マーリンなオリ主と降谷零   作:ラムセス_

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世紀末の魔術師②

 

 ドォン!という爆音を聴いたものはここにはいなかった。

 変電所はここから20kmほど距離があって音が届かなかったからだ。

 

 だから電気だけが速やかに消えて、夜の街が暗闇に包まれるのを皆は呆然と見渡していたのだった。

 日の落ちる頃、街は渋滞とクラクション、混乱の悲鳴に包まれた。

 

 降谷君が周囲を見渡し、スマホをライトにしながら叫んだ。

 

「何が起きている!」

「キッドだ!キッドを止めに行く!」

「ッ待つんだコナン君!」

 

 瞬間、止める間も無くコナン君はトップスピードで走り出した。

 例の違法スケボーを乗りこなし、人混みをぬって消えてしまう。

 彼の頭脳は健在ということらしい。

 

 私は起きた出来事のみを端的に伝えた。

 

『変電所が爆破されたみたいだよ。凄いテロだね』

『はぁ!?!?……まさかインペリアル・イースターエッグを盗むためのキッドの仕業と言わないよな!?』

『さあ、私にはそこまでは。でもコナン君はキッドの仕業だと思ってるみたいだね』

 

 降谷くんはやや呆然とした後、憤怒に顔を染めた。

 

『いい度胸だ。盗人に興味はなかったが、テロリストは敵だ。我々公安と余程遊びたいらしい』

『今僕から怪盗キッドが見えてるけど、魔術師の加護がかかってる。手を出すと危険だよ』

『甘く見るな。近しい人が責苦を受けて、それでも抵抗するなら少し面倒にはなるがな』

『それ悪役の発言だから。落ち着いて、ね?』

 

 すっかり悪の組織の親玉然としてきた降谷くんを宥める。

 実際大日本帝国の公安は悪の組織感満載だからちょっとコメントに困るが……まあいいか。

 

 降谷くんは大層おかんむりのようで、「奴の元に連れていけ」と低く私に命じた。

 全く降谷君は怒ると人使いが荒い。

 仕方ないので怪盗キッドの飛んでいる方向から目的地を炙り出し、混乱に乗じて転移させることとする。

 

 転移は瞬く間に成り、降谷君が一瞬バランスを崩しかける。

 同時代レイシフトに似たやり方だ。

 降谷くんの体を数値的に分解して霊子化し、遠方へと再転写する。

 通常の空間転移よりもエコかつ素早い転移が可能だ。

 

 レイシフトと違うのは向こうで組み立て直しているところか。

 クラインコフィンを使うのは面倒だったからね。

 

 再出力された降谷くんは、屋上に闇に紛れるように佇んだ。

 じっと空を眺め、怪盗キッドの到着を待っている。

 

 月明かりに白が翻る。

 

 怪盗キッドは悠々と鮮烈な真白い翼で空を舞い、その切れかけの電光看板のあるビル屋上に降り立った。

 それで初めて降谷くんの存在に気づいたらしい。

 ふ、と怪盗キッドが優雅に笑う。

 

「おや、私の暗号を解読していたとは───っ!!」

「避けたか」

 

 拳で一発。

 ためらうことなき暴力に、怪盗キッドはバク転で距離をとった。

 そこをさらに距離を詰め、ボクシングのスタイルで畳み掛ける。

 

「随分なっ、ご挨拶、ですね!!」

「軽業師のような身のこなしだな。流石にこれでは埒が明かないか」

 

 怪盗キッドの身のこなしはまさに猿のように身軽で縦横無尽。

 降谷くんも相当な腕前だが、なんの武術の心得もなくここまで動けるとは、一種のマジックじみていた。

 

 自分の腕では怪盗キッドを仕留められないと踏んだらしい。

 動くな、と降谷くんが無骨な拳銃を突きつける。

 

 怪盗キッドが冷や汗を一筋。

 

「大日本帝国の治安を乱す輩を生かしては置けない」

「公安……ってことか?おお怖い怖い。取り調べ中に不審死でもさせるつもりかよ」

「容疑が確定しなければそれもありだが。今回の怪盗キッド案件は被害額も大きい。被害者補償の観点で生かして搾り取りたいところではある」

「さいですか。残念ながら俺にも事情があるんでね、捕まってはやれねーな!」

 

 瞬間、足元から煙が吹き出した。

 まるで気づかなかったが、どうやら煙幕玉を地面に落としていたらしい。

 こんな激しい争いでよくもまあやるものだ。

 暗闇と煙幕が合わさり、ほとんど視界が確保できなくなる。

 

 まあ私は見えているので、慌ててビルの内部へ逃げ込むキッドの姿を捉えていた。

 

「ゴホッ、くそ!どこへ行った!」

『彼は逃げたよ。と言うか無茶するなあ、正体を明らかにするなんて』

『どうせキッドは犯罪界と関わらない単独犯、僕が多少身を明らかにしたって問題ない。それより奴を確保しておきたかったんだがな』

『魔術師と敵対したらどうする気なんだい』

『マーリンに擦り寄る』

『まったく降谷くんは!別にいいけど、私をもっと敬い崇めるべきじゃないか?』

『聖マーリンに栄光あれ!』

『日本軍の礼儀で敬うのやめて』

 

 しばらくすると、再び飛び立つ怪盗キッドと、それをコナン君が追いかけるのが確認できた。

 降谷くんもギャリギャリと特徴的なスキール音がわかったのか、ふうと息をついて鉄柵にもたれかかったようだった。

 

『あのスケボーいいなぁ。小回りきいて速度も出て持ち運びにも不自由しない』

『阿笠博士に言えば一個ぐらいもらえるんじゃないかい?』

『コナン君以外が乗ると秒で命が潰えると思う。あれを乗りこなせるのは人類じゃない』

『まあ……そうだね………』

 

 あのあらゆる法律に違反してる乗り物は人の命を奪う形をしているからな。

 ボタンを押した瞬間トップスピードで走り出すし。

 並の人間はその時点で振り落とされてアスファルトで頭をかち割ることになる。

 

 私はキッドの行方を目で追って、それから驚きに目を見開いた。

 

『っ、キッドが撃たれた。海に落下してる!』

『なんだと!?一体誰に!』

『女性だ。……あの美術館にいたロマノフ王朝研究家の中国人の浦思青蘭さんだね』

『銃刀法違反だぞ、ふざけやがって!キッドを第三者に殺されたら我々の立場がない!』

『なんか機嫌悪くないかい今日』

『狂気ごっこにテロリストに拳銃ぶっ放す外国人が揃い踏みしてどうしたらニコニコしてられるか教えて欲しい』

 

 大層イガイガしてるらしい。

 私は気を遣って降谷くんに癒しの波動を送った。

 

『そういう時は酒盛りだよ。原液シードルいいよ。全てを忘れて幸せになれる』

『僕を本物の廃人にしようとしている……?』

『狂気の真似も上手くなるよ』

『真似じゃなくて真実になるのはNGだ。ともかくコナン君と合流しようか。全く碌でもないな』

 

 降谷くんはため息をついた。

 前途多難ということらしい。

 





・レイシフト転移
人間の体を霊子化→霊子を現地まで移動→組み立て直し、の手順を取る。
後から降谷さんが詳細を聞いて「なんかそれ…怖いな……別にいいんだが…」と怯えるなどした。
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