マーリンなオリ主と降谷零   作:ラムセス_

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見えぬ明日

 

 青年、すなわち降谷くんだが、最近本性を表してきた。

 

「ベッド。枕は固めで」

「はいはい、起きた後のコーヒーはいるかい?」

「砂糖は2つ、疲れてるから多め」

「お疲れ、あとは私がやっておくからゆっくりして構わないよ」

「はー……」

 

 お疲れ極まりない降谷くんは、乱暴な動きでどさっとベッドに倒れ込んだ。

 私がささっと杖を軽く2回振って出したベッドだ。

 もちろんこんな居間で眠るつもりはない。

 魔術を使ってベッドルームに移しかえろという意味である。

 

 まったくもってとんでもねぇ降谷くんだ。

 

 降谷くんは長く深いため息をついた。

 

「あのクソ野郎……死体も爆薬も処理係が苦労して隠してるってのを分かってるのか。魔法でポンと消えるものじゃないんだぞ……ロケランバカスカ撃ちやがって、ここは紛争地帯と違うっつーの……」

「また派手好きの彼の後始末をしてたのかい?」

「ええそうですよジンのクソ野郎の尻拭いですよ。本当にこの組織は潜むつもりがあるのか……あんな派手にビルを爆破して潜むもなにもあるのか……僕は魔法使いじゃないんだぞ……」

「本当にお疲れ様。せめてこの夢の中でくらいゆっくりして行くといい」

 

 私も見ていたが、そりゃもうスリルショックサスペンスな事件だった。

 取引相手との頭脳戦が面倒くさくなった銀髪君がさらっとロケットランチャーを構えてファイア。

 敵をビルごと物理的に爆破することに成功したのだ。

 おいおいおいおいおい。

 

 そして銀髪君は「おいバーボン。後はテメーでなんとかしておけ」と言って全て後始末を投げ渡し、颯爽と帰宅していった。

 これには温厚でも気も長くもない降谷くんは激怒したというわけだ。

 

 今もほら、怒り散らして布団をボスボスやっている。

 

 ちなみに、彼が倒れ込んだベッドはお手製のベッドである。

 私の趣味の工芸・手芸シリーズだ。

 

 細かく美しい花の刺繍がされたカバーがかけられており、ほのかに花の匂いが香っている。

 このシーツはエーテル塊を細く糸状に加工して編んだ、具現化した魔力の布を用いたものだ。

 無を織り上げたようなもので、その寝心地は空中に揺らぐよう。

 

 少しばかり固めだが弾力性のあるマットはリンゴの木を加工してスプリングとして使っている。

 そこからは無形の生命力が体のうちへと満たされていく仕組みである。

 

 つまりヒーリングベッドだ。

 魂のみがアヴァロンに抜け出てきてる降谷くんにも効果が期待できる一品となっている。

 

 ごろんとベッドで転がりながら、降谷くんは「頼んだ」と私に言う。

 それを受け、私は杖を一振りして彼を寝巻き姿へ早替わりした。

 いつもの「着替えさせてくれ」の意味であり、実にものぐさな降谷くんである。

 

「ところで、あの諸星大が潜入捜査官でFBIっていうのは本当なんですか?確かに不自然なところはありますけど」

「僕は千里眼で現在の全てを見通すからね。間違いないよ」

「という設定で僕が微弱な違和感から導き出した可能性、か。あー、憎たらしいことに優秀な男だしありがたいと言えばありがたいか」

 

 どうも同僚の諸星大のことが憎らしくて仕方ないらしい。

 ブツブツと言って枕に顔を埋めて、「あの態度なんとかできないのか?」「日本で本当に捜査許可取ってるんだろうな」とか文句を垂れている。

 感情表現が豊かで面白い人である。

 

 彼と出会ってすでに半年。

 色々あったというほど変化のある日々ではなかったが、穏やかではあった。

 

 ただ夜毎に彼がこのアヴァロンに来て。

 彼と少しだけ雑談してから、あるいは雑談せず眠りにつく。

 ただそれだけの穏やかさが半年。

 

 それでも半年の時の流れは、彼の心を少しずつ解きほぐすことになったようだ

 こうして私にたいして素を見せてくれるようになっている。

 

 私が木製の窓を閉めた後、ベッドルームにぐるりと転移した。

 

 そこは常夜の空間で、淡いオレンジの光を灯すユリに似た花だけが室内を照らしている。

 空色のシンプルな花瓶に一輪だけ挿されたユリもどき。

 花瓶を指で軽く叩くと少しだけ光が弱まる仕掛けで、ナイトランプの役割を果たす。

 

「じゃあ、6時間後にまた来るよ。用があったらテーブルの上にある睡蓮を揺らしておくれ」

「………ちょっと愚痴、聞いてくれませんか」

 

 彼は少しだけ口籠るように私をジロリと見上げた。

 

 降谷君の本性は割と乱暴者というか、難ありな性格だ。

 

 ぶっきらぼうだし俺様だし、こうして慎み深いと見せかけて断ると大層拗ねる。

 だが、そんな己を理性と努力のみで押し隠し、人当たりのいいまるで違う性格を演じている。

 まったくもって驚嘆すべき忍耐力だ。

 

 私だってマーリンエミュして2500年やってきた身としてよくわかる。

 そうした皮をかぶるのがいかに難しいかよく理解しているのだ。

 

 私は千里眼があるからある程度先回りできるが、降谷くんはそうではそうではないしな。

 

「どうしたんだい、改まって。話ならなんでも聞くよ」

「僕って良くやってますよね?」

 

 ぱちくり、と私は瞬いた。

 愚問なことだ。

 

「もちろん、とても良くやってるさ。僕も尊敬してるほどだよ」

「ですよね。ちょっと鏡に向かって自分を褒めると元気が出るとかTVでやってたので」

 

 降谷くんは私のことを夢で会うイマジナリーフレンドだと思っているらしく、遠慮というものがない。

 それでいいと思って、私も訂正していない。

 他人というのは怖いものだ。

 何をされるか分からないし、どんな悪意を向けられはかも分からない。

 

 なら、イマジナリーフレンドでいる方がずっといい。

 いや暗い気持ちとかじゃなくて、魔法使いを利用しようという輩はすごく多くてね、そういうことでね。

 

 ほら、私アヴァロンから1000年放浪の旅やった後は、1500年ずっとアヴァロン引きこもりしていたもので。

 コミュ障は折り紙つきなのだ。

 

 とはいえ、夢などを通じてその間に現実世界にたくさん干渉してきてはいる。

 悲しいことは少ない方が綺麗だし、私の心も明るくなるからな、

 ただ、それで魔法を使うと、どうしてもドロドロとした現世の利害関係に巻き込まれてしまわざるを得ない。

 

 二つの世界大戦はきちんとストップできたのは、今思い返してもマジで奇跡だった。

 

 サラエボ事件を未然に防ぐことはもちろん、軍隊が国境を越えたら幻覚で惑わせたり色々したものだ。

 ドイツ国内の不満をせっせこテコ入れして小さくして、極端な政治運動が起こりにくくしたり。

 本当に地道な作業の連続だった。

 

 今もなんか変な紛争が起きそうになったら夢を通じて囁きかけたりして、忙しく過ごしている。

 誰か私を褒めていいのよ。

 

 その中で私は人間への不信感が魂の底まで刻み込まれてしまったがな。

 おかげでここ50年はガチ引きこもりだ。

 

 怖いぜ人間社会。がくぶる。

 

 私は本心から降谷くんをいたわった。

 

「君は己を偽って、それでなお信念を貫いてる。かっこいいよ。僕が君を肯定する」

「ありがとうございます。自己グルーミングにしては少し心が安らぎました」

「じゃあ僕はいくよ、おやすみ降谷くん」

「ええ、おやすみなさい」

 

 扉をそっと閉めて部屋の外に出へ。

 

 私は彼の姿を少しだけ振り返り、嘆嘆息した。

 本当に、彼は無理をしすぎでたる。

 体は限界まで酷使されてボロボロだし、精神も擦り切れる寸前。

 美しく形の良い魂だって歪み始めているありさまだ。

 彼は自覚していないようだが……あれでは長生きできないのは間違いない。

 

 私はコミュ障がちの内気人間である。

 だが、コミュ障らしく自分に優しくしてくれた人にはすぐに懐くタイプも自負している。

 

 久しぶりに友達になってくれた人に対して、純粋に力になってあげたいと思ぅているのだ。

 

 彼は何が起きたら喜ぶだろうか、と少しだけ考える。

 助けるタイミングは山ほどある。

 が、そんなちまちましたものでは叶え甲斐がない。

 もっと劇的なタイミングで助けてあげたいと高望み。

 

 喜んでくれるかな?と私は色々と計画を思い巡らせた。

 

 

 

 

 

 降谷零はここのところの体調の良さを自覚していた。

 

 待ち合わせ場所に現れたライに、降谷はじろりと値踏みするような視線を向けた。

 ライが困ったように眉を顰める。

 

「どうした、そんなに見られる覚えらないが」

「いえ、別に。その髪鬱陶しいなと思っただけです」

 

 ライがFBIだと思って調べてみれば、確かに疑わしい点はいくつもあった。

 確証が出ないのはさすがと言ったところが。

 気に食わないという個人的な感情を取り払ってしまえば、なるほどジンが目をつけるのも納得の振る舞いと優秀さ。

 

 これから任務の予定だ。

 とある財界の重鎮を暗殺するので、組織にとっても降谷達の動きは重要なものとなっている。

 ライが狙撃役で、自分は重鎮を誘き出す側。

 

 そいつは組織の力を借りて好き勝手やっていた悪人なので、殺すのに躊躇いもない。

 消えてくれて日本が良くなると思っているくらいだ。

 

 降谷はこれ見よがしにため息をついた。

 

「ライ、貴方も能力は確かなんだからもっと性格をなんとかしてくれませんか」

「さっきから何なんだ。突然ダメ出しされる覚えはないんだが」

「一般論ですよ」

 

 この男の各種能力の高さは降谷とてよくわかっている。

 あとはもう少し、こう、イラつく態度を改めてもらえればこちらとしては言うことがない。

 

 これはある種の信用だったのかもしれない。

 同じ潜入捜査官だとしたら、少しだけ安心できる。

 少しだけ希望が持てる。まだまだ世間は捨てたものじゃないと納得できる。

 そのように思ったのだ。

 

 降谷は「さっさと行きますよ」と振り返りもせずずんずんと進み出した。

 

 心身ともに健康だ。

 同時に、あんな夢を見る人間が健康なはずがないとも思っていた。

 

 イマジナリーフレンドは今日も降谷を慰めてくれるだろう。

 優しく穏やかな、降谷に都合のいい男だった。

 幻想だとわかっていてもつい心を許してしまう、降谷を純粋に思ってくれる人間だった。

 そんな人間が現実にいるはずがない。

 

 だが構わない。

 それで、この世に蔓延る悪を一つ取り除けるのながら、夢ですらもう利用する価値がある。

 

 そのように、降谷は思っていた。

 

 

 諸伏景光の死が、すぐそこまで迫っていると知らずに。

 





・世界大戦回避
この世界は国名と地図がなんか違う。
世界は総力戦を知らないし大戦を知らない。民族浄化を知らず、大量虐殺を知らない。
大日本帝国かも。
かなり強引に頑張ったので、歴史では「為政者が見た共通の夢と幻」とか本も出てるぐらい歴史の謎。
マーリン伝説と結びつける向きもある。

・公安警察
組織改変で名前は変わったが、中身は特別高等警察。
降谷さんの肩書きはほぼ変わらないが、警視庁公安部が大幅に強化されている。
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