「大変だ!降谷くん降谷くん!赤井秀一の正体が組織にバレかけてる!」
私が千里眼で見たものを泡を食ったように伝えると、降谷くんはのっそりと書類から顔を上げた。
そして私を一瞥。
「ふーん」
一瞬でやさぐれてしまった降谷くんが、興味なさげに机の上の書類に戻っていってしまった。
いやいや。いやいやいやいやいやいや。
「赤井秀一はどうでもいい」
「どうでも良くないよね!?君もちょっと親しそうにしてたじゃないか!なんかツンデレ風で『認めてあげなくもないですよ』的な!」
「そこから先は死闘しかなくなるんだが」
キレた眼光に睨み据えられ、私はしょぼんとした。
おう、死闘なら私の方が強いぞぅ。でも彼のプライドが傷つくので力でねじ伏せることはしません。
脳内ナザレの親友も「アガペーだね!」とサムズアップしてくれている。
私はとりあえず降谷くんの隣の席に座ることにした。
最近、書類仕事はこのアヴァロンでやることにしているらしい。
頻繁に拠点を移動するバーボンでも機密書類の置き場所に困らず、また絶対に見られる心配がない場所。
そのうえ情報の倉庫にもなって、どこからでも閲覧可能。
そんな利便性のため、降谷くんお気に入りの仕事場として活用されるようになっている。
実は彼のための書斎スペースもあるが、大抵の場合降谷くんはこの居間で作業をしている。
適度な雑音があって集中できる……と言っているが。
本音はちょっと寂しいんじゃなかろうかと邪推している。
言ったらゲンコツが来るから言わない。
代わりに諸伏くんがまあまあとトゲトゲした降谷くんを宥めた。
「え、大変じゃないか。ゼロ、助けてやろう。な?」
「あいつに助ける価値はない」
「でも俺を助けてくれようとしてたんだぞ?」
「………」
心底忌々しそうにジブリみたいな画風で降谷くんは苦しみし出した。
グギギギギギ、とひとしきり苦しんだ後ぷいと顔を背ける。
「あいつ、僕を慮ってヒロを殺したなんて嘘をついたんだ。舐めてる。舐め腐ってる。僕の敵だ」
「あーー、ゼロのこと舐めたのか。それじゃダメか」
「そんな一言で納得できるキラーワードだったのそれ!?」
私は驚いて二人を交互に見比べた。
ツッパリの世界じゃないんだから舐めてるだけでそんなんになる!?
諸伏くんはうんうん頷いてワケ知り顔で解説してくれた。
「舐めてる教師、舐めてる同級生、みんなアグレッシブに見返して来たのがゼロだからな。舐めた年上はみんな敵なんだ。ハリキリ⭐︎ボーイ的な」
「言われてるよ降谷くん。たぶこれは間違いなく舐められてるよ」
「ヒロは別枠だ。それはともかく、あいつは僕を舐めてる。というかそもそも不法滞在外国人スパイとか投獄一択」
「なら仕方ないかぁ」
憎しみとは別の角度で嫌われてるらしい。私は諦めて思考を切り替えた。
可哀想だし、せめて私が無事に組織を脱出できるようサポートすることにしよう。
そのように算段を立てていると、なぜかむむむむむと再び降谷くんが唸り出した。
そしてぐいっと身を乗り出し、忌々しさ一億倍みたいなにがり顔で項垂れた。
「待て。僕が親友を助けられた恩をそのままにしてると思われたら名誉に関わる。僕も手伝う」
「難しいな。思春期かな」
「思春期じゃない。ともかく僕が主導で救助案を練るからマーリンはサポートを頼む」
「主導権まで取られてしまった……」
やる気なら別にいいが、俺様度がだんだん跳ね上がって来た降谷くんである。
諸伏くんは慣れたものなのか、なんだか微笑ましそうにニコニコしている。
まあいいか。楽しそうだし。
「じゃあ任せたマイ・ロード。私は言われるがまま力を振るおう。悪魔の力、存分に使うといい」
「君は悪魔じゃないさ、マーリン。そんな悪性のものじゃない。友を思う、優しい人間だ」
「………そうであれると、いいのだけれど」
私は少しだけ顔を背けた。
すると前後から二人に肩をどしどしどつかれ、私はなんとなく笑ったのだった。
ライは走っていた。
埠頭での取引で、誤って老人に扮した組織員に声をかけてしまった捜査官がいた。
埠頭の取引情報を握っているのはライとNo.2であるRUMだけ。
必然、ライは追われる身になった。
ライの本名は赤井秀一。
FBIの潜入捜査官である。
この大日本帝国においてFBIの立場はほとんど敵性スパイに他ならない。
大日本にとって米国は長年仮想敵国であり、国際情勢は帝政国家とそれ以外とに分けられる。
もっとも、完全な民主主義国家のアメリカはヨーロッパの王政国家と仲が良くないのだが。
ともかくそんな情勢上、赤井は国の許可を得ずに捜査をしている。
逃走は困難を極めるだろう。
公安に捕まれば投獄されるに違いない。
この国の平和で高度な経済に支えられた光と、その裏の闇を同じだけ知る赤井は眉間に皺を寄せた。
さて、そのあたりのことである。
行手を阻む一人の男が姿を現した。
誰もいないはずの路地裏に優美に立つのは、淡い金髪に浅黒い肌の優男、バーボンである。
バーボンが潜入捜査官であることは自殺したスコッチから聞いている。
彼に迷惑をかけるわけにはいかないと言われて、それで。
値踏みするような視線で、上から下までジロジロとバーボンは赤井を睨め付けた。
「何か用かな、バーボン」
「あなたに対して組織から捕縛命令が出ています。何をどこまで流したか吐かせて始末するんでしょう。残念でしたね」
「それは困ったな。こんなところで死ぬわけにはいかんよ」
あくまでバーボンのつもりで相対するらしい。
当然だ。こちらが潜入捜査官だとバーボンは知らないはずだし、同僚の仇だ。
殺されて組織に献上されてもなんの文句も言えない。
だが彼は思いがけないことに、拳銃を下ろして僅かに微笑んだ。
赤井の肩がぴくりと動く。
「いいでしょう。アメリカの犬を黙って帰すのは癪ですが、こちらも恩があります」
「恩?君に恩など売った覚えはないが」
「忌々しい」
心底忌々しそうに舌打ちされて、余計に疑問が湧く。
一体何を言っている?
「諸伏景光を助けたでしょう。少なくともあなたはそうしようとした」
「だが結果が全てだ」
「結果が全てだから言ってるんですよ。貴方が押し留めてくれている間に、マーリンが小細工できたと」
マーリン、というのは赤井も聞き覚えがある。
不遜にも預言者の名をつけられた悪魔で、バーボンが使役しているのだとか。
眉唾だとは思っているが、実際彼の活躍は目覚ましい。
何かトリックがあるんだろうが、それを解明できない限りその現象は魔術として裏社会に君臨し続けるだろう。
うまくやったものだ。
赤井は肩をすくめた。
「だが奴は死んだ。他ならぬ俺が知っている。銃弾は間違いなく奴の心臓を貫いたし、返り血も浴びた」
「諸伏景光は生きています……だから、仕方なく貴方を助ける。貴方に受けた恩を返すために」
埒が明かない。
彼の瞳は強情というより、どこか狂信者の如き確信が宿っているように見えた。
心から諸伏景光の生を信じているかのような語り口に、赤井は素早く見切りをつけた。
馬鹿らしい。
目の前で自殺させてしまったライ自身が、彼の死を誰よりも知っているというのに。
だが、これ以上なくありがたい申し出だ。
まさか心を壊しているとは思っていなかったが、それはともかく彼の背後にある公安の力は借りたい。
この国において公安は絶大な力だ。
近年の各種法整備で多少その強権的な部分はなりを潜めたとは聞いているが。
それでも、政治に介入し票読みを誤らないどころか政治犯を容赦なく投獄している、とまで言われている組織だ。
その力は折り紙つきだろう。
「ではこちらへ。ああ、送迎の飛行機までは手配しませんよ。勝手にお仲間に用意してもらってください」
「ああ」
赤井は息をついた。
もう少し上手くやっていたら、この男も壊れなかったのだろうかと。
・降谷零
マーリンを信頼できる年上だと思ってハリキリ⭐︎ボーイの流儀で甘えてる。
盗んだバイクで走り出す年頃(27)。
・マーリン
霊基拡張に伴い宝具が三つある。
第一宝具は原作通りアヴァロンだが、第二宝具は不明、第三宝具はお米の人に似た無限リンゴ生産。
一番出力が強いのは無限リンゴ生産で、判定はFate世界ならEX相当。
食糧難という永劫の災厄を打倒する救世主の宝具となる。