降谷くんはイライラと機嫌悪そうにコナンくんを威圧した。
「キレそう。コナンくんがFBIなんかと手を組んでたなんて。どうして僕に報告しないんだ」
トントントン、と車のボディを指で叩いて完全なるパワハラを繰り出している。
これが風見くんだったら緊張で死んでいたかもしれない。
だが相手は歴戦のコナンくん、すかさずキュルンと子供のふり。
あどけない小学生さながらのぶりっこを披露して、降谷くんの怒気を完璧に受け流した。
「だってぇ、安室さん、報告したらFBIの人に酷いことするでしょ?」
「しないよ。敵性外国人は牢に放り込んで鞭打ちするだけだよ」
「ほら怖いことするー!!!」
あれから、一旦組織は解散となった。
赤井秀一の狙撃もあったし、FBIに完全に風向きがある今、深追いは危険だと判断したのだ。
今はコナンくんとデブリーフィング中。
キールは現在杯戸中央病院に搬送されている。
偶発的な交通事故で意識を失っているのだ。
降谷くんがはぁ、と大きなため息をついた。
「なんにせよ居場所はすぐバレるよ。僕がキールの居場所を聞かれるのは時間の問題だからね」
「それって…?」
「僕の力は組織では公然の秘密さ。遠見で標的の位置を割り出すことはよくやってるし」
コナンくんがその言葉に息を呑んだ。
これは本当のことである。
主に使っているのは私の千里眼を利用した情報収集、降谷くん自身のレイシフトもどき、敵の制圧の三種類だろうか。
降谷くんとの取り決めで、人の心を読むのは対価が高額になると設定してある。
NOC処刑マシーンにされたら困るからな。
コナンくんがやや焦りを孕んだ顔で唾を飲み込み、降谷くんを見上げたようだ。
「公安がFBIと協力することはできないの?」
「できない。そればっかりは僕の心情を抜いても不可能だ」
降谷くんはキッパリと否定した。
大日本帝国にとって、アメリカは仮想敵国。
そもそもFBIが日本に滞在しているということ自体看過不可能なことである。
そういう意味では、降谷くんは非常におおらかな方だ。
今すぐ捕えられて人質交換が始まってもなんらおかしくない状況であるのは間違いない。
実際、日本に滞在するFBIの量からして、組織対策だけではないと思われるわけだし。
コナンくんはそこが動かない結論であることを理解し、困ったように眉を下げた。
それから話を切り替え、肩をすくめる。
「組織は今後どう出ると思う?」
「キールは始末を前提に動くと思う。元々ジンはキールのことを大層疑ってたからね。もっとも、あの男は何でもかんでも疑って殺して人員不足を引き起こす奴だけど」
「なるほど。ならなりふり構わない破壊活動もするかもってことか。気をつけないとね」
降谷くんがちらっとコナンくんを見て、ダメ元という顔で提案する。
「キールを公安に引き渡すつもりは無いのかい?」
「………正直。キールはCIAの人間だし、FBIの方が今後を考えたら良くしてくれると思うんだよね。というか公安に何されるかわからない」
「まあ、僕らが他国の諜報員をどうか扱うかを考えたら君が引き渡してくれるはずもないか」
敵国諜報員がマスメディアでアナウンサーをやっていた。
これはもう国民を煽動した罪で一生牢獄からは出られないだろう。
降谷くんも同じ思いなのか、むすっとして納得したらしい。
「いいよ、今回は見逃そう。でも結果如何では我が公安警察が引き受けることになる」
「ありがとう安室さん」
「奴らを思ってのことじゃない。君を信頼してのことさ」
少しだけ笑い合ってから、コナンくんは透明な表情で一言、鋭く穿つように質問した。
「ところで、灰原と話をしたみたいだけど」
「そうだね。阿笠博士から聞いたのかな?」
阿笠博士の口止めは不可能だと思ってしていない。
それがもうコナンくんの耳に入ったらしい。
コナンくんが怜悧に目を細めて問いかけた。
「何を話したの?」
「彼女には距離を取られているからね。これを機に親睦を深めようと思ったんだよ」
「灰原がシェリーだということぐらい、安室さんもわかってるよね」
「口にしていいのかい?曖昧なままにしておくのも美徳だよ」
「そもそも僕の正体がバレてる時点で隠す意味は薄いよ。それで、何を話したの?」
降谷くんは肩をすくめてやれやれと首を振った。
「単に誤解を解いただけさ。僕は宮野明美を、彼女の姉を殺してないってね」
「…………」
「ご納得いただけたかな?」
「今のところね」
降谷くんが苦悶をありったけ込めた声で私に念話を入れた。
『いやだってコナンくんに狂人と悪魔のタッグだってまた疑われるのが辛かったんだ!!!だからコソコソしてたんだ!悪いか!!!』
『それはそうだね……ハーブティー飲むかい?』
『もうこれは酒を飲まないとやってられない。帰ったら薄めた人間用シードル飲む』
『原液もあるよ!』
『なぜ僕を本物の狂人に仕立て上げようとするのか』
降谷くんはポコポコ怒りながらピラっと手を振った。
もう帰る、という意味だ。
コナンくんもそれを受けて「またね、安室さん」と言って背を向ける。
あっさりとした中に信頼と疑念と、警戒と委託が交差する。
二人が振り返ることはなかった。
コナンくんがスマホを取り出し、歩きながら電話する。
相手は志保さんだ。
「灰原」
『なによ急に、また調べ物?』
「安室さんが博士んちに来たって聞いたけど、本当か?」
『ああ、別に。お姉ちゃんの話聞いてただけよ。幼馴染だったそうだから』
「………それだけか」
絶対的におかしい、とコナンくんの声色は詰問の色を帯びていた。
降谷くんの話題を出してもあの轟々と燃えるような殺意が見えない。
少し声の調子が明るくて、優しい。
『それだけよ。そんなことで電話してきたの?』
「何かあったんじゃねーのか。オメーの態度が変わるような、何かが」
『さあ、どうかしらね』
ふわりと煙に巻くような言葉を落として。
宮野志保は緩く吐息を吐き出した。
『工藤くん。奇跡ってあるのね』
「……………無料の奇跡はねーよ。どうしたって代償はある」
『いいじゃない。いくらでも払う価値はあるわ。いくらでも。どれほどでも』
喜びと、その下に流れる底知れぬ執念を感じ取って、コナンくんは強く拳を握りしめた。
強く、強く。
さて、そんなわけでアヴァロンにて。
「これどうかしら?次志保に会うときに似合うと思わない?」
「いいな、いいと思う!俺としてはこっちも似合うんじゃないかと思うんだが」
「あっ可愛い!諸伏君センスあるのね!」
キャッキャッと朗らかな交流を続けるアヴァロンにて、降谷くんが私にコブラツイストをかけながら満足そうに微笑んだ。
「明美さんが嬉しそうで良かったよ。志保さんも再会を喜んでくれたし、順風満帆だな!」
「現実逃避はどうかと思う。間違いなくコナンくんがあらぬ方向に勘違いを飛躍させ痛たたたたたギブ!ギブ!!」
「悪い夢魔はすり潰してミートソースにしてやる!前も僕を組織のアジトで発狂させて!」
「でも新たなインスピレーション元が欲しいって言ったのは降谷くんなんだけど!?」
「だからって本当に発狂させるやつがあるか!虹色が広がって八角形の扉の前でキャンディが弾けてみんな踊って…はは……ふふふ!」
「おかしいな、後遺症はないはずだけど」
「コブラツイスト!!!!」
「ギャッッッ今のは私は悪くないだろう!?!?」
私の悲鳴がアヴァロンにこだまする。
降谷くんは私を怪力で持ち上げて、カゴにぶち込んで諸伏くん達の所に持って行った。
「ひろ!ひろ!聞いてくれ!キャンディがこんなにたくさんあるんだ!分けて食べないか?」
「ゼロそれマーリン!マーリン毟ってる!!」
「ははは、七色の夢のツノが伸びる、伸びる、ずっと夢を見るんだ!けもののゆめ!獣が1匹、けものが…2匹目がいないのに?」
「言わせてもらうが私のせいじゃないぞう!責任持って治療いたしますすみませんでした!」
「謝るか言い訳するかどっちかにしたほうがいいと思う」
「多分私の魔力酔いだ!吸い出すからちょっと待っててね!!」
「おお、マーリンがまたゼロに齧り付いている…」
私たちのじゃれあいを遠くから明美さんが微笑ましそうに眺めている。
ナザレの親友だけが「最近マーリンがイキイキしてていいよね。マーリンに友達ができて嬉しい」とほっこりしているのである。
私に友達がいないみたいな言い方はやめるんだ。
・降谷さん
狂気に対する知見が深まり、もう一度マーリンをコブラツイストした。
マーリンに頻繁に組み付いたせいでマナ酔いしたようだ。
・ナザレの親友
目を離すとすぐ獣になる親友に気を許せる人ができてめっちゃ嬉しい。
こういうのは気軽な仲間ができるのがいちばんの予防だしね!