お祭り高校 KI・TA・U・JI!!   作:青黄紅白

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2013年度④

~岸部海松の場合

 

 北宇治の可愛い制服に喜びながら高校生になって、更に何か新しいことでもやってみようかなーとも思って上級生の部活紹介を見ていたら、中学でもあったけど、あのカタツムリみたいな吹奏楽部の楽器に目を奪われた。なんというか、こうビビッと来た感じ。

 吹奏楽部の先輩に聞いた感じ、ある程度は初心者も入部してるみたいだし、結構活発に活動してるみたいだし、やるからにはある程度できるようになりたいし、……とまあ色々重なって私は吹奏楽部に入部した、のは良いんだけど……。

 

「きっつーい」

「……分かる、マーチングって何だよって感じ」

「何て言うんだろう、筋トレずっとやってるみたい」

「「「死ぬー……」」」

 

 5月上旬に行われる〝サンライズフェスティバル〟なるものに初心者の私はステップ係としてポンポンの練習をしてるけど、これがまた地味で辛い。

 小学校の音楽でも歌ったことがある【私のお気に入り】の演奏に向けての練習は凄く楽しいんだけど、このマーチングの練習はひたすら地味だ。辛い。

次回以降は楽器も吹けって言うんでしょ? 死んじゃう死んじゃう。これで初心者にも楽器演奏をして貰います、とかなったら辞めるかもしれない。分けてくれてほっとした。いや、本当に。

 ポンポン可愛いもんね! 頑張るしか無いよね!

 そう思わないとやってられない。

 

「最初はきついよね。もうちょっとやれば慣れてくるから」

「あっ、もう始めますか?」

「んーん。最初から飛ばしすぎてもイヤになっちゃうだろうし。まあ適当に?」

 

 初心者組の私やユーフォニアムの中川さん、アルトサックスの森田さん、チューバの長瀬さんが木陰でぐったりしてると、ステップ係のリーダーみたいな感じのダブルリードの喜多村先輩と岡先輩、コントラバスの山崎先輩も木陰に入ってきた。

 オーボエとファゴット、コントラバスは楽器がめちゃ高いから屋外での演奏はやらないことが多いらしい。人数も少ないから守られてるというか忘れがちにされるというか、その割にソロが多くて演奏会の曲によっては大変ってオーボエの鎧塚さんが教えてくれた。鎧塚さん静かって第一印象だったのに、案外はっちゃけてるって言うか演奏も凄い。

 

「少しずつできるようになろうね。無理しなくて良いから」

「「「はい!」」」

「あー、香織がこっち見た。そろそろやろっか」

「「「はい」」」

 

 これまだ4月5月で良かったわ。7月8月とか絶対死んじゃう。野球部も熱中症で倒れるとか聞くし。

 入部してすぐに保育園児向けの演奏会で「どう見られてるか?」を確認できて「演奏者からはこう見えてるんだ」って分かった。それでいて早く皆みたいにホルンを吹きたいと思った。まだまだ狙った音は出ない、息は続かない、指を間違えるって位ペーペーだけど、早く自由自在にホルンを吹きたい。……多分これが狙いだったんだろうな。癪だけど滝先生の手のひらの上でくるくる泳がされてる。

 あー、吹部に入って良かった。妹にちょっと格好いいところ見せてやらないとね。

 

 

 

 ~北宇治高校吹奏楽部 男子部員一同の場合

 

 共学の吹奏楽部は女子部員が多いと言われているが、男子部員がいないわけでは無い。女子社会の中でひっそりと活躍している。

 ここ、北宇治高校吹奏楽部にも男子部員が入部しており、サンライズフェスティバルが終わって休みの今日は男子の、男子による、男子のための集まり……いわゆる〝野郎会〟が開催されていた。滝透と松本美知恵から「普段形見が狭いだろうから、偶には男子部員だけで遊んできなさい」と軍資金を渡されての開催だ。

 3年生には男子部員がいないため、2年生と1年生のみの参加となる。

2年生はバスクラリネットの臼井ひとし、トロンボーンの野口ヒデリ、打楽器の田邊名来。1年生はトランペットの滝野純一、チューバの後藤卓也と竹下誠二。

ハンバーガーチェーン店で食べ物と飲み物を買う係、ボールやバドミントンのラケットとシャトルなどを運搬する係に別れて学校近所の公園へと遊びに来ていた。

 

「それでは! これより野郎会の開催といこう! 準備はいいな!?」

「「「オォーッシ!」」」

「野郎会、楽しんでいくぞ!」

「「「オォー!」」」

 

 野口ヒデリの音頭に他の5人が乗り、まずはウーロン茶やらコーラなどでの乾杯から始まった。普段は寡黙な後藤卓也も目に見えて楽しんでいる。

 

「にしても、滝先生太っ腹っすね!」

「だなー。去年じゃこうはいかなかった」

「そんなやばかったんですか?」

「うん、やばかった」

 

 滝野純一、田邊名来、竹下誠二、臼井ひとしの順で会話が進み、準備運動をしてキャッチボールを始めた野口ヒデリと後藤卓也に混じって6人でボール回しをしていく。

 

「中世古達に何があったんだろうな」

「香織先輩ですか?」

「そー。今までは我関せずって感じだったのに、いきなり『革命起こすから~』って言ってきてさ。実際に教育委員会と警察が学校に来た」

「マジすか!?」

「おう、マジマジ。だから3年ほぼいねえんだよ。嫌がらせしてきた連中がゴソッと退部して大人しくしてるか転校したか」

「そうなんですね。……またちょっかい出してくるって可能性は?」

「ねえな」「無いよ」「ないかな」

 

 後藤卓也の問いに野口ヒデリ、田邊名来、臼井ひとしは同じ考えを伝える。それほどまでに強烈なあの体験は忘れられない。

 

「振っといてなんだけど辛気くせえから辞め辞め! バレーボールでもしようぜ!」

「「「さんせー!」」」

 

 どこぞの烏、猫、イタチ、キツネ、カモメなどを象徴とする男子バレー部では無いため、彼らには「ボールを落としたら負け」くらいの認識しか無い。そのため、とりあえず連続で10回落とさないことを目標に円陣パスを始めた。

 

「滝野ー! てめぇ!」

「ナックル先輩、サーセン!」

「……くっ、後藤!」

「……すみません」

 

 滝野純一のヘンテコアンダーから始まって田邊名来がかろうじて触る。ただ、〝辛うじて〟だったのでボールはその場で落ちた。体勢を取り戻した田邊名来がボールを拾う。

 

「……バレーって難しいよな」

「分かります。簡単そうに見えて実は……、みたいな」

「しかも痛えし。冬とか絶対にやりたくねえ」

「……ちなみに北宇治は7月と2月に球技大会があるよ。バレーボール超痛いよ」

「「マジすか……」」

「まあ体育よりもちょっと難しくって感じだな。サッカー、バスケ、バレー部は所属してる部活の競技には出られないし。ほどほどに遊べって感じ。別に何か貰えるわけじゃないしなー」

「怪我なんかすんなよ。コンクールも近いんだからな」

「「「うっす!」」」

「もっかいだ、もっかい!」

「「「オォー!」」」

 

 もう一度ボールを空へと投げてボールを繋いでいく。

 

 

 お遊びのバレーボール、ドッジボール、バドミントンを楽しんで、彼らは昼食に入った。花見をするようにレジャーシートの上に買ってきたハンバーガー類やナゲット類、ポテトを紙皿に適当に乗せて各々口に運んでいく。春からだんだん夏に変わりつつあるこの陽気を心地よく感じているようだ。

 

「桜の季節には遅かったですね」

「仕方ないよ。なんだかんだでバタバタしてたし」

「今度は中間テストかー」

「んで、あがた祭りがあって演奏会があってコンクールか。あっというまだな」

「課題曲と自由曲なにに決まるんですかね」

「さぁ……、木管も金管も平均して技術高いからね、読めない」

「ま、なるようになれ、だな」

「そっすね」

 

 野口ヒデリはふと去年の今頃を思い出して内心苦笑した。去年の腐り始めてた自分が来年ではコンクールを楽しみにしてるだろうとは予想さえしていなかったからだ。入学してから今年の2月までの記憶と2月からたった3ヶ月の記憶では後者の方が濃厚な時間を過ごしている。

 誰かの視線を感じた彼が周りを見渡すと、臼井ひとしと田邊名来と視線がぶつかった。きっと同じ事を考えているんだろうと推測する。

 そして、彼は柄にも無く1人ごちた。

 

「……中間テスト、気合い入れてみっかな」

「んで、女子達見返そうぜ。些細な逆襲だ!」

「いっすね! 吉川達をぎゃふんと言わせてやりますよ!」

「推薦取れたら楽だから本腰いーれよ」

「んじゃ、やったろうぜ!」

「「「おす!」」」

 

 こうして、「テストでくらい優位に立ちてえよなぁ? 立ちてぇよ!!」作戦が始まった。

結果的に男子部員全員全教科80点を超えて、「男子って勉強苦手でしょ?」なんて馬鹿にしてた女子部員にカウンターを決めて女子部員を泣かせ、将来的に「男子には負けん!」、「女子に勝ったるわ!」と勉強面でも結果を残す部員が増えたそうな。これもまた正の循環である。

 

 

 

 ~後藤卓也の場合

 

 高校生になって2ヶ月、割とハードな吹部の活動にも慣れてきて、気づいたら気になる女の子が出来ていた。

 中間テストが終わって課題曲と自由曲の個人練習の時間で、楽譜を見ながらちょっと離れた所から聞えてくる声を聞き流す。

 

「梨子と夏紀ね、ユーフォとかチューバってスーザフォンと違ってベルが上向いてるでしょ? だから室内だと音は聞こえてても屋外だとスッカスカって結構あるんだよね。だから肺活量は必須な楽器なんだ。走ったり縄跳びなんかで少しずつ肺活量を付けていこう」

「「はい!」」

「あとね、運動することで肌の潤いとか変わってくるよ、体力も付いてくるし。だから本当にオススメ。4月から続けてきてる効果ちゃんと出てるからこの調子で頑張っていこうね」

「「はい!」」

 

 俺と竹下と同じくチューバ担当になった長瀬さん、下山先輩と田中先輩と同じくユーフォニアム担当になった中川さんの指導を聞いて、初心に帰りつつマウスピースに息を吹き込んでいく。……というか、聞きすぎだろ、俺。

 「いつからだ?」って聞かれたら「分からない」って答える。気づいたら長瀬さんの事が気になってた。……あがた祭り誘ってみようかな。

 B♭からLowB♭に向けて半音ずつ降りていくロングトーンの練習(B♭→A、B♭→As……B♭→Low B♭)を続けて、Desあたりでゴチャついて思わず舌打ちしたくなる。幅が大きくなるとどうしても苦手だ。スマホのピアノのアプリでDesを鳴らして出したい音のイメージを再確認する。

 もう一度楽器を鳴らしたら成功した。……ただ、B♭からだと上手くいかないこともある。いや、成功率は5割切ってるから重点的にやらないと。

 課題曲と自由曲、地域演奏で演奏する曲の楽譜が配られてるからそっちもやらないと。ああ、忙しい忙しい。でもこの充実感は心地良い。

 府大会銅賞レベルでも楽しくやれれば良いって思ってたけど、やっぱり上手くなってくるとどんどん上を目指したくなる。

 

 

 日に日に個人、パート練習以外にも合奏練習が増えてきて、気づいたら5月も残り数日となっていた。だんだんあがた祭りって単語を部内でも部外でも聞くようになってる。

 部活が終わって楽器を片付けながらの雑談タイムに入った。田中先輩は幹部で話し合いをしてるからここにはいない。そんな中、山崎先輩がコントラバスのケースのチャックを締めてから何気なく問いかけてきた。

 

「そういや、皆はあがた祭り行くの? もう1週間きってんじゃん?」

「甥っ子と行きまーす、侑依先輩は?」

「私はお祖母ちゃんがお店だすからその手伝い。焼きおにぎり出すから良かったら来てね」

「あっ、お腹空いてきました」

「私もー」

 

 下山先輩と中川さん、長瀬さんがお腹を押さえて顔を赤くする。部活が終わって疲れてるこのタイミングで焼きおにぎりの味を想像したら、もう口の中がそれしか受け付けなくなった。ご飯食べたい。

 

「メンズは?」

「通学路なので、どう人混み回避しようか検討中です」「まだ何も」

「はー、湿気てるねぇ。女の子の1人や2人誘ってみなさいよ」

「でも、そうしたら次の日追究してきますよね?」

「それはもちろん。何を言ってるのやら。

……親睦も兼ねて皆で行ってくればー? なかなか遊べてないでしょー」

「私は良いですよ。

どうかな、後藤君、竹下君」「男避けになるしね」

「俺達の価値それだけかよー。……じゃあせっかくだし?」

「今日はデレ期か」

「おい、やめろよ」

「後藤君も大丈夫? 勝手に決まっちゃってるけど」

「大丈夫。むしろ助かった」

「うん、それなら良かった」

 

 長瀬さんと2人で行きたかった事は間違いないけど、さっきのを聞いたら誘いづらい。ナイスアシストです、先輩方。……もしかしてバレてる?

 

 

 

 そして迎えたあがた祭り当日。

 滝先生は通院、松本先生は家の用事があって、日頃の疲れを取るためにも放課後の練習は無くなった。先生達の事情もあるけど、「ただがむしゃらにやれば良いってもんじゃ無い。リラックスも兼ねて休養日」って言うのを部長や田中先輩が何故か口酸っぱく言ってて、週に1日は1時間だけしか楽器に触れない日がある。金曜日なんか特にそうだ。疲れを取って土日の練習に臨んで欲しいって。よく「この瞬間も吹奏楽だ」って言ってるけど何を伝えたいのか分からない。

 そんなことを考えながら待ち合わせ場所で待ってると続々と集合場所に集まってきた。

 

「おいーっす」

「おう、滝野」

 

 ペットの女性陣からハブられかけてた滝野を救出して、低音パート1年4人が集まって、中川さんの友達の吉川さんと合流して結局ペットの1年4人も加わって……、結構な大所帯になった。ちなみに野口先輩とナックル先輩は彼女と回るって聞いた。臼井先輩はクラリネットパートの人と一緒らしい。

 それにしても。

 

「きゃー! 梨子の浴衣可愛いー! ……誰かさんとは大違いね!」

「ちょっとー? 何で優子がここにー? この子誘ったのだーれー?」

「ごめーん、優子が『あっ、夏紀がいるー。ちょっとからかってくるー』なんて言ってたから」

「ちょっ!? 玲奈ったら何言ってるのよ! 私はそんな!!」

「って言いつつ気にしてたじゃーん」

「綾乃!」

 

 普段は制服かジャージ姿しか見てない吹部の女子のほとんどが浴衣を着てちょっとドキドキしてるのは内緒。でもやっぱり長瀬さんが1番可愛い。写真撮れないかな。

 

「やべー、皆可愛いな」

「分かる。なんか新鮮。ごっちゃんは?」

「まあ、そうだな」

「……おまえ結構顔に出てるからな? 気を付けろよ」

「分かった」

 

 マジか。気を付けないと。

 いつの間にかいつもと同じように男子3人で集まってコソコソと。……いや、でも女性陣が浴衣姿を見せ合ってて移動できないって言うのはある。

 

「写真撮ったら怒られるかな」

「『滝野が盗撮してるー!』とか言われそうじゃないか?」

「……何々? 私達と写真撮りたいって?」

「げっ、中川と加部かよ」

「その反応傷つくんですけどー」

「沙菜先輩達に『お祭りの写真送ってね』って言われてるから入れてあげても良いよって思ってたのにー」

「ごめんなさいごめんなさい! 是非一緒に写真を撮らせて下さい! 中川様、加部様!!」

 

 集まってるコソコソと離してる中に中川さんとペットの加部さんが知らず知らずのうちにこそ耳を立てられていたみたいで、そんな感じになった。

 

「皆ー、男子が私達と一緒に写真撮りたいってー。どうしよっかー?」

「しょうがないから撮ってあげる~」

「髪とかメイク整ってる間に撮りたいよね」

「このっ、言わせておけば……!」

「じゃあ滝野は写真撮ってね。今日は写真係だ、写真に写らなくて良いよ」

「それはそれで傷つくんですけどぉ!?」

 

 滝野の悲鳴に女性陣が笑って周りに響く。「諦めろ、女性社会じゃ刃向かったら死ぬぞ」って長年の姉の所業を思い出しては心の中で呟いた。

 連れが来るまでもうちょっとかかるから、って時間潰してる女子大生っぽい2人に写真をお願いして貰って集合写真みたいになった。

 

「ありがとうございました!」

「皆可愛いから人通りが少ないところには行くんじゃないぞー。男子3人はガードしてやれなー」

「あとお酒が入ってる連中ね、絡まれると面倒くさいから!」

「「「は~い! ありがとう御座いましたー!」」」「「「うっす」」」

 

 そして屋台を回っていく。

 焼きそば、焼きトウモロコシ、リンゴ飴、水飴、たこ焼き、南蛮焼き、唐揚げ……色んな食べ物と射的とか型抜きみたいなものもある。あと吹部の人達も。ホルンとかサックスパートの人達と出くわしたり。途中で山崎先輩の所の焼きおにぎりの屋台にも行った。

 

「きゃぁ~! みぞれったら可愛い!」

「お母さんが『これ着て楽しんできなさい』って。皆も可愛い」

「あっはは! じゃあ皆で写真撮ろう!」

「「「さんせ~!!」」」「「「撮る撮る~!!」」」

 

 フルートパートの傘木さんと井上さん、森塚さん、オーボエの鎧塚さんの4人と出会ってまた写真タイムに入ったりと正直蚊帳の外っぽいけど楽しい時間を過ごしてる。

 そんな時に花火が上がって、真っ黒な空を色とりどりに染め上げた。同時に腹に重厚感が響く。

 

「「「わぁー!」」」

「「「たーまやー!」」」

「「「かーぎやー!」」」

 

 吉川さんや傘木さん、他にも魅力的な人はいっぱいいるだろう。でも、小さな事でも嬉しいことがあったら目元を緩ませて控えめに笑う長瀬さんのことが好きだ。

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