無事宝石が守られたということで、打ち上げが開かれるらしい。
この後、函館の別荘で皆で楽しむ予定となった。
我々もご一緒させてもらえるらしい。
雨で肌寒いので豪勢な鍋をするととのことで、黒毛和牛を投入してすき焼きなどが行われるとのこと。
いいなぁ黒毛和牛すき焼き!おいしそうだなぁ!
私には味わかんないけど!!!
むしゃくしゃした私は浮かれた降谷くんの感情に貪りつくのみである。
降谷君は多少迷ったが、「日本の肉を無駄にするわけにはいかないし」などと言い訳して参加を決定した。
スリーメイスンは部下たちに任せる所存らしい。
『やはり肉だよね。わかるぞう。私はそんなワクワクの心を食べて間接的に空腹を紛らわせるのだ。ぐすん』
『お前にとっての肉味ってどんな感情のことなんだ…?』
『前に食べたのは中世、バトルジャンキーの剣戟の中に肉はあった。こう、青唐辛子をスライスした豚バラ焼肉サムギョプサルみたいな味わい』
『人間の料理食べられないくせにどうしてそう料理に詳しいんだお前は』
飯が素敵だからだよ。うむ。
飛行機はスカイジャパン航空の865便。
フライトは18時15分からだから、向こうに到着したらすぐに宴会を始める予定らしい。
どうやら人数分のファーストクラスがとってあるようで、大きな座席に広々と座ることができた。
降谷くんがコナン君の後ろでゆったりと背もたれに体重を預けている。
すると、後ろから声がかかった。
「あらあなた、あの人に弟子入りしてるって探偵さん?」
「これはこれは、毛利先生にはいつもお世話になっております、安室透です」
声をかけて来たのは妃弁護士だ。
妃英理。敏腕弁護士で頭の切れるお方らしいが、料理がひどいらしくコナン君には苦手に思われている。
彼女が毛利家に来た時は「家族水入らずで!」なんて言い訳して降谷君のところに逃げて来たぐらいである。
妃弁護士が柔らかく笑った。
「やだ。あんなポンコツに弟子入りなんてやめた方がいいわよ」
「と、とんでもない。毛利先生からは学ぶところがたくさんありますよ」
「そうだ!安室君は俺の弟子としてメキメキ成長してんだよ!」
「嘘。どうせ昼間っから酒飲んで競馬見るしかしてない男が教えることなんてあるもんですか」
「にゃにおう!!!」
参戦した毛利探偵により争いは激化。
瞬間最高速の痴話喧嘩を両側から浴びてしまい、降谷君が目を回した。
哀れに思ったコナン君が救助してくれているが、なんとも平和なものだ。
さて、そのあたりのことである。
機体が空港を飛び立ってしばらく。
「あぁぁああああ!!!!」と悲鳴が上がった。
苦悶の表情をした樹里という女優が喉をかきむしり、そのまま床に倒れ伏す。
香るわずかなアーモンド臭は、それが青酸系毒物であることを示している。
降谷君が目を見開いて駆け寄り、脈を確かめた。
『マーリン、どうにかできるか?』
『無理だね、もう死んでるよ』
素晴らしい即効性だ。
本当にコストを厭わないなら比較の獣がやったのと同じように死者蘇生も可能だが……。
行きずりの人にそれをする理由はない。
流石に私も身を捨てられるほど無責任な立場ではないのだ。
そうすると、必然、彼女に毒をもったのは誰かという話に移行する。
コナン君がてくてくと降谷君のところによって来て、推理タイムが始まる。
「毒を盛る隙があったとしたら、チョコを買って来たマネージャーさん、ビタミン剤を渡した女優さん、転んだふりをして手に毒を付着させられる演出家さん、かな」
「よく見てたね。怪盗キッド対策だったろうけど、まったく散々だよ」
「あいつも流石にこの状況で宝石は盗まないと思う。意外にハートフルだし」
「なるほど、なら安心だ」
毛利探偵が「チョコに決まってる!チョコを食べた途端死んだんだから!」と迷推理を爆発させている。
コナン君が胡乱な顔をした。
「それなら手の可能性の方が高くない?みんなランダムに選んでたんだから」と口を挟む。
「が、ガキは黙ってろ!」
「毛利探偵ダメですよ、相手が子供だからって意見を封殺しては。教育に悪いです」
「うぐぐぐぐ…ならどこで手についたってんだよ」
まあ、問題はそこだろう。
妃弁護士が「これだからあの人はダメなのよ」と発言して痴話喧嘩ラウンド2が発生するのを尻目に議論は深まっていく。
降谷くんがほうほうの体で痴話喧嘩の隙間から這い出して一息ついた。
「まあ、どこに毒が塗られていたかは地上に着けば鑑識がすぐに割り出すはずだ」
「そうだね。逆を言えば、その時には犯人は逃げ切るつもりだってことか」
「できるなら向こうに着く前に身柄を押さえておきたいかな。コナン君はどう思う?」
降谷君が問いかけると、コナン君はわずかに思案した。
「機内にあらかじめ毒を塗っておくのは相当難しい。特にみんな公演会場にいたから、それに間に合うように羽田空港を往復するのは現実的じゃない」
「だね。ビタミン剤も除外。欲しがるかは運が絡む」
「…………あのさ、悪魔さんに確かめて欲しいんだけど、僕自身と取引って可能?」
「!」
降谷くんが目を見開いた。
私は少しだけ考えてから、彼の脳内に念話を届けた。
『何かな』
「被害者と顔と指以外で、毒がついてる場所を教えて」
降谷くんがハッとしたように顔を上げる。
「まさか化粧品……いや、そうか、彼女が体調不良を訴えていたのは、皮膚から吸収された分ということか!」
「僕はそう推理したけど、確信できるほどじゃない。どう、悪魔さん?」
私は千里眼で見えざるものをつぶさに見て、その結果を正直に伝えた。
『大正解。顔と指以外は、座席についているスイッチ、前方トイレのドアノブ、ズボン、トイレットペーパーの端、蛇口、そして………やば』
「へ?」
『ききき緊急事態!それとあと、機長と副機長の手と体内!もうだいぶ毒が回ってる!』
「な……嘘だろ!?」
「ッあの時コックピットに向かった時!樹里さんの手に触れたんだ!やばい、お菓子も運んでた!」
バタバタと駆け出した二人に、「なんだぁ!?」と毛利探偵が困惑している。
駆けた二人はすぐさまキャビンアテンダントさんに詰め寄った。
「機長さんの様子を確認して!毒を飲んでるかもしれないんだ!」とコナン君が叫ぶ。
困惑しつつも毒殺者の出ている現場だ。
CAさんは大人しくコックピットに通信を入れた。
「すみません、そちらの状況をお伺いしてもよろしいでしょうか」
『……が、あ………息が……』
返事がギリギリ聞こえてくる。
苦しげな呻き声だ。
最後の力を振り絞ってか、コックピット側からドアが開かれた。
駆け込むと、まだ意識はあるようだった。
息が荒いのにまるで酸素を取り込めていない。
首を絞められているような状況で、苦しみ抜いている。
降谷君が青い顔をして叫んだ。
「機内に医者の方がいないか探してください!青酸系毒物です!」
「なっ、かしこまりました!」
ギリギリ目を開けた機長さんがコナン君に助けを求める。
「うう、これは…一体……」
「安静にしてて、毒だよ。今お医者さんを呼ぶから!」
「だが、機体の、操作が……」
それは実際問題、かなりの難問として二人の前に立ち塞がっていた。
機長と副機長がいない今、一体どうやってこのスカイジャパン航空865便を地上へ送り届けるか。
コナン君が鋭い声を出した。
「安室さんは?」
「ILSが着陸までインプットされてれば、あるいは……だがセスナならともかく、こんな大型機を動かした経験はないぞ」
「僕もセスナ。地面の上だけ。着陸怖いね」
「前途多難だな。客の中に経験豊富なパイロットなんかがいるといいんだが」
CAさんが機内放送で医者を募っているのが聞こえる。
コックピットの録音が入らない程度に外に出て、こっそりコナン君が小さな声を出した。
「ねぇ、悪魔さんは運転できないの」
『無茶言わないでくれないかな!自動車の運転免許すら持ってないよ!あえていうなら帆船の操縦は得意だから一人でもできる』
「だめかぁ」
軽く流されてしまったが、私は大型帆船の操縦も一人でできるんだぞ!
帆船は私自身で風の方向を自在に操れるから、魔術で帆を制御すれば比較的簡単になんとかなるんだよな。
でも飛行機は流石にちょっとね。
『一応墜落したら墜落していないことにできるけど、計器の誤魔化しが効かないから大騒動になるよ。大量死亡事故よりマシかもしれないけど』
「それは避けたいな。だが万が一の命綱としては十分だ。頑張ろうコナン君」
「そうだね。ところでさっきの取引僕何持ってかれたの?」
『緊迫した感情をひとつまみ。パチパチアイス感あって懐かしい味がした。夏に食べたい味』
「僕の緊張感で涼を取らないで」
ちなみにだが、コナン君はエネルギーの核となってる関係上、感情もその余波を受けて馬鹿でかいエネルギーとなっている。
具体的にはバケツアイスだったことを留意されたし。
そんなにいらんわい。
さて、あとはうまく飛行機を着陸させられるかのみ。
フライトは佳境に入りつつあった。
・大型帆船一人操縦
曲芸の類。
千里眼で全部見つつ物体操作と風の魔術を使用し続ける。
マーリン主の趣味で、専用魔術を組んでた。
具体的には3DCGのリグ操作に似る。
当時は幽霊船扱いされた。