30万の懸賞金がかかったパズルをコナン君が解いて。
現在、我々は優雅に太平洋の海に浮かぶ小さな観光地へとやってきていた。
「なにぃ!?予約ができていなかったァ!?」
「ええ、おそらく…予約リストにお名前がありませんので…」
そして早くもハプニングに見舞われている今現在である。
野宿の気配に完全海遊び装備の少年探偵団がしおしおしおしている。
コナン君がそっとその中でぽやっと旅行バッグを持った降谷さんに声をかけた。
「いいの?最近よくこういうの一緒に来てくれるけど、安室さん本当は凄く忙しいよね」
「最近、組織の仕事が割とゆとりあるからね。意外と大丈夫。というかコナン君あるところに大事件があるからこっちのが仕事がスムーズまである」
「ハハハ…僕のせいじゃないからね?」
コナン君が何となく居心地悪そうな声でモゴモゴ言った。
コナン君あるところに事件ありである。
私はコナン君に念話で声をかけた。
『コナン君はそういう事件に引き込まれやすい体質だからね。仕方ないさ』
『えっ!?そうなの!?』
ギョッとしたような顔でコナン君が慄いた。
これはコナン君が力の渦であるが故の自然な作用で、「彼自身がそれを望んでいるから」事件を引き寄せてしまう何とも罪深いものである。
まあ、言わぬが仏の実態である。
降谷君が広く高級そうなホテルをしげしげと見物しながら声をかけてくる。
『どうでもいいんだが、なんか先週からお前ツヤツヤしてないか?凄くこう、飼い主が帰ってくる気配を察知した大型犬みがある』
『表現がピンポイントなのは一体……』
私は犬キャラじゃないんだが、まあいいかと首を振る。
そんな人間に忠誠はないし、幻覚が得意なので自認はたぬきである。
まあ、私がツヤツヤしているのは他でもない。
『実は……なんと!私の親友のナザレの彼が下界にやってきてたんだよ!久しぶりに会えて嬉しくて嬉しくて』
『なんかすごい情報が耳を抜けていった。なんだって?』
『救世主降臨』
『終末も半ばまで来てたなんて気付かなかった』
『いやそういうのじゃなくて、普通に休暇で来てたんだよ』
『余計わからなくなってしまった。救世主が…休暇で…下界に…???』
そのまま迷宮入りしてしまいそうな困惑顔で降谷君が立ち尽くしている。
まあそういうこともあるらしい。私もびっくりした。
アークエンジェルズの手紙10回ぐらい読み直したもん。
降谷君が頭痛を堪える仕草をした。
『あー、間違って公安とかち合うといけないから地上での偽名だけでも教えてほしい。どこの国に降りたんだ?ヴァチカンか?』
『日本の立川だよ。アパートでのんびりしてた。聖イエスと聖ブッダだから二人ともすぐわかるよ』
『日本か。しかも覚者もセットなんて聞いてない』
そのまま座椅子に座り込み、激しく苦悩する人みたいなポーズを取り始める。
しばらくの熟考の末、結論が出たらしい。
若干晴れやかな顔で立ち上がった。
『まあいいか。オフの聖人がバカンス先にこの大日本帝国を選んでくれたんだ。これ以上名誉なことはないさ』
『殺人事件とかに巻き込まれないといいよね』
『怖いことを言わないでくれ。確かに我が国では近年犯罪の凶悪化が顕著だが』
そんな会話をしているうちに、取り損なったホテルの代わりの宿が決まったらしい。
グレードはガクッと落ちるが、漁師さんの宿らしく採れたての地元産を使った焼き魚が美味しいところとのこと。
降谷君の目が輝く。
少年探偵団ががっかりしていたので、降谷くんはちょっと抱っこしてやったりなどして構ってあげたようだ。
やってきた案内のおじさんは観光課の人らしい。
額の汗を拭って私たちに微笑みかけた。
「ちょっとトレジャーハンターの増加で立て込んでいまして、遅れてすみません」
「トレジャーハンター?何だってそんなもんが。何か見つかったのか?」
「近くの小さな無人島近くに古代の遺跡がありまして。海に沈んだそこに、お宝が眠ってるって話題になってるんです」
「ほー、そりゃまた豪勢だな」
なかなかに夢のある話だ。
毛利探偵の会話に蘭ちゃんと園子ちゃんも聞き入って興味深げにしている。
志保さんは興味なさげだが、少しだけ降谷君の服の裾を引っ張った。
「こういうお宝で、悪魔にまつわる品ってないのかしら?」
「え?どうだろうね……マーリンに前聞いた話だと、あったとして触らない方がいいらしいけど」
「残念。私も有事の際に何かできる力があればと思ったのに」
志保さんが残念そうにしているが、私としても悪魔には触れない方がいいのでやめてほしいところである。
聖書の悪魔は言わずもがな。彼らがハートフルなのは身内に対してだけだし、己の在り方に真摯だ。
もっと一般的な幻想種の悪魔はさらに酷い。
人を騙し陥れようとする悪意ばかりの存在である。
コナン君が降谷君と志保さんを交互に見つめてから、そっと声をかけた。
「ねぇ悪魔さんに聞いてみたいんだけど、お宝って本当にあるの?」
「え、どうだろ…ちょっと待ってね。マーリン、どうなんだ?」
『あるよ。見た感じ、でかい18世紀当時の木造海賊船が当時のままの姿でね。あいにく財宝はないけど』
「!!!マジか。すごい価値だぞ。当時の海賊船がほぼ完璧な状態で発見されたら、世界的な考古学的大発見だ」
コナン君が目を丸くした。
降谷君の漏らした言葉で何が見つかるか想像がついたらしい。
なにせ船内の道具や家具までそのまま残っているようなのだ。
食器や調理器具、寝具、医療器具エトセトラ。
すぐに出港できるよう新品が全て準備されている。
降谷君がふと思いついたような顔で私に問いかけた。
『そういえばマーリン、帆船操縦できるって言ってなかったか?』
『そうだよ。流石に一人で大洋を渡るのはやったことないけど。日本に来るぐらいはしたよ』
『凄いな、なんか色々苦労ありそうだが』
『苦労はめっちゃあった。言語乱立してるしよそ者追い出されるし戦禍と疫病でみんな悲しんでてまずい感情しかない地域あるし』
思わず立て板に水の勢いで文句が噴出してしまった。
特に西暦200年ごろは疫病がひどくて死の気配が蔓延していたからな。
見てられなくて私も治療して回ったのだが、神の使いとして時の権力者に幽閉されてしまったし。
飢饉だからと大量に食料を出してあげたら、そのまま私頼りでのんびりし出した村とかもある。
私目的地あるんだっつの!!と怒ると「哀れな我々を見捨てる気か!」と被害者ぶり始めて。
あーーーーーーもう。
まあ苦労は絶えなかったというわけである。
コナン君がしばらく考えてから、柔らかく苦笑した。
「お宝の件、観光課さんに言った方が良くない?もしトレジャーハンターに踏み荒らされて壊れたら結構大ごとだよ」
「それをするには僕らが知る由もないって問題があるな。先に僕らが宝を見つければあるいは、だが」
「うっ、そうだよね。流石にトレジャーハンターみたいな重装備僕ら持ってないし」
『それなら、良さそうな小道を見つけたよ。あの無人島から直接お宝のところに行ける道だ。後から行こうか?』
私の言葉に、降谷君とコナン君は悪童の顔で同時にニッと笑ったのだった。
志保さんがため息一つ。
やはり彼女も、問題児二人と見ているらしかった。
・旅人時代のマーリン
各地に様々な伝説として残っている。
特に中東ではジン(精霊)と共に砂漠を渡り、砂漠にオアシスを作る聖なる存在として語られることもある。
ローマ帝国では幽霊船の船長として海賊と戦った逸話。
中国では不老不死の仙人として現れたりもする。