~吉川優子の場合
23日の定演から早くも2日経って、私達は今日から北宇治の部活に参加する。2日前に味わった情熱は消えそうに無い。むしろ高まっていく一方だ。
早くあの人達と一緒に演奏したい! そんな逸る気持ちを抑えて出発前の最後の確認。
楽器類、チューナー、楽譜ファイル、財布、中学の制服、上履き、ポーチ等々。中学生は午前中だけらしいからお昼はいらない。まあファミレスとかカラオケにでも行こうかって話が上がってるから、なんだかんだで帰ってくるのは夕方位でしょう。
「優子ー、時間大丈夫?」
「大丈夫!」
いけないいけない。気づいたら出発する時間になってるとかには気を付けないと。あるあるらしいんだけど、高校の制服着て中学校に行ったとかって良く聞くのよね。歩いて行ける分気を付けないと。「あれ、吉川さん卒業したのよね?」なんて言われないようにしないと。
荷物を持って、さあしゅっぱーつ!!
桜がだんだん咲き始めてる中、中学の皆と待ち合わせして一緒に北宇治に向かうと、私達と同じように楽器ケースを持った色んな制服の中学生と北宇治の制服を着た先輩が門の中で話しているのを見つけた。
そして、定演でMCをしていた部長も。……こうしてみるとすっごく綺麗ね。羨ましい。
「皆さんこんにちは、部長の中世古香織です。昨日の今日で早速来てくれてありがとう。あっちの方で各パートリーダーがいるから是非話してみて下さい。時間になったら音楽室へ向かいます」
「「「はい!」」」
なるほど、そういうことだったのね。よく見ると北宇治の先輩達はパートの名前が書いてあるスケッチブックを持って中学生と話してた。
「じゃあまた!」
「頑張ろ!」
「優子ー、行こ」
「そうね」
各パートに別れて、中学3年間同じトランペットパートだった後藤綾乃と一緒に【トランペットパート】って書いてあるスケッチブックを持った北宇治の先輩とトランペットケースを持ってる2人の中学生の所へ向かっていく。
「ん? 君達もトランペットかな?」
「はい! 南中出身の吉川優子と――」
「――後藤綾乃です!」
「トランペットパートにようこそ。私はパートリーダーの笠野沙菜です。
部長の中世古香織ともう1人の3人でやってます。是非今日は楽しんでいって下さいね。そして、この2人も見学に来てくれた中3の子達で――」
「――滝野純一です、宜しく」
「久保田玲奈です、宜しくお願いします」
久保田さんはいかにもトランペッターって感じ。……私もそうか。滝野はまあ普通?
「南中出身の吉川優子です、どうぞ宜しく」
「同じく後藤綾乃です。宜しくね」
「ちなみに、この2人は別の中学だから今日が初めましてみたいだよ。コンクールの会場ですれ違ったことが有るかもしれないけどね」
他の楽器には見覚えのある制服を来た人もいたけど、正直他校の顔なんか見ない。この2人も知らないし、多分……。
「3年間一緒に勉強するから友達作りって事で積極的に話していこう。そうだなー、じゃあ定期演奏会で印象に残った曲なんかはどう?」
笠野先輩がそう言うと、綾乃の他にも久保田さんと滝野も瞳を輝かせた。多分考えてることは同じ。
「【さくらのうた】めっちゃ良かったです!」
「「私も!」」「俺もっす!」
「あー、やっぱり? 吹いてて泣きそうになっちゃった。『今の時期にぴったりだよね』なんて選んだみたいなんだけどリハーサルとか皆やばかった」
「ピッコロの1音だけですげーって!」
「コンクールで吹いたんですけど、なかなか微妙で……。でも『うわぁぁ!』ってなりました」
「課題曲っぽくない良い曲だよね。演奏したいね」
「「「はい!」」」
そこからは【ディープ・パープル・メドレー】のトランペットが格好いいとか【ルパン3世のテーマ】のサックスが色気あるとかって話になって、久保田さんと滝野とも何だかんだ仲良くなれた。そんな中綾乃が挙手して問いを投げる。
「あの、【PHOENIX】でしたっけ? 選曲の基準が違うように感じたんですけど、何か理由があるんですか?」
「ああー、それね。部長の中世古香織とか副部長の田中あすかが『この曲やりたい!』って言いだしたらしい。〝春高バレー〟? の応援ソングだったとか。かっこ良かったよね」
「春高バレーって……、バレーボール? え、何でですか?」
「何でも部を変えたいって思う出会いをしたとかって聞いてる」
「へー?」
もしかして恋とか?
他の皆も思ったみたいで、さっきとは別の意味で瞳が輝いてる。そんな私達を見て笠野先輩は苦笑交じりに手をひらひらさせた。
「あれは全然違うと思う。どっちかというと〝負けたくない〟って感じだった」
「「「ふーん?」」」
まあ、いつか聞く機会があるでしょう。その時を楽しみにしておこうかな。
バレーボールかー。体育の授業とか球技大会くらいでしか触れてこないけど。確か男子は犬伏東高校が強いとか? 聞いたこと有るような無いような。宇治市からだとそれなりに距離有るからあんまり知らない。
「沙菜! そろそろ行こうか!」
「オッケー! 準備ができたみたいだから早速移動しようか。学校の案内もついでにしていくね!」
「「「はい!」」」
そうだった。早くトランペット吹きたい!
学校案内後に空き教室で荷物を置いて、楽器と貴重品なんかを持って音楽室に入ると「北宇治高校吹奏楽部にようこそー!!」って顧問の先生と副顧問? の先生、あと在校生が既に合奏体系ができてる中出迎えてくれた。
各パートで割り当てられている席に座って流れに身を任せていると部長の中世古先輩と眼鏡を掛けてる男子と同じくらいの身長の女の子と、おさげのこれまた私より背の高い女の子が前に出てきた。挨拶だろうな。
「はい、挨拶をさせて頂きますね。
トランペットを吹いてます部長の中世古香織です。北宇治高校に合格・入学おめでとう。皆さんの3年間がよりよりものになることを祈っています。そして、吹奏楽部に興味を持ってくれてありがとう。入部して一緒に頑張ってくれると嬉しいです。今日は楽しんでいって下さい」
中世古先輩が一礼すると拍手の嵐が鳴った。可愛い人だから人気なんだろうな。続いて、眼鏡を掛けた女の人が口を開いた。
「は~い、ユーフォ担当兼副部長兼金管セクションリーダーの田中あすかです。中学生の皆さん入学おめでとう御座います。是非私達と一緒に吹奏楽を楽しんでいきましょう! 低音パート大大大募集中です! よろしくお願いしま~す!」
さっきみたいに拍手してっと。……案外軽いのね。というよりこの2人すっごく顔面偏差値が高い……! やっぱり可愛い人、綺麗な人は目に良いわね~。
ホクホクしてると、最後におさげを垂らしてる人が話し始めた。
「副部長兼木管セクションリーダーの小笠原晴香です。楽器はバリトンサックスです。私達は【楽しく。そしてより高みへと】を心がけています。吹奏楽を楽しみながら個人の技術の向上と難しい曲に挑戦していく予定なので一緒に頑張れたら良いなと思います。
ちょっと早いですが、悔いのない3年間になるよう向上心を持って演奏しましょう!」
「うん、ちょっと早いかな」
「だからそう言ったじゃない!」
副部長2人のコントを見せられて、音楽室中にワハハ! って笑いが溢れる。先生達も笑ってるし。……あんまり期待してなかったけど北宇治いいじゃない!
そして、最後に先生達が話し始めた。女の人はちょっと厳格そうで生活指導とかしてそうな雰囲気ね。
「吹奏楽部顧問の松本美知恵だ。まずは中学校卒業と高校受験、入学おめでとう。
高校生になると一気に世界は広がるが、高校生らしい日々を送るように。また、私は指導の経験が乏しいため、外部との調整やらバスの手配などを担当する予定だ。指導などはこちらの滝先生にお願いしている。滝先生、お願いします」
そうよ、この人の指揮で演奏したいと思ったんだから……!
「中学生の皆さん、初めまして、滝透です。
10年ほど前に北宇治高校吹奏楽部の顧問として指導に当たっていて、一時は定年退職をしました。
また、残念ながら歳もあってこの1年のみの指導になってしまいますが、私の信頼の置ける人間が再来年度から皆さんの指導に当たってくれます。期待させてしまったかと思いますが、まずはこの1年一緒に音楽を楽しんでいきましょう」
「「「はい!」」」
1年。1年なのかぁ……。正直ガッカリしたと言えば嘘になる。でも定年したって言うと結構なご高齢とも言えるしまあ仕方ないのかもしれない。後任も決まってるならまあ良いかな。
「基礎合奏を始める前にパート毎で軽く自己紹介しましょうか。9時半頃から始めるのでそれまで自己紹介と音出しをどうぞ」
「「「はい!」」」
トランペット、ちょっとしゅうごーう!
そう言った笠野先輩が音楽室の隅の方へと指差して、打楽器を避けつつそっちへと歩いていく。そのうち部長の中世古先輩も来た。3人とも可愛い、やばい。……滝野他のパートにいってくれないかしら。
「お疲れ、香織」
「うん、お疲れ。……4人も見学に来てくれたんだね、ありがとう」
「じゃあさっきもしたけどもう一度。
トランペットパート パートリーダーの笠野沙菜です。沙菜って呼んでね」
「は~い、石原有美です。是非〝有美〟って呼んで下さい! 宜しくね~」
「はい、部長の中世古香織です。私も〝香織〟って呼んで貰って良いから。今日は楽しんでいってね」
「「「はい!」」」
「じゃあ中学生の番だ。眼が合った久保田ちゃんからどうぞ」
「はい。久保田玲奈です。定期演奏会からずっと早く北宇治で合奏したいと思っていました。今日は宜しくお願いします!」
「「「宜しく~」」」
凄い、ギスギスしてないって言うか。かなり雰囲気良いわよね。
「はい、後藤綾乃です。私も定期演奏会の熱が冷めません。早く入学して合奏したいです。宜しくお願いします!」
「「「宜しく~」」」
「……じゃあ私が。綾乃と同じ中学の吉川優子です。実は一昨日から寝られてませんでした、早く合奏したいです!」
「ちゃんと寝ないと駄目だよー? 良い演奏は良い生活から出来るんだからね」
「気を付けます!」
はぁ……! 香織先輩マジやばい!! エンジェル!!
そんな余韻に浸る暇も無く、最後に滝野が自己紹介した。……コイツ、下の鼻伸ばしすぎなのよ。
「はい、滝野純一です! 男1人だけでちょっと気後れしてるんですけど、頑張っていきます! よろしくお願いします!」
「「「宜しく~」」」
「経験者なら知ってると思うけど、女子社会の中の男子の人権ってほぼ0に近いから。吹奏楽部の誰かと良い雰囲気になりたかったら上手くなってね。そういう所はシビアにいくから」
「うっ、あっ、はい!」
だからデレデレすんなって。大方「うはー! 可愛い人ばっかじゃん! 役得役得~!」とでも考えてるんでしょうけど。〝人の夢って書いて儚い〟って言うの教えてやろうかしら。
「はい、じゃあ自己紹介も終わったことだし普段使ってる基礎合奏のプリントと今日演奏する譜面配っちゃうね」
沙菜先輩が言ったとおり、次々に基礎合奏と【銀河鉄道999】と【アンダー・ザ・シー ~映画「リトル・マーメイド」より】、【名探偵コナン メインテーマ】の3曲の譜面が配られた。吹いたことも聞いたこともある曲ばかりで十分対応できるはず。
「この3曲は4月の部活紹介の時に演奏する曲だから、その時に聞くはず。あ、今日初見合奏だから私達もボロボロだと思う。出来るところを演奏してね」
「「「はい!」」」
「じゃあ1st、2nd、3rdだけど……希望ある?」
「えっ、先輩が上吹くんじゃ無いんですか?」
「適性もあるからなぁって感じ。私の場合2nd、3rdの方が多いし。やりたいところやってみよう。ちょっと決めといてね」
「香織1st?」、「定演で優先して貰ったから沙菜と有美優先で良いよ。部長でMCしないといけないかもしれないし」、「あー、そっかー……」なんて先輩達の会話を聞きつつどうするか考える。……せっかくだから香織先輩と同じパート吹きたい。
「久保田さんと滝野君、決まった?」
「うーん……」「ブランクあるから3rdやりたいっす」
「オッケー、じゃあ私1st志願しよー。優子は?」
「2nd!」
「おー。……おー? まあいっか。久保田さんは?」
「1stやってみようかな」
「オッケー。綾乃ちゃんと玲奈ちゃんが1st、優子ちゃんが2nd、滝野君が3rdね。じゃあ次は音出しだー!」
ノリが良いのか、多分意図的に緊張を解そうとしてくれるのか、そんな感じだ。時計を確認すると基礎合奏まではあと20分くらい。良し、頑張っていきましょ。
希美とかみぞれも案外良い感じだし。後で話聞かせて貰おうかな。うん。
指揮者が変われば音楽性はぐっと変わるって言われてるように、基礎合奏だけで私のポテンシャルが発揮されたというか引き出された感じがあった。ブランクがあるのに今までに無く絶好調だ。
【銀河鉄道999】と【アンダー・ザ・シー ~映画「リトル・マーメイド」より】、【名探偵コナン メインテーマ】の3曲は前にも吹いたことがあったから、基礎合奏で絶好調のまま演奏して、初見とは思えなかった位の完成度。やっぱり今の北宇治はレベルが高い。
楽しい時間はあっという間で、午前の練習が終わってしまった。
「はい、午前中の練習は終わりです。中学生の皆さんも部活体験に来てくれてありがとう。明日も同じように進めていくのでまたの参加をお待ちしてます。4月になれば本格的にサンフェスやコンクールに挑戦していきますので、是非私達と吹奏楽を楽しみましょう! 今日は本当にありがとう御座いました!」
「「「ありがとう御座いました!」」」
やだ~、帰りたくない~。このまま午後もいたい~。
そう思ってるのは私だけで無いようで、綾乃も久保田さんも滝野もどこか消化不良な表情をしていた。あと希美とみぞれ、菫も。
「沙菜先輩、有美先輩、また明日も来て良いですか?」
「もっちろん! 一緒に楽しんでこう!」
もし、「もっと演奏をしたい」とか「もっと上達したい」って飢えを備え付けるのが目的なら十分正しいと思う。トランペットを吹けるようになってどこか慢性化してたやる気が引き出されたし。はぁ~、早く4月にならないかしら。
~長瀬梨子の場合
この4月に高校生になって、何か新しいことに挑戦しようと思ってる。でも運動はそこまで得意じゃ無いし、家庭科部は楽しそうだけど活動日が少なそうだし。友達作りには何が良いんだろうって思ってた所に、入学式の凄い上手な【威風堂々】が頭から離れなくなった。
周りの女の子も「うっま」って言ってたから私の聞き間違いじゃ無い、多分。
10年ほど前の北宇治高校の吹奏楽部は全国大会にも行けるくらい強かったって言うのは学校説明会とかで聞いてたけど、そんな昔のことハッキリ覚えてないし。やるからにはちゃんとやりたいし。どうしようかなー。むむむむむ。
そんなことを考えつつ迎えた部活紹介で吹奏楽部が演奏した【銀河鉄道999】と【アンダー・ザ・シー】、【名探偵コナン メインテーマ】の3曲を聴いて、私もやってみたいって思った。
合唱が得意って訳でもないし、今までリコーダー位しか触れてこなかったし、きっと経験者だって多いはず。高校から始めても全然上手くならないかもしれない。そんな不安はあったけど、今の北宇治の部活で一番熱心に活動してるのは吹奏楽部くらいしか無くてどうせなら……って思った。部活見学に行くだけならタダだし行ってみよう、ってことで慣れない校舎の中、きっと音楽室に向かうだろうなって生徒の後ろを着いていって遂に音楽室に辿り着いた。
「(……人がいっぱい。皆親しそう。ううっ……)」
3年生なら赤、2年生なら緑、1年生なら青って上履きとスカーフの色が決まってるからあそこにいるのは私と同じ1年生。きっと中学の同級生とかなんだろうな。今から始めるのもな、って弱気な自分が出てきたところに誰かに声をかけられた。スカーフは緑、2年生だ。
「君、大丈夫?」
「ひゃいっ!? ……だ、大丈夫です!」
「吹部見学の子かな? 見ていかないの?」
「私、吹奏楽って初めてで……。皆貫禄有るなって気後れしちゃって」
「それならこれから吹奏楽の楽しさが分かるんじゃん、良かったね。音を楽しむのに経験者も未経験者も関係ないよ。音楽が好きか嫌いか、たったそれだけ。音楽は好き?」
「好きです! ……って言えたら良いんですけど…………」
「なるほどなるほど~。
まあ、何か新しいことを始めるのに最初から100%好きって事は無いだろうし、でも、そのちょっとした好奇心は君を強くしてくれると思うよ。
吹奏楽が初めてなのに君は1人でここまで来た。じゃあもう少しその勇気を振り絞って音楽室に行ってみて。そしたら君はもっと音楽を好きになるだろうから」
「……あっ」
「手を繋いで一緒に行こうか?」
「いえ、自分で行きます」
「ふふっ、じゃあ君は過去の自分を越えたね。一緒に演奏できることを祈ってます。じゃね」
そう言い残して、その先輩は音楽室へと向かっていった。そして、その〝小さな勇気〟を持って私も音楽室へと向かっていく。
そこで私はチューバって楽器に出会った。
~田中あすかの場合
部活のお昼休憩中に、ここ数ヶ月ですっかり日課になってしまった宮城県立烏野高等学校のホームページを開いては男子バレーボール部の特設ページと吹奏楽部でもあるような烏野高校男子バレー部のOB会の誰かが作ったサイトを見てはため息をつく。
机にぐでっとしてると、晴香と香織、葵が私のスマホを覗き込んできた。
「あすかまた見てる」
「だってぇー。猫又君達SNSやってなくて情報がぁー」
「その言い分じゃ猫又君が好きって言ってるみたい」
「そうじゃないんだよなー」
「『あすかに好きな人でも出来た?』って聞かれるんだけど」
「違うんだよなー。私の恋人はユーフォだけぇ」
そう。これは好きとかそういうんじゃない。烏野高校をあり得たかもしれないもう一つの北宇治高校として見てるんだと思う。
優秀な指導者がいなくなって徐々に衰退して過去の栄光だけが騒がれる、いわゆる「昔は強かった」ってやつ。滝先生が離れて弱小校に成り下がった北宇治高校吹奏楽部と5年前に指導者が離れて以来低迷期を迎えた烏野高校男子バレー部。そして今この2つは徐々に頭角を現している。どうしても重ねずにはいられない。……まあ、全国制覇した烏野高校の方が何倍も凄いけど。
「あ゛ぁ゛ー……」
「すっかりバレーにハマってるね」
「自分がやりたいとは思わないけどね。あと烏野高校だけ」
「ファングッズでも出れば良いのに」
「それー」
「……高校生で営利目的ってどうなんだろ」
「コンクールでも金賞取った団体のCDとか演奏したDVD販売されるじゃん? 学校で出したら良いんじゃないの? 最近の男子バレー、アイドルみたいな扱いされてきてるし」
「まあねー、烏野だけでも影山君、月島君、菅原さんは顔良いよね。他には及川さんと宮ツインズ」
「「「稲荷崎かぁ……」」」
全国大会に出たいだなんて言わないけど、稲荷崎高校はバレー部以外の部活も全国レベルだから関西に住んでたら1度は聞いたことが有るんじゃないかな。吹奏楽部も強豪だし。
部員数が200人近いからどう足掻いても北宇治が敵いっこない。部活がやりたいんなら施設が整った私立に行くべきだと思うってハッキリ分かる。京都、大阪、奈良、兵庫、滋賀、和歌山の2府4県で全国レベルの高校がありすぎ。化け物は化け物同士で張り合ってて欲しい。北宇治? ちょっと化け物達に乗り込むには厳しいでしょ。
「インターハイ行って欲しいね」
「そうだね」
たった数ヶ月前の烏野高校の勇姿を絶対に忘れやしない。私もあんな風になりたいって思っちゃった。
強烈に記憶に残ってる春高での烏野高校の戦いぶりを思い出す。
◇
本来なら部活をしていただろうけど、私達の革命で停部状態だったから有料サイトを使って4人で春高バレーの開会式から烏野高校の試合を見ていた。選手は13人。他の学校よりも色々と足りてない。
「あ、猫又君出るみたいだよ」
「本当だ」
1回戦の対戦校である神奈川県の椿原学園から1セット先取して、2セット目では13番のオレンジ色のユニフォームを着た猫又君がコートに入っていった。アナウンサーの実況と解説が聞えてくる。
『第1セットでは西谷がリベロで出ていましたが、第2セットでは13番の猫又が出るみたいですね』
『宮城県の代表決定戦の白鳥沢学園との試合では大活躍でしたからね。影山君と同様に烏野高校を引っ張ってくれるでしょう』
『まだ1年ですからね。注目しなければならない2人です』
そんな実況が聞えてくる中、烏野高校と椿原学園の2セット目が始まった。するとボールが来る方向が分かってるのかってくらい拾う。1歩目の判断が的確だ。すごー。
2試合目の稲荷崎との試合でもそう。
稲荷崎のサーブの時には猫又君が。烏野高校からのサーブの時には4番の西谷さんが出てて、稲荷崎の選手のサーブがほぼほぼ効いてない。
『いや、壮絶な試合でしたね』
『そうですね。第1セットでは烏野高校に流れを持って行かれて、第2セットでようやく稲荷崎高校は自分達のバレーが出来てきた。それでも烏野高校がしっかりと対応。稲荷崎高校に自分達のバレーをさせていなかった印象です』
『烏野高校の勝因としては何が挙げられますか?』
『やっぱり1本目と2本目の安定性ですね。稲荷崎高校のサーブは非常に強力です。しかし、この試合ではサービスエースが少なかった。故に稲荷崎高校が流れを引き寄せられなかった、というのが私の考えです』
『次の試合でも頑張ってほしいものです』
『はい、楽しみですね』
優勝候補の稲荷崎に勝ったってことで画面の中の烏野高校の人達も大喜び反面、私達4人が引き気味だった。……でも負けたくないって気持ちも芽生えたのも事実。
3回戦の音駒高校との戦いもそう。音駒高校の監督が猫又君のお祖父さんらしく、順当に歳を重ねればこんな感じになるんだろうなって思わせた。
そして、烏野高校男子バレー部の前任の監督と音駒高校男子バレー部の監督の夢が50年で初めて叶ったとかなんとか。
『音駒高校の猫又監督と烏野高校の猫又は祖父と孫の関係であります。加えて、烏野高校の烏養繋心は以前烏野高校男子バレー部を率いていた烏養一繋先生の孫だと。
先ほど観客席で応援されている姿をお見かけしました。また、卒業生達も集って駆けつけた、と猫又監督と武田監督が話していました』
『いやー、こうしてみるとやっぱり人の縁って大事ですよね。バレーボールはボールを繋ぐ競技ですが、同時に人との繋がりを繋ぐスポーツだと実感させられます』
そんな実況が流れてる中、私達も私達で色々と感想が出る。
「猫又君お祖父ちゃんそっくりだね」
「音駒高校に進学しようとは思わなかったのかな。私立だと監督の息子、娘ってありがちだよね」
「だからでしょ。公立で『親なり祖父母の指導受けたいです』ってあんまり認められたものじゃ無いから。滝先生達もそんな感じじゃん」
「「「確かに」」」
実際はどうなんだろうね。知ーらない。
そして、4回戦の鴎台高校、準決勝で一林高校、決勝で梟谷学園と順調に勝ち抜いて烏野高校は優勝した。
『最後はエース東峰が決めたぁぁぁぁー!! 烏野高校! 初の全国制覇です!!』
『「全員で勝ちに行く」とコメントを頂いていましたが、まさに全員バレーでしたね。しっかりと1人1人が自分のできることを発揮して遂にトップの座を掴みました。おめでとう』
画面の中で烏野高校の13人がハチャメチャに喜び合っててすんごいことになってる。
「……負けられないね」
「だね。〝公立高校の星かぁ〟、……うん」
「まずは定期演奏会、頑張らないと」
「やることいっぱいだぁ」
そうそう、月刊バリボー買わないと。
◇
回想が終わって時間を見るとお昼休憩ももう終わりだ。椅子から立上がって背伸びをする。
「新入生いっぱい入れないとね」
「だね」
「午後練頑張るぞ~、北宇治ファイトォ~!」
「「「お~!!」」」
まずは歯磨きから。ポーチを持って洗面台の方に歩いて行く。
日頃の食事、睡眠、勉強に吹奏楽への情熱。
――あの日以来、私の中で明確に何かが変わった。自分達で環境を整えていこう。