すぐに、コナン君と降谷君はみんなとは別行動をとることになった。
船をチャーターして、目的地である寄親島に向かうのだ。
降谷君の運転で島に着き、降谷君の令呪を通してぬるんと私も顕現する。
「入り口までは私が案内しよう!狭いとはいえ迷ったら辛いだろうしね!」
「悪いなマーリン。というか千里眼とは言うが、実際どんな視界なんだ?森でも海でも迷わないというのは」
「え……うーん、地図にARを足したみたいな感じ。便利だよ。操作性抜群」
「分かるような分からないような」
仮想のコントローラーがいくつもあって、複数画面で多数のポイントを一度に観察できる雰囲気だ。
監視カメラのコントロールルームが近いだろうか。
視界は上限なく増やせるが、目が回るから観測地点を1万個以上にすることは稀である。
細い坂道を登っていくと、古びた鳥居が見えてきた。
そこ奥には祠があって、中には女性の裸体像のようなものが並んでいる。
「さて、ここが入り口だよ。準備はいいかな?」
「毒ガス対応はマーリンに任せるとして、コナン君は体力的に問題なさそうかい?」
「平気だよ。さすがに行って戻ってきたらヘロヘロだけどね」
「よし」
祠の先の階段を登っていくと、そこには洞穴があった。
どうやら古い呪詛も残っているらしい。少しだけ瘴気の香りがした。
「面白い呪いだね。中を荒らしたら海が荒れる罰を受ける、報復の呪詛だ」
「え、それって中に僕らが入ったらまずそう?」
コナン君がやや引いたような顔をしたから、私は安心させるように微笑みかけた。
「大丈夫。墓荒らし対策みたいなものだからね。中入って写真撮って出てくる程度なら呪われないよ」
「……後から政府の人間がうっかり荒らし判定されたら面倒だ。解除しておいてくれないか?」
「了解、ほらよっと」
パチンと軽い音と共に呪詛が弾け飛ぶ。
18世紀なんて近代の呪い、鼻息で解除できるものでしかないからな。
洞穴の中に真っ暗な縦穴がぽっかりと開けている。
そこにはややひしゃげた金網が張り巡らせてあって、一応の落下防止になっているらしかった。
その中に慎重に、懐中電灯の灯りと命綱を頼りに降りていく。
「まず何があってもいいように、私が先行するよ。二人は後からついてきておくれ」
たくさんの危険な仕掛けもあるみたいだからな。
ほとんどが湿気による腐食で動かなくなっているが、生きているものがあったら大変だ。
一つずつ魔術で無力化しながら進んでいく。
どんどん降りていくと、一番下に小さく開けた石造りの部屋に辿り着いた。
中央には観音開きの扉がある。
「ううん、今は毒性のガスが充満しているようだね。酸素は供給しているけど、変な感じはしないかい?」
「大丈夫だ。特に違和感もない。だが……これは仕掛け扉か。何かをはめ込まないと開かないのか?」
四つの幾何学模様が描かれた扉は、いかにも仕掛けがありますと言わんばかりの形をしていた。
私は扉を幻で覆い、その性質を変性させた。
瞬間。ごごご、と自動扉のように重たい音を立てて勝手に扉が開いていく。
「ここに鍵はかかってなかった、と言うことにしたよ。もったいないけど、仕組みもわからないしね」
「わかった。これも遺産として貴重なものだが…やむを得ないか。先へ進もう」
扉の先は巨大なドーム状の空間となっている。
そこには古い船が完璧な状態で鎮座していて、出港を今か今かと待っていた。
時を超えた大きな木造帆船の姿に、コナン君が感嘆の声を上げた。
「すっげ…!なんで腐食もせずに保ってるんだ?」
「状態をなるべく維持する神秘だね。この島には昔魔術師がいたんだろうさ。でも腕はそこまでじゃないね。経年劣化は間違いなく来てる。200年分来てるから、見た目は綺麗だけどかなり脆くなってると思うよ」
「余計に扱いには慎重を期さなきゃならないな。マーリン、保護を上掛けできるか?」
「もちろん。今後の科学的調査を邪魔しない保護魔術をかけておくよ」
役所に届けるための写真を何枚か。
降谷君とコナン君が手分けしてライトを焚きながら撮影に勤しんでいる。
降谷君がカメラを構えながらポツリと話し出します。
「コナン君、相談していいかい」
「なあに安室さん。顔怖いよ」
「なんか、最近マーリンに負んぶに抱っこな気がするんだよ。これって由々しき問題じゃないか?しかもマーリンはほぼ無給で働いてる」
「公安の方でお給料出したら?」
「それはもう提案したんだ。だが一国家に肩入れする気はないって言われてしまって」
「でも絶対安室さんに甘いよね?」
「それは親友特別割だそうだ。嬉しいが、なんか健全じゃない気がするんだよな」
うーーむ、と降谷君が腕を組んだ。
コナン君が少し頷いて同意の姿勢を見せる。
「でも分かるかも。いずれ自分が悪魔さんにかまけて何もできない増長した人間になるかもって危機感」
「わかってくれるか!そうだろう!?マーリンは大丈夫って言うけど!未来のことなんてわからないだろ!?」
「でも悪魔なんだからそれが正しいルートなんじゃ…?」
「そうとも言うがそういうわけにもいかなくてだな」
二人はうむうむ唸って思い悩んでいる。
私は写真を撮る手を止めた二人に声をかけた。
「そこ!私を堕落の悪魔扱いしない!昔からそうなんだよね、私のこと人間を堕落させる悪い悪魔みたいに扱ってきてさぁ!」
「救世主のコメントは?」
「尽くしすぎ貢ぎすぎって言ってた」
「そのとおりじゃないか」
降谷君の質問に正直に答えると、二人にしょっぱい顔をされてしまった。
別にわざとじゃないわい。
あーーーーー。
「思いっきり!!私の想いを受け取ってほしい!!聖職者の知り合いはみんな断ってきてフラストレーションが溜まってるんだ!!!」
「ぶっちゃけたぞこの悪魔」
「いいじゃないダメになったって!私が最期まで面倒見るよ!私が君を幸せにするから!!」
「安室さんよかったね。結婚式いつ?」
降谷君はその場で無言でコナン君をモチより激しくこねくり回した。
「ひゃめへごめんって!!!」と悶絶するコナン君を怒りの三回転半させている。
「はぁ、僕は真面目に言ってるんだ。僕のためもそうだが、何よりマーリンのためにならない。注意されたんだろう、救世主に。都合よく利用されるなと」
「うっ………」
「僕も気をつけるが、マーリンも断ってくれていい。それかもっと対価を要求してくれ。一方的な関係は不健全だ」
私はわあっと泣いて崩れ落ちた。
「ここまで私の力で来たのに!!!」
「それはそう。僕も割と溺れがちだ。お互い気をつけよう」
私はボテっと横になって全てのやる気を消失させた。
ああ、私の生きがいが制限されてしまった。
ばーか。イエシュア君のあほ。
かなづちのくせに。
脳内ナザレの彼が「なぜ突然私を罵倒する流れに!?!?」と驚愕している。
コナン君がぽん、と私の頭を撫でて元気づけてくれる。
「元気出して悪魔さん。と言うか冷えてきたし戻ろ。早くここの役所に連絡しないと」
「うん……やっぱり私ってやりすぎ?」
「友達を思う気持ちは伝わってるよ。十分にね」
にっこり笑ってコナン君が降谷君の方を指差すから、自然とそちらの方を見る。
降谷君も照れたようにそっぽを向いて、頬をかいているようだった。
私は嬉しくなって二人分、肌寒い地下用羽織ものを具現化した。
二人に口を揃えて「そういうとこ」とぴしゃりと言われたのであった。
うーん。
やはり私もそろそろ自重すべき時が来たのだろうか………。
・ナザレの人とマーリン
おそらく一番降谷さんの相談相手に適しているのは救世主である。
救世主は現役時代、マーリンに貢物攻勢を嫌という程浴びせられたのでその流し方と止め方も経験豊富。
難点は、貢物を完全に禁止するとマーリンが意気消沈したミニチュアダックスみたいになってしまうこと。