CLANNAD ~Sequel of After Story~   作:gachamuk

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プロローグ

 岡崎家に第一子たる娘、汐が生まれてから最初の春を迎えたある日のこと。その日、岡崎朋也とその妻渚は、愛娘の汐を連れて、久々に渚の実家である古河パンへと向かっていた。

「ちぃ~っす」「ただいま帰りました」「あ~♪ あ~♪」

 三人がパン屋の入り口から、店のレジで欠伸をしながら退屈そうに座っていた古河秋生に向かってそれぞれ声を掛ける。

「いらっしゃ……って、なんだ。我が愛する娘と孫とどっかの馬の骨じゃねぇか。紛らわしいんだよ。今度から客じゃないって分かるように踊りながら入ってこい」

「分かりました。やり直します……」

 秋生の無茶ぶりに素直に従おうとする渚を、朋也が止める。

「いや、やらなくていいから。あと、どっかの馬の骨とか言うなよ。〈お義父さん〉?」

「ぐぉぉおおおおおっ!?」

 朋也が〈お義父さん〉と口にした途端、秋生は背中をものすごい勢いで掻き毟り始めた。そうして一頻り苦しんだ後、今度は秋生が頬を引きつらせながらこう言った。

「悪かったなぁ、〈息子〉よ」

 途端、

「ぬぉぉおおおおおおっ!?」

 先ほどの秋生と同じように、朋也ももだえ苦しむ。そこからは泥沼だった。

 朋也が〈お義父さん〉と口にするたびに秋生が悶え苦しみ、逆に秋生が〈息子〉と言えば朋也がむず痒そうに背中を掻き毟る。

 朋也と渚が結婚して以来続けられているこのやり取りは、数年たった今でも健在だった。

 とそこへ、騒ぎを聞きつけたのか、店の奥から古川早苗がひょっこりと顔を出した。

「渚、汐、お帰りなさい」

 にっこり微笑む早苗に、同じような笑顔で「ただいまです」と答える渚。二人して、店の床で悶える自分の夫を無視する辺り、意外と豪胆な性格をしている。まぁ、朋也と渚が結婚してから何度も見た光景なので見慣れているだけかもしれないが……。

 ともあれ、汐を抱きかかえながら家の中に上がり込んだ渚は、座布団を並べて作った即席のベッドに汐を寝かせると、

「しおちゃん、少し待っててくださいね」

 と優しく言い聞かせてから、母親を手伝うべく台所へと向かった。

 一方、汐はというと、目に映るものが珍しいのか、きょろきょろと辺りを見回してはきゃっきゃと喜んでいたが、やがて近くに誰もいないと感じ取ったのか、その大きな瞳一杯に涙を溜めこみ始めた。涙腺が決壊するまでのカウントダウンが始まり、ついに……。

「ふぎゃぁああ~~~~~~~~~~っ!」

 家中に轟きそうな大声で泣き始めた。それを聞きつけて、渚が慌てて汐を抱きかかえ……酔うとするよりも早く、土間から入ってきた朋也が抱き上げ、汐をあやしはじめる。

「お~、よしよし。汐~、どうした~? 寂しかったか~?」

 朋也が背中を軽くポンポン叩きながら笑いかけると、次第に汐の鳴き声も治まっていき、やがて、きゃっきゃと笑いながら朋也の顔をペタペタと触り始めた。

 それを見て、渚がぺこりと頭を下げる。

「朋也君……、すいません……」

 そんな妻に、朋也は苦笑しながら言った。

「気にするなって。子育ては共同作業だって言ったろ?」

「朋也君……」

 渚が嬉しそうな目で朋也を見つめ、二人の間に甘い空気が流れ始める。が、そんな甘い空気をぶち壊すように、早苗が口を開いた。

「あらあら、二人ともアツアツですね!」

 おっとりとほほ笑む早苗に対して、朋也と渚は顔を真っ赤にしながら慌ててお互いに目を背けた。

「かっ! いちゃいちゃしてんじゃねぇ」

 秋生のジト目がなんとも居心地の悪い二人だった。

 それからしばらくして。

「突然だが問題だ!」

 古河家で夕食をとっていたとき、秋生が突然立ち上がりながらそう宣言した。

 突然のことにぽかんとする家族に向かって、秋生は胸を張りながら問題を出す。

「明日、俺が密かに計画していたことはな~んだ?」

 そのままセンスを三つ取り出して広げると、選択肢を読み上げた。

「一、皆でお花見。二、皆でお尻見、三、皆で揃い踏み」

 センスに書かれた選択肢を見て、渚が真剣に頭を悩ませた。

「どれも似たようなもので迷ってしまいます」

 妻の発言に、朋也がすかさずツッコんだ。

「迷う余地なんてないだろ! というか、揃い踏みって何するんだよ」

「うるせー! テメーは一人でお尻でも見てやがれ」

 秋生が詰まらなさそうに言えば、早苗が微笑みながら提案する。

「では、秋生さんは一人でお尻を見ていてください。渚、朋也さん、私たちはお花見に行きましょうね?」

「ぐあっ! 俺も行くぞ! 早苗!」

 義理の両親のとてもアホなやり取りに、思わず頬を引きつらせる朋也だった。

 

 翌日、爽やかに晴れ渡った空の下を、古川夫妻と岡崎家はのんびりと歩いていた。

「気持ちいいですねぇ~」

 渚が目を細めながら空を見上げ、

「ああ……」

 汐が乗ったベビーカーを押しながらのんびりと応える。ベビーカーの中の汐は、暖かな日差しに当てられたのか、今はすやすや眠っている。

 渚は気分が乗ってきたのだろう、微笑みながら自分が大好きな歌を何となく口ずさみ始めた。

「だんご♪ だんご♪」

 すると、母の歌が聞こえたのか、汐が目をさまし、何かを求めるように手を伸ばした。

 汐の求めるものをいち早く察した渚が、汐を抱きかかえながら言う。

「しおちゃんも一緒に歌いましょう。だんご♪ だんご♪」

 母の言葉に答えるように、汐は「あ~♪」と声を出し、それを見ていた秋生と早苗も顔を見合わせて、一緒に歌い始める。

「「だんご♪ だんご♪」」

 そして、それを苦笑してみていた朋也も、皆に合わせるように歌い始める。

「だんご♪ だんご♪」

 そのまま彼らは、一家全員で〈だんご大家族〉を歌いながら、目的地である桜並木を目指した。

 

 桜並木から光坂高校へと続く坂道。

 その下に、古河夫妻に、朋也と渚、そして渚に抱きかかえられた汐の姿があった。

 さやさやと春の風が流れ、それぞれを包み込む。

「ここから……、俺たちは始まったんだな……」

 高校へと続く坂道を見上げ、朋也が感慨深げにつぶやき、渚が頷く。

「はい。私はあの時、この坂の途中で立ち止まっていました。もし、あの時、朋也君が私に声を掛けてくださらなかったら、今の私はここにはいません。そして、多分……、しおちゃんも……。だから私……、朋也君には感謝してるんです。あの時声を掛けてくれて……」

 えへへと笑う渚の後ろから、秋生と早苗が朋也に笑いかけた。

「私達も朋也さんには感謝していますよ。私達も、朋也さんと渚がここで出会わなければ、今、こうしてここにいなかったんですから……」

「癪だが、そういうことだ。ありがとうよ。渚と出会ってくれて」

 いきなり皆に感謝され、朋也は戸惑う。しかし、微笑む渚と、渚の腕に納まって自分を見上げる汐を見て、笑った。

「いや、俺の方こそ、皆には感謝してる。おっさんと早苗さんは、こんな俺を家族として見てくれて……。渚はこんな俺を好きになってくれて……。本当にありがとう」

 そしてゆっくりと頭を下げた。

 それから、咲き誇る桜を堪能したり、母娘共同作業で作ったお弁当を楽しんだりしてしばらくしたころ、朋也は何となく渚に呟いた。

「なぁ、渚……」

「何ですか?」

「こいつも……、汐もさ……。俺達みたいな出会いをするのかな?」

 渚はしばらく考えた後、ふわりとほほ笑んだ。

「それは分かりません。でも……、しおちゃんにも私達みたいな素敵な出会いをしてほしいです」

「ああ、そうだな……」

 

 ――どうか、汐にも素敵な出会いがありますように……

 

 朋也は心の中でそう願った。

 

 

 

 

 それから時は流れ、五年後の春。

 汐が幼稚園に入園するところから、物語が始まる。

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