3月中の部活体験や4月の必死な勧誘の結果、2013年度の北宇治高校吹奏楽部は経験者24人、未経験者10人の合計34人を迎えて、3年生が4人、2年生が32人、1年生が34人の合計70人の大所帯となった。
「1年生の皆さん、吹奏楽部に入部してくれてありがとう!
経験者の皆さんは心機一転して音楽を楽しんで下さい。また、未経験者の1年生も高校から新しい事を始めようとしてくれてありがとう! 右も左も分からないと思うので上級生だったり同級生から色々知識や経験を吸収していって下さい。
2、3年生は去年のような過ちを繰り返さないようにお願いします! あの悔しさを忘れないで下さい! 積極的に後輩に声をかけていきましょう!」
「「「はい!」」」
〝去年の過ち〟と聞いて、2、3年生は思わず力が入り、なんとなく何があったのかを聞いた1年生は不安そうに視線をさまよわせた。滝透がこの1年で外部顧問を離れてしまうことによる部の方針なども考えられるからだ。
「1年生の皆さんも今年の2月までの北宇治がどんなだったのかを聞いている事だと思います。その上で今年の目標としては【音楽を楽しむ。そしてより洗練させていく】を掲げています。
実際の所、幹部も色々と手探りでやっているのが現状です。ですが、『部活を充実させたい』、『後悔の無いような高校生活にしたい』、というものが共通認識なので、皆さんにも音楽を楽しんで貰いながらより技術力を磨いていって欲しいと考えています。
その為、コンクールでも結果に拘りはしないけどより上を目指していきましょう。目標としては【関西大会金賞】を目指しています。
ただ、何度も言いますが、コンクールの結果だけに囚われず私達の演奏を聞いてくれる観客の皆様の心に響くように取り組んでいきましょう。音楽を楽しんでいきましょうね!」
「「「はい!」」」
中世古香織が滝透の方を向いて一つ頷いた。滝透はその後を引き継ぐ。
「早速ですが、3月の定期演奏会を聴いて下さった近隣の保育園の先生から『園児に音楽を聴かせてあげたいので、是非とも演奏をお願いできませんか?』と演奏のお願いを頂きました。急ですが、1週間後の土曜日、20日ですね、に北宇治高校の体育館に招いて演奏する予定です。
ただ、サンライズフェスティバルも控えていますので曲は部活紹介でも演奏した【銀河鉄道999】と【アンダー・ザ・シー ~映画「リトル・マーメイド」より】、【名探偵コナン メインテーマ】の3曲と【オーメンズ・オブ・ラブ】を加えた4曲とします。皆さんならきっとすぐに演奏できることだと思います」
「「「はい!」」」
「また、未経験者の皆さんは『観客からどう見られるか?』を感じつつ、全音符だけでも良いので演奏できるように頑張っていきましょう。そして、【好きこそものの上手なれ】という諺があるように、是非自分が担当する楽器を好きになって下さい。そうすれば上達していきますからね」
「「「はい!」」」
「最後に、いくつか候補曲を出したので、明日の練習終わりまでにサンライズフェスティバルで演奏する曲を決めて下さい」
「「「はい!」」」
今日が仮入部期間の終わりである4月12日(金)の為、猶予はまる1日といったところか。
ただ、4曲の練習とサンライズフェスティバルで演奏する曲とステップ練習、衣装のサイズ合わせ等を考えるとそこまで時間は無い。
「入部早々忙しいですが、早速頑張っていきましょう!」
「「「はい!」」」
その後解散の指示が出て、各パートで練習する教室へと移動、個人練習・パート練習の時間となった。
個人練習・パート練習の時間を使って幹部はパートリーダー会議を行う。
この場にいるのは部長の中世古香織、副部長兼木管セクションリーダーの小笠原晴香、副部長兼金管セクションリーダーの田中あすか、打楽器セクションリーダーの田邊名来、庶務の斎藤葵の4人に加え、フルートパート パートリーダーの姫神琴子、ダブルリードパート パートリーダーの喜多村来南、クラリネットパート パートリーダーの鳥塚ヒロネ、サックスパート パートリーダーの岡本来夢、トランペットパート パートリーダーの笠野沙菜、ホルンパート パートリーダーの沢田樹里、トロンボーンパート パートリーダーの野口ヒデリ、低音パート パートリーダーの下山結、打楽器パート パートリーダーの加山沙希の合計13人だ。
中世古香織が進行役となって会議を始める。
「まずは新入生の勧誘お疲れ様でした。
皆のおかげで34人入部してくれました。私達が上級生にされたことを決してしないようにしていきましょう。私達が積極的に良い雰囲気を作っていきましょう。
早速ですが、滝先生から薦められた曲になります」
そう言って、中世古香織はCDプレーヤーを操作する。
【アルセナール】、【オーディナリー・マーチ】、【雷神】、【ワシントン・ポスト】、【ボギー大佐】、【ラデツキー行進曲】の6曲が1曲につき30秒ほど流れた。吹奏楽に触れていたら何かと聞く機会がある曲ばかりで今回のパートリーダー会議で初めて知らされた部員も「ああ、これか」と納得のいく表情をする。
「一旦各パートに持ち帰って皆にも聞いてみて下さい。とは言え、トロンボーンやトランペットがどうしても目立つので自分の首を絞めないように。
あと、ダブルリードの3人は自動的にカラーガードに回っちゃってごめんね」
「良いよ良いよ、外じゃ吹きたくないし。みぞれちゃんもあんまり乗り気じゃ無かったし。……あ、屋外の演奏だからね! サンフェスじゃないからね!!」
聞きようによってはサンライズフェスティバル自体に乗り気で無い、と勘違いされる言い方に気が付いた喜多村来南は慌てて弁解する。
「大丈夫だよ、ありがとう。
そんなわけでダブルリードの3人とコントラバスの山崎先輩にはカラーガードをお願いする予定です。初心者の子達はポンポン、かな?」
「そうだね、まず部活に慣れて貰うことが最優先かなって。いっぺんに『あれやれ、これやれ』って詰め込んでも嫌な思いしちゃうと思うし。
外部との交流を楽しんで貰う意味でもポンポンをお願いした方が良いと思う。来年度以降の教育係にもなるしね。どうかな?」
田中あすかの問いにパートリーダー達は「意義なーし」と答えて、経験者は演奏、未経験者はポンポンをすることが正式に決まった。
「覚えてると思うけど、未経験者の皆とパートリーダーの皆には4月の終わり頃に【私のお気に入り】を演奏して貰う予定です。曲の完成も大事だけど、ここでは演奏する楽しさを味わって貰うのが目的です。初心者の子だけポンポン触ってるだけじゃつまらないしね。せっかく新しいことを始めたんだからたくさん楽器に触って貰いましょう」
「「「はーい」」」
「サンフェスの並び順とか衣装とかは決まり次第知らせていくから、まずはサンフェスの曲を決めていこう。
金管、木管、打楽器の順にこの教室に来て貰って曲のサンプルを聞いて貰う。それで票を入れて貰って集計」
「同数だったら?」
「パートリーダーの特権を使う。これくらい許されるでしょ」
「まあね」
「あと滝先生は定期的に演奏する機会を作って下さるみたいだから、〝その次〟の曲にしようかなって」
「なるほど」
集計の結果、今回のサンライズフェスティバルでは【ラデツキー行進曲】を演奏することに決まった。
北宇治高校吹奏楽部一同は依頼演奏とサンライズフェスティバルに向かって練習を重ねていく。