CLANNAD ~Sequel of After Story~   作:gachamuk

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第2章 第3話 引っ越し

 引越し先を朋也の実家に決めた岡崎家の面々は、早速引越しの作業に取り掛かった。

 まずは不動産屋に連絡してあの家に引っ越すことを話して契約。その後、具体的な引越しの日取りを決めて、その日に向けて荷物をまとめていく。そんな作業をしているうちに、気がつけば引越しを翌日に控えていた。

「それにしても……、ずいぶんと物が増えたものだな」

 引越しの手伝いに来ていた秋生が、部屋に所狭しと並べられたダンボールや家具、その他雑貨などを眺めてため息をつく。

 朋也も、秋生の言葉に頷いた。

「ああ、最初に俺と渚がここに引っ越してきたときは、本当に数える程度のものしかなかったんだけどな……」

 最初に来たときは、この部屋には布団とたんす、食器や調理器具。本当にそれくらいだった。それから、必要なものを買い足していって少しずつ物が増え、やがて汐が生まれてからはさらに物が増えていった。

「人ってのは、そうやって思い出を積み重ねていくんだ。今までも……、これからもな」

 秋生のぼやきに、朋也は黙って頷いた。

 そんなことを話していると、荷物を纏めていた汐が朋也の袖を引っ張った。

「パパ……、おかたづけ……」

「ん? ああ、そうだな。よし、がんばるぞ!」

「お~!」

 拳を突き上げて元気よく返事をする汐だった。

 それからは全員でてきぱきと片づけをしていく。そんな時に事件は起こった。

「……? これは何でしょう?」

 押入れの奥に仕舞われていた段ボール箱を、渚が引っ張り出した。箱には何も書かれておらず、また、ガムテープで厳重に封印されているため、中身が何かは分からない。自分に心当たりがないのならこれは朋也の物だろうと判断した渚が、朋也に声を掛けた。

「朋也君、これ……何ですか?」

 呼ばれて、朋也も段ボールを覗き込んでみるが、生憎記憶になかった。

「…………? いや、俺にも分からないな……。開けてみたらどうだ?」

 朋也の提案に頷いた渚が、慎重にガムテープをはがしていき、箱を開けて中を覗きこんだその瞬間。

「っ!?」

 渚は息を飲んで固まってしまった。

「どうした渚。中は何だったん……!?」

 朋也も横から箱を覗き込み、不自然に言葉を途切れさせた。

「なんだなんだ? 一体どうしたって言うんだ?」

 不自然に固まる娘夫婦の様子を訝しんだ秋生と早苗も近寄ってきて、ひょいと横から覗き込み、

「こ、これは……!?」

「まあ……」

 箱の中身を見て動揺していた。その様子を見て不思議に思ったのだろう、汐がとてとてと四人に近づいてきた。

「パパ? ママ? あっきー? さなえさん?」

 そして、箱の中身を見ようとしたところで、いち早く復活した早苗がひょいと汐を抱き上げた。

「汐にはまだ早いから、あっちで私と一緒にお片づけをしましょうね」

「…………? わかった」

 よく分からないままに頷いた汐はそのまま早苗と一緒に片づけを再開させた。

 ここで、箱の中身についてふれておこう。その中身とはやたらと露出度の高いセパレートタイプの水着を着た女性や、生まれたままの姿で惜しげもなくその悩ましげな肢体を晒している女性が多数掲載された本、つまりは〈エロ本〉が箱の中に大量に納められていたのだ。早苗が汐を遠ざけた理由もむべなるかな。

 さて、そんなものを見てしまった彼らの反応はというと……、

「朋也君……」

 今にも地に沈みそうな声で渚が朋也に呼びかけ、

「小僧……、てめぇ……」

 秋生が「ごごごごご」と効果音が付きそうなほどの空気を纏いながら、ゆっくりと朋也に視線を向け、そして、その朋也はというと、

「ち、違う! 俺はこんなものは知らない!」

 必死になって言い訳をしていた。

「朋也君……、酷いです……」

 渚が目から涙を溢れさせながらぽつりと言う。

「いや……、だから俺じゃねぇって。ほら、昔、お前が汐を妊娠した時に、おっさんからもらったエロ本をお前に捨てられたときがあっただろ?」

 渚は少し思い出すように視線を上に向け、やがておずおずと頷いた。

「ええ、そういえばそういうことがありました」

「俺はあの時以降、この手の本を手にしたことはない!」

「…………本当ですか?」

「ああ、本当のことだ。誓ってもいい」

「…………分かりました。朋也君を信じます……」

 どうやら渚は朋也の無実を信じたらしく、「疑ってごめんなさい」と頭を下げていた。一方の秋生はというと、

「ほう……これは中々の……。いやいや、これなら早苗の方が……。だがこれも……」

 一人エロ本を読みふけっていたが、やがて、ぱたりと本を閉じると、

「小僧、中々いい趣味してるじゃないか」

「あんたは黙っててくれないか? 状況がややこしくなる」

「なぁ、小僧……、いや、朋也……」

 急に真面目な口調に切り替えて朋也を振り返る。

「俺たちは、もう家族だよな?」

「あ、ああ……」

「なら……」

 何だか妙に真剣な空気に、朋也と渚がごくりと喉を鳴らす。秋生は、十分に間を取ってから、ゆっくりと口を開いた。

「なら、このエロ本、俺が貰っていいか?」

 秋生から出た思わぬ言葉に朋也と渚はがくっと脱力してしまった。

「別に好きにしていいけど……」

「マジか!? うっひょ~~~~!」

 朋也が答えると、秋生は目を輝かせて本を物色し始める。

「お父さん!」

 渚が抗議の声を上げるが、秋生は夢中で聞いていなかった。と、そこで、朋也と渚が、秋生の後ろで目を潤ませて立っている早苗に気付いた。

「あ……、おっさん?」

「あの……、お父さん?」

「あんだよ、今いいところなんだから……」

 邪魔しないでくれと続けようとした秋生は、朋也と渚の視線が自分の後ろにあることに気付き、ゆっくりと振り返って、直後に口をあんぐりと開けた。

 その瞬間をまるで狙っていたように、早苗は顔を覆う。

「秋生さん……、私より……、私より……、エロ本の方が大事なんですね~~~~~~~っ!!」

 そのまま涙を溢れさせながら、勢いよくアパートから飛び出して行ってしまい、一瞬呆気にとられてしまった秋生も、すぐに舌打ちして、近所に轟くような大声で早苗を追いかけはじめた。

「お前は最高だ~~~~~~~! 早苗~~~~~~~~~!」

 それを見送った朋也と渚は、苦笑してから片づけを再開したのだった。

 

 翌日、どうにかすべての荷物を纏め終えた朋也たちは、部屋の掃除をしていた。高いところを朋也が、低いところを渚と汐がそれぞれ掃除をする。

 そんな時だった。汐が壁に何かをこすりつけたような傷跡があるのを発見した。

「ママ~」

「何ですか、しおちゃん?」

「ここ、きずがある……」

「これですか……。この傷はですね。朋也くんと私がこの部屋に引っ越してきたときに、部屋の中に布団を運んだんですけど、その時に朋也君が付けちゃった傷です」

「あの時の傷か……。懐かしいな……」

 二人の会話に、朋也も交じる。

「あの時は、引っ越した早々壁に傷を付けちまったから、マジでひやってしたよ」

「あの時の朋也君の顔はおかしかったです」

 渚が思い出し笑いをしてくすくす笑う。それが悔しかったのか恥ずかしかったのか、ともかく、朋也も反撃とばかりに、汐をキッチンに呼び寄せた。

「汐、いいこと教えてやる。ママもな、ここで包丁を落として……、ほら。この傷。床に包丁がざっくり刺さって、すごく慌てたんだぞ。ママは昔っからおっちょこちょいなところがあるからな。あの時のママの慌てた様子は今思い出しても笑えるんだ」

「ママ、あわてもの~」

 汐がきゃっきゃと笑うと、渚はぷくりと頬を膨らませる。

「朋也君! しおちゃんに変なことを教えないでください!」

 朋也は苦笑してから、汐に言う。

「この家にはな。パパやママ、それに汐、お前が付けた傷がたくさんあるんだ。この家にはそれだけたくさんの思い出が刻まれてるんだ……」

「…………?」

 よくわからずきょとんとする汐を見て朋也はくすりと笑うと、汐の頭をくしゃりと撫でてから、掃除を再開した。

 それからしばらくして、手伝いに来てくれた芳野夫妻と秋生が借りてきた軽トラックに乗って姿を現すと、どんどんと荷物を運び出していく。

 箪笥や棚、渚の化粧台などは男性陣が、食器やその他軽いものは女性陣が運ぶ。ちなみにその際、風子が汐を連れて行こうとして、全員に全力で止められていたことを追記しておく。

 閑話休題。

 とりあえず、全ての荷物を運び出し終えた後、最後に朋也が忘れ物がないかをチェックして、ゆっくりと鍵を閉める。

 そして、階段を下りて、渚と汐のそばまで歩いたところで、くるりとアパートを振り返ると、アパートに向かって深く頭を下げた。

「今までお世話になりました。ありがとう……」

 朋也のその行動に倣うように、汐と渚も頭を下げる。

「ありがとーございました」

「あびばぼうござびまじだ……」

 号泣しながらもお礼を言う渚に朋也が思わず苦笑してしまった。

 それからさらに少しして、引っ越し先である朋也の実家に辿り着いた一行は、今度はどんどん荷物を運び入れていく。

 そして、荷物をすべて運び終えて、後は荷を解くだけという段階になって、朋也が汐に呼びかけた。

「汐、お前の部屋はどこがいい?」

「うしおのへや?」

「ああ、お前の部屋だ。お前がこれから小学校に入って勉強したり、寝たりするために使う部屋だよ。どこがいい?」

 朋也の問いに、汐はしばらく考え込んだ後、いきなりだっと走り出した。

「汐?」

 朋也が慌てて追いかけると、汐はある部屋の前で立ち止まり、朋也に告げた。

「ここがいい」

「ここは……」

 そこは、朋也がかつて使っていた部屋だった。

「本当にここでいいのか?」

 朋也の問いに、汐は元気よく頷く。

「ここがいい。パパのにおいがするから……」

「そっか……。それじゃあ、今日からここが汐の部屋だ」

「わ~い」

 汐が嬉しそうに部屋の中を走り回り、朋也といつの間にか隣にいた渚が微笑ましそうにそれを見ていた。

 そうして、粗方の引っ越し作業が終わり、秋生と芳野夫妻(+風子)が帰った後、岡崎家の三人は玄関の前に立って、今日からの我が家を見上げていた。

「二人とも、いいか?」

 朋也が訊くと、汐も渚も揃って頷いた。朋也もそれに頷き返した後、

「よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げ、汐と渚もそれに倣った。

「おねがいします」「よろしくお願いします」

 こうして、新たな家に引っ越した岡崎家の、新たな生活がスタートした。

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