3日間の尾行は無事に完了したらしい。
コナンくんとも探り探りではありつつ、降谷くんは距離を詰めているようだ。
事務所でゲームをしているふりをして、コナンくんが振り返らないまま降谷くんに声を投げる。
「安室さん、本当はダメな探偵さんなんかじゃないよね?」
「うん?慰めてくれてるのかい?」
わざと外した回答をしたのは、コナンくんを確かめるつもりだったのだろう。
ポアロからの差し入れと言ってお盆を持ったままぶらついていたのは、コナンくんに話しかけられる機会をわざと作ったから。
計算づくで、それをコナンくんもよくわかっている。
「見てたんだ、こっそり。わざとセオリー外してたよね。曲がり角で急ごうとしたり。真後ろに入ろうとしたり」
「嫌だなぁ、いくら僕でもわざと酷いことはしないよ」
「僕が見てたことも知ってるよね」
降谷くんがにっこりと笑顔を作った。
爽やかだが底知れない、どこか含むところのある笑顔。
コナンくんも子供の顔をしながら声は静かだ。
嘘つき同士の腹の探り合いということなのだろう。
これで仲はいいのだから、訳のわからん関係である。
降谷くんは念話で私に声をかけた。
『絶対子供じゃないだろこれ。マーリンと同じ妖怪の類か?来歴はわかるか?』
『私の目は現在しか見えないし、見ようと思わなければ見えないよ。気付けば現れたとしか』
『戸籍も住民票もないし、ますます怪しい』
コナンくんについて知らないふりをしたのは、本当に私が見ていなかったからだ。
前世の記憶、すなわち「名探偵コナン」と近しい状況であることは間違いない。
でも事実と断定できない以上、軽々に私の口から語ることはできない。
私の語ることは真実として受け止められるのだから、厳に言葉を選ばねばならないのだ。
と、そのあたりで毛利探偵がコンビニから帰還してきた。
タバコが目一杯詰まったレジ袋を抱えて、毛利探偵が泡をくって事務所内に駆け込んできた。
「おい、ニュースを見たか!」と叫んでいる。
きょとんとして降谷くんが首を傾げた。
「いえ、まだ」
「根岸正樹が殺された!俺たちが尾行してたやつだ!」
目を見開き、次の瞬間すう、と目を細めて私に声がかかる。
『マーリン』
『赤鬼村の火祭りで使う矢倉の中から焼死体で見つかったようだね。歯形から根岸正樹だと断定。五億の保険金がかけられていたようで、他殺の線が濃厚』
『受け取り手は誰だ』
『会社社長の阿部豊。つまり君たちの依頼人だ』
『やはりか』
私にかかれば捜査資料の盗み見くらいわけないからな。
証拠のいらない方法で情報を抜く時はいつもこうだ。
降谷さんが顎に手を当てて考え込んだ。
『元々、これは怪しげな依頼だからちょうどいいと思って使ったんだ。奴に多額の借金があることはわかっていたからな』
『コナンくん、目が輝いてるようだね』
『やっぱり人間じゃないんじゃないか?謎を食う妖怪とかだろ』
『いやぁ』
ちょっと私の視点からもここまで輝く生き物は人間とは言い難いから微妙な気持ちにはなる。
でも多分人間で間違いないんだがなぁ。
毛利探偵が荷物をガサガサとまとめて荷造りしている。
どうやら出かけるようだ。
「安室も行くぞ。警部殿が呼んでるんだ」
「お知り合いなんですか」
「俺が捜査一課にいた頃の上司だよ」
「エリート中のエリートじゃないですか!流石毛利先生!」
「昔の話だ」
なんだかダンディに流したが、確かに捜査一課の刑事なんて刑事の花形だ。
もちろん降谷くんも事前に知ってて褒めている。
「僕が警察学校時代射撃のスコアで抜けなかった人だ」と言っていたっけか。
おとぼけ風に見えて、ある程度本音で褒めていると思われる。
コナンくんが「僕も行く僕も行く!!」と舞い踊って拳を落とされている。
ごちん!と痛そうな音が響いた。
おお可哀想!怪異だって痛いものは痛いのに!
いやコナンくんは怪異じゃないけど!
すぐさま降谷くんがフォローに入る。
降谷くんのとりなしで連れて行ってもらえることが決まり、コナンくんの瞳が輝いた。
ニコッと笑って「しー」とポーズを決めた降谷くんである。
仲良くなりたい、あわよくば謎を食う怪異(暫定)を利用したいという表れなのだろう。
コナンくんはちょっと警戒しつつ、その手を取ったようだった。
あ、そろそろ洗濯物洗い終わる、と私は慌てて視界をそのままに別窓に視線を戻した。
ととと、と階段を駆け上がって洗濯室へと行く。
階段ばかりであんまり住み心地は良くないが、夢魔である私はそこまで疲れないので問題ない。
たどり着いた先の部屋には、家庭用洗濯機がドン!と鎮座している部屋だ。
もちろん水道なんて通ってないし、排水設備はない。
電気なんてもっとない。
でもゴウンゴウンと洗濯機は動き、ピョロピョロと音楽を鳴らして洗い上がりを連絡してくれた。
よし、ジャスト到着。
放置すると生乾き臭どころか花が咲くんだよね。
この洗濯機が動くのは、要は概念だ。
この機械は布を洗うために一から設計され、作られた。
その概念がある限り、多少要素が足りなくてもこのアヴァロンでは動作が可能であるというわけだ。
中から諸伏くんの分も含めた洗濯物を出し、杖を一振り。
それだけでポンと塔の外側の洗濯物干しスペースに洗濯物が移動する。
常春の気候に置いておけば、洗濯物もすぐ乾く。
外の花は概念の花なので、花粉症にも苦しまなくて済むし。
とことこと顔を出した諸伏くんが私に声をかけた。
「おーい、マーリン、塔内の掃除機がけ済んだぞ」
「ありがとう、大変だったろう?」
「やっぱ広いな。でもコードレス掃除機が無限に動くのは卑怯じゃないか?ダストボックスの中も気にしなくていいし」
「あくまでここはあの世とこの世の境、概念の世界だからね。掃除のために作られたなら無限にも動くさ」
そのように私が設計したとも言う。
このアヴァロンより下はあの世だ。
この世界に固有の世界で、地域にもよるがナザレの親友の方がよく知る世界が広がっている。
これより上は現実世界。
物質と物理法則のみに支配され、人理のない世界である。
ただ、現実世界は私の世界の剪定という行為の結果、歪みが生まれて怪異として現世にこぼれ落ちる。
神格とは怪異である。
歪みの力が人の願いを受けて形となったもの。
まあ、そのように世界は回っている。
諸伏くんがじーっと私を見て、眉を下げた。
「それ、たんこぶか?腫れてるけど大丈夫か?」
「えっ」
こめかみを手でまさぐると、また角が生えてきていた。
最近多いんだよなぁ。
やば、と杖の先にビームソードを出現。角を切り取って滑らかにする。
諸伏くんが唖然として目を開いた。
軽く滑らかにした後、髪を整えて跡を隠す。
脳内ナザレの親友が「自罰的になると生えてくるよね。良くないよ。塔の周りを毎朝散歩しよう」と注意してくる。
せやな……気分がジメジメした時は散歩するに限るな。
手元には切り落としたツノのかけらが残された。
少し考えてから、フォウくんの彫刻にして諸伏くんに渡しておく。
「えっ頭蓋骨の彫刻もらった。なにこれ。可愛い。魔法少女のマスコット?」
「持ってておくれ。強力な魔除けになるから」
「わかった……?でも生頭蓋骨はちょっと気持ち悪」
「捨てないでね!」
私はシクシク泣いた。
本当に強力な魔除けになるし、その角見るだけで怪異は一目散に逃げてくから!
脳内ナザレの親友が「でもちょっと趣味悪いよ…ツノその場で切って渡すのはさ…」ともっともなことを言う。
親友のそのいつも常識人なとこ嫌いじゃないよ。
というわけで。
結局、降谷くんとコナンくんは無事に交流を深められたらしい。
今回の事件でお互いの実力はわかったらしく、少しだけ仲良くなったのが見られたのであった。
・ツノのお守り
一等惑星級のビーストがこっちを睨んでくる。
怪異は死に物狂いで逃げる。
可愛いデフォルメフォウくんの形。
・家電
近年になって導入された便利家電。
「家事の時間を大幅に短縮してくれる家庭の魔法」としての概念を抽出して利用している。
魔術として燃費が良く洗い残しもないためすごく便利。
食洗機とTVとWifiも導入してる。