3月中の部活体験と4月の必死な新入生勧誘で経験者が34人、未経験者が7人、合計して41人の1年生が北宇治高校吹奏楽部に入部した。
中世古香織の代が32人、吉川優子の代が34人、黄前久美子の代が41人、計107名と100人を超えるバンドへと成長する。
仮入部期間が終わり、正式に2014年度の部活が始まった。
「1年生の皆さん、入部してくれてありがとう!
【全力で楽しむ。そして結果も残す】という理念の下、1年間部活に取り組んでいきたいと思っています。『目指せ関西大会金賞! そして全国大会!!』です。
経験者の皆さんはコンクールやアンコンのオーディションに合格やソロコンへの挑戦などもっともっと上を目指して練習し、未経験者の皆さんはまずは自分が担当する楽器を好きになって下さい。【好きこそものの上手なれ】という言葉が有るように、どれだけその楽器を好きになったかで自分のモチベーションが変わってきますからね。皆仲間なので積極的にコミュニケーションを取っていきましょう」
「「「はい!」」」
「それでは、改めて今年から私達に指導して下さる滝昇先生です。滝先生、お願いします」
「分かりました」
中世古香織から自己紹介をお願いされた滝昇が一歩前に出て、妻子持ち、ということを知らない1年生が色めきだつ。なお、トロンボーンパートの生徒はこの1年で滝昇がどこまで音楽を追求するか、どんな練習を生徒に課すのかを知っているため複雑な表情をする。率直に言うとびびっていた。
「3年生、2年生の皆さんはこんにちは。1年生の皆さんは初めまして。滝昇と言います。
中世古部長の案内の通り、今年から北宇治高校吹奏楽部の顧問を引き受けさせて頂くことになりました。皆さんの目標である『全国大会へ出場する関西大会金賞』ですが、やはりそれなりにハードな練習となります。貴重な時間を無駄にしないようにしましょう」
「「「はい!」」」
「私からは以上です。部長、お願いします」
自己紹介を終えた滝昇は再び中世古香織に進行を任せる。
「滝先生、ありがとうございました。早速ですが今後の予定です。
19日に昨年から交流を取っている近隣の幼稚園生保育園生が北宇治高校の体育館に来て下さるので、その子達に向けての演奏会を行います。曲は【暴れん坊将軍のテーマ】、【ドラゴンクエスト「序曲」】、【Fly High !!】、【宝島】の4曲です。3月から練習し、部活紹介の時に演奏した3曲と吹奏楽部員ならばなじみ深い【宝島】なので感覚はすぐに掴めるはずです。この1週間でより完成度を高めていきましょう。
また、未経験者の皆さんは吹き真似という形を取って、『奏者がどう見られるのか?』を体験することになります。やはり観客からの景色は変わりますからね。そして『自分もこんな風に演奏してみたい!』と思えるように当日は頑張りましょう」
「「「はい!」」」
「そちらが終わると今度は5月のゴールデンウィーク中にあるサンライズフェスティバルに向けての練習です。曲は【ライディーン】に決まっているので、後ほど各パートリーダーから楽譜を受け取って下さい。
また、未経験者の皆さんと外で演奏できない楽器の方々はステップかカラーガードをお願いする予定です。ダブルリードパートの喜多村さんを中心に指示をお願いしているので、20日からどちらかを頑張っていきましょう。
更に、未経験者の皆さんには4月末に【私のお気に入り】を演奏して貰うので、まずは演奏する楽しさを知って下さい」
「「「はい!」」」
今後の予定をざっと説明した中世古香織は今年から導入した2年生の副パートリーダーの面々を呼ぶ。
フルートパートの傘木希美、ダブルリードパートの鎧塚みぞれ、クラリネットパートの石川優衣、サックスパートの若井菫、トランペットパートの吉川優子、ホルンパートの中林果穂、トロンボーンパートの笠原佐和子、低音パートの後藤卓也、打楽器パートの原口詩音が前に出る。
「今こちらにいる9人は副パートリーダーとして組織運営に携わって頂きます。
理由としては3点あります。
まず1点目。今のうちから組織運営に関わることで代が変わってもある程度スムーズに部を回せるように慣れて欲しいからです。
簡単に言えばノウハウ継承ですね。前年度のやり方を参考にしてその代を作っていく、その為に前年度の良い点は生かす、悪い点は改善する、と新しい組織作りに早くから着手できるように早めから行動するようにしました。
2点目は機能不全を防ぐためです。
3年生は進路関係、2年生も学校行事などで学年全体が部活に参加できない時がどうしても起きます。そんな時に『3年生がいなくてどうすれば良いか分からない』ではなく、2年生と1年生だけでもその時間を生かして欲しい。その為にもある程度の情報を共有すべきと考えました。もちろん滝先生と松本先生がいらっしゃるから大丈夫かもしれません。ですが、自主的に行動できるようになるためにも考える力は身につけておいて損は無いはずです。
3点目。3年生が2年続けて部の運営をしている中で事故を防ぐためです。
『去年はこうだったから~』と慣れていることでの慢心を防ぐためにも2年生からの意見を取り入れようと話し合いました。毎年メンバーが変わる学生生活では今までのやり方が通用しないことがきっとあるはずです。日々精進していくためにもある程度の緊張感を持ったまま取り組み、そして挑戦していこうと結論が出ました。
長々と語ってしまいましたが、私が伝えたいのは技術の継承、ノウハウの継承、想いの継承です。5年10年と北宇治がある程度の実力を残せるように地盤を作って、【楽しんで結果も残す】事が出来る強豪校と呼ばれるように取り組んでいきましょう。
その為にも毎日少しずつ自分ができることを増やして成長することが重要です。まずは幼稚園と保育園の子供達に楽しんで貰えるように取り組んでいきましょう。
それでは皆さんお手を拝借。北宇治ファイト~」
「「「おー!!」」」
「ありがとう御座いました。それでは各パート、割り当てられてる教室に移動して練習に移ってください」
「「「はい!」」」
中世古香織の締めの言葉を聞いて、部員一同はパート毎に割り当てられている教室へと向かっていく。
~塚本秀一の場合
しんどかった受験期間も終わって、北宇治高校の受験に合格したのを確認してほっと胸をなで下ろす。さてさて、久美子はと。……うん、あの調子なら大丈夫そうだな。
俺と同じように合格届と入学案内の封筒を手に持って、精魂果てたような表情をしてる久美子の所に向かう。……これで高校3年間も一緒なんだな。いつ告白しようか。
「お疲れさん」
「受かった~、……疲れた」
「一段落だな~。これで『目指せ全国!』だな」
「上級生レベル高いからオーディションからだね。……コンバートできるのかな」
「あー、それも確認しないとだな。久美子はボーンに変えるのか?」
「分かんない。楽器が余ってるか分からないし。それにトロンボーンにコンバートして上手くいかなかったらどうしよう、みたいな? 秀一は?」
「俺はコンバートしようかなって思ってる。やっぱりボーンやりたいから」
「そっか。まずはお母さんに電話しないと」
「そうだなー」
母さん仕事だから留守番電話でもしとけばいいだろ。
高校合格祝いで黄前家の皆とご飯を食べにいったり、入学の手続きやら北中の練習に復帰してるとあっという間に時間が過ぎて、北宇治の定期演奏会も見に行った。
北中からは俺と久美子以外に、ホルンの保田里咲、フルートの山澤優佳、サックスの清水美代子と岩崎鮎美、ボーンの田中千晶が入学したらしくまた3年間頑張っていくことになる。
そして今日から部活体験だ。マイ楽器を持ってるわけじゃ無いから中学の制服を着て必要なものをもって、さあ北宇治へ。
久美子と2人で通学路を確認しながら一緒に来て、北宇治の正門を越えたところで顔面偏差値が高い女の部長に出迎えられた。久美子の方が可愛いけど。
「北宇治高校吹奏楽部の部長をしています中世古香織です。2人とも合格おめでとう。そして部活体験に来てくれてありがとね。あちらに各パートリーダーがいるのでそちらの方で交流を深めて下さい」
「すみません」
「どうかしたかな?」
「俺、中学ではホルンだったんですけど、高校からトロンボーンにコンバートしてみたいなって思ってて」
「私もユーフォニアムだったんですけど、トロンボーンをやってみたくて」
「あ、そうなんだ。楽器自体は数が足りてるから大丈夫。ちょっと待っててね」
俺達に断りを入れてから、中世古部長はスマホで誰かと電話を始めた。
「あ、野口君? 2人トロンボーンにコンバートしたいらしくてちょっと来て貰って良い?」
『分かった、今行く。ちょっとあっち行ってくるなー。笠原宜しく』
『はーい』
ボーンのパートリーダーの野口ヒデリさんに電話をしていたらしい。パンフレットでパートリーダーには目印があったし、何回か演奏を聴きに来ていたら内部事情もある程度分かる。
集団の中からこれまた格好良い先輩が俺達の所に来て、中世古部長は他の中学生の対応に行った。
「野口君宜しくね」
「おー。
おっす、中学生2人。俺は野口ヒデリ、トロンボーンパートのパートリーダーだ。皆からは千円って呼ばれてるから宜しくな~」
「北中出身の塚本秀一です!」
「同じく大吉北中学校出身の黄前久美子です!」
「おー、宜しく。それで2人ともトロンボーンやってみたいんだよな?」
「「はい!」」
「オッケー、やってみやってみ。何事も挑戦だ。
ただ、今日は時間がカツカツだから明日からでいいか? 現役生は8時に集まって音だしとかしてるからちょっと早めに来て貰ってそんときに触ってみよう。8時30分とかに集合な」
「はい、大丈夫です」
……おし、これでボーンデビューだ! 案外上手くいったな。
その一方で、久美子はちょっと不安げな表情だ。
「……すみません、トロンボーンって何人いるんですか?」
「2年が2人、1年が4人だな。そんで今の所見学に来てる中学生が塚本君と黄前さんを含めて4人って所だ」
「ありがとうございます」
A編成のコンクールだと、曲によるけどトロンボーンは5人か6人必要とされてるからそれなりに激戦区だ。まあでもそんなもんか。
中学生と話していた中世古部長とおさげを垂らした高身長の女子がやってきた。スカーフの色から中世古部長と同学年っぽい。そんで確か副部長だったか?
「香織ー、野口君。樹里と結にも伝えておいた!」
「ありがとうはるか」「悪いなー」
そして〝はるか〟と呼ばれた先輩はまた去って行く。
「話は付いたから、黄前さんと塚本君は今日だけ自分が担当してた楽器で体験してね」
「「はい、ありがとうございます!」」
「じゃあ行くかー」
俺達は野口先輩と一緒に現役生と中学生で交流してる方へと歩いて行く。
1週間の部活体験が終わって、俺はそこそこトロンボーンを吹けるようになった。滝透先生すげえや。でも、久美子は北宇治のレベルに圧倒された事とユーフォの田中副部長に勧誘されまくって結局ユーフォに戻った。
いや久美子の気持ちも分かる。1つ上の岩田先輩なんて吹奏楽自体を4月から始めたらしいのにベテランの風格を纏ってる。いやー、今年はオーディション落ちそうだな。やべえわ、うん。
練習の疲労感から、いつものベンチに座って俺と同じように眠くなってる久美子と一緒にぼーっとしてる。明日明後日には桜も咲きそうだなー。滝先生とも今日でお別れかー、次どんな先生になるんだろうなー。
「明日から高校生だねー」
「だなー。今度こそ、この制服とはお別れだ」
「あー、そっかー」
「女子は夏服と冬服が違ってて良いよな。男子は学ランだから見た目変わらないし」
「北宇治の制服可愛いよねー」
何の意味も無い会話を続けてると、温かさもあってもっと眠くなってきた。
思わずこれからの事を考えちまう。高校は良い。じゃあ大学は? この先久美子と一緒にいられるのか? ……嫌だな。
まどろみに任せているとそんな思考に陥って、ついつい昔からの気持ちがぽろっと出た。
「久美子ー」
「んー?」
「好きだ」
「私も好きー」
「「……………………ん?」」
オレハイマナニヲイッタ? クミコハナントイッタ? コレハユメ? ……ユメジャナイ!!
一気に眠気が覚めた俺は右に座ってる久美子の方を向く。久美子もまたわなわなした表情で俺を見ていた。
「え? えっとー? 久美子さん? 今何と?」
「いやいやいやいや。ここは秀一からでしょう」
2人してワタワタしてる。……いや、腹括るしか無いか。また前みたいに交流が途絶えたら嫌だし。うん、頑張れよー、俺。
オーディションの前とか結果発表の時並みに心臓がバクバク言ってる。告白って怖い。もし駄目だったら今度こそ久美子との関係が終わる。
「えーっと、……はい。久美子が好きだ」
「えっ? あっ? うーっ!」
久美子はベンチの上で体育座りをして、自分の顔を膝に埋めた。
「あ、あの? 久美子さん?」
「ぐるるるるるっ」
「犬かよ」
犬とか狼みたいにうなり声をあげ続けて聞く耳を持たない状態になった。こうなった時の久美子はちょっと長引く。ファミレスで軽く食べてきたから腹が空くことも無い。じゃあこうしてよう。
言っちゃったものは仕方ない。疑り深い久美子のことだから裏を読んでる可能性もあるし。
「独り言言うなー。
俺達小学校からのつきあいじゃん? でもさ、麻美子さんが大学合格でここから離れるのを見て、『あー、俺達もこうなる可能性があるのかー』って思ったんだよな。進路とか就職とかで簡単に会えなくなる、みたいな。親の都合で引っ越しだって考えられるし。
麻美子さんはちょくちょく帰ってきてるけどさ、京都以外で働くってなったらやっぱりそう簡単に帰ってこれなくなっちゃうだろうなって。
久美子ってサッパリしてるところがあるから、北宇治が吹奏楽強くなくても人間関係のリセットで北宇治に進学する可能性は十分あったよな。そしたら進学先が違ってたかもしれない、南宇治の方が家から近くてそれなりに結果も残してるから。
そういうの考えたらただの幼馴染みじゃ嫌だなって思ってる。10年後とかにもこうして一緒にいられるとしたらやっぱり幼馴染み以上の関係が良いと言いますか。分かりやすく言うと俺と付き合って下さいってこと。こ、こ、恋人になりたいです。
……言い逃げみたいになってごめん。お互いに混乱してるだろうから俺先帰るな。久美子もじ――」
「久美子も時間見て帰れよー」って言う前に久美子の左手が俺のブレザーの裾を掴んで引っ張られた。
「どした、久美子」
「……一緒にいてよ」
「お、おう」
「帰ろうかなー」って気持ちは一瞬にして無くなって、試しに俺の右半身と久美子の左半身が密着するくらいの距離まで近付いても久美子の様子は変わらない。……嘘、めっちゃ顔が赤くなってる。多分俺も。
そのままぼーっとしてると、久美子の方が口を開いた。
「私もそういうの考えたことある。
お姉ちゃんがトロンボーン辞めちゃったときとか家を出たときとか、今までやってきたことが急に無くなったり、10何年一緒にいたお姉ちゃんがいなくなって『あー……』って思ったり。多分私もっとお姉ちゃんと一緒に楽器やりたかったんだなって。今更ね、気づいた。
秀一もそう。
小学生の時はそこまでだったけど、中学生とかにあがるとやっぱり男女差が出てきて身長も結構差が出てきてるし。『こう出来るのも数年なのかなー』とか『お互いに恋人ができたり結婚するのかなー、そしたらただの幼なじみになっちゃうんだろうなー』って思うとモヤッとするし。
人って理由が無かったら一緒にいないでしょ? そしたらただの幼なじみの秀一ともいずれ疎遠になるんだろうなって。その状態に慣れたらなんとも思わなくなるのかもしれないけど、直後はそれなりに傷つくと思うし。……まあ、そんな感じ?」
言いたいことは分かった。でも結局何を言いたいのか分からない。……いや、でもこれはOKと言うことでファイナルアンサー?
「久美子ー?」
「何?」
「俺と付き合って下さい」
「…………私の方もお願いします」
「お、おう……」
こうして俺と久美子は彼氏彼女の関係になった。
……ちなみに、下宿先に帰ろうとしてた麻美子さんが俺達を見つけて挨拶しようとしていたらしく、俺達のやりとりは全て録画されてた。しかも親に共有済み。
家に帰って早々、母さんに「避妊はちゃんとしなさいよねー」って言われて、思わず家を飛び出した俺は悪くないと思う。
……いや、興味あるけどさー、交際1日目で考えることじゃないだろ。……うっ、うん。上手くいくコツを野口先輩と後藤先輩に聞いておこう。
~斎藤葵の場合
5月にある中間テスト対策と言うことで、またまたあすかの家へ。今年受検の年でもあるから勉強面でも手を抜けない。お父さん達からは私立でも良いって言ってくれてるけど、やっぱり国公立の方が学費安いしね。
あと、文系だから数学ⅢCを取らなくて本当によかったと思う。あれ何言ってるのか全然分からない。何、複素数平面って、訳分からねー。覚えることばっかりだけど文系で良かった。いや、本当に。
「うううっ、勉強つらーい」
「頑張れ晴香、負けるな晴香」
「そうだよ、推薦狙って頑張るんでしょ。夢の大学生活が待ってるよ。彼氏作るんでしょ」
「……ヨーッシ! 頑張るしか無いぞー、私!!」
「その調子その調子」
この4人の中で自他共に勉強が苦手な晴香だから毎度勉強の時間は死にかけてる。
……言ったら喧嘩になるから言わないけどでもさ、晴香は最初から私立じゃん? 科目だって少ないんだから頑張りなよって思っちゃう。部活も勉強も学校生活にも手を抜かないって決めてるから卒部式まで頑張るけど、やっぱり吹奏楽部は大変だよね。
それにしても久美子ちゃんと秀一君が北宇治に来るとは思ってなかったなー。ビックリしちゃった。しかも多分あの2人付き合ってる。昔から仲良かったからね、まあ納得いくというか。うん、末永くお幸せにーって感じ。
そのまま勉強して、休憩の時間になったから4人で一気に緊張から解放される。糖分が入ったラムネとかチョコなんかのお菓子と麦茶でリラックス。
「それにしても滝サンって微妙だよね」
「「うぐっ……!!」」
4月から薄々気が付いてたことをいきなりあすかがぶっ込んで、晴香と一緒に麦茶を吹き出しかける。言ってることは分かる、うん。透先生が良すぎてどうして比較しちゃうし。本人的には不本意だろうけど。
「その理由は?」
「えー? だって滝サンって津田サンよりも顧問としては微妙じゃん。いやね? 指導力は高いと思う。それは認めるよ。でもさ、自分の中で完結しちゃってるというか、教育としての部活じゃなくて、それこそ外部コーチ的な位置づけでやってるよね。正直津田サンの方がマシ。どんぐりの背比べだけどさ。
簡単に言うと人間関係ダメダメじゃん。千尋さんじゃなかったら別れてると思う、よく結婚出来たなって」
「言い過ぎだよ、あすか」
「これくらい良いじゃーん。はい」
「もぉー」
しな垂れかかってきたあすかを香織が支えて、そのまま香織は膝枕をしてあすかを寝転ばせた。いつものことだ。
まあ、あすかの言うことは凄く分かる。生徒主体の部活って言っときながら、放任してることの方が多いし。正直松本先生の方が頼りになるもん。
「ほら、透先生の方がベテランだったって事で良いじゃん? それより烏野はどうなの? 新情報は?」
「ええーっ!? 聞きたい!? 聞きたいのーっ!? じゃあ聞かせてあげるー!!」
あすかが跳ね起きて、その勢いのまま晴香に詰め寄っては両手を掴んでブンブン振り回す。こういう時は子供に戻るんだよなー。それよりナイス晴香!
「まあ、特に新しい情報無いんだよね。色々と他県の学校と練習試合をしてるとかなんとか位」
「……いやー、それだけでも結構な情報じゃない?」
「インハイ予選とか見に行ってみたいなー。平日だから厳しいけどさ」
宮城に行ってみたいってのはある。いついけるのかな。
「……地図見た感じ、ちょっと烏野までの通学は大変そうだよね。仙台駅から電車? バス? どうなんだろう」
「こればっかりは仕方ない。北宇治も駅からそこそこ歩いて、それが負担だって思う所もあるから」
「まあね」
雪のことも考えるとやっぱり負担になると思う。……雪が積もったら学校休みになるのかな? どうなんだろう。
「5月にはまた音駒と練習試合やるみたいだし、6月にはインターハイ予選。1年って早いね」
「サンフェスが終わると中間テスト、いよいよコンクールの練習かー」
「全国行けたら良いね」
「受験生としては8月で終わってくれた方が有り難い、かもしれない」
「そりゃそうだ」
府大会と関西大会止まりなら8月まで。文化祭までだと9月。全国大会だと10月末。長引けば長引くほど受験に不利になっていく。やっぱり吹奏楽だけに打ち込める私立の方が環境は良いよね。別に関西金賞だって恥ずかしく思う必要なんて無いし。
そして、丁度10分間の休憩が終わるアラームが鳴った。勉強の時間だ。
「よーし。じゃあ晴香と私は推薦貰えるように。あすかと葵は受験勉強も頑張っていきましょー。北宇治ファイト~」
「「「おー!」」」
目指せ全教科95点!! 勉強も部活も頑張らなきゃ!!