私は花の魔術師、キングメイカー、マーリンさんだよ!
Fate作品における偉大なるグランドキャスター、夢魔たるロクデナシことマーリンを知る人は多い。
元はアーサー王伝説の登場人物で、予言者である。
が、そもそも私は正確に言えば彼ではない。
幻想的な花畑と塔の上にて。
香る花は神代の神秘に満ち、照らされる光は現実の太陽光ではなく概念たる導きの光である。
ここは私ことマーリンが作った仮初の異界。
そして私は転生者。
マーリンに成り代わった、どこにでもいる凡夫の一人に過ぎないのである。
私が生まれ落ちたのは2500年前だ。
墜落、と言って差し支えなかっただろう。
未開でしかなかったブリテン島へと突如マーリンの姿で放り出された私は、そりゃもう苦労した。
私は物珍しさに追われることになったし、世間知らずで散々利用され散らかしたし。
幻術を使う私にとって人々を巻くことなど些細なことだったが、人間不信になることは避けられない。
それから各地を放浪した時期もあったか。
当時栄えていたギリシャを放浪して、いつのまにかローマの夜明けも迎えていたのでそちらも見学に向かって。
神の子に僭越ながら千里眼でアドバイスをご提供したのもいい思い出だ。
概ね、この世界に神秘は存在しない、いや、かろうじて存在はするがそれは私と形式が違うものと言えばいいか。
星の内海は存在せず、セファールは飛来せず、根源の渦は存在しない。
ここはタイプムーンの世界ではない。
私はその中においてただ一人の神秘の執行者であり、魔術を利用するものである。
つまり自由になんとでもできるということだよ君!
さて、どうでもいい昔話はこの辺までにしておこう。
私の一日は昨日も変わりない。
野の花を摘んで魔術薬品を作り、編み物をして過ごし、時々千里眼で地上ウォッチングをする。
ここ、私の作った仮初のアヴァロンはいつも通り稼働していて、あの世とこの世の境にてのんびりとした時間が流れている。
そんな時である。
珍客が現れたのだ。
不意に現れたのは男性であった。
浅黒い肌、淡い金髪にスカイブルーの瞳は国籍がよく分からない。
どこか見たことがある気がするが、はて。
男はどさりと花畑に投げ出されている。
私は慌てて彼の霊体に防護魔術をかけた。
特殊な花が咲き誇り、ここはFate世界の神代にほど近い魔境だ。
あっという間に魂が壊れること間違いなし。
私が防護魔術をかけられなかった出現の一瞬で肺が壊死しかけていたので、そちらも新しいものと取り替えておく。
しばらく失神していた男は、むくりと眠たげに目を擦ってから驚愕に跳ね起きた。
「……な、これは?」
ヒヤシンス、ライラック、のいばら、金木犀、すいせん、草イチゴ、みちのくこざくら。
季節も場所もまるで無視した見渡す限りの花畑。
風と共にふわりと舞う花びら。賑やかしくも調和した花々の芳香。透き通るような蒼天。柔らかく丘を照らす春の日差し。
そんな景色に、男は言葉をなくしているようだった。
さわやかな風は心地よく吹き抜け、髪を揺らす。
まさに古代の人々が思い描いた極楽の地、理想郷、シャングリラ。
ここはそのようにデザインされた楽園、全て遠き理想郷(アヴァロン)である。
「…………」
男は言葉もなくその楽園の具現を眺めていた。
私は千里眼で男の状態をつぶさに確認した。
どうやら魂の共振で、寝ている合間に自然と意識が引き寄せられてしまったらしい。
それ自体は間々あることだ。
私も覚えがあるし、その度に記憶を消して送り返していた。
だが問題は、そういう人間は往々にしてとんでもなく疲れているということだ。
普通、魂が体から自然と離れて良いはずがない。
それがなされてしまうほど死に瀕していたということだ。
単純に過労死寸前に疲れていることもあれば、重病人、あるいは自死する直前のこともある。
この男も何かしら問題を抱えていると見て間違い無いだろう。
男は未だ常のようには回転しないのか、ぼんやりとした様子で楽園を眺めている。
もしかしたらここを夢だと思っているのかもしれない。
半分は正しいが、早めに帰ってもらわねば困る。
私は塔から顔を出して声をかけた。
拡声の魔術だ。
「おや、これはまた随分と珍しいお客さんだね」
「っ!?」
男は瞬きのうちに戦闘態勢を整えた。
小さめの拳銃を構え、すぐに動き出せるように重心を下げる。
素晴らしい反射神経だ。
どこぞのエージェントだとして何ら疑問では無い。
「そんなに警戒することはないよ。私は何もしないから」
再度男に声をかける。
できるだけ声はゆったりとして穏やかに。
この花畑と同じ、優しさと平穏に満ちた声を意識する。
いつもやっていることだ。
「どこにいるんです?僕をこんなところに連れてきて、何の用が?」
男は四方に注意を向けながら問いかけた。
どうやら私の居場所がわからないらしい。
たしかに拡声の魔術を使うと空間から響くような声になって、どこに声の主が居るのかの判別を著しく難しくするが。
というか、塔自体が見えてないんだ。
そう言えば花畑に日差しを当てるために不可視にしたんだったか。
私は慌てて言葉を紡いだ。
「ああ、今は塔を不可視化させていたんだった。ごめんよ、すぐに見えるようにするから」
ふわり、と風が舞う。
この花畑に吹く穏やかで優しい風。
花びらが顔面に舞い上がり、男は腕で目を覆った。
そして目を開ける。
「……っ、う、浮かぶ、塔……?」
それは常識を遥かに超えていたことだろう。
高層ビルほどの高さの塔。
貝殻を砕いたような純白の壁、カトレアの花のような繊細で高貴な紫をした螺旋階段。
遥か上に見える金色の部分は釣り鐘と飾り彫刻だ。
その魔術的意味合いは読み取れないだろうが、美しさは伝わるはずだ。
その全長50メートルは下らない建築物は、間違いなく宙に浮いていた。
「上から失礼、私はここさ」
塔の上層、物見台のようになっている部分から身を乗り出している私の姿に、男はやっと気が付いたようだった。
「貴方は……」
「私はマーリン。花の魔術師で、この理想郷の住人だよ」
長い白髪には青とも紫ともとれるだろう。
ゆったりとした白いローブには草花をモチーフにしたと思われる飾りをつけている。
その姿は紛れもなく「あの」マーリンの姿である。
高度なコスプレとは言ってはいけない。
「さあ、君もそんなところで立っていないで、塔の中へ入っておいで。久しぶりのお客さんなんだ、もてなすぐらいはさせておくれよ」
「……では、お言葉に甘えて」
男が警戒を解く様子はなかった。
その上であえて私の誘いに乗っているようだ。
危険だがあえて誘いに乗ることで、現状の理解を最優先としたのだ。
紫色をした幻術で編まれた螺旋階段をのぼってゆく。
上っても上っても地平線は花畑で、この空間の異常性が浮き彫りになる。
実は向こう側はアヴァロン本島となっていて、リンゴの木がたくさん生えている地帯があったりする。
男が古びた木製のドアを開けて、塔の中へと入ってくる。
「っ、な!」
男が鋭く警戒の声を上げた。
ドアをくぐり終えた瞬間、景色ががらりと変わったのだ。
そこは玄関とそれに通じる居間である。
暖かなベージュとホワイトで彫刻された壁と天井。
上品な花の模様が織られた絨毯。
家具は一つ一つが丁寧に作りこまれていて、まるで貴族の館のよう。
これは本当に苦労したのだ。
実際私が一個一個アヴァロンの木を彫り起こしてして作った一点ものだ。
このあの世とこの世の境に、現実の家具を持ってくることはできなかったし。
絨毯も綿花栽培からはじめている。
天窓から差し込む陽の光が室内を明るく照らしていて、照明がなくても常に明るい。
奥に見える豪華な彫刻のなされた巨大な螺旋階段から、私はトトトと顔を出した。
「やあ、来てくれたんだね。君は随分と警戒しているようだったから、このまま帰ってしまうかと思ったよ」
「あいにく、帰り方が分からないものでして。この花畑と言い、空中に浮く塔といい、僕の知らないものばかりだ。何か情報を知っている人間がいるなら話を聞くことぐらいはしますよ」
「帰り方が分からない?なるほど、君は来たくて来たわけじゃないのか」
私は頷いた。
現実逃避気味にここにくる人と、訳もわからず飛ばされてしまう人がいるが。
この青年は後者ということらしい。
「僕は自室で寝ていたはずなんですけどね。気づいたらこの花畑に居ました。誰かが連れ去ったのか、薬物でも投与されたのか、それとも僕の見ている夢なのか。まったく、分からないことだらけです」
「それは災難だったね。意識して来たわけじゃないとするなら、迷い込んだというのが正しいだろう」
「迷い込んだ?」
「そうとも。君が寝ている夢が、この理想郷と偶然繋がったのさ。君の夢の波長が
私の説明に、青年が「何を言っているんだコイツは」みたいな顔をした。
電波君ですまんな。
「すみません、吸い寄せられた、とはいったい?」
「ああ、ごめんごめん。えっと、結局これは君にとってただの夢だ、ということだよ」
「夢……?」
雑な説明に青年はつい眉間にしわを寄せたらしい。
本当のこととは言え、雑に括りすぎたか。
あまり不審に思われては困ると、私は言葉を急いだ。
「わわわ、待った待った。疑わしいのは分かるけど結論を急がないでおくれ! ほら、今から夢だという証拠を見せるから」
手を背中の後ろに回し、次の瞬間には背丈を超えるほどの大きな杖を取り出して見せる。
これはあれだ、マーリンの持ってるあの捩れた杖だ。
特に意味はないが、私の自己暗示のための媒体ぐらいの効果は果たす。
青年が片眉を吊り上げた。
「手品、の類ですか?」
「いや、ただの魔術だよ。ちょっと待ってね」
捻じれた木の杖には金属製の棒と紫色をした布が巻き付き、複雑に絡み合っている。
まさに魔法の杖、と呼ぶに相応しいものだろう。
とは言えそれは見た目だけで、実際魔術的な意味は意は皆無に等しい。
幻想種もいないし、強い魔術を使う意味合いもなかったからな。
私は己一つで魔術を成立させているのみ。
その杖でトントン、と軽く二回床を叩いた。
瞬間。
「っ! な、落ち、ッ!」
「大丈夫、落ちたりしないよ」
床も天井も壁も、全てが消え去って頭上には太陽が見える。
足の下は遥か下に花畑。
塔そのものが全て消え去って、まるで花畑の上に浮いているかのような感覚だ。
通常お昼寝モード。
このまま傘をさしてふわふわゆらゆら昼寝をすると大変気持ちがいいのだ。
青年は未だ動揺しているのか、バタバタと足を動かしている。
「俺は……浮いている、のか?」
「塔そのものを消してみたんだ。どうだい?空中に浮くというのは実に魔術っぽくはないかい?」
私は杖を抱え込んでハンモックに寝そべるような恰好をした。
腕を枕代わりにリラックスし、男の隣でふわふわと浮いている。
「僕はこうやって昼寝をするのが何より好きでね。君も疲れているようだし、少し休んでいったらどうかな」
「…………」
男は無言のままその幻想的な景色を見つめた。
とろり、と瞼が少しだけ落ちる。
もともと極限まで眠かったのだろう。全身が疲労を訴えて、意識を保つのもままならない。
男はぼんやりと言った。
「ここは、夢、なのか……?」
「そうとも。ここは夢の中。全て遠き理想郷。人理を見守る物見の台。全てが許される罪なき楽園。――だから、君も少しぐらい気を抜いたって平気さ」
私はごろんともぞもぞ寝る体勢を整えた。
この青年はしばらく寝かしといて、眠りが満ちたら返してやればいいか。
どうも眠りの浅いタチのようだし、たまにはしっかり眠らないと体に悪かろうよ。
男はふわふわと花畑の上空で浮く体から力を抜いた。
未だ警戒の残る体が、私のわずかな魔術で弛緩していく。
「ゆっくりお休み、人の子よ」
そうして男は穏やかな微睡へと落ちていった。
眠る人の子をじーっと見て、それでようやく気がつく。
一時期サンデーでずっと表紙を独占してた人!!!!
名探偵コナンの人気イケメンの…ほら、あれだよ。
あれ………なんとかピとかいうやつ。
ガンダムがどうとか…?
私は首を傾げて腕を組んだ。
つまり知らん人だな。
・花の魔術師
一人称ではわからないが、基本マーリンのロールプレイをしている転生者。
本性は超内気なので自分をマーリンだと思い込むことで会話している。
降谷零のことを微妙に覚えてない。