コナン君を交えれば、すぐに夜のカフェテラスが何を示すのかは見当がついた。
やはり現金輸送車襲撃事件に関することらしい。
三つ目のヒント「YOU CRY」に辿り着くのは間も無くのことであった。
カフェで思考をまとめ終えた一行は、毛利探偵の控えめな一言で手を止めた。
「なあ、そろそろ目暮警部に蘭達の保護を頼みたいんだが。いい案はあるか?」
「それなら僕の方で探偵仲間の方に保護をお願いしました。安心してください、コナン君とも顔見知りなのでスムーズに保護完了していますよ」
毛利探偵は降谷くんの言葉にすぐさま胡乱な顔になった。
「あの坊主とぉ?またぞろ何か首突っ込んでんじゃねぇだろうな」
「ははは。心配ありませんよ!」
降谷くんかいかにも誤魔化しじみた笑い声で適当に話題を流した。
ちょっとだけ心配になって私も声をかけることにする。
『大丈夫かい?風見君の誤解はまだ解いてないよね?』
『………いやその、いつか解けるし自分から言い出すのは……いいかなって……』
『面倒臭がって後回しにするのは良くないよ。君、どうせコナン君と情報交換して知らないうちに誤解が解けるのを望んでるだろう?』
『いやだって、あいつが悪くないか?勝手に僕のこと酷い誤解しておいて』
ブツブツと降谷くんが文句を口の中でもごもごさせている。
まあ、気持ちはわからんでもない。
哀れな狂人上司が必死に言い訳してるみたいな憐れみをうけたくないのだろう。
まあともかく、時間は限られている。
次の暗号は「YOU CRY」、つまりは横浜海洋大学犯罪研究会だ。
やってきた横浜海洋大学は広いキャンパスに学生が穏やかに行き交う平和そのものだった。
大きな看板は綺麗で、敷地内の地図が記されていた。
整然と大量の自転車が並んでいるあたり、自転車通学も多そうだ。
そこで合流したのは、若干動きの悪い白馬君である。
「おや、あなた方も同胞ですか。僕もこの通り、油断した口でして」
「おいおい、ガキばっかじゃねーか。どうなってんだよ依頼人は!」
白馬君の腕に嵌められたIDを見て、毛利探偵が顔をしかめる。
「あの烏丸蓮也の屋敷にいた探偵坊主だろ」と会話をしている横で、降谷君が取り繕った表面的な笑みを浮かべている。
『どうしたんだい?いつにない態度じゃないか』
『白馬探。白馬警視総監のご子息だろう。警察は純粋なる階級社会の体育会系なんだ。別に警察官として接するわけじゃないが、お偉いさんの息子は扱いに困る……』
『そんなこと言ったら服部君もだろう。大阪府警本部長の息子だろうに』
『あの子はほら、ギャグ枠みたいなところあるから。父上に言いつけるキャラじゃないというか』
なにやらすごくチキンなことを言っているので、私が喝を入れてやることとする。
公安が権力に屈するとは情けない。
『でもそれキッドだよ』
『なに。……安心したようなムカつくような。いびってやろ』
『可哀想だからやめてあげて』
『というかキッドならあのIDもダミーか。心配して損した。あ、そう言えば服部君と和葉さんのぶんのIDも食べてくれたか?』
『勿論。カメムシの匂いしたよ』
『恨まないでくれ。帰ったらシードル原液飲むから食べ放題パーティ開いていい』
『何も恨んでないよ!水臭いなぁ、友達同士じゃないか!!!』
『食欲に支配されてるぞ君』
横浜海洋大学の調査を一通りすると、次にこのメンツで向かうは浮かび上がった事件現場だ。
その近くにオフィスを構える「ファー・イースト・オフィス」。
ここの社長は横浜海洋大学の出身で、犯罪研究会にも所属していたらしい。
しかし現金輸送車襲撃事件に関与したとして会社は倒産。
このオフィスも跡地だけが残る状態となっている。
時刻は昼、まだ夜の10時までゆとりがあるが、油断は厳禁だろう。
白馬キッド君が「こっち開いてますよ」と開いたままの非常階段のドアから侵入を果たす。
毛利探偵が修学旅行の引率の先生みたいな顔になった。
「ったく、あんまし前に出過ぎんなよ。古くなって床踏み抜いたら大ごとだぞ」
「何言うてんねん。俺らかて同業の探偵やで」
「娘と同い年のガキどもがカッコつけてんじゃねぇよ。そこ安室、ガラス踏むなよ」
「はい毛利先生、ですが僕はもうすぐ30です!」
精神年齢高校生と言われて降谷君がしょぼくれている。
白馬君の皮を被ったキッドが探索しながらピンと指を立てた。
「ここまで出た情報を時系列順に整理すると、まず現金輸送車襲撃事件。犯人はファーイーストオフィス社長伊藤末彦、同営業部長の西尾正治、そしてもう一人」
「犯人らはその後仲間割れで西尾を射殺。その狙撃現場がここっちゅうこっちゃな」
毛利探偵が眉間にシワを寄せてため息をついた。
「社長やってて金には困ってねぇだろうになんで銀行強盗なんぞに手を出したんだろうな」
「それは気になるところですね。手に入れた情報によると経営状態は良好だったようですし」
降谷君がチラリとスマホを確認して目を細める。
白馬キッド君が言葉を続けた。
「気になるのは清水麗子が何故取り調べを受けたかですが」
「それなら僕の方で情報を取り終えてるよ」
降谷くんがニコリと笑ってスマホをしまった。
「先ほど僕の探偵仲間が情報をくれたんだ。聞くかい?」
「なんや、いい情報が見つかったんか?」
「まあ………正直、肩透かしと言わざるを得ない。今回の依頼人の願いも察しがついた。どうも真実はそれに反するようだが」
そこまで言った瞬間。
不意に、ガラスが割れる派手な音が響いた。
バイクが2台、表の窓ガラスを破って一階の窓から侵入してきたのだ。
フルフェイスのヘルメットにライダースーツ、体型ぐらいしかわからない人間が二人。
いかにもな敵意をみなぎらせ、バイク2台はウォンウォンとけたたましい音を鳴り響かせた。
服部君がギョッとして近場の武器になりそうな鉄パイプを握り締める。
「おいおいおい、オモロすぎるでこのゲーム!」
「逃げるぞおめーら!全力疾走だ!」
毛利探偵の声と共に全力疾走、を、始めなかった。
降谷君が取り出したのはメジャーのような小さな四角形の入れ物だ。
そこから勢いよく銛のようになった先端が飛び出し、壁に打ち込まれる。
頑丈なピアノ線か何かだろう。
その反対側を突き出た柱にぐるりと結わえて。
それだけで、突っ込んできたバイクは派手に横転して二人とも地べたに転がった。
あのスピードで鉄線に突っ込んで死ななかったのは僥倖だろう。
なかなかに殺意の強い即死トラップだ。
あんぐりと口を開ける服部くんを尻目に、降谷君が犯人達へと手早くボディチェックして拳銃を押収。
それから腕が折れてうめいている片方を結束バンドでしばり、もう片方も縛ってから拳銃を突きつける。
素晴らしい手際で、毛利探偵が我に返った頃には完全に尋問態勢が整っていた。
私が出る幕もなかった。
私も指向制御平面を展開する準備はできてたのだが……まさかこんなふうに滑らかに倒されてしまうとは。
流石、バーボンとして数々の修羅場を潜ってきた降谷くんというわけだ。
「いやこれは完璧に007やないか?」
「ですね。劇場版の動きでしたよ」
「まさか。備えあれば憂いなしってだけで、僕はそんな怖い人じゃないよ」
きゅるるん、と降谷くんは可愛こぶりっ子した。
大胸筋は雄々しいが、着痩せするタイプの降谷くんはそこそこアイドルのように見えた。
たぶん諸伏くんなら的確に審議してくれることだろう。
「さて、口は動きますね。依頼人の名は答えられますか?」
「………」
「ま、ままま待て安室君、穏便にな!法に触れないやり方をすんだよ!」
「うーん、まあそうですね。今吐かせなくても警察に突き出せばいいだけですからね」
にたり、と口の裂けるような笑みで拳銃を手の届かない場所に放り捨てた。
「僕の探偵仲間に預けておきましょう。僕らが警察に接触できない分、警察に届けてくれますので」
「それあれやろ。そのまま行方不明になるやつやろ。俺ドラマとかで見て知ってんで」
「物騒ですね。本当に彼に任せて大丈夫ですか?」
「安室君、本当にいいんだよな……?」
「僕の信用がなさすぎる」
降谷君は憮然として眉間にシワを寄せた。
いやこれは仕方ない気がするのだが、まあ普段の行いというやつだろう。
・その頃のコナンくん
園内でひったくりが出たと思ったらそのひったくりが死体で見つかって殺人事件に発展。
園子ちゃんを探偵役に据えて急遽頑張ろうとしたら!
事件を受けて捜査一課が駆けつけて、安室の要請を受けて公安が駆けつけて!
少年探偵団も勝手に出動!
場は混沌を極めていた─────!