私は精一杯駄々をこねた。
「コクーンかぁ、いいなぁ。試してみたいなぁ!」
「何だ急に。マーリンなら夢なんて見放題だろうに」
本日夜、アヴァロンにて恒例の団欒が行われている。
単純に降谷くんが早めに布団に入って、魂だけでアヴァロンでぐうたらしてるだけだ。
肉体は休まるし心も休まる一石二鳥ということである。
どうも今日の昼に毛利探偵組として園子くんに誘われてコクーン完成披露パーティとやらに出ることになったらしい。
コクーンとはフルダイブ型VRゲーム機だ。
五感を支配して催眠状態にすることで人に完全な白昼夢を見せる。
次世代体感型ゲーム機と銘打ってあるとのこと。
そんなの見たいに決まってる!!!
私は夢魔として夢との関わりの専門家だ。
その私にとっても、「新しい夢」の在り方は気になって仕方がない。
というか夢魔って言っても意外と窮屈なんだよ。
夢の主に侵入に気付かれたら最悪虫のように潰されるし、実質ノンレム睡眠専門の寄生虫というか。
それが安全に夢を見せられるようになれば、感情調理し放題相手方も楽しみ放題。
win-winの極みである。
私はワクワクとパタパタ四肢を動かした。
「私も人に夢は見せるけど、夢をみる仕組みが違うからね。私は魂からのアプローチ。あれは脳波と中枢神経系からのアプローチ。いいなぁ!体験してみたい!!!」
「体験できるのは未成年までだ。2500歳は大人しくしててくれ」
私は愕然と崩れ落ちた。
こんなのってない。あんまりだ。
うずくまってシクシク泣くと、降谷くんがおろおろ周囲を歩き回った。
「おーいマーリン?困ったぞこれ。ヒロー!マーリンが尺取り虫みたいになってしまった…助けてくれー!」と救援依頼している。
私は決意した。
ぽん、と降谷くんの目の前で変化を行使する。
私はスキルとして持ち得ないが、魔術で再現することぐらいは可能だ。
素早く現れたのは小学校一年生ぐらいのマーリンの姿である。
これすなわちマーリンリリィ。
どうだ、可愛かろう?
「これで文句ないだろう!」
「問題しかない。誰の子なんだ」
「お父さん、私もコクーンに乗りたい!」
「断る!国籍謎すぎる!というか僕も特徴的な容姿なのにカケラも特徴が引き継がれてないのはおかしいだろ!!」
「仕方ないなぁ、ほらこの通り、あっという間にガングロ白髪ギャルの出来上がり」
「僕をガングロ扱いとはいい度胸だ」
小さくなったのをいいことにつまみ上げて鉄拳制裁されてしまう。
ごつん!と怒りの拳が炸裂して私は地に沈んだ。
何でそんな酷いことするの………。
ぶつぶつ床にのの字を書いて抗議すると、降谷くんがしゃがみ込んで慰めてくれた。
さすがにちょっと哀れに思ってくれたらしい。
「体験は無理だが、パーティに呼ぶぐらいはできる。実際に間近で見て、解析するには十分じゃないか?」
「!!!!良いのかい!?」
「良くはない。絶対コナンくんに変な誤解されるし。でもマーリンにはいつも世話になってるし。たまには僕が願いを叶える側になるべきだろうと思ってな」
「降谷くん……!」
ひし、と私は降谷くんに抱きついた。
子供の姿であれば違和感がないだろうからの行いだ。
「降谷おじさん、ありがとう!私良い子にするよ!」
「おじさんか……良い響きだ。僕も歳をとったもんだ。たまにはマーリンもいいこと言うんだな」
「明後日の方向に反応されてしまった。童顔気にしすぎだろうに。顔がいいのはメリットだろう?」
「男には舐められるんだよ。特に公安ではチャラい新卒扱いされる。僕がイメチェンして髪を切って染めた時どうだったと思う?インターンの大学生ですかってヒソヒソされたんだぞ」
「涙拭いて。悪かった、私が悪かったよ」
悔し泣きの降谷くんを宥め、私は親身に寄り添った。
あまりにイケメンだと辛いこともあるらしい。
そのあたりで明美さんと諸伏くんのペアがやってきた。
二人とも動きやすい農作業着を着て、マナ充填式草刈機を抱えている。
マナ充填式草刈機は、動力をエンジンから魔力に変えただけの代物だ。
市販の草刈機を私が組み替えたもので、このアヴァロンで使う限り刈った草木から魔力を補填して無限に動く。
マナ格納部がプラスチックと花冠でできているので非常に軽く、持っていても疲れない。
諸伏くんが草刈機を置いて手を振った。
「おーいマーリン、北側の草刈り終わったぞ」
「あっ、ありがとう諸伏くん!助かったよ。またぼうぼうになってきたからね。ハーブティー入れるよ」
「外は気候がいいから苦でもなかったわ。これ、中に花が見えてて可愛いわね」
「あ、入れるなら僕のも頼む。ちょっと疲れてたんだ」
「もちろん、準備するとも」
そうして、みんなでティータイムとしけ込むわけである。
私特製のハーブティーはこのアヴァロンにしかない植物をいくつも使い、癒し効果抜群である。
つなぎの前を開けてふぅ、と息をする諸伏くんが笑顔で言った。
「こんな平和な日々もマーリンのおかげだな!ゼロも随分顔色が良くなったし」
「まぁ……そうだな。健康面では随分と助けられている。この程度で体調を崩すほど柔ではないつもりだが、何事も絶対はないからな」
むすっとしつつ感謝を口にする降谷くんに、私は感動してうんうんと頷いた。
明美さんがこてりと首を傾げて指で降谷くんの手の甲を指し示した。
「ところで毎晩零君がここに来るのは、この手の甲の印が目印になってるから?」
「ああ、明美さんは見える方なんだね。そうだよ。降谷くんを僕の一部と誤認させるような仕組みになってるんだ」
ようは「これは私の右手の小指である!」と世界に対して主張する印とでと言うべきか。
降谷くんは私の一部であるため、常に緩い誘引力が発揮される。
私が降谷くんを通じて現世に現れる時はこの逆、「小指があるんだから本体もあろうよ」という理屈を用いる。
これの利点は簡単な魔術の妨害にもなることだ。
私の一部である以上、呪詛も攻性魔術も私の反射で弾くことができる。
「生贄の印」の流れも汲んでいるから、周囲の怪異に対して「私のだから触んなよオメー!」と威嚇もできる。
あの蜘蛛は自分の力を過信して無視して突貫してきたみたいだが。
降谷くんが満足げに頷いた。
「なるほど。もし万が一魔術を悪用する組織がいてもこれなら有利に立ち回れるな」
「ふふふ、私に感謝するべき。万能のマーリンさんを崇めよ」
「そういうとこありがたみが薄まる。聖人モードで頼む」
「私の力を頼り過ぎぬよう、あなたはこころすべきである」
「おお、マーリンがキラキラしい…ゼロ、拝んどくか」
「そうだな」
そして繰り出される仏教式祈りのポーズ。
脳内ナザレの親友が「これがええんやでってやつだね!」とニコニコしたのだった。
当日
コクーン完成披露パーティには多くの著名人が集まっていた。
数多くの有名作品を手掛けている工藤優作もその中には混じっている。
米国に渡った裏切り者とも言われることがあるが、その文学的才能は圧倒的だ。
だからこそ国内でも評価され、時には映画化されたりもしている。
そこに私もセミフォーマルで参加している。
髪をなるべく後ろに縛ってボリュームを落とし、半分後ろに流してスッキリさせる。
深いグレーのスーツに合わせて白いハンカチをみせ、一点の彩りを添える。
蝶ネクタイも深い藍色だ。
毛利一家と園子くんが固まっていたようなので、降谷くんが微笑んで私を紹介した。
「彼が僕の紹介したい人だよ」
「初めまして、僕は安室くんの友人のアンブローズ・マーリンだ。家具職人をしてるよ」
「まっ、イケメン!!!」
瞬時に園子くんの顔がキリッとした。
「はじめましてわたくし鈴木園子って言います!!」
「あはは、参ったな。興味を持たれるような仕事はしていないけど……」
「園子!京極さんと約束したばっかじゃない!」
「あの人は武者修行の旅に出ちゃったし…イケメンは別腹だし」
愉快な会話の横で、かなり戦慄した顔をしてるのはコナンくんである。
私のカラーリングから常人ではないと思っているのかもしれない。
まあ白髪紫目とかいうアルビノでもなければ自然にはならないカラーリングだしな。
変な勘違いされる前に早いとこコクーンを解析して撤退しよう。
そう思って、私は肩をすくめたのであった。
・園子嬢の次なるコンテンツ
マーリンを別腹イケメンスイーツとして摂取することに決める。
瞬時に「陰の者だ!職人って言ってたし人馴れしてないのかな!可愛い!」とメロついている。