マーリンなオリ主と降谷零   作:ラムセス_

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宮野明美救出作戦

 

 宮野志保は珍しく支部に顔を出したのを後悔した。

 

 これがジンの計らいだったのかはわからない。

 ただ、提出しなければならない書類があったので顔を出して、休憩室で一服してから帰宅しようとしただけだ。

 

 狭い休憩室にズカズカと現れて、ジンとウォッカはニタニタと宮野を見下ろした。

 コーヒー缶を握る指に力が入る。

 

 ジンが嘲るような笑みで鼻を鳴らした。

 

「よお、シェリー」

「何よ。薬の進捗はまだ報告できる段階に来てないわよ。それとも、渡していた新薬で妙な結果でも出た?」

 

 この銀髪の大男に声をかけられると、碌でもないことばかり起こる。

 この間も、急な仕事を入れられて姉妹で立てていた外出の予定がおしゃかになった。

 

 ジンは顎をしゃくってウォッカに指示を出した。

 

「テメェに土産だ。見てぇだろうとおもってな」

「ほらよ、たっぷり拝みな」

 

 ウォッカがドンと机に乱暴に置いたのはタブレットだった。

 それから少し考えたような様子を見せて、ウォッカが二人を見上げる。

 

「それより、シェリーのやつは宮野明美の死について知ってるんですかい。何の説明も無しだとワケ分かんねぇんじゃねえかと」

「ああ、そうだったな」

「!!!ちょっと、どういうことよ!!」

 

 聞き捨てならない単語が耳に飛び込んで、宮野は立ち上がった。

 姉が死んだ?冗談も大概にしてほしい。

 

 きっと睨みつけると、余計におかしそうに気色の悪い笑みを浮かべ、ジンは口を開いた。

 

「あの女は死んだ。人として最悪の最期とともに、無惨にな」

「………!」

「ありゃ壮観でしたね。人体があんなふうに急に崩れるなんざ…」

「ウォッカ、ネタバレは無しだ」

「おとと、失礼しやした」

 

 ぺこっとおどけてウォッカが頭を下げた。

 宮野は怒りと焦りとを堪え、務めて冷静に問い返す。

 

「どういうこと」

「バーボンが悪魔の生贄にあの女を欲してたみてーだからな」

「あの馬鹿らしい噂を信じてるわけ?悪魔なんているわけないわ」

「そうだな」

 

 バカにするように目を細め、ジンは同意した。

 そしてタブレットを軽く爪で叩く。

 

「見るか、シェリー。見ないっつうのなら、それでも俺はかまわねぇぜ」

「………」

 

 宮野は慎重に、ゆっくりと、ジンの問いかけに首肯した。

 

 

 見なければよかったと、今でも思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ちょっとジン、何撮ってるんですか』

『撮影禁止か?』

『別にいいですけど、相棒が上手く映らなくても苦情言わないでくださいよ』

 

 照明が落とされたボイラー室にはいくつか牢が設置してある。

 その一番広い部屋で、バーボンは佇んでいた。

 

 おどろおどろしい赤の魔法陣はコテコテで、不可思議な燐光も合わせて映画の撮影のようだった。

 その中央に、縛り上げられた宮野明美がいなければの話だが。

 

「お姉ちゃん!!!!!」

 

 思わず叫んで、宮野はタブレットに縋りついた。

 縛り上げられてはいるが怪我はないようだ。

 魔法陣の中央で「んー!んー!」と叫んでいるあたり、口もガムテープで塞がれているのだろう。

 

 バーボンは特に興味もなさそうに肩を回した。

 

『じゃあ始めます。あなた達は円の外に出て、離れてみていてくださいね』

『どの程度かかる』

『5分もかかりませんよ』

 

 では失礼して、とバーボンが手をかざした。

 ぽう、と魔法陣が光を放つ。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には花の聖者アンブロシウス」

 

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 意味のわからない文言だが、それはどうもラテン語であるらしいことが宮野には分かった。

 

 ありえざる虚空より応えよ。汝三大の言霊を纏う七天。糾し、降し、裁き給え。

 

『天秤の守り手よ───』

 

 

 光が満ち、それが瞬く間に反転する。

 赤黒い呪詛が陣から吹き出し、思わず横で見ていたジンがたたらを踏む。

 

 不意にコンクリートであるはずの床が、澄んだ鏡面のように透き通った。

 そこには暗い室内が映し出されている。

 

「あの悪魔が映ってねぇのは残念だったがな」

「壮観でしたね、女なんざ人呑みでしょうぜ!」

 

 ジンとウォッカがくだらない感想を言い合っている。

 

 そのあたりでなんとか口のガムテープを外した姉は、必死で逃げようと懸命に這いずっていた。

 その声は恐怖に引き攣っている。

 

『何よっ、何よこれ!!!!』

『ああ、動かずに。相棒に手間をかけさせないでください』

 

 冷淡にそう言ってのけて、バーボンは魔法陣の向こう側に目を向けた。

 

『ではどうぞ。契約分です。今後ともよろしくお願いしますね』

『…………』

 

 何かの唸り声が、かすかに耳に届いたような。

 

『いや!助けて!助けて!!!イヤぁぁあああ!!!』

 

 そのまま姉の体がドロドロと体が崩れていく。

 薬品をかけたかのように、ぐずぐずと頽れて、小さくなっていく。

 それは流れ出るはずなのに、ただ魔法陣の如きその下へと吸い込まれていくようだった。

 

 そうして、赤黒いシミを残して姉は消失した。

 

『はい、終わりです。お疲れ様でした』

『ふん』

『相棒、多分映ってないと思いますよ。カメラで撮ってるってわかったのか出てきませんでしたし』

『悪魔もシャイとかあるんだな……』

『人間だって無遠慮にカメラ回したら避けるでしょう。同じですよ』

 

 気の抜けた会話を最後に、ブツリと映像が途切れる。

 宮野は務めて息を沈めて口を開いた。

 

「く、だらないわ。こんな編集映像を見せてなんのつもり?」

「あの女は死んだってことだ。テメーも見ただろう、あの女が崩れていくところを」

「そんなの、あなたが殺して悲鳴だけ別撮りしただけよ」

「バーボンに聞けばいい。テメェの姉がどの程度栄養になったか」

「…………」

 

 ジンは酷薄に裏笑いを残してクツクツと笑った。

 

「ああ、そうだ。食い残しがあの部屋にまだ残っていたな。シェリー、姉の形見に回収したらどうだ?」

 

 次の瞬間、宮野は思わず走り出していた。

 一心不乱だった。他の何も考えられなかった。胸が張り裂けそうで叫び出したくて走るしかなかった。

 

 ボイラー室は地下一階だった。

 この支部は狭いから、すぐにたどり着くことができた。

 掃除もせずに放置しっぱなしで、ひどい匂いがした。

 季節が良かったのか、虫は湧いていなかった。

 

 それは、バラバラにちぎれた腐乱死体だった。

 動画では全て崩れていたように見えたのに、それは手足が残っていた。

 まるですごい力で頭と胴体だけもぎ取ったような、そんな歪な死体だった。

 人間の仕業じゃないと、一目で分かった。

 

 服は姉のそれだったが、頭はなかった。

 

 息が上がる。だんだん手先が冷たく、震えてきた気がする。

 遅れてやってきたジンがせせら笑った。

 

「これが悪魔の力か。理を無視して人を引き裂き腐敗させる。あの巨大な腕が出てきたところが動画に映ってねぇのはもったいねぇな」

「………な、んで、バーボンは、お姉ちゃんを」

「さあな。目についたんだろうよ。あの愚かしい家族愛が、捧げ物にちょうどいいアクセントになるんだろうよ」

「…………」

 

 気付けば拳を強く握りしめていた。

 でも言葉は出てこなくて、ただあの姉の悲痛な悲鳴が脳裏にリフレインして。

 助けて、助けて、助けて!!!

 

 どうしてあの場に私はいなかったんだろう、身代わりになってでも助けたのに、と今更すぎることを思う。

 悪魔が気にいるかもわからないのに。

 

「どうだ、シェリー。姉の死に様は?」

「…………」

 

 拳から血が流れた。

 涙は流れない。

 ただ息が早く、瘧の如き酷い震えが走る。

 

 どうして、なんでそんな、そんなことのために姉は使い捨てにされなければならなかったの?

 こんな最期を迎えるなんてあんまりだった。

 姉は自分のために組織に入ったのに、何も悪くなかったのに。

 愛情深い人だったのに。

 

 どうして。

 

「…………バーボン」

 

 意図しない言葉が落ちて、それは壮絶な憎しみの色を帯びていた。

 

 全ては、遅きに失していると言うのに。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、しばらくこのアヴァロンで過ごしてもらうことになる」

「祝!大歓迎!宮野さん!!!ドンドンぱふぱふ!」

「ヒロ、効果音を口に出さない」

 

 いつも愉快なアヴァロンにて、現在打ち上げ会が行われている。

 すっかり目を白黒させた宮野さんが、困ったように眉を下げた。

 

「あの、これは一体……?」

「ごほん。ここは人生一抜け組が集う楽園の淵。一度入ったら物理的に抜け出せない保養地だ!」

「さっきからヒロのテンションがおかしい。合ってないようで合ってる説明をしないでくれ」

「ハーブティー入れたよー。みんなどうぞ」

「サンキューマーリン!」

 

 皆が皆好き勝手なことを喋っていて、宮野さんは何一つ状況を理解できていないようだった。

 

 ひとまずハーブティーを宮野さんにご提供。

 動揺した宮野さんが一口ふくみ、パッと顔が綻んだ。

 美味しかったらしい。

 

 改めて、宮野さんは眉間に皺を寄せて声を強めた。

 

「あの、私は化け物に喰われたはずじゃ!」

「もちろん一から説明させてもらうよ」

 

 降谷くんが柔らかい笑顔で答えた。

 

「まず、彼が化け物の正体であり、僕が悪魔と呼んでいるもの、マーリンだ」

「どうも、悪魔のマーリンです」

「悪魔!?悪魔なの!?噂よりイケメン!」

「夢魔だから悪魔なのは間違いないよ。あの化け物姿は幻術で作ったものだけどね」

 

 一通り説明していくと、宮野さんにもだいたい納得の色が浮かんだ。

 だが同時に浮かない顔もしている。

 

「組織に妹が残ってるわ。あの子を一人にしては置けない」

「それはわかっている。でも、あなた達が二人で組織にいるだけで、お互いにとっての人質となってしまう。まずは片方を組織から引き剥がすことが必要だったんだ」

「だから……助けてくれたのね」

 

 柔らかい笑みに、降谷くんが少しそっぽを向いた。

 そして「僕はバーボンですよ。なぜ縁もゆかりもない幹部を信じられるんですか」と質問する。

 宮野さんはクスクス笑ったようだった。

 

「あら、そんなの最初から知ってたわ。ゼロくんでしょ。遠目にちらっと見てすぐにわかったわ」

「ッ!!!分かっていて、言わなかったのか」

「当たり前よ。正義感の強くて喧嘩っ早いゼロくんだもの。きっと警察官になると思ってたわ。あたりでしょう?」

「…………困ったな」

 

 本当に嬉しそうにしつつも、気恥ずかしいらしい降谷くんはさりげなく諸伏くんの後ろに隠れた。

 

「ともかく、志保に無事を知らせなきゃ!」

「ああ、それは半年待ってくれ。その方が話もスムーズだし、君らが姉妹で過ごせるよう僕らも計らうことができる」

「ここは特殊な空間でね、半年は出られないんだ。すまないね、宮野さん」

「………わかったわ。大くんに一言言うのも半年後ね」

 

 その一言で急に怒りが吹き上がった降谷くんが永劫ブツブツ赤井秀一への恨みを呟いている。

 いつも通りと言った感じだ。

 

 しかし、なんか不安みたいなものが残るが…。

 多分大丈夫なんだけど、なんか見落としている気がするなぁ。

 

 そんなふうに首を捻りつつ、私たちの救出作戦はひとまずの成功を見たのであった。

 





・人類悪顕現系の悪魔
巨大かつクラシックな黒い竜に邪悪な植物を纏わせた形。
ツノは巨大なのが4本。
顕現すると透明な花が咲き誇り、その一つ一つに理想の夢が映し出される。
人類と同数の花(鯖並)が人に取り憑くのでVSティアマト戦を思い出す物量戦になる

・志保さん
復讐の業火を燃やすが、絶望の方が強い。
原作通り自死の道に至るが、心の中は荒れ狂っている。
バーボン絶対許さん。ジンも許さん。みんな許さん。
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