本日。
朝のジョギング中、突然に降谷くんが狙撃された。
ボウガンの矢によるものだ。
空気を裂くアルミニウム合金の矢が容赦なく降谷君に迫る。
だが、降谷くんも張り込んでいた男の気配に勘付いていたらしい。
そのままするりとボウガンを避け、矢は草むらに突き刺さった。
返す刀で全力疾走。
距離を詰めるも、男は慌ててバイクを発進させ、そのまま降谷くんを振り切ったようだ。
バイクの音が遠くなっていく。
流石にジョギング中に拳銃は所持していないから他にできることもない。
降谷くんは息をついた。
『米花町に帰ってきて早々、何なんだ一体』
『最近忙しかったからね。電話は折り返したかい』
「緊急性の高そうな風見の件には折り返したが、他はまだだな。ともかく、奴をどうするかな。僕も恨みを買うのは慣れたものだが、こんな朝っぱらからボウガンとは』
降谷くんは頭をかいて嫌そうに顔を歪めた。
ここのところ米国に飛んでいたから、いまいち状況を掴みきれていないらしい。
単に一仕事任せられただけだが、こういう国際的な仕事はバーボンにはままあることだ。
ついでに公安からの依頼で米国軍事情報をちょいと抜いて、機密をコソコソ失敬して。
ちなみにこの辺の仕事について私は関与していない。
私が協力拒否しても降谷くんは何一つ不自由なく仕事を完了させたし、痕跡一つ残さなかった。
流石、私の手を借りずとも超一流のスパイなだけある。
そうしてようやく昨晩深夜帰ってきて、アヴァロンで爆睡して。
今朝に至るというわけだ。
『一体何者だ?拳銃なら避けられることもなかっただろうに、素人だとしたら被害者遺族とかか』
『どうだろうね。どうも成人男性だったみたいだけど』
『嫌なものだな、命を狙われるのは。自分の罪を突きつけられるような心地がする』
降谷くんが物憂げに俯いた。
バーボンには命を狙われる理由がいくつもある。
逆恨みだけではない。遺族の怨恨、破滅させられた怒りと憤り、騙された憎しみ。
当たり前だが、バーボンは組織幹部として多くの非道を働いている。
降谷くんがふと顔をあげて難しい顔をした。
『ところで、最近コナンくんが僕に優しいんだが何か知ってるか』
『シラナイヨー』
『知ってる声だそれ、絶対。何なんだ一体。微妙に避けられるし。僕の数少ない友人だぞ彼は!』
ポコポコ文句を言ってきたので、私は乾いた笑いをこぼすしかなかった。
本当はあの場で私が誤解を晴らすこともできたはずだった。
やることも簡単だ。
単に彼の前に姿を現し、魔術を行使するだけ。
だがそれをするタイミングは啓示EXにより細かく決まっているから、私にはそれをすることはできなかった。
あんなに拗れて、誤解と悲しみが蔓延しているのに。
逆に言えば、まだ誤解を晴らさなくとも致命的な崩落は訪れないという意味でもあった。
本当に心苦しいが、志保さんにはもうしばしの間喪失の苦痛と復讐への怒りを味わっていてもらうことになりそうだ。
申し訳ない、と私は内心でだけ頭を下げた。
ふと、降谷くんのスマホが着信音を鳴らし立てていることに気づいた。
降谷くんが軽い調子でスマホを取る。
『安室さん!!!無事!?』
「あ、コナン君。僕は特に……何かあったのかい?」
『まあね。今、おじさんの関係者が狙われてるんだ。トランプ順に次は十。十の文字が入ってる人』
「あー、透の漢字から無理やり十を取り出して?さっきのボウガン男、まさかそれで僕を狙っていたのか」
コナン君は肝を潰して叫んだ。
『ちょっと!さっき「僕は特に」って言ってたよね!?』
「特に脅威にならない刺客が1名ほどいただけだったよ」
『雑な叙述トリックやめて!怪我はない!?』
「無いよ。心配してくれてありがとう。というか、僕のお客さんかと思って110番もしてないんだよな。まずいなぁ」
『今から通報したら?突然のことにちょっと惚けてたとか言えば安室さんなら通るよ』
「安室さんならって何。僕そんな詐欺師の顔してた?まぁそうする。じゃあまた後で」
というわけで110番。
降谷くんは「びっくりしたな全く。組織がらみじゃ無いならそうと早く言ってほしい」と無茶な文句をブツクサ言っていた。
避けたボウガンは茂みに刺さったままだった。
その近くまで行き、それが紛失しないよう見張りながら首を回す。
『ところでマーリンきみ、最近様子がおかしくないか?何か言い淀んでいるというか、シンプルに壁に向かって紅茶押し込もうとしてたし』
『忘れておくれ。というか私の力で未来を調整してるんだよ。蝶の羽ばたきを整理するための行動で、単なる奇行じゃないんだ』
『そうだったのか。てっきりマーリンが壊れたのかと』
『壊れてるのは降谷くんの方なんだよなぁ!』
壊れているとは失敬な!と降谷くんがぷりぷり怒っている。
でも事実としてそう思われているのは本当なんだよな。
ギュルギュルとすごいスキール音が住宅街にこだまして、彼がやってきたことがすぐにわかった。
コナンくんのターボエンジン付きスケートボードだ。
「安室さん!」
「あ、コナン君。久しぶり」
「もしかして朝の運動中だった?ジャージ姿初めて見るかも」
「体が資本だからね、この仕事。振り返り様にボウガンを避けるぐらいわけないよ」
「ボウガンの矢って時速200kmぐらいあるよ。見てから避けたんなら化け物だよ。で、どっちに逃げたの?」
「褒められると照れるな。あっち。でもバイクだからね、流石に走って追いかけるのは難しくて」
「褒めてないよ」
しばらく遅れて警察の方も到着到着したようだ。
毛利探偵と目暮警部が揃って顔を出した。
「毛利先生!」
「無事か安室君!」
「偶然ボウガンが逸れたんです。幸運でしたよ」
「おのれ犯人め、狙うなら俺を狙えってんだ!!!」
自分のために怒ってくれている、という喜びで降谷君はニコニコした。
この事件で踏むべきフラグはいくつかあるが、どれも重要なものではない。
私はふうと息をついて、鋭い視線で降谷くんを見つめるコナン君を観察したのであった。
・マギ⭐︎マリライブ
女体化したマーリンが際どい格好で歌って相談に乗って踊る一大イベント。
チケット外れたけど仕事で中に入って聞けて大満足の風見さんを添えて。
基督教の偉い人がちらほらバルコニー席でゆったりしてた。
販売所では先着三本特製シードル、マギ⭐︎マリ手作りアクセサリの販売があった。
・シードル(商品化)
マギ⭐︎マリが配信内で酒類製造免許を取るところからスタートしたシードル企画の商品。
りんごは一般農家のりんごを使ってるため、特別な効果はない。
ただ、アヴァロンで製造するため「善きもの」のという性質が付与されて意外と美味しい。