本日、降谷くんが私の肩揉みに従事している。
そしてコーヒーを淹れてくれている。
ニコニコしている。
私は落ち着いてコーヒーを飲み、口を開いた。
「凄い忖度を感じるんだけど、何かな降谷くん。僕に何を頼みたいのかな」
「はっはっは。なんのことかな。あっ、コーヒーおかわりいるかい?」
非常にわかりやすくごまスリしつつ、降谷くんはポアロ店員の振る舞いで私にコーヒーを淹れた。
あれからコナンくんとの仲を順調に深めつつの今現在。
バーボンの仕事も順調な彼は、あいも変わらず忙しい日々を送っている。
すっかり「探偵・安室透」の顔も馴染んだようで、毛利探偵に付き合って飲むことも増えた。
そのクソ忙しい降谷くんが、アヴァロン到着すぐベッドルーム直行爆睡でないということは、つまりそういうことなわけで。
私がジトリと降谷くんを睨みつけると、降谷くんはようやく観念したのか渋々話し出した。
「マーリン、君に助けて欲しい人物がいる」
懐から取り出した写真を一枚、机に放る。
そこに写っているのは一人の女性だ。
隠し撮りなのか視線はあっておらず、やや穏やかならぬ雰囲気を醸し出す。
ちなみに、このアヴァロンには身につけたものがそのまま持ってこられるように細工をしてある。
降谷くんもアヴァロンに私物のメモなどを持ち込みたい時が間々あったから、そのための処置だ。
同じく持ち出しも可能。
向こうでスーツ姿のまま行き倒れてアヴァロンに入って、誤ってマッパで帰還ということも一回あった。
夜は裸族な降谷くんが悪い。
諸伏くんは吹き出していた。
ともかく、今は写真に写る女性のことだ。
「彼女は宮野明美。今、組織で危うい立場にあるんだ」
「いいけれど、君の知り合いとかかい?」
「幼馴染だ」
その言葉に、にゅっと私たちを覗き込んだ諸伏くんが声をあげ上げた。
「見たことないな。もしかして女医さんところの娘さんか?」
「ああ。エレーナ先生の娘だ。ジンに何やら目をつけられているんだが、バーボンの立場では関わりが薄くて助けられなくてな」
降谷くんは憂鬱そうに視線を下げた。
幼馴染か、そりゃ助けたいに決まっている。
手っ取り早くアヴァロンに引き込むか……と、思っているところに降谷くんが決意を込めた様子で顔を上げた。
「そこで、君を僕の計画に利用したい」
「というと?」
「僕が悪魔契約をしているというのは周知の事実。そこで、彼女が生贄として適切だということにする。つまり僕に身柄を引き渡してほしいとジンに交渉を持ちかけるつもりだ」
諸伏くんが「なるほど!」といってポンと手を打った。
「悪魔イメージを使うのか!バーボンが悪魔との契約のために邪悪な儀式で生贄に捧げる乙女を探してた、みたいな設定でいくってわけだな!」
「まあ、そうなる。これなら宮野明美の助命嘆願のようにも映らない。どうせ宮野明美は死ぬ……ように人の目には映るからな」
「考えたなゼロ!」
私もこれにはピンと来た。
なるべくおどろおどろしくアヴァロンに引き摺り込んで、死んだように見せかけるのだ。
肉体ごと引き摺り込むから、下準備をしても半年は出られないが……。
まあ、仕方ないと思って諦めてもらおう。
実際、その設定には意外と無理がない。
バーボンはもうすっかり悪魔使いとして定着している。
下っ端には避けられてるし銀髪くんには「悪魔をよこせ」と詰め寄られている。
ちなみに、この世界にも悪魔は実際存在している。
在り方は幻想種としての悪魔に近いが、この世界独自の形態だと言えるだろう。
聖書に記されたそれではなく、妖怪の類といったらいいか。
契約できるが、絶対陥れようとしてくるので人間は手を出さないこと。
「それ、公開イベントのほうがいいかい?ほら、邪悪な儀式をみんなの前でお披露目的な」
「そうだな、そうしよう。どうせならそれをジンの交渉材料にするか。悪魔見たいだろ的な」
私はちょっと立って、魔術でささっと家具を退けてスペースを作った。
床のフローリングに赤い円を出現させる。
「おお、それっぽい」と二人が興味津々で覗き込んだ。
とはいえ、これはただの赤い円だ。
その中に魔法陣を書き込んでいく。
聖杯戦争における歴史あるサーヴァント召喚用魔法陣だ。
この世界には人理がないので実質私専用の召喚陣である。
ついでに霧と燐光を追加。
照明を消して怪しげな雰囲気が出るか確認して微調整。
次いで召喚陣の下を水底のようにして、その下に人類悪顕現風の姿を幻覚で覗き込むように出現させる。
召喚陣の真ん中に立って下を見ると、地面から巨大な怪物が覗き込んでいるという構図である。
「えっ凄い。かっこいい。俺の中の少年の心がワクワクしてる」
「これは凄いな……演出としては十分すぎるぐらいだ」
諸伏くんがキラキラと目を輝かせているので、私は胸を張った。
えへんと自慢げだが、実際この怪物の姿を見る時は人類は死滅する時である。
私が人類悪顕現したらこの姿になる予定なので。
しばらく演出でみんなでブレインストーミングしながら、私たちはワイワイした。
邪悪な紋章が浮かんでだんだん生贄が生きながら腐肉と化して崩れていく演出とか。
巨大な鉤爪が女を掴んで地面の下に引き摺り込むとか。
バーボンの詠唱についても厨二病満載な意見が飛び出し、諸伏くんがポカってぶたれる一幕もあった。
恥じらった降谷くんによる拳の乱打だ。
恥じらいという可愛らしさを感じさせない威力だった。
まあ、あとは銀髪くんに声をかけるだけである。
某月某日。
降谷くんはいつも通りの格好でアジトに来ていた。
スラックスに黒のジャケットは夜のお店にいても何らおかしくはない色男だった。
品のいい、というには少し妖艶か。
薄い黒のハーフグローブがしなやかに胸元を直す。
「ジン、少し話があるのですが」
「あぁ?」
銀髪くんがジロリと目線を鋭く振り返った。
これでも、悪魔の噂が出回ってから降谷くんへ向ける態度は随分と軟化したらしい。
NOCと疑わなくなったとのこと。
なのでこの殺気に満ちた鋭い視線に別段思うところはないという意味である。
降谷くんは肩をすくめた。
「単刀直入にいうと、宮野明美が欲しいんです。そこで管理人であるあなたに声をかけさせてもらいました」
「どういう風の吹き回しだ」
「僕もそろそろ契約更新の時期が来ましたので、相棒に代金を渡すつもりなんですが。それにちょうどいいのがあの女なんです」
降谷くんの言い回しに、僅かに興味が出たのか銀髪君が目を見開いた。
「………ほぉ?だが奴には任務がある。タダで持ってこうってんじゃねぇよな?」
「もし引き渡していただけるなら、契約の場に立ち会ってもらっても構いませんよ。相棒も来ますし。まだ見たことなかったでしょう?」
「ふん」と鼻息だけを漏らして、銀髪君はタバコを咥えた。
「宮野明美はどうなる」
「さあ。死ぬんじゃないですか?死ねないかもしれないですけど。それは相棒の気分次第ですね。僕の関与する部分ではないので」
にたり、と銀髪君が邪悪に笑う。
悪魔はお前の方だろうという顔でタバコをふかす。
間違いなく私より悪魔適性あるよ。
「いいだろう。俺も悪魔とやらのツラを拝んでみたかったんだ。……任務は中止だ。どうせあの女には成し遂げられなかっただろうしな」
「ありがとうございます。良い取引でしたよ」
「あの女は呼びつけておく。日程は後ほど連絡する」
スムーズにこと後が進み、降谷くんの足取りもやわらかだ。
私は一応降谷くんに一言言っておくことにした。
『話を盛るのは良くないよ。私が女性を弄ぶ悪逆非道な悪魔だとでもいうのかい?』
『仕方ないだろ。そうしないと話がスムーズに進まないし。マーリンはあのおどろおどろしい格好で行ってくれ』
『仕方ないなぁ。人類悪顕現しかけた時の姿でいいかな。本性見せてく感じで』
『えっあれが本性なのか?』
ややびっくりさせてしまったので、私はパタパタと無意味にばたつかせた。
いや本性ともいうけど、一面的な見方過ぎるというか!
『言葉のあやだよ。夢魔なんだから人間に姿が似てないと意味ないだろう?』
『本当だろうな。あの怪物姿だったら乗せて飛んでもらおうと思ったんだが』
『なれなくもない。人類滅ぼすぞ!という気合を入れるとあのドラゴンになれるよ』
『前言撤回。そのままのマーリンでいてくれ』
わいわい談笑しつつ、私はふと脳裏によぎる不安があった。
その生贄の女性、家族や親しい人とかいないよな?
今回のやり方だと、場合によっては家族とかに凄く恨まれるぞ。
まあ降谷くんだしそのぐらいのこと考えてるか。
そう思って、私は頭を振って不安を追い出したのであった。
・うっかりミス
降谷「志保さんは研究者として立場があるから消されないし、明美さんさえこっちで保護すれば万事解決!まったく、赤井が責任とって彼女を保護するべきだったんだぞ!」
志保「お姉ちゃんがバーボンに無惨に殺される件」
赤井(組織の刺客を華麗に全避けしている)