学園アイドルマスター〜コスモスと青い不死鳥〜 作:kimberlite
日曜日、秋桜は紙袋を持って学園から寮の入り口に足を運んでいる。その脇を通り過ぎる1台のリムジン。
(この前とは違うリムジンだ。この辺りってリムジンの行き交う超高級住宅街なんだっけ)
そんなことを思いながら、寮にたどり着く。入り口には、金髪を三つ編みにした少女が桜を掃いていた。
(この子、どこかで見たような)
秋桜は彼女に声をかける。
「すいません、姫崎莉波さんをご存知ですか?」
「わっ、えと、莉波先輩ですね。」
--ここで何をしているんです?--
背後から囁きが聞こえると同時に、秋桜は腕を決められる。
「……っ、ぐ……あぁっ!?」
「抵抗は無駄ですよ。格闘技を嗜んでいるので、大丈夫かい、ことね」
苦悶の声をあげる秋桜を尻目に、腕を決めていた少女は金髪の少女に声をかけている。
「麻央先輩!?……ってやりすぎです。この人血を吐いてますよ」
「えぇっ!?」
少女は、決めていた腕を離すと、こちら側へ様子を見に来る。
(服にはついてない……ん?)
「ことね、この人を寮の管理室へ」
「え、でも……」
「大丈夫、ボクが保証する」
秋桜は、2人に連れられて、寮の管理室へと運ばれた。
「すいません、大丈夫ですか?」
「ゔぅ……なんとか」
寮の管理室にて、腕を決めていた少女が秋桜に話しかけると、秋桜は、声が出にくそうにしている。
「莉波が服を貸していた幼馴染ってあなただったんですね、ボクは有村麻央、初星学園の寮長をしています。あの紙袋の中も確認しましたが、莉波に返す服でしたし、ボクの早とちりで、本当にすいません」
「大丈夫」
頭を下げる麻央に、掠れた声で秋桜が答える。
有村麻央、かつては有村あきらという芸名で活動し、ローカルCMにも出演していた実力者だが、成長とともに変わるイメージと自らの方向性に苦悩している。その人柄や言動から「リトルプリンス」と慕われているが、それもまた不本意なようだ。
(贅沢な悩みだと言えば、それまでだけども、本人は真剣に悩んでいるわけだし、安易なことは言えないよね)
「この荷物は、ボクが莉波へ返しておきましょうか?」
麻央の提案に秋桜が頷くと、ようやく解放される。
(誤解とはいえ、大変な目にあった……)
秋桜が学園へと戻り、課題や事務作業に勤しんでいると、プロデューサー室の扉が開いた。
入ってきたのは秋桜よりも長身でポニーテール姿の女子生徒、威厳のある出で立ちをしている。
「失礼する。生徒会副会長、雨夜燕(あまやつばめ)だ。単刀直入だが、秦谷美鈴という生徒を見なかったか」
燕と名乗る少女は、秋桜に尋ねる。
(秦谷美鈴……月村さんの幼馴染で、かつてのユニットメンバー、現在は絶縁中のはずだが)
「いえ、来ていませんね。ここは月村手毬のプロデューサー室ですし」
「確かにそうなのだが……。その声、星南に怒鳴った時の後遺症か?」
掠れた声で秋桜が答えると、その声を聞いた燕も心当たりがあるかのように尋ねてくる。
「いえ、これは……」
「そうか、まあ自愛してくれ」
少しぶっきらぼうに、気遣う一言をかける燕。風貌や口調とは裏腹に、ヒーローのような面倒見の良さを持つ彼女が慕われているのも頷ける。
「さて、ここも違うとなると……!邪魔したな」
燕は窓の方へ一瞬目をやると、勢いよくプロデューサー室を後にした。秋桜は机に戻り、手毬のレッスン中の動画を再生し始めた。
(さて、そろそろ帰るか……ん?)
秋桜がプロデューサーを出て駐車場へと向かっている。プロデューサーの業務には担当アイドルの送迎もあるので、運転免許はプロデューサー科入学要件の一つだが、初星学園の立地や、秋桜のように運転に慣れる目的で車で通う者もいる。
その途中、明らかに困ってる様子の女子生徒を見かける。
「うぅ……ど、どうしよう……」
「お困りですか?」
リボンで編み込んだハーフアップ姿の子に秋桜が声をかけた。
「えっ?あっ!あの……その……ええと……」
「失礼しました。私は長沢秋桜、プロデューサー科の生徒です」
「か、葛城(かつらぎ)リーリヤ、です。驚いてしまって……」
目の前の生徒、リーリヤは縮こまり気味に秋桜の方を見る。気弱そうな仕草で草食動物的なのに、そこはアイドル候補生、瞳の奥に奥に秘めた輝きと勇気はなんら見劣りのするものではない。
「いえ、突然話しかけたこちらが悪いんです。お困りの様子だったので、つい」
「えっと……礼拝堂の場所が……わからなくて」
(礼拝堂は確か、駐車場の向かいだったような……)
「では、途中まで一緒に行きませんか?そちらに向かうところだったので」
「え……?えっと……とても、助かります。お願いしても、いいですか?」
秋桜とリーリヤが歩き出し、それぞれの目的地へ向かう。
「……へえ、葛城さんは日本に来たばかりなんですね」
「はい。入学に合わせて、こっちに渡航してきたので……」
(慣れない場所で迷えば、心細くもなるよね)
そうして歩きながら、話していると次第にリーリヤの緊張もほぐれ、礼拝堂が見えてくる。
「見えてきたね。もう大丈夫かな?」
「はい、ありがとうございました。センパイ」
「センパイ?」
「同じ学園に通う年上の方を、センパイとお呼びするんですよね?」
「ま、まあ……そうかな」
リーリヤを見送った秋桜も帰路へとつく、カーラジオからは野球中継が流れている。