マーリンなオリ主と降谷零   作:ラムセス_

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瞳の中の暗殺者②

 

 あれから、すぐさま指名手配が行われた。

 

 コナンも犯人の顔は確認している。

 風戸という名前の心療内科医だ。

 どうやら小田切警視長の息子は無関係だったらしい。

 

 元々素顔を晒さず逃げ切るつもりだったのだろう。

 逃走の足取りは丸わかりだった。

 捕まるのは時間の問題だろう。

 

 安室はといえば、腹を撃ち抜かれて重症だった。

 峠を越えるのに三日かかった。

 幸い撃たれてすぐに病院に運び込まれたから命は助かったが。

 出血がひどく、ショック状態でいつ命を失ってもおかしくない状態であった。

 

 今日は一般病棟に移って、ようやく彼と面会できるようになる予定である。

 

 予想外だったのは、会って話した第一声であろうか。

 

「安室君、入るぞ」

 

 コナン、蘭、小五郎の三人で来て、ゆったりと病室に入る。

 喋れるようになったばかりの安室は、やや困惑を滲ませた顔でコナンを見たようだった。

 

「君は……僕の知り合いか?」

 

 沈黙が場を満たした。

 蘭も、小五郎も、よく意味が理解できていないかようにぽかんと口を開けている。

 コナンはしどろもどろになんとか口を開いた。

 

「あ、安室さん?」

「安室というのは俺の名前か?先ほどの看護師も言っていたが。なぜ俺は病院にいるんだ?」

 

 疑問が次々湧いてきているのだろう。

 安室はあちこちを確認して困惑に眉を下げていた。

 一緒に入ってきた蘭が困ったように説明するのは。

 

「覚えてないんですか?コナン君が犯人に襲われて、それを庇って怪我をしたんです」

「身体中が痛い。銃創か。そこの子供を庇って……君たちと俺との関係は?」

「え?お父さんの弟子で、よく一緒に事件を捜査していました」

 

 そう答えてから、蘭は首を傾げた。

 

「それにしても、口調がなんだか新鮮ですね。普段僕って言ってましたよね」

「うん?僕か。社会人ならそちらの方が適切か。すまない、以後僕を使わせてもらう」

「あ、あの…さっきから何を言って……」

 

 蘭の疑問に答えたのはコナンだった。

 コナンは信じられないながらもある程度の確信をもって口を開いた。

 

「記憶がないんでしょ」

 

 なっ、と小五郎が息を呑んだ。

 安室は平然と頷く。

 

「そうだ。あいにく今の僕はエピソード記憶の類が一切ない。安室なにがしかも分かってない。名前はさして重要ではないとは思うが」

「え、ええええ!!!」

 

 蘭が驚きの声を上げた。

 小五郎もこれには驚愕しているようで、わたわたと前に出た。

 

「安室君、本当に何も覚えてないのか。ああ、俺は毛利小五郎、オメーの師匠をやってる」

「毛利先生……とすると、僕は探偵をやっていた、と考えても?」

「ああ。売れなくて俺のビルの一階の喫茶店でアルバイトも掛け持ちしてたけどな」

 

 コナンは困り切って降谷に問いかけた。

 

「何か覚えてないの?」

「………驚くほどまっさらだな。前途多難ということはわかる。君、僕とはある程度仲がいいんだよな、慰めてくれ」

「名前聞くより前に慰めを希望することある…?」

「それもそうだな。君の名前は?」

「江戸川コナン」

「キラキラしてるな。時代ってやつか。いや、そう思うと言うことは僕も意外と歳を重ねている?」

 

 うむうむ満足そうに頷く安室は普段とはまるで違う、妙な肝の据わり方と愉快さに溢れていた。

 蘭がコソコソとコナンに話しかける。

 

「安室さん、なんかいつもとだいぶ雰囲気が違うね。やっぱり記憶喪失の影響よね」

「なんつーかイキイキしてたっつか、普段より覇気があるぐらいだけどな」

「そだね」

 

 普段の安室はどこか一線引いていて、人嫌いと言うか、厭世的な雰囲気があった。

 それまでの生で大切なものをなくしすぎたのか、人に踏み込まない壁もあった。

 

 この安室にはそれがない。

 コナンにすぐさま近づいてコンタクトを取ろうとする、一種の無垢さがあった。

 

 そして、狂気が見えないことも大きいか。

 

 コナンは改めて安室に近づき、頭を下げた。

 

「ごめんなさい、安室さん。それとありがとう。安室さんに庇われてなかったら、僕死んでたかもしれない」

「ん?さっきの僕が犯人から護ったという話か。気にすることはないさ。この訳が分からない状態も、子供の命を救ったと思えば十二分に利益が出ているだろう」

 

 やや男らしく笑って、安室はわしゃわしゃとコナンの頭を撫でた。

 そこには実に真っ当な正義感があって、まっすぐな光があった。

 

 今でもコナンは夢に見る。

 あんなふうに庇われて、死ぬかもしれないのに決して離さずコナンを守って。

 安室は間違いなくコナンを命懸けで守って見せた。それだけの善性を示してみせた。

 

 だからこそ分かってしまう。

 この人は宮野明美の命を本当に救う気だったのだ。

 救う気で殺したのだと。

 

 今、彼の瞳に狂気はない。

 狂気の元すら忘れ去って、ただ一人の安室透として生きている。

 

 果たして彼にとって何が幸せなのか。

 

 コナンは瞳を伏せて、ただ考えるしかなかった。

 

 

 

 

 夜、コナンは家に帰ってから密やかに電話した。

 家族は寝静まり、廊下は静かだ。

 

 相手は風見裕也、公安部の人間である。

 

「風見さんの方に情報入ってる?あの人について」

『………ああ。あの人が記憶喪失になったことはこちらも把握している』

 

 返事は実に暗かった。

 風見も安室の状態が良くないことは知らされているのだろう。

 

『上は静観しろとのことだ。そのままにしておけと。こんなことになっても。あの人の記憶喪失がどれほど危険なことか、分からないはずもないと言うのに』

「公安はあの人を潜入捜査官のままにしておきたいと言うわけだね」

『ああ。すまないが、君には彼の補助を頼みたい』

「謝るのは僕のほうだよ。僕がもっとしっかりしてれば、あの人がこんな怪我を負うこともなかった」

 

 風見は「それこそ、あの人の判断だろう。きみのせいではない」と優しい声を出した。

 

『何が必要なものがあれば言ってくれ。こちらで手配しよう』

「ありがとう風見さん、また何かあったら連絡するよ」

『わかった。あの人を頼んだ、少年』

 

 どうなるか未知数だ。

 まだまだ、未明の霧に包まれている。

 

 

 

 

 

 

 それから一週間と少しして、退院の時期がやってきた。

 

 コナンの目の前でまだ押し問答が続いている。

 安室の記憶はまだ戻らない。

 

「本当にいいんですか!縁もゆかりもない男を家に招くなんて!」

「こっちがいいっつってんだからいいんだよ。大体なんだよあの部屋!なんもねーじゃねーか!」

「ポアロのマスターが履歴書の住所知ってて本当に良かったですね。安室さん、私生活何にも漏らさない人だから」

「それ本当に僕の家ですか。何にもないっておかしくないですか」

「うるせぇいいから黙って世話になってりゃいいんだよ!」

 

 安室が退院してからしばらくは一人暮らしも心配だ。

 まだ彼は銃創で歩くだけでやっとの状態だし、できれば周囲に見守る人がいた方がいい。

 

 そういう理由で安室を預かることになったのは、お人好しの毛利一家としては必然だった。

 手続きを済ませ、半分連行されるような形で毛利宅へ。

 安室は大層困っているようだった。

 記憶はまだ戻らないから、コナンとしても心配だし異論はない。

 

 家に着くと、ひいこらと3階まで階段を登って安室はゼエゼエと息をついた。

 

「お、お邪魔します。その、ご迷惑をお掛けしますが」

「だから遠慮すんなっつってんだろ安室!ほら、あがれあがれ!」

「あ、コナン君スリッパ持ってきて!」

「はーい、安室さんほら、どうぞ」

 

 コナンがスリッパを渡すと、本当に嬉しそうに安室はヘニャリと微笑んだ。

 

 夕飯は蘭が退院祝いに豪勢にした。

 安室は終始ソワソワしていて、自分で作りたそうにしてはまだ治らぬ傷にヤキモキしていた。

 

 「僕も料理の心得がある気がする、何か作業風景を見ているとじわじわ湧き立つ」とのこと。

 蘭も「安室さん料理上手ですもんね」と同意して、部屋は和やかな空気に包まれた。

 

 コナンがそんな二人の会話をじろっと睨みつけていると、安室はニマニマとコナンの肩をつついた。

 

「コナンくん、君、蘭さんのこと好きだろう」

「なっななななななななにを」

「そんな年頃か。いいじゃないか。微笑ましいじゃないか。ところで、僕は好きな人はいたのか…?」

「女の人嫌いっぽかったよ」

「地雷男じゃないか。僕ともあろうものが情けない」

「安室さんのそのまっすぐな言葉はいつか自分に向かって跳ね返ってくるんだよ」

「それもそうか。しまったな」

 

 安室はブスッとして腕を組んだ。

 

「ところで、安室というのは本名か?」

 

 一瞬、コナンは答えに窮した。

 それから唇を舐めて、なんとか言葉を返す。

 

「どうして?」

「なんかしっくりこないと思っただけだ。僕自身、名前にこだわりがなさすぎる。家の状況も、僕の中にある妙な知識の数々も。一般人じゃなさすぎる」

「どうだろうね」

 

 コナンは答えを濁した。

 それを安室も理解して、それ以上聞いてくることはなかった。

 

 

 

 

 翌朝。

 

 一晩明けて、安室は元気そうだった。

 だがなんだか困惑していて、目を擦って布団を確認したり周囲を見渡したりしている。

 

 コナンは大きくあくびをしながら問いかけた。

 

「おはよう安室さん、どうしたの」

「何か変な夢を見た気がして…いや、そう大したことではないんだが」

「夢?」

「花畑か、楽園のような場所で、見知らぬ男に話しかけられてるんだ。どこまでも花畑が広がっていて、中央に塔がある場所だ」

 

 コナンはヒュッと息を呑んだ。

 彼の狂気が、ヒタヒタと足音を立てて迫っている。

 記憶を失ってなお焼き付いた狂乱の証が、夢を通じて安室に語りかけているのだ。

 

「ッ……」

「あれは一体なんだったんだ」

「さあね。忘れた方がいいよ。疲れてて夢見が悪かったんだと思うし」

「まあ、そうだな。気疲れはしていたかもしれない。だが君らが歓迎してくれて、すぐに慣れそうだ」

 

 にっと安室は笑った。

 未だ狂気の足跡は近く、彼の善性を塗りつぶそうとしている。

 

 どうか彼の記憶が戻っても、狂気から解放された時のことを忘れないように。

 そう願うしかないのである。

 





・ベルモット
好感度超絶アップ。
現在バーボンの任務を肩代わりしてくれてる。
「見直したわよバーボン。これはちょっとしたお礼だから、気にしないでちょうだい」

・マーリン
ライブ終了後気付いた。
あわわわわ記憶がなくなってアヴァロンへのアクセスが曖昧になってる!
外部から魔術でゆっくり記憶を修復中。
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