不思議な緊迫感が満ちている。
それは風見さんの威圧感というより、その背後にある「公安警察」の重みであると理解した方が正しいだろう。
目暮警部も少しムッとしたようだっだが、それでも逆らうことなく頭を下げた。
「では、事件の話は彼に。我々は庁舎に帰るとしよう」
「警部殿」
「公安の決定だ。我々では如何ともし難い」
不安そうな毛利探偵の言葉に、目暮警部は首を振ったようだった。
公安警察は以前の特別高等警察が看板を変えただけのもの。
表向きは国内テロや海外の諜報活動、要人暗殺などを捜査する組織である。
だが現実には反帝国運動、革命思想、政府批判などを監視する権力機構。
閣僚や軍の幹部の不正、派閥争いを把握し、政治の行方にすら影響を与えられるのだ。
いくら目暮警部とて、逆らった翌日には首が飛んでいるだろう。
風見くんがメガネをあげる姿もなんだか陰険そうに見えた。
その実、向かいにいる降谷くんがニコニコしてるので極度に緊張しているのだろうが。
顔合わせは避けたかったんだがどう言うことだ風見、の顔だ。
風見くんは静かに顔が青くなった。心なしか一回り縮んで見える。
もうこれはコナンくんが関わってきた段階で仕方ない事故なんだがなぁ。
目暮警部が退出すると、風見くんは気を取り直してコナンくんのベッド前に威圧的に佇んだ。
「それでは、事件当時のことを聞かせてもらいたい」
「ねぇ、公安が出てきたってことは、やっぱり東洋火薬のオクトーゲンに関わってるの?テロの可能性とか」
「聞かれたことのみを答えるんだ」
「ごめんなさーい」
全然反省していない様子でコナンくんがニコッと笑った。
一個ずつ質問に答えていけば、そう時間はかからなかった。
風見くんが書類にまとめている間に、コナンくんが風見くんの耳元に囁きかけた。
「それと、あなたたちって安室さんと何か関係あるの?」
「!!!」
「入ってきた瞬間、安室さんを見て一瞬硬直してたよね」
激しい動揺に硬直する風見くんとの間に、降谷くんは手刀を落として強制的に引き剥がした。
圧のある笑顔でコナンくんの頬をつねる。
「はい、そこまで。刑事さんを困らせないように」
「いひゃい!ええー、僕気になることあるのにぃ」
「怪我人は安静にしているんだ」
ニコニコの圧が強いが、負けず劣らずコナンくんも挑戦的な笑顔だった。
どうもゴジラ対キングギドラに見えているらしく、風見くんはいかにも恐ろしそうに身を震わせた。
可哀想に、トラウマになりそうな様子である。
さて。
そのあたりで電話がかかってきた。
工藤新一のスマホが鳴っているのだ。
犯人の発言はシンプルだった。
要求はなく、ただ東都環状線に五つの爆弾を仕掛けたからヒントをやると。
止められるものなら止めてみるがいいと。
そういう挑戦的な内容だった。
また降谷くんの機嫌が急降下していくのが見てとれるようだ。
風見くんがどんどん小さく萎んでいく。
電話終了と同時に風見くんは咳払いした。
「あとは我々に任せてください。それでは、我々はこれで失礼する」
「わ、私は名探偵の毛利小五郎です。この事件解決に協力いたしましょう!」
「結構です。民間人に関わられると迷惑だ」
「なっにゃにおう!?」
「出過ぎた真似をせず、おとなしく我々に捜査を任せてください。それが解決への一番の近道だ」
ピシャリと突っぱねられ、毛利探偵がぐぬぬと言葉を飲み込んだ。
パタリと扉が閉められる。
病室は奇妙な静寂だけが支配していた。
そのあとはブツブツ蘭ちゃんは飲み物を買いに、毛利探偵もタバコで一服でも解散の空気になった。
部屋にはコナンくんと降谷くんだけが残される。
降谷くんが厳しさを残したまま、静かに問いかけた。
「どう思う、コナンくん」
「あったら一番面倒なのは車体の下かな。走行中の車両からは取り外せない」
「そうだね。座席の中、網棚の上あたりは今調べさせてるとこだろうからいいとして」
「60km以下になる、日没になる、その辺の特殊な条件が鍵だね。それぞれ仕組みを入れるには手間がかかりすぎる」
「速度計に時計か。特に速度計は正確に出すのが難しいな」
ううんと悩んでも答えは出ない。
コナンくんはふと思い立ったように降谷くんに視線を向けた。
「ところで、安室さんって公安なの?」
「なんのことだい?僕はごく一般的な探偵だけど」
「いや、あの公安刑事さん、明らかに安室さんを怖がってたから」
「気のせいだよ」
おお、降谷くんの顔に「あとでシメる」と大文字で書いてある。
哀れ風見くん、あの状況で怒れる上司に怯えるのは仕方なかったろうに。
「それはともかく、早く爆弾の場所を明らかにしたいね……いや、犯人の狙いから逆算した方が早いかな?」
「どう言う意味だい?」
「堤無津川でも米花駅でも、犯人の狙いが分からなかったから。なんで爆弾を爆発させようとしてるのか。要求もなかったし」
「工藤新一への復讐とか?」
「にしては弱いじゃない?新一兄ちゃん本人の家を爆破した方が早いよ」
「それは確かに」
うーん、と考えながら降谷くんが私に指示を出した。
『すまないマーリン、爆弾のありかを』
『五箇所の位置を地図で記して幻影で見せよう。あえて君らの言い方に合わせるなら「線路の上」になる』
「線路の上………」
コナンくんの言葉に、聞こえていたのかと一瞬降谷くんがギョッとした顔になった。
コナンくんはどうやら思考を回し続けていたらしい。
どんどんと人差し指で眉間を叩きながら、独り言のように呟いている。
「太陽が翳ると爆発、光度計、車体で隠れる秒数で設定、だとしたら線路の上か……?」
「……!!!」
「安室さん、念のため公安に線路の上を調べてもらうよう言ってみよう。線路の上なら、犯人がある程度狙った獲物を爆破できる」
「っ、そうだね。言うだけ言ってみようか」
まさにそれは輝かしい推理の腕と言えるだろう。
私の千里眼と同じ速度で現実を見通す、ロジックの瞳だ。
これには降谷くんも感嘆して言葉を紡いだ。
「すごいな、コナンくんは」
「偶然思いついただけだよ。あってるかも分からないし」
「合ってるさ」
マーリンすらそう言っているんだから。
そのような言葉を裏に隠して、降谷くんは頷いたのだった。
『悪いが線路の上を調べてくれ。地図は送っておく』
「かしこまりました。もう解けたとは…流石降谷さんですね」
『違うさ。あの子、コナンくんの推理だよ』
危惧していたお叱りはなく、上司の機嫌は良さそうだった。
その声色は手放しに誉めているようで、江戸川コナンとやらへの疑問が増していく。
『あの子は本当にすごいんだ。僕がマーリンに頼ったというのに、ほぼ等速でロジック立てて推理を完成させてみせた』
「信用おけますか」
『正義感は十分だ。少し潔癖すぎるきらいがあるが、我々が教育すれば十分今でも即戦力。それどころか現段階で新入りが束になっても敵わない。素晴らしいと思わないか』
「末恐ろしいですね……」
他人をここまで手放しで褒める上司を未だかつて風見は見たことがなかった。
よほど優秀らしい。
だがマーリン、と言う単語………。
やはりまだ上司は狂気に囚われているということも、同時に示している。
慎重に風見は声をかけた。
「その。ところで、そちらで諸伏先輩はどう過ごされているんですか」
『ん?珍しいな、お前がアヴァロンについて興味を持つなんて』
「………いえ。ふと、心配になりまして」
『別に、本を読んで過ごしているそうだ。時々農作業を手伝ったりして、ほぼ定年退職後だな』
「それは、羨ましくなることですね」
『そうだな。僕も組織が壊滅したらアヴァロンに篭ろうかと思っているくらいだ』
それ即ち、自死を暗喩しているようにも思えた。
この組織壊滅という大仕事を果たしてしまえば、もう現世に未練がなかったとして何もおかしくはない。
上司は多くを亡くしすぎたからだ。
思わず逸る気持ちを抑え、風見は唇を濡らした。
「まだまだ降谷さんは引く手数多ですから、組織打倒後はより忙しくなるんじゃないですか。昇進もあるでしょうし」
『だよなぁ。ああいやだ。と言うか僕は現場がいい。机に座って報告を待っているのは性に合わないんだ』
「わがまま言わないでください。本来のあなたはその立場なんですから」
『風見がいじめる。ヒロに泣きついてやるから覚悟しろ』
妙な泣き言と共に電話が切れる。
線路の間。
ピロンと小さな音と共に送られてきたファイルには、地図の五箇所に丸がついていた。
相変わらず恐ろしいほどに優秀な人である。
その上で、未だ狂気に深く囚われている。
誰か、彼を引き上げてくれる人がいてくれれば。
そのように、風見は願ってならないのである。
・愉快な仲間たち
→法王猊下
巨額スパチャを規制されて泣いてる人。
最近は「作った通帳にそのまま送ればスパチャに同じ」と気付いて送金を繰り返している。
・聖書主義派重鎮
息をするようにスパチャする人。
PCなんて使い方全然分からなかったが、このために頑張って覚えた。
スパチャについて天の国に富を積んでいるだけと言い張っている。
・霊感ある地方司教様
聖マーリンと主の共同生配信!?!?!?!?
欠かさずマギマリの配信を見て、主のお言葉を書き留めている。
新たな福音書の制作を人生の使命としている。