学園アイドルマスター〜コスモスと青い不死鳥〜 作:kimberlite
桜並木の中を駆ける若葉マークをつけた車と、白いニーハイで制服姿の女子生徒がすれ違う。
(あれ、あの制服は?)
車の運転手は、その女子生徒の制服に一抹の心配を覚えながら、車を初星学園に走らせる。
赤い橋梁を渡りながら、講堂が見えてくると、駐車場へ車を止め、バンと車のドアを閉じると、講堂へ向かって歩き出す。
講堂の中、厳かに高等部アイドル科の入学式が始まる。担当アイドルはどこだろうか、と秋桜は入場してくる新入生の列に目を向ける。
(月村さんは、1組か)
--新入生代表挨拶、1年1組花海咲季さん--
新入生の列で1番前に座っていた生徒が立ち上がった。赤茶色のツーサイドアップと勝気さが伝わる立ち姿で、壇に立つ。
「アイドル」
それは 私たちの永遠の憧れ
夜空に輝く星のように 大地に咲く花のように
みんなの心を熱く震わせて かなしみをやさしく包み込んで
いつも笑顔にしてくれる そんな素敵な人になりたくて
わたしは「初星学園」の門をくぐりました。
新入生代表による挨拶が終わる。入学式の厳粛な空気、心地よい緊張感。
「……いよいよだ」
先に退場するプロデューサー科の生徒たち、掠れの治った声で秋桜が呟く。
-数々のトップアイドルを輩出してきた、国内最大のアイドル養成校「初星学園」。プロデューサーとして、彼らの日々が始まる-
講堂から出ると、次第に散り散りになるプロデューサー科1年の生徒たち。各々の目標のために一歩を踏み出す。
(さて、プロデューサー室の鍵を受け取りに……)
「す、すいませ〜〜〜〜〜〜〜〜〜んっ!」
生徒会室へ向かおうとしていた秋桜は、赤茶色の髪の少女に声をかけられる。
(あの子は……ハッ!)
秋桜の脳裏に今朝の光景が蘇る。確かに彼女は今朝通学中にすれ違った、初星学園とは逆方向へ猛然と走っていた少女だ。
「入学式って、もう始まっちゃってますかっ!?」
「もう、終わるところです」
少女の問いかけに、秋桜は冷静に答える。
「ゔひゃ〜、入学式当日から大遅刻!!」
ブルドーザーのような声で失敗したぁ〜と頭を抱えいる目の前の少女は、どうやって合流しようかと悩ませている。
「もうすぐ皆が講堂から出てくるので、その際にこっそり混ざってしまうというのは?」
「それです。ナイスアイデア!あぁっ、申し遅れましたっ!あたしアイドル科の新入生で花海佑芽っていいます!」
(花海佑芽……聞き覚えがない、それにしてもなんでこんな元気いっぱいなんだ)
だが、秋桜の中で妙な既視感がある。と同時に、佑芽の元気いっぱいで天真爛漫な様子に一抹の違和感が芽生える。
「こちらこそ、初めまして。プロデューサー科1年、長沢秋桜です」
「おぉ〜、プロデューサー科の方だったんですね〜!さっきすれ違って以来の再会ですね!」
佑芽の発言にハッとする秋桜、すれ違ったのは通学中の時間帯。今はその時から2時間近く経過している。2時間走り回っていたのなら、もっとバテているはずだ。
「花海さん、どこでサボっていましたか?」
「ひどいですよ!!道に迷って、ずっと走り回ってました!!」
秋桜には佑芽の発言がにわかに信じられない。その発言が本当なら、それだけ走り回って、ほとんど息を切らしていないということになる。そんなことって本当にあるのだろうか。
「その子の発言は、本当よ。この花海咲季(はなみさき)が保証するわ」
「お姉ちゃん!」
その時、背後から赤茶色の髪をツーサイドアップにまとめた少女が背後から話しかけてくる。
(お姉ちゃん?彼女はさっき新入生代表で挨拶してた子で、花海……あっ!)
佑芽と咲季、秋桜は2人を見比べる、体格は咲季の方がひとまわり小柄だが、赤茶色の髪や色は違えど闘志を秘める目は確かに共通している。
「どーせ迷ったんでしょう」
「う、うるさいなー!そ、それより!」
2人が話し終えると、佑芽がこちらを向く。
「ふっふーん、これであたしの無実が証明されましたね!」
「にひひ〜、わたしの妹ってすごいでしょう?」
姉ひとり加担しただけで、この勝ち誇りよう。本当のようだと、秋桜も白旗をあげる。
「はい、疑ってすいません」
(もしかしたら、とんでもない原石かも)
アイドルである以上、遅刻は言語道断だが、この基礎体力は新入生どころか、学園内でも上位1%に入るかもしれない。と、頭がよぎった時、彼女のことを思い出す。
「咲季さん、佑芽さん。人を待たせているので、そろそろ失礼します」
「——遅い。いつまで待たせるつもりですか?プロデューサー」
「すいません、今鍵を開けます」
プロデューサー室の前で待つ担当アイドル、手毬と一緒に部屋へ一歩を踏み出す。
ホワイトボードや机、鏡や衣装ラック。設備としては一通り揃っており、生徒会によって整備された状態で引き渡されているが、まだまっさらな状態だ。
「荷物等をこちらに持ってくるので、月村さんは着替えてレッスン室に向かってください。30分後に合流しましょう」
「わかりました」
手毬に最初の指示を出すと、彼女は更衣室へと向かっていった。
「これでよし」
秋桜はパソコンや書類を机に置いてから、手毬の待つレッスン室へ向かう。
「月村さん、いまの実力を見せてください」
「……いいよ、見てて」
♪一つの夢 叶うまで負けない 行くよ
「………………」
(あまり……うまくできなかった……)
どうやら自分でもあまり納得のいく出来ではなかったようなそぶりを見せている。
「課題が見えてきましたね。それではさっそくはじめましょうか」
初日のレッスンを終えて解散し、クリーニング屋へ立ち寄って衣類を受け取ると、設置されているテレビからCMが流れる。
--竜田バーガー、今日から--
(すごいリムジン……)
ドライブスルーのレーンに並ぶと、おおよそハンバーガー屋に不釣り合いなリムジンが一台前にいて、随分長引いているみたいだ。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ!」
リムジンが発車すると、金髪を三つ編みにした店員が声をかけてくる。
(可愛い店員さんだな、……世界一は言い過ぎかもしれない?)
「竜田バーガーのセットでお願いします」