多少反響あったのでイカさんの覚書を投下。
本編には関わってきません。
今年も11月7日がやってきた。
降谷君と諸伏君は前日に萩原・松田両名の墓参りを終えており、しばしの黙祷を共にした。
諸伏君を出すのも迷ったんだよな。
出るたびに彼を出すための作業進捗が遅れるから、彼自身不便することになるし。
でも年に一度の墓参りを止めるのも不粋だし。
降谷くん達は短い祈りの時を終え、足早にアヴァロンへと帰還した。
見られてはいけないから、住職さんへの挨拶以外の場所に寄ることもなかった。
降谷くんは、彼らを救ってくれていたらと私に要求することはなかった。
ただ、黙って手を合わせるだけで。
だからこそ本日再び現れた魔の手に、より一層の決意がみなぎるのだろう。
降谷くんは路地裏で予告状を撮った写真をスマホに映して、ただひっそりと佇んでいた。
『良かったのかい、コナンくんと一緒に行動しなくて』
『僕は佐藤刑事に以前顔を見られている。あまりこの件に関わり過ぎれば下手な記憶を呼び起こしかねないからな』
本当は今回第一の被害者……すなわち最近昇進した白鳥警部の車の爆破された現場に一緒にいたのだ。
そこには三年前の犯人からの予告状も仕掛けられていた。
彼が持っているのは、それを撮影したものである。
現在コナンくんは佐藤刑事達と共に事件を追っている。
輝ける主人公たる彼ならば、間違いなくこの事件を解決に導くことであろう。
立ち止まる降谷くんが、先ほどからゆっくりと後を追うバイクに視線を向けた。
「何の用です、ベルモット」
「あらバーボン、気付いてたの」
「当然ですよ。それで、何の用かと聞いているんですが。僕も暇じゃないので」
降谷くんと鋭い視線に、ベルモットはフンと鼻で笑って応じなかった。
「貴方、最近毛利探偵事務所に出入りしてるわよね」
「そうですね。暇ですね、見てたんですか?」
「目的は何」
虚偽は許さないという殺気に満ちた視線に、降谷くんは目を細めてから肩をすくめた。
「江戸川コナンという少年ですね。輝きが良くて、相棒が観賞用に取っておきたいと言っていただけです」
「危害を加えるつもりはないのよね」
「ありませんよ。死ねば光らなくなりますから」
「ならいいわ」
降谷くんは緊張を解かぬままにベルモットへ声をかけた。
「あの少年とどういう関係です?」
「秘密。ただ、あの子供と事務所の娘に手を出したら、私も動くと考えてちょうだい」
「ふむ。……あえて貴方と敵対する理由はない。利害の一致という意味で、あのコナンという子供の庇護ぐらいはできますよ」
降谷くんの提案に、非常に猜疑心の強い瞳でベルモットが身を固くした。
「どういうつもり?」
「僕がこの事務所にいるのは彼がキラキラ光るのを鑑賞するためなので。邪魔する輩は引き裂いてあげようかと」
「そう、ならお願いするわ。あの子は少し無茶なところがあるから」
「では契約成立ということで」
これは降谷くんがバーボンの時よく使うフレーズだ。
契約成立ということで。
悪魔に引っ掛けて、相手が反故にする時心理的抵抗を受けるように念押しする行為だ。
今回は別に反故にされるようなことはないので、いつものフレーズといった雰囲気で使ったのだろう。
ベルモットがジロリと降谷くんを見た。
「ところで、貴方と前に一緒にいた白髪の男、誰なの?」
「………はい?」
「貴方とずいぶん気安そうだったけど、見ない男だったから気になって」
おとと、この間私が現世に出現したのを見られていたらしい。
うっかりうっかり。
私の失策なので、するりと降谷くんの影から滲み出すように身を現してやる。
「私が何かな?お嬢さん」
「……!!!」
「初めまして、私はこう言うものだよ」
片手を異形に、角を生やしてのお目見えだ。
半分ほど人類悪顕現の姿を模倣しながら、私はにっこりと微笑んだ。
これは幻影であるためベルモットと降谷くんにしか見ることができないから安心安全。
とはいえ、私の最高位の幻術は現実にも影響を与える。
このまま本当に人を引き裂くことも可能ではあるけれど。
ベルモットは驚きに顔を引き攣らせて一歩下がった。
「悪魔……こんな日差しの下でも現れることができるのね」
「別に夜と闇に潜まなきゃならないわけじゃないからね。もちろん、眠りの夜と深き闇のほうが馴染みはいいけど」
ふわ、と半分形を崩しながら降谷くんに寄り添う。
降谷くんは素早く演技として陶然と微笑むようにくつくつと笑いを残した。
これだけで昼間の路上でも淫美な夜の空気が流れるのだから大したものだ。
「この姿は人の姿も取れると言うだけさ」
「ジンが喜びそうなことね。お話ししてあげたらどう?」
「あいにく私はバーボン以外と取引するつもりはないよ。美味しそうじゃないからね」
私はずい、と彼女に近づいた。
恐怖が彼女を支配する。香り立つような感情の匂いだ。
そのまま本性を現し、バクリと彼女を頭から貪った。
ベルモットのくぐもった悲鳴がこだまする。
そのままパッと幻のように彼女を離し、私は化け物の姿でケタケタ笑った。
私と会話できると思われては面倒臭くなるからな。
ちょいとばかり脅しておこうと思ったまでだ。
というか私が人と話すの苦手なので勘弁して欲しい。
彼女の恐怖の感情をそのまま吸い上げ、苦手なピーマンを口いっぱいほうばった気持ちになった。
まっず。
やっぱり幸せの感情だよ、美味しいのは。
と、言う気持ちをおくびにも出さず微笑んでやる。
「ごちそうさまでした。まあまあかな」
「ダメじゃないですか拾い食いしたら」
「ごめんごめん。もう君のしか食べないから」
降谷くんに演技たっぷりに注意され、私はするりと降谷くんの影に戻った。
ベルモットは未だ恐怖に硬直しているらしく、そのまま恐々と降谷くんを見ている。
そしてなんとか飲み下し、捨て台詞を吐いたのだった。
「せいぜい自分の使い魔にパクりと一飲みにされないよう注意しなさいよ、バーボン」
「ははは、ご忠告ありがたく受け入れますよ。最も、食い喰われが僕らの関係ですがね」
彼女の元を去ってしばらく。
降谷くんはブスッと私に声をかけた。
『本当に食い喰われなのどうにかしないか?僕の感情そんなに美味いか?』
『君自身が激情家だから味にパンチが効いてるんだよ。中華料理みたいな感じ。諸伏君は穏やかなのはいいんだけど辛さが足りない。宮野さんは意外とニンニク効いてて野生的な味わい』
『えっ、明美さんそんななのか……ではなく。僕の短気を香辛料扱いするな』
『そんな、美味しいのに』
『というか僕のももう食べないで欲しい。具体的にはシードル飲ませて幸福抽出マシーンはやめてくれマジで』
『あれはおんなじ味ばっかで途中で飽きたからもうしないよ。生の降谷君の百味ビーンズ感が一番いい』
『それほぼハズレ味って意味じゃないか』
『いや降谷君怒ってること多いから若干不味いんだよ。もっと幸せになっておくれ』
『そんなの僕が一番なりたいって思ってるよ!!!』
潜入捜査官の悲哀に思わず涙がポロリ。
私はよしよし男泣きする彼を宥めたのであった。
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オマケ:宇宙イカの覚書
これは昔の話。
この地球を守ろうと四苦八苦していた時の頃である。
世界の外に外敵を察知し警告する結界を配置したところ、なんだかとんでもなくデカいものがあらわれたのである。
でかいものは結界の前で立って、しょげかえっていた。
触手全部くるくるに巻いて、イカの干物のように落ち込んでいた。
だがそれでも、一等恒星級の存在規模の化け物だ。
ORTを生で見たことはないが、少なくとも同じ所業を容易く行うことが可能だろう規格外の存在であった。
慎重に近づいていく。
不意打ちで眠らせることならもしかしたらできるかもしれないと淡い期待を抱いてのことだ。
それは結界の前でモゴモゴと日本語を喋っていた。
「入っちゃダメだよな…いやでもさぁ、この辺に同胞の気配があるからして…ちょっと、ちょっと触手の先っぽ入れるだけだからさ…」
「えっと、君は何者だい?」
世界すら確定してない未明の霧の中で防護魔術も組まず平然としている相手だったが。
妙な懐かしさを覚えたために声をかけてしまっていた。
イカは飛び上がって驚いた。
「おわーーっ!俺は無害なイカさんですよ!!」
「無害そうに見えないけど」
「あっ同胞の人!!!初めまして!俺は非常に無害な可愛いイカです!ぬるぬる!」
「自己申告は気合い入ってるけど……というか同胞?」
私の疑問にイカは激しく頷いた。
「転生者仲間ですよね!?現実世界からの!俺もです!俺も転生してイカになりました!」
「なんと。そんな冒涜的な姿に……どの邪神になったんだい?」
「ハスター。旧支配者でーす」
「黄衣の王じゃないか。人気どころ。私ゲームで使ってたよ、ハスター。鬼ごっこゲームとかで」
「えっ嬉しい。俺じゃないけどちょっと嬉しい」
私は歓迎ムードを出す目的で、幻覚で囲炉裏を出してちょっと雑談できるスペースを作った。
イカさんはイカのまま器用に正座した。
シードルを出してグラスに注ぎ、手渡してやる。
「どうぞどうぞ。自家製です」
「これはどうも……あっ、すごく美味しい!凄い!人間でも本来の味覚でもどっちでも美味しい!」
「お褒めに与り光栄だ」
私はとりあえず戦闘は免れそうだとホッとしつつ、本題を切り出した。
「それで、この地球にはどのようなご用件で?」
「同胞を探しに来ました!すごく前、偶然同胞に会えたから……もしかしたらいるんじゃないかと方々を探し回っててさ」
「すっごい時間かかったけど二人目見つけた…!」と感極まったようにイカ君は泣き始めた。
大変涙もろいらしい。
私はシードル二杯目を勧めた。
「大変だったろう。旧支配者では寿命で死ぬことすらできないだろうに」
「ほんとそう!!!そっちも人外系だよね?」
「私は星の終わりぐらいで死ねるから大丈夫さ。貴方は差し詰め、強大さと引き換えに次を失った転生者というところかな」
「………」
その一言でイカはすっかりしょげかえってしまった。
可哀想にカラカラに干からびてげっそりしている。
私は聖者として、柔らかく微笑んだ。
「だが貴方の光はいつか誰かを救うだろう。それが人でなくても、それが今でなくとも。その在り方は尊い」
「………そう言ってもらえたなら、俺も嬉しいよ」
「貴方には愛がある。それは何より大切な、人らしさの光だ。この私、灯火の聖者マーリンが保証しよう!」
せめてもと元気付けると、イカ君はみるみるうちに回復した。
そしてダバダバに感動の涙を流し始めた。
「ありがとうマーリンさん!お礼に加護いる?いるよね!たくさんいるよね!!!」
「術式に押しつぶされそうだから遠慮しようか!あと、できればこの地球が外敵に侵されそうになったら助けて欲しい」
「任せて!すごく得意な分野です!もう目にもの見せてやんよ!!!」
元気なイカ君がただ在るだけで空間を歪曲させるほどの力でぶんぶん触手を振り回している。
当たったら骨も残らなさそうだ。
まあともかく、そんな交流が大昔にあったわけで。
私は多少の情報交換をして、その不思議なイカ君と別れたわけである。
今どうしているのか定かではないが。
きっとうまくやっていることだろう。
・明美さんの感情の味
お淑やかに見えて「自分がなんとかしなきゃ」という責任感の塊。
ワイルドで原始的な味がする。
・イカさんの感情の味
食べるとよく熟成発酵したシュールストレミングの風味がする。
じっくりコトコト煮込まれてマーリンは嘔吐が止まらなくなる。