サンライズフェスティバルは大盛況、そして中間テストも終わり、いよいよコンクール期間が始まる。3年生は最後のコンクール、2年生1年生はコンクールメンバーに選ばれるようにと北宇治高校吹奏楽部一同は集中していた。
そして、中間テスト明け初のミーティングの真っ最中である。
「皆さん中間テストお疲れ様でした! 結果が良かった人、ちょっと頑張らないといけない人とそれぞれ思うところがあると思います。最低でもあと5回はテストが有るので、困らないように少しずつ取り組んでいきましょう!」
「「「はい!」」」
「それでは今後の予定です。6月1日と21日に依頼演奏があり、7月初週にオーディション、その後はコンクールメンバーとに別れて集中していくことになります。残り1ヶ月強結果を残せるように頑張っていきましょう。
また、課題曲は【マーチ「プロヴァンスの風」】、自由曲は【三日月の舞】に決まりました。早速聴いてみましょう。譜面も1人1人配られていると思うので是非照らし合わせながら聴いてみて下さい」
「「「はい!」」」
中世古香織はCDプレーヤーを再生して【マーチ「プロヴァンスの風」】と【三日月の舞】の2曲を流す。椅子に座っている吹奏楽部一同は目の前の譜面に集中した。
2曲聴き終わり、中世古香織はCDプレーヤーの電源を切る。
「以上2曲でした。
作曲者によると、【マーチ「プロヴァンスの風」】はスペインの風がプロヴァンスというフランス南東部まで行って、またスペインに戻っていることを表現しているそうです。聞いてみて何となくヨーロッパを感じたことだと思います。是非、曲の理解度を深めるためにも一度は地域について調べるようにして下さい。スペイン風の躍動感とフランスのプロヴァンスのゆったり感や落ち着き感を表現することが大事になってきます。
続いて、【三日月の舞】です。
月が見え出す時間帯、夜が更けて静まりかえった空間と動植物たち、そして新しい1日を表現しているんじゃ無いかと思っています。金管楽器、木管楽器、全体の順番で移り変わって吹奏楽らしい曲だなと。【イーストコーストの風景】を参考にしているそうなので、そちらも合わせてイメージして下さい」
「「「はい!」」」
「2曲とも難しい曲ですが、関西大会金賞に向けて取り組んでいきましょう」
「「「はい!」」」
「それでは個人練習に移ります。各パートに割り当てられてる教室へと移動して下さい」
「「「はい!」」」
北宇治高校吹奏楽部一同はぞろぞろと音楽室を離れて、目的の教室へと移動していく。
オーディションの結果が発表されてコンクールメンバー55人が決まり、B編成でのコンクールメンバー35人と残りのメンバーも確定した中、北宇治高校吹奏楽部は目標に向かって励んでいく。
その甲斐あって、A編成でのコンクールは府大会と関西大会共に突破し全国大会へ。B編成でのコンクールも金賞を獲得し、夏が終わった。
関西大会の結果と全国大会への進出する学校が発表され、無事に全国大会への進出が決まって興奮しているまま、ミーティングが行われている。
「皆さん関西大会金賞おめでとう御座います。無事に目標を達成できて私も光栄です。
さて、全国大会へ進めますがどうしましょうか? あまり褒められたことではありませんが、ここで辞退、と言う事も可能です」
滝昇は部員全体を見渡して、最後に中世古香織、田中あすか、小笠原晴香に問いかけた。その3人は視線を合わせて頷く。
3人の代表で中世古香織が指を空に向けながら宣言した。
「皆、さいっこうのご褒美タイムです。ここまできたからには全国大会でも金賞を目指しましょう!」
「「「はい!」」」
「滝先生、私達は全国大会金賞を目指して頑張ります。ご指導ご鞭撻のほどお願いいたします!!」
「「「お願いします!!」」」
「分かりました。それでは残り2ヶ月頑張っていきましょう。さっそくですが帰って今日の反省です」
「忘れ物無いようにね! 皆で確認していきましょう!」
「「「はい!」」」
思ってもいなかった全国大会へのキップを手にした北宇治高校吹奏楽部。彼女ら彼らはさらなる高みへと目指して努力することを誓った。
荷物の確認に入って、斎藤葵も交えた4人で話し出す。
「香織、黒尾さん好きだねぇ」
「え、だって格好良くない? 背も高いし」
「私達もやる? 『私達は血液だ』って」
「それは違うんだよ~」
4人の会話を偶々聞いていたホルンの森本美千代が「部長に好きな人が!?」と驚いて素っ頓狂な悲鳴を上げて、中世古香織らが森本美千代を見る。
「森本さん、どうかした?」
「へっ!? あっ! いえっ!?」
「何か運営のことであった?」
「い、いえっ……」
「良いから聞いてみ~」
「じゃ、じゃあ…………。
香織部長って好きな人いるんですか? 〝クロオさん〟って」
「ああ、そのこと?
【ゴミ捨て場の決戦】見てからハマっちゃった。でも恋愛としての〝好き〟ではないよ。それは絶対に無い。……これで質問に答えられたかな? 大丈夫そう?」
「あっ、はい! ありがとう御座います!」
「忘れ物無いように気を付けてね。確認お願いね」
「はい!」
〝クロオさん〟の次は〝【ゴミ捨て場の決戦】〟。いったいなんぞや。
新しい疑問が産まれて森本美千代は困惑する。また、滝野純一や中世古香織に思いをはせている北宇治高校吹奏楽部の部員は失恋しかけた。
北宇治高校吹奏楽部一同は全国大会金賞と目標を定め、課題に取り組んでいく。
~加藤はづきの場合
辛かった受験期間を乗り越えて、私は北宇治高校に入学が決まった。文化祭とか学校説明会でも見たけど2種類の制服も可愛くてテンション上がる。……まあスカートとかの女子っぽい服装を人前で着るのはかなり恥ずかしいんだけどさ。
それはともかく、学校生活を充実させるっていったらやっぱり部活だと思うんだ。テニスと空手はある程度やりきった気はして候補に無くて、じゃあ何しようか? って考えたときに、金曜ロードショーでジブリのラピュタが放送されて、パズーが金色の楽器で朝を知らせるシーンを見て、「あ、この楽器やってみたいかも」って思った。
調べてみると〝トランペット〟って楽器らしくて、じゃあ高校ではトランペットやってみよー! ってさ。北宇治の吹奏楽部って結構力入れてるみたいでやるからにはちゃんとできるようになりたいし。
でも、同じクラスになった久美子とみどり、秋川美鈴も中学から吹奏楽部に入ってて、3人も高校で続けるらしく、部活体験の時に4人で行動してたらあすか先輩が「君、これ吹いてみない? 1回で良いからさ」って誘ってくれて、金色は金色でもトランペットの何倍もある大きな大砲みたいな楽器――〝チューバ〟――を吹いて、結局チューバを担当することになった。
中学の音楽の授業までで知った言葉とか単語はもちろんある。でもリコーダーとかピアニカ位しか経験無くて、本当の本当に初心者だった。私以外にも5人? 6人? 位完全な初心者がいてお互い頑張ろうって励まし合ったり、梨子先輩と夏紀先輩、友恵先輩達みたいに高校から始めた先輩達から躓きやすいポイントを教えて貰ったりして4月が過ぎていった。
そして、初心者とパートリーダー、有志の上級生と一緒に【私のお気に入り】を吹き終わって、こう「ぐわぁぁぁぁ!!」ってなってる。もちろんみどりとか梨子先輩みたいにバリバリ出来たわけじゃ無い。それでも音楽の楽しさとか演奏の楽しさを理解できたと思う。もっともっとこの感覚を味わいたい。
拍手が終わって、中世古部長がこっちの方に来た。
「初心者の1年生とサポートの皆、ありがとう御座いました。
……今感じて貰っているのが音楽の楽しさです。初めて楽器に触って1ヶ月頑張ってきて、もちろんまだまだ改善点はあるでしょう。でも、その〝楽しい〟と言う感情を軸にしてこれからの部活動に打ち込んで下さい。音楽室とホールではやっぱりお客さんの人数や聞え方が違うので、毎回毎回新しい発見があることだと思います。
初心者だから焦ることはあるかもしれません。ですが、目の前の一つ一つをしっかりと熟していきましょう」
「「「はい!」」」
成り行きでチューバになったのは事実だ。テニスとチューバが一見繋がらないと思うのも事実だ。でも、結先輩とかあすか先輩が言うように、私の肺活量を活かしてこれからの吹奏楽部を過ごしていきたいと思う。
さーて、今度はサンフェスだ! ステップ係頑張るぞー!!
~北宇治高校吹奏楽部 男子部員一同の場合
サンライズフェスティバルが終わり、中間テスト期間を約1週間後に控えた中、北宇治高校吹奏楽部男子部員一同は男子だけの新入生歓迎会と休みのリラックスを兼ねて北宇治高校近くの公園で野郎会を開催していた。
3年生は野口ヒデリ、臼井ひとし、田邊名来、2年生は滝野純一、後藤卓也、竹下誠二と去年とメンバーは変わっていないが、年度が変わってテナーサックスの瀧川ちかお、バリトンサックスの火山輝一、トランペットの神坂和広、トロンボーンの塚本秀一、ホルンの池ノ上慶彦と5人の1年生が入部している。
野郎会開催を祝して、野口ヒデリが音頭を取った。11人の手には「M」から始まるハンバーガーチェーン店で買った飲み物のコップがある。
「それでは! これより野郎会の開催だ! 全員楽しむぞー!」
「「「オォー!!」」」
「かんぱーい!!」
「「「乾杯!」」」
人数が人数なので、自分を除く10人とコップをぶつけて乾杯する。4月から男子は男子だけで独自の関係性を築いていたため、なんだかんだで全員仲が良い。
一旦落ち着いたところで田邊名来が1年生全体に向けて話し出す。
「どう? 入学して1ヶ月、学校生活とか部活にも慣れてきた?」
「そうですね、大分」「上級生やっぱり上手いっす」
「1年間透先生とOBの人にみっちり扱かれてるからなー。そろそろ来始めてくれるから期待しておけよー」
「「「おっす!」」」
「あと勉強な。ある程度テストで良い点獲っておかないと滅茶苦茶馬鹿にされるから」
「推薦も取れるから一石二鳥。分からないところあったら早めに言えよー」
「「「お、おっす」」」
1年生5人は「何々君ってテストどうだった?」、「こんな感じー、今回駄目だった」、「あ、何々君って勉強できないんだ。ふーん」と女子部員に馬鹿にされる光景がありありと浮かんできて「ちょっと本腰入れよう」と思うのも当然だった。
「……ヒデリ先輩達ってある程度進路決めてるんですか?」
「んー? まあなんとなく? 愛衣と一緒の大学に行ければなーって。ナックルとひとしもおんなじ感じだろ?」
「まあなー」「そうだね」
「え、お2人とも彼女いるんですか?」
「と言うか、2、3年は滝野以外全員いるぞ。なあ?」
1年生5人の視線が上級生全員を貫き、最後に滝野純一を見てはサムズアップをして励ます。しかし、当の本人は煽られたと感じたようだ。
「う、うぜえ! おい1年共!!」
「きゃー! 滝野先輩が面倒くさいー!」
「おいまて神坂こらぁ!!」
「きゃー!!」
同じトランペットパートの2人と言うこともあり、神坂和広は滝野純一の扱い方を把握していたのでおちょくっては逃げだし、滝野純一もまた神坂和広を追いかけ始める。鬼ごっこが始まった。
「俺も彼女欲しいっす!」
「瀧川も滝野っぽいからなー。彼女いる1年は塚本だけか?」
「え」
まさか黄前久美子と付き合っていることを知られているとは思わず、塚本秀一はついつい声を出してしまった。その反応を見て竹下誠二は吹き出す。
「え。まっ、ええっ? ……なんでっすか?」
「いやー、塚本はボロ出してないんだよ、塚本はな。ただ、黄前がそういうサインを出してるというか。塚本が女子と話してるだけでもイラッとしてるから下山先輩達が吐かせた。『トロンボーンの塚本と付き合ってるのー?』って」
「……なるほど」
「独占欲高いだけなら良いじゃん。これが友達関係とかにまで口だしてくるとお互い疲れちまうしなー。ただ、塚本が思ってる以上に気づかれてるっぽい。まあでも部活に支障出さなきゃ大丈夫大丈夫。出すと部長副部長と面談することになるけどな」
「分かりました」
実体験なのだろうか、田邊名来が青い顔で忠告してきて、思わず塚本秀一は何度も頷いた。
そのタイミングで、鬼ごっこをしてたトランペット2人が戻ってきて、神坂和広が火山輝一にタッチした。
「はい、火山が鬼!」
「はあ?」
「良いじゃん、鬼ごっこやろうぜ」
「まずは準備運動からだな。ほら立て、せっかく良い天気なんだから」
「「「ウィーッス」」」
「滝野と神坂は少し休憩しとけー」
「「うぃっす!」」
気温も上がりって天気も良いから今まで鬼ごっこをしていた滝野純一と神坂和広はそれなりに汗をかいていた。一方で他の9人は怪我をしないように準備運動を始める。
「周りに子連れもいるし食べ物が腐るといけないからほどほどになー。そんで罰ゲームで火山以降に1回でも鬼になったら『付き合って何した』とか『誰が好き』みたいなのを話すこと」
「「オッケー」」「「「分かりました!」」」
「火山20秒後にスタートな」
「はい!」
火山輝一が20秒数えはじめて、他の10人が散り散りにばらけていく。鬼ごっこが始まった。
ボール鬼や氷鬼、色鬼など色々な鬼ごっこのバリエーションを一頻り楽しんで、田邊名来の「腹減ったー、昼飯食おうぜ」と発言したことで一旦遊びは終了し、昼食の時間となった。
敷いてあるレジャーシートの上に適当に座って、ハンバーガーやナゲットなどの準備をしていく。
「全員渡った?」
「はい、大丈夫です!」
「え~、それではごちそうになりましょう。頂きます」
「「「頂きます」」」
成長盛りの男子高校生の食欲に加え、ついさっきまで動いてはしゃいでたこともあって彼らはガツガツと食事を始めた。普段女性陣と一緒にいるときはガサツにはできない。しかし、男子しかいない為、口や手にソースが付こうがお構いなしだ。
「はぁ~! 運動後の飯は美味えなぁ!」
「黙って食べろー、ヒデリー」
「良いじゃねえか。天気は良いしちょっと疲れてる中で皆と一緒に食べる昼飯。うん、悪くねえよ」
「そうかー?」
「おう。つーわけで、1年から恋愛事情を聞かせて貰おうか」
「「「いぃっ!?」」」
3年生2年生が1年生を見てニヤニヤ笑い出す。
「じゃあ塚本からなー」
「……はぁ」
1年生と3年生がいるパートがトロンボーンパートしかないため、塚本秀一は半ばそうなるだろうなと諦めつつ、さっきの鬼ごっこで逃切れなかった自分の運動能力を呪った。
とは言え、別にやましいことをしているわけでも無く、周囲の理解があると動きやすくも鳴りそうだと判断した。
語り手である塚本秀一以外の10人は興味津々に彼の話を聞く。
「えーっと、久美子、あ、ユーフォの黄前久美子ですが、実は小学生からの幼馴染みなんです」
「へぇ、なるほど」
「最初から仲良かったのか」
「中学は学区が同じだから一緒の中学に行けたんですけど、高校は別々になりそうだなって。そんなわけで付き合い始めました。大体1ヶ月って所ですね」
「おー! まだ初々しいカップルか! 頑張れよ。いっちょ格好良いところ見せてやれ」
「キスとかは?」
「まだですねー」
「あんまがっつくなよ。今って幼馴染みとしての方がまだ強いだろうし。焦ったらそれこそ家族としても避けられるからな」
「うす」
忘れもしない中学生の時。自分の不用意な発言のせいで黄前久美子と関係が途切れてたらしいあの時を塚本秀一は思い出しては苦々しく思う。
「何かあったら早めに言えよー」
「うす」
「じゃあ次は誰だ! 捕まった奴は強制。つまり全員だからなー」
おまえがいけよ、いやおまえだろ。
そんな視線を塚本秀一以外の1年生4人が飛ばし合って、強制的に神坂和広に決まった。はやし立てられた後に、いやいや彼は話し出す。
「って言っても特にないんですよねー」
「ならあんなに嫌がらないだろうが」
「…………」
図星をつかれて神坂和広は沈黙する。そんな彼の肩を滝野純一が組んでおちょくりだした。
「ほーら、早く吐いた方が身のためだぜー?」
「……笠野先輩に言いつけてやろ」
「おい! 卑怯だろ!!」
うざがらみをする先輩と嫌がる後輩の図を見て、「これ以上やると神坂が切れるな」と判断した臼井ひとしが助け船を出す。
「ほら、滝野そこまでにしとけって」
「……おっす」
「神坂って彼女は?」
「いないです」
「好きな人、気になる人は?」
「いないです」
「じゃあ中世古先輩と言っておこう! 女神だからな! エンジェルエンジェル!!」
「えー、でも部長って好きな人いるっぽいですよ」
「「「……はぁ!?」」」
今までは和気藹々と過ごしていた彼らだが、神坂和広の言葉に阿鼻叫喚し、3年生2年生のほとんどが目を剥いた。
「は? マジ? 何処情報?」
「トランペットパートで昼飯食ってるときです。2年生が『また優子男子に告白されたんですよ~』みたいな恋バナをしてる中好きな人の話になって、部長が『クロオさんかなー』って。知ってますか?」
「「「知らないな……」」」
クロオさんとは誰か。クロオさんとはどこのどいつか。
そんな疑問で溢れて、彼らのほとんどの心が一つになる。
「いいかー、〝クロオ〟とやらを見つけるぞー。何か分かったら随時報告なー」
「「「おっす!」」」
2013年3月に東京都立音駒高校を卒業し、現在は東京の大学に通っている黒尾鉄朗を発見することを目標に彼らは立上がる。名字しか知らない彼らが黒尾鉄朗を発見できるかは既に決まり切っているが。
「って言うか、吉川モテモテだな」
「黙ってりゃ可愛いしな。1年もレベル高いし」
「あ、やっぱり? 分かります分かります! ……ってそうじゃねえ! おい神坂! 結局お前の気になる奴は誰なんだ!!」
「えー」
「せっかく話逸らしたのになー。めんどくせー」と思いながら神坂和広は適当に思いついた人物を口に出す。
「そっすね、コントラバスの川島は可愛いと思います」
「あー、あの聖女の」
高等部に進学しても吹奏楽は北宇治高校以上の環境でできるであろうに、わざわざ外部受験をして北宇治高校に進学し、コントラバスに打ち込んでいる川島緑輝を彼らは頭に思い浮かべた。
「ちなみに川島は彼氏いるのか?」
「いないみたいですね。『女子校だったから恋愛したいです~』って言ってました」
「よし、頑張れよ! 神坂!!」
「はーい」
滝野純一を適当にいなして神坂和広の番は終わった。続いて瀧川ちかおが指名される。
「俺は〝今の所〟彼女いません! でも、吹部に入ってれば彼女の1人や2人ぐらいできますよね!!」
「おー、こいつも滝野と同類だぞ」
「マジすか! あざっす!!」
野口ヒデリの言葉に喜んでいる瀧川ちかおを見て、臼井ひとしは「どう見ても褒めては無いでしょ」と呟くが、瀧川ちかおには聞えなかったらしく滝野純一と騒ぎ出した。
「3年も2年も1年もレベル高いっすよね! あー、でも強いて言うなら斎藤先輩っす!」
「斎藤かー。小笠原もまあ分かる。うん」
「ですよね! いつも『瀧川君お疲れ様』って挨拶してくれるんです! これ脈ありでは!!」
「そうだ! 笠野先輩も毎回挨拶してくれてる! これは脈ありだ!!」
「そっすよね!!」
滝野純一と瀧川ちかおは騒ぎ出すが、他の9人は「どう見てもちげえだろ」としか思えなかった。アホだから仕方ないのかもしれない。だってアホだもの。
「残りは火山と池ノ上かー」
「じゃあ俺いきまーす」
「おお。火山からか。さあさあ聞かせろ」
「といっても、俺の場合は中学の1こ下の後輩なので北宇治には通ってません」
「「「……ちっ」」」
「舌打ちですか!?」
「まあいい。いつからだよ」
「えー、まあいいや。俺も塚本ペアと同じく幼なじみで、産まれた時から家族交流があります。それで交際自体は俺が小学校を卒業するタイミングっすね」
「小学生からぁ!?」「じゃあ4年目くらいか」
「はい」
「な~ぜ~、俺には彼女ができないんだぁ!?」
「「「滝野ー、うるせーぞー」」」
改めて自分に彼女がいないことや仲間だと思ってたのに……! といった感情から滝野純一はオーバーリアクションを取るようになって、周りにうざ絡みをするようになる。
「じゃあ最後、池ノ上」
「はい。えーっと、俺は同じクラスで女バスの子と付き合ってます」
「「こんの! リア充どもがー!!」」
これで滝野純一と瀧川ちかお以外の9人は彼女がいることが確定し、その2人は大いにむせび泣く。そして、この2人に構っていたら一向に話が進まないことを理解しつつあった1年生もだんだん扱い方が分かるようになってきた。
「……逆は分かるけど、組み合わせ的には珍しいのか? スポーツ系男子と吹部女子の方がメジャーだよな」
「詳しく聞かせたまえ、池ノ上よ」
「はい。って言っても、入学してすぐのレクリエーションで一緒になったからなんですけど」
「あー、そういえば一定数カップル出来るな」
「じゃあそんな経ってないか」
「そうですね。1ヶ月未満ってところです」
「はぁー、初々しいねぇ」
「先輩方はどうなんですか?」
「仕方ねえなー」
部内恋愛は野口ヒデリと田浦愛衣、田邊名来と加山沙希、後藤卓也と長瀬梨子、部外恋愛は臼井ひとしと竹下誠二。この2人は同じクラスの女子と交際していると簡単に説明された。
「……やっぱり部内恋愛多いっすね」
「親よりも一緒にいるからなー、そういうものだろ。うん」
「お、お泊まりとかしたんすか?」
「部活が忙しすぎてそんな余裕無いぞ」
「それもそうですね」
恋人がいる2年生3年生は滝野純一以外全員〝大人〟になっていたが、昼間の公園で話すことでもないので全員が隠した。
そして、先程から9人の恋愛事情を聞きながら、血涙を流していた滝野純一と瀧川ちかおが土下座をした。
「「俺達に彼女の作り方を教えて下さい!!」」
「そういうの辞めろ」「おまえらさー、『彼女欲しい』って下心がありすぎなんだよ」「『誰でも良いからエロいことさせろー』みたいな」「大人っぽくなれ」「赤点取るな」「コンクールメンバーに選ばれろ」
「「言いたい放題止めて下さい!!」」
出るわ出るわの酷評に次第に涙目となって、遂に2人は崩れ落ちる。
「彼女作れるように努力すんだよ。髪の毛とか眉毛とかスキンケアとかさ」
「そんで格好良いところを見せる。例えばソロを担当するとかな」
「……地道っすね」
「そうだよ。楽器がいきなり上達するなんてありえないだろ? モテるのもそう。日頃からちゃんとやんだよ」
「まずは中間テストで良い点数とって『あ、コイツって勉強できるんだ。次は教えて貰おう』みたいに思われるようにして、コンクールメンバーに選ばれるように努力する。そうすれば誰からしらは好意は持ってくれる。あとは地道な好感度上げだ。日頃の挨拶とか部活勉強。小さいことからコツコツやってくんだよ。
『彼女欲しい』って言ってても、ただ言ってるだけじゃ彼女が出来るわけねえだろ。できるように積極的に動くんだよ。……これで良いか?」
「「あざーっす! 野口先輩!!」」
これ以後、滝野純一と瀧川ちかおは部活に勉強と一層努力して、夏休み前に彼女ができて夏を満喫するのはまた別の物語だ。
~黄前久美子の場合
高校最初のコンクール。そのオーディションが行われて結果発表中だ。オーディションに通った人達のほっとしたため息やら通らなかった人達の啜り泣きで教室中が緊張感に包まれている。
そしてユーフォニアムの番になった。
「ユーフォニアム。下山結」
「はい!」
「田中あすか」
「はい!」
「以上2名だ。続いてチューバ」
ガツン。ハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
名前を呼ばれなかったと言うことは、私はオーディションに落ちてしまったと言うことだから。
もちろん先輩達が上手なのは分かってた。でも私だって7年ユーフォを吹いてきたからそれなりの自信があったわけで。ちょっと今すぐには立ち直れそうに無い。足元が崩れそうな感覚を覚えてる中、必死に立ち続ける。
結局、1年生からはコントラバスのみどりちゃんしかオーディションに合格しなかった。秀一も不合格。それだけ2年生3年生のレベルが高いってことだ。
不合格になった52人が音楽室から出て行って、1つの教室に集まる。そして松本先生が話し始めた。
「ここにいる諸君は私と共にB編成でコンクールに望んで貰うか外部の先生と一緒に基礎能力の向上と演奏会に参加して貰う事が決まってる。メンバーと曲はこれから発表しよう。
……そうだな、決して今の悔しさを忘れるなよ。おまえ達は今回選ばれなかった、それは事実だ。だが来年はそうと決まったわけでは無い。
ここで腐って沈んでいくか、あるいは一層努力して来年再来年はA編成に選ばれるか。それはおまえ達の頑張り次第だ。励めよ」
「「「……はい!」」」
「また、滝先生から講評を頂いている。各自に渡していくからそれを読んだ上で夏の時間を活かして欲しい。ではフルートパートから。井上!」
「はい!」
フルートパートの井上調先輩から名前を呼ばれて松本先生のところに行く。
そうだ。まだ1年だから来年と再来年がある。練習して練習して練習して、来年こそは絶対にA編成に選ばれるんだ。
部活が終わって宇治橋をノロノロと歩く。家まではもうすぐで、私は外部の先生に指導して貰うことが決まった。B編成のコンクールメンバーに選ばれてもおかしくなかったと思うんだけど、曲の編成でユーフォが必要なかったらしい。夏紀先輩と一緒に頑張ろう。
……あー、うん。もう少し考える時間が欲しい。
あすか先輩と吹きたかった。結先輩と一緒にコンクールに出たかった。夏紀先輩に負けたくなかった。そんな思いがぐるぐると駆け巡ってる。
誰かの走ってる足音がどんどん近くなってきて、そしてその主の秀一が横に並んできた。
「久美子」
「……ひっどい声」
「久美子もな」
「まあね」
多分どこかで泣いたんだろう。秀一の目がちょっと赤くて声が掠れてる。秀一も私と同じで基礎能力の向上を目的に夏を過ごす。
「先輩達上手いから多分無理なんだなって分かってた。でもやっぱ辛いわ。もっと上手くならねえとな」
「っ!!」
秀一が漏らしたその言葉に自分の本心が刺激される。
……そうだ。そうだよ。もっと。もっともっともっと!
溢れる感情と一緒に走って行く。視界が滲んでるとか呼吸が辛いとか足が痛いとかそんなの関係ない!
「上手くなりたい! 上手くなりたい!! 上手くなりたい!!! 私、ユーフォがもっと上手くなりたい!!!!」
「……俺だって! もっと上手くなりてえよ!!」
あの時もっと練習してたら。
あの時もっと真面目になってたら。
こんな気持ちになってなかったのかもしれない。どう頑張っても変えられない過去を後悔しても遅い。でも。……でも! 悔しくて死にそう……!!
2度とこんな思いをしてたまるものか。私の高校生活全部をユーフォニアムにつぎ込んでやる。
――敗北の味を知った少女、勝利の味に飢える。
~中世古香織の場合
高校3年生になって、明確に〝卒業後の進路〟を考え出す雰囲気が学年中に広がったのを感じた。私自身も余裕が有るわけじゃ無いけど、あすかや葵みたいに国公立を受験する組とはやっぱり精神的余裕が違う。担任の先生から「推薦狙えるよ」とも言われていて、そっちに絞っているからね。
部活も一緒だ。
去年から部活も私達の代が中心となって部の運営をしてきたけど、次第に〝引退〟って文字が頭に浮かぶようになってきた。
関西大会までを目指しているから大体8月末、人によっては文化祭までと視野に入れて行動しているけど、最終学年だからかあっという間に時間が過ぎていてびっくりする。
それで、引退後のことも考えて、私、あすか、晴香、葵の4人で次の代の幹部候補を話し合ってる。
「そうしたら部長は優子ちゃん?」
「うん。優子ちゃん以外に部長は務まらないと思う。カリスマ力高いからね」
「……正直飼い主と犬みたいにしか見えないんだけどなぁ」
「私も。先輩大好きっ子ってことしか印象に無いかも」
私も服パートリーダーを務めてる希美ちゃん、優衣ちゃん、菫ちゃん、果穂ちゃん、佐和子ちゃん、詩音ちゃんでも大丈夫そうだけどなー。まあ、まずはあすかの意見を聞いてみようかな。
「優子ちゃんって年齢に限らずにきちんとコミュニケーションを取ろうとしてくれるし、滝サンとも相性が良いんだよ。滝サンのコミュ力知ってるでしょ?」
「「「……あー」」」
そっか、あすか的にはそっちを優先してるのか。だとしたら納得できる。
「確かに。2年生ってそこまで自己主張激しい子いないかも」
「でしょ? リーダーにも色んなタイプがいて、優子ちゃんは『目標が決まったらこれ!』って先導してくれるタイプなんだよ。加えてコミュ力もあるからちゃんと周りを納得させられる。ああいう子がリーダーシップを取ってくれると迷わなくて済む、って私は思ってる」
「じゃあ部長候補は優子ちゃんで」
葵がノートに【部長候補はトランペット 吉川優子さん】って書いたのを見て次に進む。
「副部長は?」
「まずうちの夏紀は確定でお願い」
「夏紀ちゃん? ……理由は?
言っちゃなんだけど今年もコンクールメンバーじゃないよね。いや、まああすかと結が上手だって言うのはあるし、同学年の2人と一緒に演奏したいけどさ」
「理由はいくつかあって、まず優子ちゃんのストッパーになれるから」
「ストッパー? そんな暴走特急みたいな……」
「さっきも言ったけど、優子ちゃんって目標を決めたらそれに突き進んじゃうんだよ、責任感とか色々ため込んで。でも、夏紀なら適度にガス抜きさせられるし、部長と副部長が目の前でじゃれてたら『そこまで堅苦しくないんだ』って全体に広がる。オンオフを切り替えられるって言えば良いかな。
あと初心者だからこそ出来ない子のフォローとかも出来るし、割と面倒見が良い。そんな感じかな」
「分かった。じゃあ夏紀ちゃんは候補に入れておこう。……他は? 副部長の人数とかも決めないといけないよね」
「そうだね。幹部数人で100人以上をまとめるのってやっぱり大変だから。
今年の結果が出てないから分からないけど、それなりに結果を出してたら40人くらいの入部希望者って言うのが分かったのは大収穫だと思う」
そう言った意味で、私は色々な人に助けて貰ってる。ここにいる幹部の3人だけじゃなくてパートリーダーの皆とか。
「あと希美ちゃんも申し分ないと思う。演奏面でも人格面でも」
「うん、木管セクションを纏められそうって意味では適任かも」
「ただ、3人とも同じ中学でしょ? 中学の関係性持ってこられても困るんだよね、集まってるところよく見るしよく遊んでるらしいし。それに男子枠も入れておきたいなって。案外男子って重要なこと考えてるからね」
「「「あー……」」」
南中学出身の幹部が固まると、それはそれで価値観が固まっちゃうのか。うーん…………。
男性目線からの意見も必要と言えば必要だね、うん。
「幹部決めって難しいね」
「まあねぇ。竹下も良いと思うんだけど、低音が2人になっちゃうからまずいし。滝野は幹部には向いてない。……いっそのことセクションリーダーは廃止するとかね。この4人を幹部にするのが目的で作った役割だし。
まあでも、少なくとも夏紀にはセクションリーダーは務まらない。コンクールメンバーには選ばれると思うけど。あと希美ちゃんも音大進学を候補に入れてるらしいって言うのを聞いた」
「そうしたら自分のこと優先でやりたいか」
「まあ国公立を視野にいれてる私達もいるから自分だけ特別にはさせてあげられないけど、でも『音大受験に集中します! 部活辞めます!』もあり得るのかなって。希美ちゃん以外にも言えることだけど」
「『演奏者になるなら吹奏楽は邪道だ』って聞くもんね」
「そっかー。……進路とかもそれとなく聞いてみよう。それか優子ちゃんと夏紀ちゃんにも同席して貰って2人の意見を聞いてみるとか」
「うん、そっちの方が良いかもしれない」
「じゃあ、そういうことで」
取り敢えず優子ちゃんと夏紀ちゃんは確定と言うことで様子を見よう。
6月に入って梅雨が来て、でもあすかがルンルン気分で登校してきた。烏野高校男子バレー部がインターハイ進出を決めたからだ。昨日ちょこっと電話もした。
「おっはよー!! 香織!!」
「おはよう、あすか。良かったね」
「うん! いやー、私達も頑張らないと」
「そうだね」
オーディションもそうだし、【三日月の舞】にはトランペットソロがある。吹けるように頑張りたい。
府大会は突破して夏休みに入った。最後の夏休みといえど私達には部活と勉強しか無い。関西大会金賞を目指して頑張る。
そして、インターハイも始まって、私達はお泊まり会という名目であすかの家に泊まって男子バレーボールの部を有料サイトで観戦する。
縁下さん達の代が卒業して猫又君の代が私達と同じように最高学年になって、もう1年生の時と比べて体格も雰囲気も強豪校と言っても良いくらい。それに優勝候補筆頭とも言われてるとかなんとか。
キャプテンでもある1番山口君、2番影山君、3番月島君、4番猫又君、5番日向君、6番以降は2年生1年生と先輩達のユニフォームと背番号を受継いで、歌手とかの古参ファンと同じような気持ちで見守ってる。猫又君と13番の子はリベロだからセカンドユニフォームだ。野口達君だって身長は伸びてるだろうけど、やっぱり運動部とは体つきが違う。
「……私達も負けてられないね」
「絶対関西大会金賞獲ろう」
「「「うん!」」」
今年の夏で部活は終わる。寂しくもあるけど達成感もあった。
関西大会が終わって、私達は目標としていた金賞を獲得することができた。過去一手応えがあったと思う。
そして、私達は全国大会への進出が決まった。私達のお祭りはまだまだ終わらない。