街を見て回った昼過ぎ。
降谷くん達は一旦ホテルにやってきていた。
コナンくんがカフェコーナーでアイスコーヒーを飲みながら降谷くんを見上げる。
「どうやってターゲットと接触するの?」
「武器商人マルサスがこの島のコンサノ一派と接触したという情報を掴んでいてね。組織からの情報だ。間違いないよ」
「ならコンサノ一派に接触するの?」
降谷くんは頷いて、やや疲れたように息をついた。
長いフライトで肩が凝っていたらしい。
くるくると肩を回して首を伸ばしている。
「夜になればバーに兵士が現れるそうだ。その時に情報収集する。加えて、その前に少し様子を見に行くのもいいかな」
「見に行く?砦に?」
「そうだよ。僕らにはマーリンという心強い味方がついてるからね」
珍しく私の活躍の時間だ!!!
私がキラキラして舞い踊ると、降谷くんはちょっと渋い顔をして「いや本当は頼らない方がいいんだがな。ほんとに。でも時間かけたくないし」とため息をついた。
砦は粗雑な木造のそれであった。
戦車が何台も停まり、巡回の兵士たちが寝ずの番をしている。
広い敷地内には滑走路もあり、大型の軍用輸送機が塀の隙間から覗いている。
「さて。ちょっと僕は中に入るから、君は好きにしていい」
「僕置いてくの!?ここに!?」
「君なら迷子の子供のふりして兵に保護されて中に入ったりするだろう?別にまだ暗殺は実行しないから安心してくれていいよ」
「僕まだ自分のスタンス決めかねてるんだけど!ここが法の届かない社会なのは理解したけどさぁ!!」
というわけで喚くコナン君を置いて中へ。
コナン君とは簡易パスを繋いでいるので、いつでも魔術的干渉が可能だ。
一声呼んでくれればいつでもどうとでも手が出せる。
『風王結界作動。物理障壁化・迷彩化処理完了。よし、これで徒歩で空も飛べるし、誰にも見えないよ』
「助かる。っと……空中歩行の要領が掴みづらいな。揺れる…集中力も分散するし」
『飛ぶことが当然と思って飛ぶんだよ。魔法少女みたいに』
「残念ながら僕は魔法少女じゃない」
覚束ない足取りでゆらゆらと進んでいくと、夜中に「おーーーい、おーーーい」と響く声が聞こえてきた。
本体の砦から離れた妙な場所からの声だ。
歩哨の兵が「うるせぇぞテメェ!!」と怒鳴りつけている。
降谷くんがその歩哨に音もなく近寄り、ペンダントをわずかに握り込む。
妖しくゆらめく赤い瞳は風に紛れて誰一人気づかない。
「眠れ。悪夢は勘弁してやる。明日まで目覚めるな」
「ふぁ………」
ドサッと兵士が倒れ込んだ。
そうして兵士を無力化してから、声の聞こえてきた地下牢と思しき場所へと降りていく。
牢をひょいと覗くと、それは間違いなく日本人であった。
「おーーい、飯が足りんぞーー」とひもじそうな声。
ぼろぼろの一張羅を羽織り、日本語でモゴモゴと文句を言っている。
降谷くんが思わずと言った様子で息を呑んだ。
「な、何故あなたがここに…」
その声でようやく気づいたのか、姿の見えぬ日本語に「誰だ、どこにいる!」とキョロキョロしている。
私は魔術を一部解いて、男にだけ降谷くんの姿が見えるように調整した。
「うおっ!?誰だね君は」
「……身分を申し上げることはできませんが、あなたを自由の身にすることはできます。すぐに指定の国にお送りしますので、希望をおっしゃっていただければ…」
「いいや、この島を離れるわけにはいかん!」
男は胸を張るように言い切った。
そこの言葉には強い決意…ちょっと頑固に片足入りかけてるような決意が浮かんでいた。
降谷くんがふっと笑う。
「ルパンですか」
「そうだ。奴がこの島に潜んでいることは間違いない!例え捕虜として残飯スープを啜ることになろうと!奴を追うことだけは決して諦めはせんのだ!」
「な、なるほど」
降谷君は心底困ったように眉を下げた。
『国際問題になる前に撤退して欲しかったんだが、言って止まるような人でもないか』
『誰だい?』
『銭形警部だ。警察庁の先輩。ルパン専任捜査官だが、あまりに任務が過酷なので彼以外ついていける人が誰もいない』
『そりゃ凄い。ルパンってあの昼の猿顔の人だよね』
『ルパンあるところに銭形あり。逆もまた然りか。こんなホントのことってあるんだな』
降谷君はしみじみした声でうむうむ頷いた。
「ではひとまず島の街までお送りします。ここではルパン逮捕の任にも支障が出るでしょう」
「すまんな、君も色々訳ありだろうに。あまり無理はするなよ」
どこまで察していたのやら。
己にかかった労りの言葉に、降谷くんは少しだけ笑ったようだった。
さて、元の場所に戻ると、何故かコナン君は見知らぬボルサリーノの男に肩車されていた。
「あっ安室さん!!僕パパできたよ!」
「パパじゃねぇ!あれはな、オメーのためを思って嘘に乗ってやったんだ!おかげで俺は子持ちになっちまった!」
ブツブツ文句を言うボルサリーノの人は、降谷君と一緒にいる銭形警部を見て「おお」と声を上げた。
「なんだとっつぁんか。えらいめにあったみてーじゃねぇか。そいつは新しい部下か?」
「いいや。それより次元、その子供はまさか……」
「ちげぇよ!俺はパパじゃねぇ!ほら、本物のパパのところへ帰れ!」
「わぁん。パパ僕のこと見捨てるの…?」
「小動物みてーな顔したってダメだ。ったく、おじさんは忙しいんだよ!」
追い立てられ、コナン君は仕方なく降谷君の足元まで帰ってきた。
降谷くんがコナンくんをヨシヨシする。
コナン君はわざとらしく「あのおじさんがひどいんだ!」とか言い出した。
ボルサリーノの人は知らんぷりをしている。
「で、テメーはルパンも言ってた奴だな。この砦に何の用だ」
「あなた方の仕事を邪魔する気はありません。僕は昨日到着したマルサスという武器商人を亡き者にすることのみですから」
「!!!」
ボルサリーノの人が帽子を深く被り直した。
「ちょいと誤解がある。俺はルパンと違ってお宝に興味はねぇ。マルサスの配下のマッシュって男には因縁があってな」
「!!……なるほど、マルサス殺害の段階で邪魔になって排除することになれば、あなたと対立すると。困りましたね」
「今日だけ待ちな。やっと蹴りをつける。その後ならいくらでも好きにしていいぜ」
「わかりました。こちらも支障ありません」
さらっと命の取引をしつつ、降谷くんはコナンくんを抱っこして揺らした。
「コナン君、ふくれないで。ね」
「色々背景を察するところがあって口には出せないけど心が納得しない。殺人は犯罪なのに。みんなして破る!」
「ったくなんだこの純情なガキは。帰って飴ちゃん舐めて寝ろ」
「このおじさんこんなこと言うんだよ!!!法の届かない裏社会の理屈を否定しないけどさぁ!人道もあって然るべきだと思うんだよ!!!」
コナンくんが小型怪獣みたいにギャースと喚いている。
可哀想な小型怪獣を、慣れない手つきでボルサリーノの男がヨシヨシした。
銭形警部が「結局その子は誰の子なんだ…?」と果てしなく疑問符を飛ばしている。
この場所に父親はおりませんね。
そのあとは予定通り酒場で情報収集をして。
ホテルに帰って1日の疲れを癒すことになった。
降谷くんが暗く灯りの落ちた夜の街を眺め、静かな声を出した。
「マーリン、一騎打ちはどうなった?」
『どうやらマッシュとやらの勝利みたいだね』
「死んだのか、あの次元大介が」
『いや。見た限り生きて捕らえられてたよ。利用価値を見出されてたんじゃないかな』
「なるほど」
コナン君は疲れが溜まったのかベッドで爆睡中。
まあなんにせよ、お仕事の本番は明朝だ。
・風王結界
ランクB相当の宝具ほどの威力のある風の魔術。
体にまとって身を隠したり空を歩んだり、風を打ち出して破壊を撒き散らしたりできる。
本気を出せば砦全域を空に巻き上げる程度は楽な仕事。
この事実を降谷さんは知らないまま便利に使っている
・コナン君
その世界で法に意味はないことは理解しつつ、それでと人権が蔑ろにされる現状に納得できないお年頃。