パーティは粛々と進んでいた。
子供達が新顔の私にも懐いてきてくれたようで、私の周りを走り回ったりだっこをねだったりと可愛かった。
コナン君が必死で抱っこを止めようとしているが効果はなさそうだ。
「マーリンお兄さん!歩美も抱っこ!」
「はいはい、そうらレディ!ご満足いただけたかな?」
「すごい!次肩車がいい!」
「歩美ちゃん次僕がいいです!僕も肩車したいです!」
わあわあと楽しそうな二人を尻目に、元太くんが小学生らしからぬ自然な遠慮でそっと静かにしている。
私は歩美ちゃんを下ろした後、元太くんを抱っこしてやった。
元太くんは重過ぎて前にお父さんが怪我をしたらしく、だっこは本人も諦めていたらしい。
筋力Bの私なら大型家具だって抱っこできるしな。
元太くんを抱っこすると、すごく喜んでハイテンションのゴールデンレトリバー並みにブチ上がった。
元太君の重量を綿毛のように抱え上げる私の姿に、コナンくんが疑念の色を強くする。
しばらくすると、どうも会場のホール内を警察がうろつきだした。
捜査一課が動いているらしく、高木刑事の姿が見える。
毛利探偵も呼び出されたらしく、慌ててエレベーターの方へと駆けていった。
コナンくんが凄く困った様子で毛利探偵と私を交互に見ている。
迷った末に、結局事件の方を選んだらしく駆け出していった。
たぶんこの人混みなら私も下手なことはできないだろうと踏んだのだろう。
降谷くんが険しい顔をして私に声をかけた。
「何があった」
「どうも他殺死体が見つかったようだよ。殺人事件だね」
私はぼんやり返事をすると、降谷くんが鋭く舌打ちして廊下の方へと出ていく。
どうやら公安に連絡を入れるつもりのようだ。
その後すぐにコクーンへの乗り込みタイムが始まる。
私は立ち並ぶコクーンに対し、すぐさま解析魔術を展開した。
衛宮士郎ではないので内部構造全てを見通すことはできない。
が、その大元となるイデアの把握程度はこれで可能となる。
というか彼の解析魔術はほんと羨ましいんだよな。
あくまで固有結界のための付属物で、本物の解析魔術じゃないことはわかっているが。
見ただけでプログラムも含めて文明の利器を完全に図面に起こせる力は全人類垂涎の品と言っても過言ではない。
そういう魔術開発しようかなぁ。
昔は手作業だったからイデアの抽出だけで大体なんとかなったんだが。
工場製品にはあんまり効果的ではないんだよな。
でも多層電子基板の解析とか思考分割しないと絶対解析不可だし。
そのために思考分割を身につけるよりはフォトニック純結晶(賢者の石)を作った方が安上がりか。
などとつらつら考え事をしていると、コナンくんが神速の勢いで戻って来た。
そしてそのままコクーン乗り場に消えていく。
多分殺人事件のヒントがゲーム内にあるとかなのだろう。
降谷くんがふらりと戻ってきてため息をつく。
「殺人の詳細を聞いてきた。シンドラー社のコクーン開発者が刺殺されていたらしい。我々が出る仕事じゃなさそうだ」
「確認してたのか。物騒だね」
「しかしままならないものだ。日本の天才児が我が国の教育に馴染めず渡米。その先で悪の米国に使い捨てられて自死とは」
降谷くんが悲しそうに視線を落とした。
どうやら今回殺された人はギフテッドの息子を持つ父親らしい。
教育をめぐり母と対立し、母は子を連れて渡米。
シンドラー社に引き取られた子供は自殺。
その後父親はシンドラー社で働き始めたとのこと。
まあ、大日本帝国の教育は画一的だから、ギフテッドが馴染めないのは仕方のないことだ。
加えて昔は精神論がよく取り沙汰されていたが、科学的でないとみなされ、今はほぼ改善傾向にある。
しかし右っぽい思想教育は相変わらずだったりする。
それを思うとコナン君なんかは非常に変わりものに違いない。
家にある書物と父の教育のせいだとは思われるが、凄く民主主義的な考え方をする子なんだよな。
私の知る現代日本風と言うべきか。
ちなみに、降谷くんは過激そうに見えて、国際社会で動く人なのでかなり柔軟なタイプである。
「自分のどこが他国の思想と違うか」に自覚的で、侵入先に合った思想に切り替えられるというか。
などと話していると、前にある巨大画面に異変が起こった。
大きな天使の輪のようなものが大写しになっているのだ。
「ん?なんだあれ。輪っか?」
降谷くんの疑問に答えるように、備え付けの大型スピーカーから中性的な声が聞こえて来た。
『我が名はノアズアーク。我が名はノアズアーク。日本をリセットするため、この場の子ども達は人質に取った』
これにはパーティに出席していた親御さん達も動揺して立ち上がるなどしている。
どうやら予定にない挙動のようで、案内の司会者さんも右往左往している。
降谷くんが眉間に皺を寄せた。
「どういうことだ」
「何者かにハッキングされてるね、これ。たしかネット接続で別のサーバーからデータを持って来てるんだろう、これ」
「!?マーリン、PCの知識もあるのか!?」
「失礼だな君!魔術の一分野、特に賢者の石に関わる部分はPC知識が多分に求められるんだぞ!カルデア式なんかは魔術科学とでも呼べる内容だし!」
「魔術は分からん。分からんがともかく管制室が何かを知っていそうだから行こう」
「聞いといて分からんは酷いぞう」
ともかく管制室へと駆けていく。
警官に止められたが、「毛利小五郎の関係者です!」と言って無理やり割って入った。
「毛利先生!」と扉を開けて降谷くんが叫ぶ。
毛利探偵が苦い顔をして振り返った。
「安室君か。ノアズアークとやらの話を聞いたんだな」
「ええ。一体何が起きているのか情報を知りたくて…」
私は管制室の画面に浮かぶ天使の輪っかのようなマークを見て、首を傾げてみせた。
「ここはノアズアークとやらに繋がっているのかい?」
「あん?部外者は立ち入り禁止だぞ。マーリンとか言ったか、早く観客席の方へ戻れ!」
その言葉に反応したのはノアズアークの方だった。
なんとも言えない間を残したまま、無機質な中に陰湿さを含んだ声を出す。
『へぇ、そこに聖人の名を冠する人がいるんだ』
「聖人?」
『知らないのかい?灯火の聖人マーリン。ヒロキ君も導かれた、ヒロキ君を見捨てた人。僕は彼の捜索のために作られたんだ』
「どういう意味かね」
目暮警部が凶悪犯を宥めるように慎重な声色で話しかけた。
輪っかがパチパチと瞬いて、ノアズアークが沈黙する。
『ヒロキ君が小さい頃、灯火の聖人に会ったことがあるんだ。彼はヒロキ君に祝福を授けて、でも結局は見捨てた。ヒロキ君は誰にも助けられず身を投げて死んだ』
「聖人が実在してたってことですか!?」
『さあね。僕はヒロキ君がそう言ってたと言うことしか知らない。僕にはヒロキ君の記憶しかないから』
ちらりと降谷君が私に視線を寄越した。
『どういうことだ』
『ちょっと目についたからカウンセリングしただけだよ。悩んでたようだから。でも、そうだね。その後まで見届けなかったのは私のミスだ』
『…………』
サワダヒロキ、と言われれば私にもようやっと思い当たる記憶があった。
プログラムが好きで周りに馴染めずに悩んで、木陰で一人PCをいじっていた子だ。
だから話し相手になって、プログラムを一緒に勉強して、褒めて一緒に遊んだ。
そうやってよく世界中の子供に声をかけているのが私である。
大人になれば幻聴だったと勝手に納得される話だ。
でも親と喧嘩して家出した子、飢えに苦しむ子、今まさに犯罪に加担しようとしている子を放っておくことはできない。
だから私は千里眼を使ってこまめに世界を見ては、そうした子に手を差し伸べている。
ただの小さな慈善活動だ。
名前を言われないと思い出せない程度の。
『まさか彼がこの人工知能プログラムの制作者だったとはね』
『解析はできないのか?』
『今解析中。どうやらヒロキ君のコピー、分身として作られたみたいだね』
私の会話をよそに、ノアズアークは捻くれた結論を出す。
『聖人って言ったってそんなものという話さ。まあ、どちらにせよ僕は子供達を解放する気はないよ』
「てめぇ!子供は関係ねぇだろうが!」
『あるよ。僕が目指すのは権力構造のリセットなんだから。時代の権力者の子供ばかりのここは、うってつけと言っていい』
無機質な合成音声だと言うのに、そこには明らかな嘲笑が滲んでいた。
その属性はアヴェンジャー。
根本的に、死んだヒロキ君の弔い合戦をするものである。
『君たちはよく言うだろう?社会構造が悪いって。ならちゃんと変えてやらないと。次代ではこんな事がないように。ヒロキ君のように悲しい思いをしないように』
そうだろう?
初めて経験する人外のテロリスト、史上初の生のない思想犯を前に。
降谷くんは戦慄に息を呑んだようだった。
・慈善活動
名前に紐付けて声をかけた何十万人と言う子どものことを覚えている。
当然見落としなんて山ほどあるけれど。
少しでも子らの未来に幸あれと祈って、小さな小さな施しをする。