アフタヌーンティーのガーデンパーティに降谷くんたちはやってきている。
開催者は森谷帝二。
時は四月二十九日である。
「五月三日、蘭さんは彼氏とオールナイトなんですよね」
「あ、あの。ただの映画ですよ?」
「いいなぁ、青春ですね!このガーデンパーティも工藤新一君の招待みたいですし」
完璧な、あるいは偏執的なシンメトリーの庭は広く、中央には優美な噴水が清涼な水を噴き出している。
降谷くんはそっとコナンくんに囁きかけた。
「すごく毛利探偵が怒ってたよね。若い男女が夜中までイチャイチャするなんてって」
「…………」
コナン君はノーコメントを貫いている。
意地悪な降谷くんがダメ押しする。
「コナンくんはどう思う?」
「さ、さぁー。重要なのは当人の意思じゃない?」
「工藤新一君は一体どこに消えたのか。入れ替わるように現れた君は一体なんなのか。面白いよね」
タチの悪い顔でニタニタとコナン君に囁きかけ、降谷くんは存分に楽しんでいるようだった。
未成年をいじめるでないよ、まったく。
コナンくんはピャッと蘭さんの後ろに隠れた。
「蘭ねぇちゃん、安室さんがいじめる…」
「あら、安室さんたらもう」
「すみません蘭さん。少し遊びすぎちゃったみたいで」
降谷くんはじと目でコナンくんを睨みつけた。
「君、自分のガールフレンドに子供のふりして泣きつくとかプライドはないのか」
「僕安室さん嫌い!」
「でもその手段を選ばないやり方は天晴れだ。将来は僕と一緒に仕事しよう」
「嫌いって言ってるのに!」
パーティは裏庭で行われるようだ。
家主である森谷帝二に案内されてそこへ向かうと、すでにたくさんのお客さんがそこで思い思いに楽しんでいた、
有名企業の社長に、今をときめくイケメン俳優に評論家に。
錚々たる顔ぶれだ。
卓上には様々なお菓子が並べられ、甘い匂いを放っている。
コナン君が鼻白んだような顔で降谷くんを見上げた。
「それにしても安室さんは何なの?写真に撮られるの嫌がるし、外で食べないし、ポアロのバイトは頻繁に休むし、出所不明の依頼を持ってくるし」
「ただの探偵だよ?」
「実家が太いのに家出したの?高級車乗り回してさぁ」
「車に金かけてるだけかもよ」
「にしては服が毎回違うよね。短期間で着回してる雰囲気がない。溜め込んでまとめてクリーニングにでも出してる?」
「流石名探偵。よく観察してるね」
「煽ててもこれ以上出ないよ。あえて言うなら、007か何かだと思ってるけど」
「さて、そんなかっこいいものかなぁ」
お互いにチクチクやるのが好きらしい。
こんなふうに攻撃しあって、それでも一緒に行動するのだ。
「えいっえいっ、怒った?」「怒ってないよ」の言い換えとでもいうべきか。
遠くで蘭さんが「やっぱり二人とも仲良いなぁ」と思っている顔でニコニコしている。
その間に森谷帝二が庭の中央で「もっと自分の作品に責任をとらなければならない!」と声を荒らげている。
こちらはこちらでアクの強い人物であるようだ。
咳払いした森谷は来客たちにクイズを書いたカードを配り出した。
なんだなんだとコナンくんと降谷くんもとことこ集まってくる。
森谷は「名探偵の毛利小五郎さんならすぐにお分かりになるでしょう」とか言っているが。
そんなことかけらも思っていないのは丸わかりだ。
千里眼でなくても、人の醜悪な部分を見続けた私はよくわかる。
これは自分のみを愛する、あるいは自分の在り方のみを愛する自己愛の権化である。
崇高な自分の作ったクイズを、凡愚が解けるはずがないと思っている顔に違いない。
あーやだやだ。
この手の人多いんだよな、支配者には。
コナンくんと降谷くんが二人が顔を突き合わせてモゴモゴ雑談し出した。
「バラバラだね。ほとんどの情報はダミーかな」
「だね。共通点は誕生日が一年違いなところぐらいか。………一年違い?」
「あっ、待って僕の方が先に思いついたから。安室さんより僕の方が早かった」
「それはずるいよ。僕の方が早かったに決まってる」
「いや、まずは念の為答えを確認しよう。間違ってたら安室さんの負けね」
「いいだろう。吠え面かかせてやる」
すう、と二人が合わせて息を吸う。
そして答えを歌い上げる。
「「ももたろう!」」
仰天して森谷帝二が目を見開いた。
その様子を確認した降谷くんがむむうと考え込んだように口をへの字に曲げた。
「互角かぁ。やっぱさっきのは僕の勝利ってことでいいな」
「どういうことそれ。こう言うのは3点先取って相場は決まってるんだよ」
「いいだろう。次は犯罪計画突き崩し合いっこにしよう。条件を揃えてね」
「僕の親戚に推理小説家がいるんだけど」
「外部の力を頼るのはルール違反でーす。それは流石にずるいだろ」
愉快な言い争いだ。
巧妙に醜悪な表情を隠し、パチパチと拍手をしながら森谷が歩み寄る。
「これはこれは!正解したお祝いに私のギャラリーに案内しましょう!蘭さんもご一緒にどうぞ」
「私もいいんですか!ありがとうございます!」
蘭ちゃんを保護者と見たか、森谷は三人をギャラリーに案内したようだった。
中は美しいシンメトリーとなっていた。
大まかなインテリアまでシンメトリーとは、これはまたこだわり抜いたものだ。
写真が飾られ、そこにはおしゃれな建物の数々が並んでいた。
大きな町並みの模型もある。
蘭ちゃんは森谷と雑談しているようだ。工藤新一と親しいこと、今度デートに行くことなどを語っている。
降谷くんが声を潜めて首を傾げた。
「コナンくん赤色好きだったっけ」
「僕じゃなくて新一兄ちゃんね。嫌いじゃないよ」
「誕生日にオールナイトって、体を元に戻す方法はあるのかい?」
「…………安室さん、新一兄ちゃんの格好してデート代打で行ってもらったりは」
「人の心がないのか君は。というか、他の男と彼女がイチャイチャしてて許せるのかい?」
「忘れて。あーーーーー。それと一連の会話は新一兄ちゃんが来られないことを想定しての話だからね念のため言っとくけど」
「はいはい」
二人ともガバガバのガバで面白いんだよな。
二人がそれで納得しているからいいんだけど、それでいいのかと思わんでもないガバ進行である。
とまぁ短いガーデンパーティを終え、帰ってきた後はいつものお仕事。
寝るのは夜中になることもいつも通りのことである。
「あーーー」と母音のみを垂れ流すだけになった降谷くんがベッドに倒れ込む。
もうすでに諸伏くんも宮野さんも就寝済みだ。
私が香を置きに来ると、降谷くんはまだ寝ていなかったのか天井を見上げてぼうっとしていた。
そしてこちらを見ないままポツリと一言。
「居間で作っていたあれは何だったんだ?」
「ああ、あれかい?あれは金リンゴの木の苗木だよ」
どうやら私が苗木の手入れをしているところを見たらしい。
このアヴァロンにはいくつか金リンゴが生える木がある。
これは私が魔術的に手を加えたもので、食べたものに長寿と不老をもたらす効果がある。
300年ぐらいの寿命と老い知らずになるだろう。
普通のりんごは健康と30日の飲食不要だから、だいたい上位互換と言える。
「代々、法王の代替わりとともに新法王に授けることにしているんだよ」
「にしては、法王が長寿という話は聞かないが」
「なんかいつのまにか法王への試練ということになっちゃってさ」
経緯はいまいち理解できていない。
だが、現在ではあのりんごは神から与えられた試練だとされるのが一般的な見方である。
法王はその地位につくとともに誘惑を与えられる。
その後寿命が見えても、苦痛に喘いでも、りんごによる延命という甘い誘惑に溺れてはならないのだと言う。
誘惑に溺れれば、神から重い罰が下される。
歴代において、リンゴを食べたものはいた。
だがすぐさま破門され、300年という長きにわたる日々を座敷牢で過ごすことになった。
彼は信仰と懺悔にその生涯のほとんどを費やし、ようやく神に赦されたと言い残して亡くなったのだという。
見知った友人も家族も全てを失い、神の罰を受け、時の流れに取り残された哀れな老人として。
リンゴを食べたと言う記録はその一件のみだ。
あとはサン・ピエトロ大聖堂に厳に封じられ、法王の信仰を示すものとして死蔵されている。
「勿体なくないか」
「まあ、彼らのやる気を燃やす道具になるのならちょうどいいんじゃないかな」
本当は長く職務に就けるようにという気遣いだったんだが、それって結構残酷なことだしな。
次代が選ばれないのも制度的に問題があるし。
「誘惑の具現化」と言う形で利用してくれているのなら何よりである。
・金りんごの誘惑
食べると神から見放され、神の御元に行くことができなくなるという。
法王は自身の金りんごを自らサン・ピエトロ大聖堂の宝物殿に収めねばならない。
そこにある大量の誘惑を振り払い、法王の資格を示すのだ。