写真を持って市役所と駐在さんに報告に行けば、すぐさま蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
この島は正式には東都に属しており、寄親島とその付近は国有地だ。
すぐさまこの知らせは東京の教育委員会の文化財担当部署に連絡され、トレジャーハンターが彷徨いている現場の事も鑑みて、急いで本土の警察が急行することになった。
今後各専門家が招集されて、初期調査が行われることだろう。
次に東都が主導する調査計画が構築されて、所有権が決まるのはその後だ。
取り急ぎ盗難防止のために本土から警察が駆けつけてくれるようだから、私たちの仕事はこれでおしまい。
安心して島での観光に専念できることだろう。
今後報奨金の話も持ち上がってくるだろうが、降谷君もコナン君もちょっと後ろ暗い身分だし。
たぶん断ることになるはずだ。
大変なことになったが、あとは国に任せるだけ。
すごい勢いでペコペコする観光課長さんに後を任せ、長い1日を終えて私たちは宿屋へと帰ることになった。
時刻はもう夕方だ。
宿屋への道は赤い夕日に染まっていて、どことなくノスタルジックな田舎の風景に見えた。
「すごいもの見ちゃったね」
「だな。調査が進むにつれ、この島は世界史の一部に躍り出るだろう」
とことこと歩きながらコナン君がしみじみと呟いたので、降谷君も同意してぼんやりとした声を出した。
私もなんとなく顕現して、ゆったりと隣を歩く。
「実は私のアヴァロンにも意外と貴重なものがたくさんあるんだよ。ほら、塔の西側の博物館区画」
「あー、僕はあまり入ったことないな。なにがあるんだ?」
「ナザレの親友の自筆の教えメモとか。曹操君にもらった盃とか。邪馬台国行った時に貰ったネックレスとか」
「今さらっと日本史最大の謎に触れてるんだが。結局邪馬台国はどこにあったんだ」
「女王の魔術であわいの地にあったからどこでもないよ。あえていうならアヴァロンのお隣」
ナザレの親友のメモは教会が泣いて縋って「欲しい!!」って言ってきたけど、渡さなかった私の宝物である。
私のために教えをわかりやすくまとめてくれたのに渡せるかよぉ。
西暦180年ごろからは中国にお邪魔して三国志をリアタイした。
流れで曹操君に仕えて三代ご一緒して、その後日本にちょいと寄って、という流れである。
コナン君が難しい顔をしてうーんどうなった。
「マーリンさん、中国で仙人って言われてそう」
「まあ言われてたけどぉ……不老不死の秘宝よこせって言われて大変だったよ」
「あ、そういう典型的イベントあったんだな」
降谷君の興味ありそうな顔で続きを促したので、私も雑談がてら当時のことを思い返した。
元々は到着した中国で飢饉が広がっていたから、各地にリンゴを配り散らかして時の権力者に特定されたんだよな。
そして無限リンゴ魔術を気に入られ、皇帝になる直前の曹操君に仕えることになったというわけだ。
真面目な人ではあったのだが頭痛持ちで、どうも虫歯の治療痕が悪さしてるみたいだったので私が治療してあげればますます気に入られて。
私を皇帝直属にしたんだったか。
宮廷では、特に私の千里眼を重視していた気がする。
宮廷の中にあって千里の外を見通す異人として災害の予知や遠方の軍の動向観察を任されたのだ。
私を崇めるでも恐れるでもなく「道具として活用しようとする」あたり、この地の長い歴史と豪胆さを感じざるを得ない。
しかし代を経るにつれて、私への扱いの重要性は増していった。
戦争を始めるべきか、どの将軍を信用すべきか、後継者は誰が良いか。
すべてを私頼みにして、私を監禁し出した。
まあ、いつものパターンだ。
私もホイホイ叶えてしまうのが悪いんだろうと思うが、どうしたら適切な距離を保てるのかがわからないんだよな。
三代目の曹叡君の時代、私は耐えかねて逃げ出して日本に向かったわけである。
コナン君がほへぇ、と気の抜けた声を出した。
「すごいね、蘭姉ちゃん喜ぶよ。三国志大好きだから」
「あっ、これだろう、莫林。wikiがあった。マーリンだろこれ」
「それそれ。大抵莫先生とか莫方士って呼ばれてたよ」
仲良くなってからは曹操君は「莫、今宵は何が見える?」って呼び捨てにされていた。
懐かしいなぁ。
私のこと完全に面白がって昔語りせびりまくってきたし。
「其の方は実に生きるのが下手だな!」と笑っていたっけ。
などとぼんやり思い出に浸っていると、不意にがさりと複数の足音が聞こえてきた。
振り返ると、トレジャーハンターと思しきガラの悪い男が二人、ニヤニヤと私たちを威圧していた。
片方の男がナイフを取り出して私たちに凄んでみせた。
「アン・ボニーとメアリー・リードのお宝のありかを吐いてもらおうか。どうやって奥まで辿り着いた?抜け穴があったんだろう!」
「……面倒臭いな。これ以上遅くなると毛利先生に怒られるのは僕なんだぞ」
不機嫌そうに降谷君が吐き捨てて、それからため息をついた。
「銃はあるか、マーリン」
「持ってるね。無手じゃ危険だよ」
「面倒にも程がある。制圧頼んだ。あ、頼ったらダメなんだった。あまりに面倒すぎる」
「何をごちゃごちゃくっちゃべってんだテメェ!」
暴漢が吠えた。
そのまま脅しで殴りつけて来たので、それを軽く躱した降谷君が流れるようにアッパーを放つ。
「ガッ!?」と声を上げて脳震盪を起こしたのか、そのまま暴漢は倒れ込んだ。
初手で拳銃持ちがノックアウトされたからか、慌ててナイフを取り出す後発のもう一人が哀れだ。
瞬間、エグい威力のサッカーボールが突き刺さり、二人目も地面に倒れ伏した。
すごい、ドゴォッ!って音したぞコナン君や。
それ頭蓋骨ヒビ入ってないよな、大丈夫だよな???
倒れ込んだ暴漢がなんとか懐から拳銃を取り出そうとしたところで、無慈悲に降谷君に頭をピンボールみたいに蹴り飛ばされ鎮圧は完了。
私のやる気は不完全燃焼のままぶすぶす燻った。
「こういう鉄火場ぐらい私に頼ってくれてよかったのに」
「そういうわけに行くか。鉄火場対応職に就いてんだぞ僕は。むしろ僕としてはコナン君の戦闘力の高さが気になる」
「いや僕遠距離専門だし無力な小学生だよ?」
「兵器みたいな威力のサッカーボールは流石に規制対象だと思う。不慮の事故で殺しちゃったらすぐに僕に連絡するんだよ?」
コナン君の罪を揉み消そうとしている闇の公安降谷君に戦慄しつつ。
私たちは暴漢に襲われた旨を警察に届け出たのだった。
・魏の三代権力者のマーリン評
曹操:面白い術師だ。手元に置いて観察したい。
曹丕:父が認めた人物だ。宮廷の秩序に組み込もう。
曹叡:これほどの力を持つ者を、なぜ自由にしておかねばならないのか。
・中国史における莫林(マーリン)
伝説と史実の間に立つ人物。
三国時代の魏に滞在して、天文、医術、占術に関する知識をもって皇帝に助言したと伝えられる。
魏の明帝の時代、宮廷を去ったという伝承は特に有名である。