マーリンなオリ主と降谷零   作:ラムセス_

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世紀末の魔術師終

 

 公安を動員して追いかける。

 なんと怪盗キッド、あれだけの大騒動を起こしたと言うのに一つの失態も犯さなかったらしい。

 

『二課が手こずるわけだ。まさか我が公安の力をもってして影も掴めないとは』

『逃走経路も含めて変幻自在。車載カメラを含めて足取りは全く追えない。流石だね』

『犯罪者の太鼓持ちはやめてくれ。まったく……それでマーリン、見ていたんだろう?』

 

 私はうむうむと頷いた。

 未成年を追い詰めるのは気が引けるが、こればっかりは仕方ないからな。

 怪盗キッド側の事情も視たし、助命嘆願ぐらいはしてあげようか。

 

『もちろん。実家特定済み。今からいくかい?東京だけど』

『ああ、逃走の恐れはあるか?』

『無いね。高校生だし、早々は家を出て逃げられないよ』

 

 降谷くんは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 まさか未成年だとは思ってもいなかったらしい。

 

『面倒な……と言うか年数が合わなくないか。僕が子供の頃から活動しているぞ』

『父親の後を継いだらしいよ。父親が謎の組織に殺されて、その真相を追ってるらしい』

『…………』

 

 余計に苦い顔になり、降谷君が「はぁ……」と大きなため息をつく。

 千里眼でチラリと覗いたとき、執事らしいおじいさんと彼の会話がちょうど聞こえたわけだが。

 なんとも、やりきれないものである。

 

『どうするんだい?』

『………ひとまず話を聞こうか。変電所爆破は許されない。だが、怪しげな組織というのは気になるからな』

『そうだね。じゃあひとっ飛びと行こうか』

『待て、新幹線で行く。不要不急のワープは遠慮したい』

『え……便利なのに』

 

 どうもレイシフトが苦手らしい降谷くんは、そのまま新大阪駅へと向かうこととなった。

 もちろん事前に毛利探偵には連絡して。

 「依頼人から急な呼び出しがあって」などと嘯いて、豪華客船による東京までの旅をキャンセルしたようだ。

 勿体無いことだ。

 

 飛んで帰って江古田町。

 そこにある豪邸が犯人、黒羽快斗の実家である。

 

 もう深夜だ。

 チャイムを鳴らすと、執事さんが出てきたようだ。

 執事さんは困惑した顔で首を傾げた。

 

「このような夜更けにどのような要件ですかな。既に快斗おぼっちゃまはお休みになられておりますが」

「怪盗キッドについて、少々話がありまして」

「………なんのことだか。お客様とお話しすること無いようだ。お帰りを」

 

 背を向けて戻ろうとした執事さんの背に、降谷さんは威圧的に声をかけた。

 

「証拠がなくとも引っ張ることはできますよ。ここで喋るか、留置所で喋るかの違いになりますが」

「…………」

「ここで喋った方がお得だと思いますよ」

 

 執事さんが片目を開いた。

 しばしの沈黙ののち、「……少々お待ちください」と絞り出すように答えた。

 私は呆れたように降谷くんに声をかけた。

 

『悪役』

『仕方ないだろ証拠ないんだから!ひとまず情報だけは把握しておきたいし!』

『証拠ないなら警察は動かないんだよ』

『公安は違う。あの銀髪と同じだ。疑わしきは罰せよ』

『悪の組織の幹部と同じ標語は本気でどうかと思う』

 

 などと言っているうちに黒羽君が来たようだ。

 緊張に顔を引き締めて、黒いシンプルな私服を着ている。

 寝巻きから着替えたにしては早すぎるため、帰宅後後片付けでもしていたのかもしれない。

 

 黒羽君はむっつりと口を開いた。

 

「誰だよ、アンタ」

「さっきぶりだね。少し匿名の窓口で、君の込み入った事情を聞いたから確かめに来たんだけど」

「はぁ?意味わかんねー。こんな夜更けに怪盗キッドがなんだってんだ?」

 

 降谷君はにっこりと人好きのする笑みを浮かべた。

 

「誤魔化しに付き合う気は無い。君は怪盗キッドで、父親の後を継いでインペリアル・イースターエッグを盗もうとした。父親の死の真相を探ろうとしてるみたいだけど、ここまでの話に間違いはあるかな?」

「……!!!」

「無いみたいだね。じゃあ次に父親を殺害せしめたという怪しげな組織について、何か知ってることを教えてくれるかい?」

 

 黒羽君はすっかり警戒してしまったようで、身を固くして降谷くんを睨みつけた。

 

「………アンタ、どうして」

「情報源を答えるつもりはない。さあ、組織について話してくれ」

「アンタに教える義理なんかねーな」

「困ったな、連行しないでおいたのは優しさなのに。檻の中の方が口が軽くなるタイプ?」

「…もし俺が怪盗キッドだとしたら、捕まえるのは無理なんじゃねーか?確保不能の大怪盗相手に、檻に入れられるならとっくにしてるだろ?」

 

 黒羽君のせめてもの抵抗を降谷くんは嘲笑った。

 くつくつと悪役じみた笑いを漏らし、嗜虐的に歪んだ顔で口を開く。

 

「君、学校にガールフレンドはいないのかい?友人でもいい。さっきの執事さんは手下だから逃げられてしまうかな」

「ってめぇ!!!何をする気だ!」

「別に。君をよく知る人を事情聴取することぐらい、捜査ではよくあることだろう?ちょっと帰りが遅くなる程度さ」

「………!」

 

 「組織について話してくれるね?」と降谷君がとろりとした笑みで問いかける。

 ギリ、と黒羽君が歯軋りした。

 

「俺だって知ってるわけじゃねーよ。パンドラって、不老不死になれるビッグジュエルを探してたらしい。親父がそれについて何か知ってたらしいけど」

「……不老不死?」

「信じらねーかもしれねぇけど、それは俺の責任じゃないし聞かれてもどうしようもねーよ」

「いや、不老不死…まさか、いや、だが……」

 

 降谷くんは不老の実例を知っている。

 つまりアポトキシン4869により老いることのなくなったベルモットだ。

 黒の組織の目的もその関係と言っていい。

 

 黒羽君が心当たりありそうな顔の降谷くんに、目を見開いて詰め寄った。

 

「何か知ってるのか!!」

「確証はない。それに君に教える義理もない」

「俺の能力の高さは今回わかったはずだ!アンタらに協力する!だから何か知ってるなら教えてくれ!」

「………」

 

 降谷君が少し悩ましそうに眉間に皺を寄せた。

 

『……どう思う?』

『彼を檻に入れたら背後にいる魔術師と全面戦争だろうし、協力関係は悪くないんじゃないかい?』

『未成年をあまり危険な目に遭わせたくないんだが』

『え、そんなふうに思ってて口からまろび出る言葉があの悪役全開の脅し文句なのかい?二重人格か何かかな』

『うるさいぞそこ。本気で連行するわけないだろう。ただの脅しだよ』

 

 いやでもあの威圧はマジの声色だったじゃん……。

 降谷君怖、と私は身を震わせた。

 公安の脅しとか脅しの域を超えてるんだわ。

 

「いいだろう。連絡先を交換しよう。僕は行くところがあるから今は話さないが、これを通じて今後やりとりすることとする」

「番号が割り振られるのか?」

「そうするのが固いだろうが…迷うな。なんにせよ時間がいる。それと聞きたいんだが」

 

 降谷くんが言葉を切って黒羽君を見た。

 

「ビッグジュエルを狙っていた理由がパンドラの捜索だというのはわかった。今回のインペリアル・イースターエッグはなんだ?」

「あれが香坂家の遺産だってのがわかったから、本来の持ち主に返してやりたかっただけだよ。あのうち、ロマノフ王朝のマリア・ニコラエヴナ・ロマノヴァの直系だろ」

「………は?」

 

 降谷さんはパチクリと瞬いた。

 日本に逃れた王家は全て東ロシア帝国成立と共に国に帰ったはずだ、と目が訴えている。

 

「事情は知らねーけど、絶対そうだぜ。目元がそっくりだもん」

「とんでもない厄ネタを聞いてしまった。聞かなければ僕の責任じゃなかったのに」

「アンタが言えっつったんだろうが」

「うまく僕の責任にならない範囲で言って欲しかった。これからの僕の仕事量を考えてほしい」

「知るか!!!」

 

 黒羽君に匙を投げられて、降谷くんはしおしおのパーになった。

 日本で民間人と結婚した皇帝直系の子孫。

 今後の皇位継承権の問題とか、護衛の関係とか、母国にどう拘らせるかとか。

 降谷くんははぁ、と大きなため息をついて頭を抱えたらしかった。

 

 まあ、話すことはこの辺までだ。

 「必ず連絡しろよ」と言われて降谷君が事務的に応じ、屋敷を後にする。

 

 私はふと思い立って、くるりと降谷君の隣に姿を現した。

 

「うわ、びっくりした。どうした急に、こっちの世界に出てくるなんてすごく珍しいな」

「夜闇を散歩したくなったのと、彼の守護の魔術を近くで見たくなったんだ。凄いね、さすがは怪異と人の合いの子。彼を傷つけると報復の魔術が飛ぶようになってる」

「マーリンでも解呪できないのか?」

「私ならできるけど、魂にリンクして呪詛が飛ぶようになってるから余程腕がないと取り除けないんじゃないかな」

 

 降谷くんはふぅん、とさして興味がなさそうな顔で頷いた。

 呪いを軽視しているというより、私の力を信じていると言った方がいいだろう。

 自分にはマーリンがついている、と安心してくれているのだ。

 嬉しい限りである。

 

 私はニコニコしてうむうむ頷いた。

 

「それにしても珍しい服だな。現代服じゃないか。しかもおしゃれ」

「私だっていつもあの服装は飽きるんだよ。ちなみに手作りだ。どうだい?」

「そのビニール地の服が手作りなのは凄いな。僕のも作ってくれ」

「いいよ、春にちょうどいい羽織ものにしておこうか」

「今は夏だけどな。ちょっと暑苦しいぞ」

「一週間もすれば春だから、気にしない気にしない」

「どういう意味だ……?」

 

 今回は礼装・英霊星行の服である。

 私はくるりと回って半袖に服装を切り替えた。

 夜はとっぷりと更け、もう深夜と呼べる時間である。

 

 明後日にはコナンくん達も東京に帰ってくるはずだ。

 大阪大停電を許したということで公安として後始末に注力することになってしまった降谷くんは、ことの顛末をコナン君から聞いたらしかった。

 すなわち船の中での殺人事件と、翌日の香坂家所有の城での顛末。

 

 事件は解決したが、降谷くんの仕事はここから始まると言っていい。

 香坂家と東ロシア帝国の調整、インペリアル・イースターエッグにまつわる正式な所有権の法的調整、そして大停電の今後の対策、国際犯罪者スコーピオンの引き渡しをするかどうか。

 

 山積みの仕事に、降谷くんは机に突っ伏したのだった。

 





・ベルモット
謎の白髪の男がバーボンと一緒にいるところを偶然目撃した。
随分気安そうに話していた。
誰だあれ……と気になってる。

・公安警察
特別高等警察の名前が変わっただけのやつ。
国務大臣直轄。
警保局保安課が指揮し、警視庁の公安部が実働担当。
証拠なくても逮捕してきてそのまま収監されるタイプの組織。
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