マギ⭐︎マリの配信中である!
「今日は彫金について解説するよ!お兄ちゃんから設備を借りたから、今日は張り切って行こう!」
私は可愛らしくカメラの前で決めポーズを突また。
お兄ちゃんとは私本来の姿のことだ。
ちょっとだけマギマリの幻影を動かしてよそごとをしていた時、うっかり私が写り込んでしまったために作った設定である。
コメント欄には次々に視聴者から声が寄せられている。
「すごいディープな趣味来た」「今日はお兄様の趣味シリーズかな?」と疑問が届く。
私はどん、と銀鉱石を机の上に置いた。
「というわけで、彫金のための銀板をつくるため、まず精錬しようか!」
「えっ」「えっ」「えっ」
「まず岩を砕き選鉱しよう!今回は伝統的な灰吹法による鉛の分離を試していくからお楽しみにね!」
「この加速度である」「い つ も の」「またマギマリちゃん急カーブしてどっか行っちゃった」と置いて行かれた視聴者たちが呟いている。
いや原材料を用意せねば話は始まらんでしょ、と思いつつな。
「いやー懐かしいなぁ、昔は何もかも売ってなかったから、こうやって一から作ったものだよ。あっ、もちろん鏨の作り方講座もやるよ!製鉄から始めないとね」
私が可愛らしく角度を決めてポーズをする。
「原始人定期」「無人島でも生きてけそうシリーズ」「俺たちのマギマリっょぃ」と視聴者は慄いたようだった。
などといつもの通りざわつきつつ、無事選鉱と炉の材料準備まで配信できたあたりでカメラを止める。
別れを惜しむたくさんの声が流れて、私はホクホクした。
ちなみに、弊チャンネルはスパチャで身を持ち崩す人がいるといけないので少額オンリーで制限されております。
それが余計に射倖心を煽るのか、呼吸するようにスパチャを打ってくる人もいるけど。
私がふうと一息つくと、背後から声がかかった。
振り向くと降谷くんが首を傾げていた。
「何やってるんだマーリン」
「え、銀を溶かす用の炉の作成してたんだ。ここ、草原だけでちょうどいいからね」
「いや炉ならもうあるだろ。塔の裏手に工房があるじゃないか」
「配信用だよ。あれよりもっと簡単なやつで、家庭で手に入る材料で作るつもり」
「ご家庭で炉を作られても困るんだが。火事になるぞ」
降谷くんがジト目で見てくるので、私はヘヘヘッと誤魔化した。
まあそれはあれだよ…もしかしたら不要不急の転生とかで古代に飛んで困ることがあるかもしれないし。
降谷くんは大きなため息をついた。
「ヒロは?」
「図書館じゃないか?入るのがきついなら呼んでこようか」
「頼む。僕じゃ迷うのが関の山だ。まだ慣れないんだよな、あそこ」
とのことなので、とことこふたりで図書館に向かう。
塔の下にある小道は木陰になっていてとても涼しく穏やかだ。
「そういえば今度生公演することになったんだ。マギマリでさ」
「嘘だろ。あれだろ、バ美肉ってやつだろ。どこで公演するんだ?」
「バ美肉とは失礼な。生の美少女たる私だよ。ええと、旧国際競技場。意外と海外からお客さんが来るみたいでさ」
「嘘だろ」
語彙力が大幅に削減されてしまったらしい。
降谷くんは目を見開いて固まってしまった。
実際各地で小規模な公演は結構やっていたのだ。
今回は初めての旧国際競技場での公演である。
内容としてはマギ⭐︎マリのライブ、あと拡大お悩み相談室、ちょっとしたトークなどが含まれる。
海外からの客というか、法王関係者の客というべき客が多いのが特徴だろう。
霊感のあるらしい敬虔な基督教徒も時々来ていて、すごく熱心に祈っていたりする。
私はうむうむ頷いて細く説明した。
「お忍びで時の法王も来るって。すごい額のスパチャが時々飛んできてたけどさ、あれはその関係だって」
「待て、それ以上僕は踏み込むつもりはない。あと日本でそんな面倒ごとを起こすとは何事だ」
「えっ、でも法に則って公演するよ?」
「銀行口座は偽造じゃないだろうな」
「スイス連邦のだよ、ピウスに作ってもらったんだ」
「誰」
「今の法王だよ。よく夢で話をしてたから気を利かせて作ってくれたんだ」
今の法王とは就任直後からの仲である。
これは昔からの取り決めだが、就任当日の夜、まずイエスからの言伝を夢を通じて伝える。
次に使徒ペテロの後継でもあるということで、ペテロくんからの言伝も伝える。
そして軽く儀式をして、あなたが今代の法王だ、と認めた上で私との雑談タイムに入るというわけだ。
これは長い歴史において一度も変わっていないルーティンだ。
つまり何が言いたいかというとだ。
私とは結構話す仲で、マギ⭐︎マリも伝えてあるという意味である。
すぅーーー、と降谷くんが大きく息を吸い込んだ。
「つまりあれか、君は不法滞在外国人か?」
「日本には滞在してないから不法滞在外国人ではないはず!」
「つまり、公演の時不法入国する、と」
「………あー、アヴァロンはどこにでもあってどこにでもないと言うかぁ」
「臭い飯食うか」
「うす」
私がしおっとしょげかえると、降谷くんは「はぁ」とため息を吐いたようだった。
「大目に見る。その代わり会場に公安を置かせてくれ。こう言うイベントでこそ敵性スパイが動くかもしれないからな」
「もちろん。あ、今日の午後はパーティだろう?君のバーボン用の服パリッとさせておこうか」
「助かる。こう言う時マーリンの魔術が有り難くなるな。まったく、忙しくてクリーニングに持っていく暇すらない」
ブツブツ文句を言う降谷くんは疲れ切っている。
どうやら毛利探偵と森谷帝二という人物のパーティに呼ばれたらしく、そちらも何やら事件を呼びそうだ。
居間にたどり着くと、そこではまた宮野さんが窓の向こうを見つめて佇んでいた。
「明美さん、また見ていたんだな」
「ここの幻想的な空気を感じていると、ついね。どうしてもまるで天国にいるみたいな気分になって」
「その気持ちはわかる。僕も、ここに来たばかりの頃はずっと花畑を眺めていたものだ」
私は鼻高々になった。
ここは腕によりをかけて作った花畑だからな。
花もみんな生き生きしてるし、歌うし、おしゃべり好きだ。
時々ミュージカルみたいに劇もやってる。
静かに、囁くように降谷くんは言葉を落とした。
「恨んでいないのか、赤井秀一を」
「………もちろん。大くんが私を助けようとしてくれていたのは、伝わったから」
「結果として君は放置され、NOCを引き込んだとして死地に追いやられていた」
「仕方ないわ。私の選択だもの。大くんを好きになったのも、組織に引き入れたのも、誰でもない私の意思」
宮野さんが軽やかにウィンクした。
降谷くんがかすかに笑って、それから視線を落とした。
「憎たらしいほど人を見る目があるな、奴は。マーリンに頼んで悪夢を見せてやる」
「やめてあげて。大くんあれで繊細なのよ」
「あの心臓がグラフェンでできてそうな男がか?」
降谷くんの言い方に宮野さんはクスクス笑った。
「そうよ。ちょっとした仕草でわかるの。少し目線を下にやって、ああ私のこと心配してるんだろうな、とか。タバコを咥えるのを躊躇ってやめて、緊張してるんだな、とか」
「惚気話か。奴には勿体無い愛情だ。あんな敵性外国人より他にいい人はいないのか?」
「あはは、私の心に決めたのは一人だけよ。ごめんねゼロくん」
その姿は花舞う楽園にふさわしい、強さと美しさに満ちていたのだと素直に思った。
降谷くんが「……そうか。なら仕方ないな」とほのかに笑ったのだった。
・法王の就任式
コンクラーベの後、次の法王が決定した次の晩が「本当の」就任式とされる。
夜、聖マーリンが法王の元を訪れ、主の言葉、そして使徒ペトロの言葉を伝えられる。
そして祝福され、正式に法王として選ばれるのだと。
必ずその朝、法王には黄金のリンゴが授けられる。
・黄金のリンゴ
APが回復しそうな見た目をしている。
腐らず、かならずサン・ピエトロ大聖堂に保管される。