学園アイドルマスター〜コスモスと青い不死鳥〜 作:kimberlite
「みんな、今日はありがとう!」
満員の野球場、そのステージの上に立つ長いダークブロンドの少女、マイクを観客の方に向けると、観客が声を出す。
「それじゃ、いっくよー!」
曲のイントロが流れ、Aメロに入るその時、突如として伴奏が不協和音に変わる。
-声が、出ない……!-
ハッと保健室のベッドで秋桜は目を覚ました。
「夢……?ここは」
「あっ、大丈夫ですか!?すごくうなされてましたけど」
「君は、生徒会の」
目が覚めた秋桜に声をかけるのは、秋桜を保健室まで連れてきてくれた女生徒。彼女へ秋桜は小さな、かすれた声で応答する。
「はい、姫崎莉波(ひめさきりなみ)です!私のこと、覚えていますか?」
その名前にハッとする秋桜。小さな声で肯定し、頷く秋桜。
「えっと、先生の診断では、声帯の毛細血管がいくつか破れたものってことで、しばらく大声を出さないようにってことでした。それと、」
「ずっと、私が年上だと思っていました」
莉波が間を置いてから打ち明ける。自分もだとばかりに秋桜もうなづく。
「なんだか、不思議な感じ……弟みたいに思っていたきみが、こんな素敵なプロデューサーさんになってるなんて……あ、ごめんね!つい、懐かしくて昔みたいに話しちゃって」
長沢秋桜と姫崎莉波は幼馴染だ。秋桜の祖父母が暮らす家は彼女の実家が営む酒造の近くに位置しており、秋桜長期休みに帰省しては、よく遊んだ仲だった。
「ちゃんと、敬語で」
「大丈夫、莉波お姉ちゃん」
秋桜から不意に出た昔の呼び方にお互い微妙な空気が流れる。
「さっき、昔の夢を見てたから……」
「ううん、嬉しかった」
照れ臭く、小さな掠れ声で秋桜がいうと、莉波が満面の笑みで答え、紙袋を差し出す。
「服、血がついちゃってるからこれ、私のだけど、多分着れるよね。あっ、そろそろ戻らなくちゃ、着替えもしづらいだろうし」
そう言って、莉波は保健室から生徒会室へ戻った。
(他の担当アイドルがいるのに、プロデュースしてほしいなんて言えないよー)
「これでよし……ん?」
血のついたシャツから、莉波が貸してくれたブラウスに着替える。若干のオーバーサイズを鏡で調整していると、隣のベッドがゴソゴソと動く。やがて布団から出てきた少女と秋桜は目が合う。かなり白に近いプラチナブロンドと琥珀色のタレ目、新入生名簿の中でも特筆する成績を残した彼女が声を出す。
「あなたは……プロデューサーの人?」
秋桜がうなづくと彼女は続ける。
「わたし、篠澤広(しのさわひろ)。はじめまして」
自己紹介してペコリとする広に、秋桜も頭を下げる。
「……話は聞こえてた。声に出さなくて大丈夫、えっと」
しばしの間を置いてから広は秋桜の目を見ていう。
--わたしをプロデュースしてほしい--
「お断りします」
「……なんで?」
なんでと聞かれると声を発さない秋桜。単に喉が痛むのか、それとも言い淀んでいるのか、目の前の彼女、広がアイドルに向いてないと告げるのが、入学式もまだのこのタイミングで、広の口元がわずかに緩む。
「ふふ。何が言いたいのか分かる、よ。あなたが正しいと思う。自信を持って」
秋桜には目の前の少女が分かりかねた。14歳で大学を卒業した天才少女にして、日本有数の神童。ゆえに筆記は満点、だが実技は0点。本来なら不合格でもおかしくはない。だが、面接で学園長に見初められて合格を勝ち取った。
(学園長にはなにが見えてるんだ……?)
これでブービーなのは、1代で財を築いた学園長、十王邦夫の慧眼によるものだろう。秋桜が畏怖混じりに思っていると広は語り出す。
「いちばんわたしに向いてなさそうだから……かな」
やはり、この天才少女の考えることは秋桜の理解を越えている。それでも広の挑戦が生半可なものでないことも伝わってくる。これだけの頭脳を持つと並大抵の挑戦では満足できないのか、あるいはこういった挑戦心がそういう頭脳を育むのか。
「それに、今のプロデューサーもそう」
付け加えた広の言葉に、秋桜は胸の奥がかき乱される。
「わたし達、向いてないコンビ、お似合いだ、よ」
(そうかもしれない、けど……)
何はともあれ、彼女のプロデュースを受け持つことはできない。秋桜は掠れた声で告げる。
「すでに、プロデュースする方が決まっていますので」
秋桜が告げると、広はなんとも言えない声を漏らして、こう続ける。
「先を越された。ふふ、ままならないね」
2人は保健室を出てからそれぞれの帰路につく。カーラジオから野球中継が流れる中、秋桜は帰り道で今日を振り返る。学園No.1の生徒会長、姉だと思っていた幼馴染、適性外のアイドルに挑む天才少女、そして担当アイドル。
「初日から色んな出会いがあったな」