その日の夕方。
警察が来たことで少し予定はズレたが、ウェルカムパーティが始まった。
壇上でクルーの紹介が行われているのを尻目に、子供たちがコソコソヒソヒソ困ったような顔をして話し合っている。
降谷くんが覗き込んで声をかける。
「どうしたんだい?」
「あっ、安室さん!その。蘭さんが僕たちのあげた貝殻で作った金メダルに気づかなかったみたいで」
「服のポケットの中に入れといたんだよ」
「そっか、それは残念だ。でも蘭さんなら声をかければ喜んでくれるはずさ」
光彦君が「そうですね…予定とは違いますが、声をかけてみます」と眉を下げた。
ちょっとしおっとした子供達を撫でて「優しい子達だ」と褒めてやる。
降谷くんが蘭さんにアタックしようとする子供達の後ろ姿を見ながらにこにこした。
『良い子だ。日本の未来を担う子たちと言った感じだ』
『言葉端がこう、適度に極右って感じで味わいあるよね降谷君』
『日本の中では飛び抜けて右ってわけでもないぞ!そりゃヨーロッパ諸国では浮くかもしれないが!』
そうこうしているうちに、会場がざわめきだした。
まだ八代会長と社長の死は乗客には伏せてあるからな。
このウェルカムパーティで何か公式報告があると思ったら無かったから、観客たちが騒ぎ出したのだろう。
流石に殺人鬼と船をご一緒は勘弁して欲しいのは当然だ。
目暮警部が乗客たちに詰め寄られて質問をぶつけられている。
そして流れるように、混乱を一刀両断するが如く、毛利小五郎の推理ショーが始まった。
降谷くんが難しい顔をして腕を組む。
『まあ、本当は日本警察の顔を立てて欲しかったところだが…まあいいか。コナン君だし』
『コナン君への甘々対応』
『どんな分野でもいずれ日本を背負って立つんだし、経験は多い方がいいと思って。絶対アメリカなんかには渡さん』
『「安室さん!僕FBIになるんだ!」』
『下手な裏声でコナン君の真似をするな不届きものめ。というかその時は戦争しかない。米国が無くなれば万事解決だ』
『もー、コナン君の自由意志を尊重しなよ』
降谷君は急に耳が聞こえなくなったようで、腕を組んだまま明後日の方向を見ている。
私はため息をついて降谷くんに声をかけた。
『ところで、犯人は誰なんだい?』
『シナリオライターの日下さんだろうな。レコーダーを使って電話での会話を偽装したんだ。あのスカーフを取れば被害者揉み合った時の爪の跡が残ってるはずだ』
『なるほど……あ、ほんとだ。これならわかりやすいね』
私が千里眼に付属する透視で確認する。
首にはくっきり爪の跡があって、これなら誰もが犯行を確信するだろう。
推理が行き着くにつれてざわめく観衆の中、客たちに距離を取られた日下さんがニタリと笑った。
「お見事!だが俺にはまだこんなものもあるんで、ね!」
なんだか既製品じみてよく見るデザインのボタンをカチッと一押し。
瞬間、船に轟音が響く。
体になじんだ振動にコナン君が「まさか!」と叫んだ。
次々連鎖的に船に振動が起きる。
あちこちで観客たちの悲鳴が沸き上がった。
ウェルカムパーティで乗員乗客のほとんどがここに集まっているのは幸いだったか不幸だったか。
会場はあっという間にパニックになった。
脱兎の如く犯人である日下は客たちをかき分けて見えなくなる。
「追えぇえッ!!」と目暮警部の怒号が響く。
降谷くんがしょぼんとこれ見よがしに肩を落とした。
『僕の7泊8日の洋上の旅が……完璧に消えた……?』
『まあこれから緊急避難マスメディア対応テロ事件として公安出動が待ってるよね』
『あの男、留置所で不審死させてやるぞオイ』
『素早く闇堕ちしてしまった』
降谷くんは漆黒の波動に目覚めてしまったようだ。
轟々と殺意をみなぎらせて全ギレしている。
警官たちの後を追おうとしたところで、ふと目に留まるのは毛利探偵だ。
何やらコソコソと流れに逆らって部屋の端に消えていく後ろ姿が目に留まる。
『毛利先生は何をしようとしているんだ?』
『あれ、本当だ。誰かを追ってるね……秋月美波子さんだ。……ん???』
私は彼女の服の中に信じられないものを見て、思わず千里眼で二度見した。
『どうしたマーリン、何かあったのか』
『秋月さんの服の中に、こう、いかにもな見た目の起爆スイッチが入ってる。あっ今押した!』
追加で揺れが作動。
この船が先が長くないのがよくわかる、不吉な揺れ方だった。
『はぁ!?なんでだ!秋月さんは…いや待て、そうか、録音音声と分かっていて敢えて利用して、アリバイを作ったということか!これは犯人同士の獲物の奪い合いなんだ!』
『このご時世、油断してると犯人も別の犯人に獲物を先に殺されちゃうんだね。悲しいね。悲しすぎてツノ生えそう。みんな救済すべき』
『やめてくれ。別に普通の殺人事件じゃないか』
普通の殺人事件であってたまるか。
毛利探偵の後を追うと、皆避難が始まったらしい。
救命胴衣を着て、ライフライトが海に降ろされていくのが遠目に見えた。
しばらくそっとつけていくと、狙いは船長室だったらしい。
犯人秋月美波子の目的が復讐なのは明白だった。
15年前の惨劇の復讐とかなんとか、まあオーソドックスな動機である。
狙いはもちろん船長だったが、それを庇うように毛利探偵が前に出る。
「残念だったな、その拳銃はあらかじめ使えなくしといた。……やっぱりあんたが犯人だったんだな」
「疑っていたの、私を」
「あんた、日下の計画を知ってたろ。それを利用して自分の手で復讐を遂げようとしていた」
降谷くんがそっと物陰で様子を伺いながら、毛利小五郎の推理ショーをじっと観察した。
『え、毛利先生かっこよくないか?どうして急にこんな輝いてるんだ?』
『犯人、なんか妃弁護士と似てるしちょっと気合い入ったとか?』
『それにしては仕上がり方がいつもと違いすぎないか!?コナン君がいらないタイプの名探偵だ…絶対おかしい…!』
降谷くんが困惑して「いつもこうだとしたら全然正式弟子入りするんだが」と言っておどおどしている。
捕らえようとする毛利探偵に対し、秋月という犯人は抵抗するようだ。
一方的に蹴りが飛ぶ。
女に手を上げない主義だ、なんて言っても毛利探偵は防戦一方。
本当は妃弁護士に似た彼女に乱暴できないだけだと思うが。
『どうする?僕が出ても下がってろと言われるだけなのは明白だが。早めに制圧して船から逃げた方がいいのは確かだ』
『背後から忍び寄って首トンとか』
『無粋だなぁ。まあそれで行くか』
彼女が距離をとった隙に、降谷君は音もなく背後から忍び寄った。
目にも止まらぬ速さでトンと首に打撃を一つ。
それだけで女性は気を失って倒れ伏した。
「安室君!?」
「毛利先生!探しましたよ!なぜか避難客の中にいらっしゃらないから」
「………まあ、な」
「この方はどうぞ。僕はそこで気絶してる船長さんを運びますので」
降谷くんが秋月さんを毛利探偵へ渡すと、なんとも言えない顔で毛利探偵が受け取って姫抱きにした。
それからちらり、と降谷くんに目をやる。
「お前さ、もう目的は済んだのか」
「はい?」
「俺に近づいたのは何か目的があってのことだろ。授業料だかなんだか言って金渡してくるが、オメーも入り用だろうに。心苦しいっつーの」
「…………」
降谷くんはしばし言葉を失ってから、沈黙をはさんで正直に言葉を紡いだ。
「まだしばらくかかります。それまでどうか、ご容赦を」
「危険な橋ばっか渡んじゃねーぞ。俺だって心配してんだよ。いいな」
「はい」
降谷くんは柔らかく笑って、言葉少なに頷いただけだった。
『なんかときめいたんだが。マーリンお前違法なドーピングとか毛利先生にしてないよな?』
『私をなんだと思ってるのさ。あれは天然物の毛利探偵だよ』
『嘘だぁ』
違法ドーピング疑いをかけられつつ。
私たちはなんとか沈みゆく船から無事脱出したのであった。
・毛利探偵の気づいてること
安室透は自分より遥かに優秀な探偵である
安室透は何かの機関に所属してる可能性が高い
安室透は何か目的を持って自分に近づいた
その目的は江戸川コナンが関係している
安室透が小五郎やその家族に危害を加えるつもりはない
次回はVS赤井秀一(笑)