもあるので早くから動いておきたいです。何をするか、どんな風に送り出していきたいかを考えていきましょう。……はい、野口君」
こういった会議ではなかなか発言しない野口ヒデリが手を挙げたことに驚きながらも中世古香織は発言を促す。
「【春の猟犬】の演奏と希望者による出し物、みたいな? ……おい、なんだよ、その目」
「いや、珍しくまともな意見が出たなって」
「あいつらとは違えじゃん? だったら何かしたいっつうか、何というか?」
「そうだよね、それについては賛成かな」
野口ヒデリと姫神琴子、中世古香織の会話を聞いて、喜多村来南もふと思いついたことを呟く。
「ってことは文化祭でも【春の猟犬】を演奏するって事だよね? 流石に1ヶ月練習しなかったらまずいし」
「そうなるね。あ、ごめん、持ち時間は準備等を含めないで大体30分くらいだと思って下さい。場合によっては伸ばしてくれるみたいです」
「ってことは4曲くらいかー。曲決め悩むー。それに送別会は10月に入ったくらい?」
「かなー」
「収拾着かなくなってきちゃってるから先輩方の意向も聞いて進めていきましょう。送別会は〝行う〟と思って下さい」
「「「は~い」」」
あれやりたい、これやりたい、に繋がる可能性が高くなってきたので、中世古香織は一旦無理矢理終わらせた。内心で「やりたくない、時間の無駄じゃん」などと意見が出なくてほっとする。
「じゃあ次。アンコンかオータムコンサートか。
アンコンの場合は12月下旬が本番でその前に皆で編成を選んだり学内オーディションかな? 滝先生は学内オーディションも外部の人に見て貰って一般の人の意見もきいてみたり中学生の確保に繋がるようにしたいみたい。
オータムコンサートは2学期の期末テストが行われる前の11月23日あたりで予定してるみたいです。3月みたいにOBの人達もチラホラ参加するような部……3部とかかな? を作りたいみたい。〝みたい〟が多くてごめんなさい。何かご意見有りますかー?」
会議に参加してるパートリーダーから意見を聞くと、真っ先に喜多村来南が手を挙げた。
「はい」
「はい、来南」
「木管5重奏とかオーボエフルート3重奏とかダブルリードの取り合いになって絶対ギスるからアンコンはでなくて良いかなーって。希望者だけの参加とかは?」
「そこまで聞いてないから後で聞いとく。……でも、皆そんな感じかな? 〝絶対に〟アンコン出たい人ー」
「「「…………」」」
「これが答えだよね」
「そうだね」
吹奏楽コンクールは別としてアンサンブルコンテストは別に……、と考えるパートリーダーが多かったため、現状「希望者がいれば出場して貰う」という方向に決まりかけていた。そんな時に廊下から松本美知恵の声が聞えてくる。
「失礼するぞ」
「あ、どうぞ」
「どうだ? 首尾は?」
「文化祭の曲決めはこの後。オータムコンサートの方を優先して希望者がいればアンコンにもエントリーする。送別会は〝行う〟ことだけ決まって、幹部はこのまま続投という感じです。
あと、新入生の人数によっては楽器の数が足りなくなる可能性が出る、と話が上がってこれから先生方に伝える予定でした」
「……楽器の数か。そうだな、分かった。滝先生にも予め伝えるが、また後ほど報告して貰おう。
私がここに来たのは別件だ。昨日のコンクールでの演奏を聴いた、あるいは結果を聞いて何件か演奏依頼を頂いた。今の所各月に一度以上だ。……ただ、オータムコンサートを開くのならば10月と12月だけに絞らせて貰うように伝えておこう。
もちろん、学校行事に差し支えの無い範囲での活動となるが、どうする? 2年次は修学旅行があるしな」
「「「あっ」」」
修学旅行と聞いて、完全に失念していた数人から悲鳴のような声が漏れる。
「それっていつでしたっけ?」
「2学期の中間テストが終わった10月中旬だな」
「1年生だけに任せるのか……」
「まあ、幸い私が3年生を受け持ってるから、おまえ達が修学旅行に行ってる間は滝先生も私も学校にいる。楽しんできたら良い」
「でも楽器吹きたいですー……」
「っふ、そっちか。
結果を残したこともあって、テスト期間でも1時間程度なら音を出していいと教頭と校長に認められた。補習を受けないと絶対に自信がある者のみになるがな」
「本当ですか!?」
「ああ。修学旅行中についてはまた確認しておこう。
また、〝出来れば〟だが、アンコンを控えているからその練習に楽器を持ち込みたい、という名目があると便利だ。2年生も出場する編成があるといいな。それか吹奏楽部生は修学旅行は1日のみの参加にするか……、いや、辞めておこう。
せっかくの行事だからこそ色々楽しんでこい」
「「「はい!」」」
「連絡事項は以上だ。楽器の数とオータムコンサートに決まったとだけ滝先生にも伝えておく。
まだまだ暑い日が続くから水分補給はしっかりとな。では」
「「「ありがとう御座いました!」」」
そして、松本美知恵はその教室から退出した。残された幹部とパートリーダーの数人から緊張が解れる。
「結構時間ギュウギュウだね」
「曲もだけどテキパキ決めていこう」
「9月は文化祭、10月は送別会、中間テスト、修学旅行、アンサンブルの準備、11月はオータムコンサート、12月はクリスマス演奏? ひょぇー、色々盛りだくさんだ」
「……あとアンコンもか」
「それなら私が出ようかな。金管5重奏とか金管7重奏で」
「香織が?」
「人がいなかったらね。部長としての仕事が色々あるから最終手段だけど。でも学校側も部長に練習はさせられまい、とはならないのかなーって。……あ、掃除とかも終わったみたいだね」
掃除が終わったのか、さっきまでは音出し程度だった音が、基礎練習などを始めている音へと変わりつつあった。彼女達が時間を見ると11時すぎになっていて、1時間ほど会議をしていることに気が付いた。
「お昼ご飯の時間にしたいから、少したったら一旦全体で集合して【春の猟犬】を含めるのか含めないのかも皆に聞いた上で文化祭の候補曲を考えて貰いましょう。あとアンコン参加希望するかしないかも」
「「「は~い」」」
「では今回はここまで。15分後くらいに音楽室に集まるよう促して下さい。私達はその間に松本先生に報告してきます。お疲れ様でした」
「「「お疲れ様でしたー」」」
そして、幹部はそのまま職員室に、パートリーダーは一旦割り当てられてる教室へと向かっていった。
全体集合がかかって、総勢70人が音楽室に集まった。中世古香織は早速先程の会議で決まった内容を伝えていく。
「はい、皆さんお疲れ様です。掃除などありがとう御座いました。そして参加できず申し訳ありませんでした。
早速ですが先程の報告をさせて下さい。全部で4点あります。
まず1点目です。
文化祭の曲ですが、【春の猟犬】を演奏するかしないかも含めて皆さんからご希望の曲を4曲ほど聞こうと思います。『この曲やりたい!』という意見がある方はパートリーダーに伝えて下さい。
2点目です。
全体としては11月23日にオータムコンサートを開催する、という方針で行きます。そして、アンコンは希望者を募って参加する方針になりました。参加するかしないかは周りの人と話し合って決めて下さい。
ただ、各学校1つのチームしか出られないので、複数のチームがいれば全体でオーディションを行うことになっています。その事は念頭に置いといて下さい。
3点目です。
有り難いことに、先生方が最低でも月に1回以上は演奏する機会を作って下さいました。そちらで演奏する曲も皆さんから募集していきますので希望の曲があればパートリーダーに伝えて下さい。
とはいえ、まずは文化祭の曲です。来年度の新入生確保のためにも残り1ヶ月で仕上げていきましょう。
4点目です。
幹部、パートリーダーはこのまま今のメンバーでやっていくことに決まりました。就任式はまた後日行いますが、来年度も宜しくお願いします」
そう言うと、部員達から拍手が飛び交った。そして中世古香織は続ける。
「頂いた希望の曲はオータムコンサート等でも演奏することになりますので、サンフェスの候補曲だったものも合わせて考えていきます。文化祭の曲は明日にでも始めていきたいので、なるべく早く【春の猟犬】を演奏するかも含めてパートリーダーに伝えて下さい。
長々と、そして急かしてしまって申し訳ありません。以上4点宜しくお願いします。何か質問などありますか? ……大丈夫そうだね。何かあれば遠慮せずに聴きに来て下さい。それではお昼休憩です。ありがとう御座いました」
「「「ありがとう御座いました!!」」」
北宇治高校吹奏楽部一同は昼食を食べるために散り散りに散っていく。
文化祭で演奏する曲が【英雄の証】、【メイン・ストリート・エレクトリカル・パレード】、【コーラル・ブルー 沖縄民謡「谷茶前」の主題による交響的印象】、【もののけ姫セレクション】、【春の猟犬】の5曲に決まり、楽譜も配られた。
北宇治高校吹奏楽部一同は夏期休暇の勢いのまま練習に励んでいき、文化祭当日を迎える。