今宵、待ち合わせ場所に現れたベルモットは黒いライダースーツを身にまとって扇情的だった。
ヘルメットを脇の机に置き、腕を組んで壁に背を預けている。
ベルモットはチラリと降谷くんを見た。
「早いですね。待ち合わせは3時のはずでは?」
「早く着いたのよ。それで、どう、シルバーブレットは?」
「元気そうですよ。この間も命を狙われて米花町で元気に犯人のトラックと鬼ごっこしてました」
「!!!!仕留めたのかしら?」
「いえ、僕が報告を聞いたのは後日のことですから。狙いもコナン君と一緒にいた歌手のようですし、犯人は逃走中です」
「そう。……始末を頼んでいいかしら」
「コナン君がやる気出してますので見守るのが吉でしょう。僕とてコナン君に罪を暴かれる罪人になりたくはありませんから」
降谷くんの言葉にベルモットは憂いを帯びた瞳で俯いた。
廃工場の高い窓から月明かりが差し込んでいる。
「あの子が心配なのよ。あの子の無茶を思えば、いつ命を失ってもおかしくない」
「無茶は同意しますが……死ぬとは思いませんね。僕が死んでも彼だけ生き延びそうですし。なんなら僕を助けた上で大脱出かましそうな男ですよ、彼は」
ベルモットはふっと笑って「シルバーブレットをなんだと思ってるのよ、貴方」と肩をすくめたようだった。
降谷くんがベルモットに向き直る。
「で、次の仕事についてそろそろ聞きたいんですが。ジンと飲み会はもう嫌ですよ」
「わかってるわよ。貴方が飲み会嫌いなZ世代なことぐらい」
「だれがZ世代ですか。童顔擦ってるならこっちも相応の態度になりますけど」
「ジンはあれしか労わる方法を知らないのよ。わかってあげて」
「昭和の厄介上司じゃないんですからやめてください」
降谷君は憮然とした。
最近で2回も飲み会があったので心がトゲトゲしているのも無理はない。
銀髪君はできる限り労ってるのはわかるのだが、噛み合わせが致命的に悪いんだよな。
「ともかく、次の仕事は地中海の島コルカカ島よ」
「あーー、ヘミングウェイのお宝があるって噂のある島ですね。一体何故僕を?眉唾のお宝探しに駆り出すと?」
「いいえ、そこでアメリカの武器密売企業『マルセス商会』の社長を排除して欲しいのよ。組織とちょっとうまくいってなくて、あの方からのご命令があったわ」
降谷君はしばし逡巡した後、優雅に一礼してみせた。
「そういうことでしたら了解しました」
「殺し方は自由にしてもらって構わないわ。今はコルカカ島にご執心だろうからそこがメインにはなるだろうけど、アメリカに飛んでもらってもいい。最終的に死体になってればOKよ」
「悩みますね。米国でことを起こすと面倒ですし。コルカカで何か触媒を手に入れられれば呪殺できるんですが」
「やっぱり貴方の取れる手段の多さは魅力ね。あの方も貴方のことを高く評価していたわ」
「恐縮です」
短いバーボンの返事に、ベルモットはしばし沈黙した。
埃っぽい倉庫の空気を月明かりが煌々と照らし出している。
ベルモットが静かに目を伏せた。
「ねぇ、バーボン。神様って、いると思う?」
静謐な問いかけが空気を震わせる。
降谷君が興味がなさそうに肩をすくめた。
「僕はなんとも。でも相棒は見たことがあると、そう言っています。主は居ると」
「ふふ、悪魔ならそう言うわよね」
ベルモットは少し可笑しそうに笑いを漏らした。
しばらくの沈黙を挟んでから、降谷くんが慎重に口端を湿らせた。
窓を冷たい風が叩いた。
建て付けが悪い窓がギシギシガタガタと軋んでいる。
「相棒からの提案です。もし正当な対価を支払うのなら、貴方を蝕む呪いから解放すると」
「!!!」
ベルモットは息を呑んだ。
時すら止まったようだった。
彼女の悲願はわかっている。彼女の不老からの解放だ。
人の社会でただ一人老いずに置いていかれる苦労は察して余りある。
私のこの提案は、ある種の慈悲である。
ベルモットは乾いた笑いを漏らした。
「冗談。もう遅いわよ。もうとっくに私はどこへも行けないのだから、今更呪いを解いたって意味はないわ」
「そうですか。気が変わったら僕にご連絡ください。渡りぐらいつけますので」
「…………バーボン」
貴方は何を対価に捧げたの?
透明な言葉が降谷くんに投げかけられる。
降谷君は鼻で笑って、それから真面目な顔をした。
それすなわちNeed not to know。
貴方には知る必要のないことだ。
「さて。なんだと思いますか?」
帰り道。
ベルモットと別れて車に乗り込み、首都高を走る降谷くんの車の中。
藪から棒に降谷くんはしゃべり出した。
『あえて言うなら自分への自信だよな。対価。堕落しそうでいつも不安』
『そんなことないよ。多少堕落したって友達は友達だよ』
『そう言って途中で手放して滅びた伝承が多すぎるんだよお前は。重荷になるとすぐ逃げ出すじゃないか!』
『いや個人に尽くしても国って概念に尽くす趣味はないし』
『アァンなんだとオラ。やんのか』
『何故突然臨戦態勢に!?!?』
日本過激派と言うことらしい。
私はクスクス笑った。
『で、海外任務はどうするんだい?』
『やるしかないだろ。とっとと終わらせて我が大日本帝国に帰ろう』
『夢があるね、お宝探し。ちょっと探してみようかな』
『面倒ごとが増えるだけだろう。発見者に所有権が渡るわけでもなし、僕は仕事をするだけさ』
ニッと笑って降谷君が
『お前が頼りだ。いつも通り頼んだ』
『アイアイサー。夢のように終わらせよう』
さて。時は流れて。
これからゲネプロ見学が行われる。
今夜18時から開催の本番に向けた、通しの練習だ。
私ことマギ・マリは既にリハーサルの時で十分効果を確認済みのため、欠席というか、参加していない。
あの短い見せつけだけでも十分に効果的だったようで、この一週間、近隣三校の女子高生を震撼させたらしかった。
可哀想なギャルが泣き崩れたり、ガチ恋勢があらん限りの悪口をSNSに呟いたり。
私の動画にも荒らしが現れてまさに世は戦国時代って感じであった。
そんなわけでなんとか、降谷くんの身の周りは落ち着いたのである。
もちろん全て落ち着いたわけじゃない。
「私の方が貴方のことを想ってます!!」ってポアロで告白してきた女子もいた。
降谷くんはずっとイライラしていた。
ポアロでバイトする私に鞍替えしようとする子もいて、私まで巻き添えを食ってしまったり。
いやはや、色恋は怖いね。
堂本ホールの前の方に座ると、スススとコナン君が気がづいてきた。
「最近居なかったよね、安室さん。まさか組織に動きがあったの?」
「ベルモットに仕事を頼まれたから下調べしてただけだよ。仕事自体はまだ先」
「僕もついていける!?」
「無理。国外。江戸川コナンのパスポートが無いから」
「お願い安室さん!作って!!!」
「突然すごいお願いしてくるなぁ。仕方ない。有事の際僕のお願い一個聞いてくれるならいいよ」
「よしッッ!」
すごい闇取引を見てしまった気がする。
存在しない小学生のパスポートはおそらく近々つつがなく発行されることなるだろう。
全然隣で聞いてる毛利探偵がクシャクシャの顔をしたまま聞こえないふりをしてくれている。
いつもありがとうございます。
舞台上では調律師さんが約束の時間になっても現れないトラブルに見舞われているらしい。
そのまま練習が始まった。
澄み切った声がホール全体を震わせる。まさに芸術という言葉がふさわしい音楽だ。
心震わせる音色という美の中、少しだけ気になる箇所が一つ。
パイプオルガンが一個、なんだか音がズレてるような。
それはコナン君も感じたのか訝しげな顔をしている。
降谷くんはわからなかったのかリラックスした様子を見せている。
リハーサルが終わると、コナンくんはすぐさま一人で走ってどこかへ行ってしまった。
「単独行動の多い子だな全く」と降谷くんが苦言を呈す。
コンサートはもう間もなくのことであった。
・ルパン三世 ヘミングウェイ・ペーパーの謎
テレビスペシャル。
ちなみにスリーメイソンはまだ爆死してない。
・マギ⭐︎マリちゃんねる
マギマリ厄介ファンとあむぴ過激派女子高生が激しく罵り合う地獄と化した。
そのうち双方ともBANされる。